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一丁目一番地の管理人(その29)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2012/06/16 (土) 14:20 ID:jmbiKYhs No.2250
朝森の所へ戻ってきた敦子はむしろ積極的に、朝森にとって空白の半年あまりのことを語りつく
しました。露天商の仲間に竹内ともども拾われて、彼らと家族同様の、いやそれを越えた関係を
築き、敦子は明らかな変貌を遂げていました。敦子自身その変化を自覚していて、新しい彼女自
身に誇りさえ持ち始めていたのです。

敦子にとって、朝森と一緒に暮らすことが最大の願望でした。そして心身ともに変貌し、成長し
た彼女を、彼が受け入れてくれるなら、この上の幸せはないと思っていたのです。しかし、一方で
は、いかに朝森でも、男に抱かれると心と身体が分離して、その瞬間、夫を忘れ、相手の男に惚
れて、堕ちてしまう敦子の体質を、易々と受け入れることは難しいだろうと、敦子は観念してい
たのです。

自身の特異体質を抑え朝森についてゆくか、自分に忠実に生きるため、朝森の下を去るか、敦子
は大きな賭けをするべく、敦子を大きく変貌させた半年の経験とその特異体質の片鱗を夫、朝森
に曝しだしたのです。

結局敦子の賭けは、見事に成功しました。異常な経験を積んで変貌し、成長した敦子を、朝森は
むしろ喜んで受け入れたのです。物語はいよいよ最終章に入ります。最期までご支援下さい。


毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字
余脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるよう
にします。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸
いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 1779(1)、文頭にこの記号があれば、記事番号1779に一回修正を加えたことを示します。
                                      
                                      ジロー


[2] 一丁目一番地の管理人(422)  鶴岡次郎 :2012/06/17 (日) 16:20 ID:jkqM7e5A No.2251

二人の女

ここは警察庁の奥まった所にある伍台参事官の部屋です。よく手入れされた黒皮製のソファーに
深々と腰を下ろし、伍台は来客と話し合っています。あまりご機嫌はよくない様子です。伍台の
前にいるのは土手の森組員殺人事件を担当して、見事犯人を逮捕して、各方面から賞賛を受けた
警視庁の柏木管理官です。

「・・で、結局、竹内寅之助も、敦子も何もしゃべらないのですか・・・」

「ハイ・・、
竹内にかけた殺人容疑は消えましたから、参考人質問しか出来ない制約があり、それほど突っ込
んだ取調べが出来なかったのは確かです。しかし、何らかの容疑で彼らを逮捕できたとしても、
彼等は多分何もしゃべらないと思います。彼等のガードはそれほど固いものでした。おそらく、
組織から手が伸びて、彼等の口を封じ込んでいるのだと思います。

竹内は、借金苦で夜逃げしたことまでは認めましたが、それとて、彼に金を貸したウラ金融業者
から何も被害届けが出ていませんので、この件では彼を追及できないのです。また、夜襲を受け
た件は、飲み屋での個人的な偶発トラブルのせいだと言い張って、ウラ金の名前は勿論、夜襲を
受けた暴力団のことも、何もしゃべらないのです。

敦子と言う竹内の情婦に至っては、参考人質問に応じることさえ最初は拒否しました。勿論、売
春容疑については一切否定しました・・。

結局、これといった新しい事実を彼らから聞きだすことは出来ませんでした。そして、私どもが
聞き込みをした直後、二人は別れることになったようで、女は東京に居る旦那の下へ戻り、男は
的屋仲間との生活を続けています」

柏木の説明に、伍台は苦い表情で頷くばかりでした。

ここで、土手の森殺人事件に関わる事実を整理してみます。池袋の違法組織、輪島組の構成員、
圧村和夫が土手の森公園で殺害され、その死体第一発見者が敦子だったのです。捜査本部は初動
捜査の段階で、竹内と敦子を捜査対象リストから除外していました。このミスが後々まで捜査を
混乱させ、犯人逮捕を遅らせることになったのです。

かねてから真黒興産と輪島組に関心を寄せていた警察庁の伍台参事官は、土手の森殺人事件の被
害者が、輪島組の構成員だと知り、積極的にこの事件に介入してきました。その頃犯人像の搾り
出しに苦労していた捜査本部の柏木管理官は、異例ではありますが、伍台の捜査への介入を歓迎
したのです。

伍台の助言を得て、捜査本部はようやく敦子とその夫竹内寅之助を有力容疑者の一人として割り
出し、竹内の自宅マンションを急襲したのですが、その時、既に二人は高飛びした後でした。捜
査本部は警察の動きを知って二人が逃げたと断定し、この事実こそが二人が圧村殺害の犯人であ
る決め手になると考えたのです。

しかし、伍台参事官は違う見方をしていました。土手の森殺人事件の発生後間も無く、竹内商事
が倒産し、竹内と敦子が夜逃げすることになった事実に伍台参事官は注目したのです。

東南アジア諸国との取引でそれなりの成功を収め、細々ながらそれなりの実績を上げていた貿易
会社、竹内商事が突然倒産に追い込まれたのは、創業以来取引をしていた銀行から借りていた金
を貸しはがされたのが直接の原因でした。そして、その銀行に圧力をかけたのは真黒興産だった
のです。竹内商事倒産劇には真黒興産の意志が働いている・・、伍台はそう考えたのです。

この事実を掴んだ伍台は竹内と真黒興産の間に何らかのトラブルが発生したと推測したのです。
しかし、竹内商事と真黒興産の間には何ら商取引が存在せず、竹内と真黒興産の間にも個人的な
関係は何もありませんでした。

結局、竹内と真黒興産の間を結びつけるのは、殺された圧村和夫であり、竹内の情婦敦子である
と、伍台は断定しました。そして、以下のような大胆な仮説を立てたのです。

すなわち、敦子は真黒興産が抱えている高級娼婦の一人であり、竹内と圧村の間に、敦子をめぐっ
て、金銭的なトラブルが発生し、圧村は殺害された。警察が竹内を逮捕すれば、敦子の線から、
真黒興産の秘密売春組織の実態が炙り出されることになる。そのことを恐れた真黒興産が竹内商
事を倒産に追い込み、竹内と敦子が夜逃げするように仕向けた。二人が逃げている間に、真黒興
産は売春組織の存在証拠を根こそぎ消し去るつもりだと、伍台は考えたのです。

圧村殺害の背景に広域売春組織の秘密が隠されているとの伍台の説明を聞いて、捜査本部は色め
きました。警視庁の柏木管理官にしても、話題性の少ない殺人事件を担当することになったこと
を少し恨んでいたのです。伍台が取り逃がした広域売春組織の実態を暴くカギが潜んでいると聞
いて、管理官以下の捜査官達の目の色が変わりました。そして、竹内と敦子の二人を重用参考人
として全国に手配したのです。しかし、警察より先に竹内を探し出したのは、ウラ金融業者が
放った追っ手でした。(1)


[3] 一丁目一番地の管理人(423)  鶴岡次郎 :2012/06/18 (月) 12:45 ID:ED/uktXY No.2252
2251(1)

それにしても、警察が介入してくるのを何よりも恐れているはずのウラ金が何故、世間を騒がす
ような荒仕事をしたのか、竹内を夜襲したウラ金の思惑が何処にあったのか、今となってはそれ
は不明ですが、おそらく夜襲の件は、それほど大騒ぎにならないと犯人達は甘く考えていたとの
だと思います。

一度痛めつければ、さらなる襲撃を恐れ、竹内が隠した金の有り場所を吐き出すと、犯人たちは
考えたのです。そして、たとえ負傷しても、叩けば埃の出る身ですから、竹内は決して警察に駆
け込まないと確信していたのです。もし、竹内から金が引き出せない場合は、最終的には敦子を
売り払って、それなりの資金を回収する算段だったと想像されます。

しかし、ウラ金も、彼等の指示を受けて竹内を襲撃した地元の暴力団組織も、まさかこの事件に
警視庁や、警察庁が直々に関与するとは思ってもいなかったのです。所轄署の扱いに止まれば、
何とか当局の追及から逃げ切れる準備をしていたはずなのです。この意外感は地元の所轄署でも
同じだったはずです。

警視庁が登場してきたことで、ウラ金と地元の暴力団組織は、事件の幕引きを急ぎ、組織の構成
員を自首させました。自首してきた構成員を逮捕した所轄署も早い事件の幕引きを願う気持ちは
一緒でした。飲み屋での個人的なトラブルに起因する傷害事件として異例のスピードで送検を完
了したのです。結果として竹内は借金を棒引きにしてもらって、自由の身になれたのです。

そして、肝心の土手の森組員殺人事件の犯人は以外のところに居ました。

敦子を囲い込んだ代償として、竹内は圧村に100万円を支払うことにして、自宅近くの居酒屋
で圧村と落ち合い、金を支払ったのです。その居酒屋にたまたま同席していて地元の大工、風向
井 篤がその金銭授受の光景を目撃していたのです。

彼は、親方から見放され、一ヶ月近く仕事が無くて、その日の食費にも事欠くほど困窮していた
のです。風向井は圧村の後をつけ、ゆり子とのデートの約束を果たすため、土手の森公園に入った
圧村を襲い、100万円を奪ったのです。

判ってしまえば、単純な強盗殺人事件だったのですが、真黒興産と警察庁が介入してきたことで、
事件は複雑な側面を見せることになったのです。


目の前で事件の経緯を説明している柏木の顔を見ながら、伍台は全く別のことを考えていました。

〈・・今回も捉えることは出来なかった・・・〉

柏木の背後に、真黒興産の社長、井上悦郎が声を出して笑っている姿を、伍台ははっきりと見て
いたのです。

「参事官・・、
これから先はどうすれば良いでしょうか・・」

「どうするも・・、何も・・
私は真黒興産を追い続けます・・。
今回も、上手く逃げられましたが、
必ず奴らの尻尾を掴んで、公の場にひきづり出してやります・・」

「・・・・・・・」

伍台の鋭い眼光で睨まれて、柏木は思わず面を伏せました。


[4] 一丁目一番地の管理人(424)  鶴岡次郎 :2012/06/19 (火) 14:45 ID:YG8.GvjE No.2253
「そうなると、これから先も敦子から眼が離せませんね・・、
対象が警視庁管内にいますから、彼女は私達に任せてください・・」

「いや・・、
敦子を追い続けるかどうか、正直言って、決めあぐねています。

既に警察が眼をつけた対象を真黒興産はそのままにはして置かないでしょう。
放置しておくということは、すなわち、我々にとっても価値がないと言うことだと思います・・」

伍台が冴えない表情で話しています。敦子の話題が出て、柏木が何かを思い出したようです。

「もっと早くそのことに気がついていれば、捜査方針にも影響が出たかもしれませんが、実は、
竹内のマンションが敦子の夫、朝森健次郎の名義に変更されていました。彼が逃亡する前のこと
でした、このことを見逃していたのは私のミスでした。

そして、最近、敦子は竹内と別れて朝森のアパートへ戻ってきました。
おそらく、二人は近々に、竹内のマンションへ引っ越すものと思われます・・」

「そうですか・・・、竹内がマンションを敦子に与えたのですか・・・。
なるほど、そうですか・・・、なるほど・・・」

柏木の話を聞いて、少し考える様子を見せていた伍台が、ニッコリ微笑み、何度も頷いています。
どうやら、マンションを敦子に与えた竹内に今までとは異なる興味を持った様子です。

「竹内の考えていることが段々判ってきました・・
私が思っていたより、彼は、はるかにまともな、出来る、いい男のようですね」

竹内を褒める伍台に柏木がいぶかしげな視線を向けています。人妻をおどかし、騙して、情婦に
して、借金を踏み倒して夜逃げした50男は、エリート官僚である柏木から見れば、人間のクズ
に見えているのです。

「おそらく、夜逃げの時、竹内は後々の生活を考えてマンションの権利を密かに敦子の夫に移し、
ほとぼりが冷めた頃取り戻すつもりだったと思います。だからと言って、竹内とその・・、
そう・・、朝森が共犯だったとは思いません。朝森は多分、マンションが自分名義になっている
ことに、しばらく気が付かなかったはずです。

倒産、夜逃げ、そして傷害事件など、今回、竹内を襲った出来事が彼の人生観を変えたのだと思
います。東京に戻ることをあきらめ、仲間との生活を続ける気になった。多分、的屋の生活の中
に、彼の新天地を見つけたのでしょうね・・。

それで、贖罪の意味を込めて、敦子と朝森にマンションを与えたのです・・・。

浮気の代償としてはあのマンションは高価過ぎますが・・、
竹内の敦子に対する愛情がそれだけ大きいということですか・・・
こんなことが出来る竹内はそれなりの人物だと言えますネ・・・」

人それぞれ人生がありますが、苦労して育てた会社が倒産し、愛人と一緒に夜逃げして、露天商
の仲間に入り、遂には取り立て屋の夜襲を受け、瀕死の重傷を負ったのです。会社社長の恵まれ
た地位から、あっという間に社会の底辺まで陥落した気分になったはずだと、伍台は竹内の心中
を推し量っていたのです。

人生の暗転を体験した竹内には、露天商仲間の友情や、敦子の愛情がかけがえのないものに思え
たはずです。老後のために残していた唯一の財産であるマンションを敦子に与えても惜しいとは
思わなかったのです。そして、生きる勇気を再び与えてくれた露天商の仲間とこれから先の人生
を生きる決意を固めたのです。

これだけの決断をした竹内を出来る人物だと伍台は評価しているのです。


「ところで・・・、
その・・、朝森という敦子の夫は、敦子のことを、全て、承知の上で、
元の鞘に収めたのですか・・?」

「ハイ・・、多分・・・」

「そうですか・・、普通の男にはなかなか出来ないことですが・・・、
その、朝森という男は何者ですか・・・」

「大手機械メーカー、三田芝浦製作所のエンジニアーで、設計課長をしています。
調べた限りでは、T大卒の、肩書きどおりの優秀なエリート社員で、今回の事件とは一切かかわ
りがなく、むしろ竹内に妻を騙し取られた被害者だと、我々は考えております。
敦子とは郷里が同じで、二人は親が決めた見合い結婚だと職場の知人が証言していました」

「そうですか・・・、
二人は話し合って、離婚を思い止まり、一緒に生きることにしたのですね・・、
それにしても、朝森という男、なかなかの人物ですね・・・」

「そうでしょうか・・・、
私には彼の気持ちが理解できません・・」

有名国立大の法学部を卒業し、キャリアーの道を順調に歩んでいる柏木管理官が伍台の感想に反
論しています。柏木にとって、敦子は許せない女ですし、ふしだらな妻を許し、家に迎え入れる
朝森の気持ちも理解できないようです。


[5] 一丁目一番地の管理人(425)  鶴岡次郎 :2012/06/22 (金) 14:49 ID:iG2ami12 No.2254

「先ほどの話では、柏木管理官は朝森さんと同窓でしょう・・・。
勿論、学部は違うはずですが・・・」

「ハイ・・、彼が二年先輩です。
それだけに、余計、朝森さんの行為が許せないのです。
他の男と逃げ出して、半年も隠れていたのですよ、
私だったら、とても許すことは出来ません。

100歩譲って、許すことになったとしても・・、
直ぐ一緒に生活を始めるのは非常識です。
もう少し時間をかけて、お互いの心が歩み寄るのを待つべきです。

あれでは、獣と同じです・・・」

朝森と柏木はほぼ同年代で、学部こそ異なりますが、同じ大学を卒業しているのです。それで、
柏木はなんとなく朝森に親近感を持っていて、その親近感が逆に作用して、朝森の行為に柏木は
苛立っているのです。

「そうですか・・・、
エリートの君には、朝森さんの生き方は理解できないでしょうね・・・、
無理ないことです・・・。

ところで、柏木君・・・、
お子さんは何歳になりましたか・・・?」

警察庁の参事官ではなく、同窓の先輩口調で、笑みを浮かべた伍台が訊ねています。

「ハイ・・、上の息子は今年中学生になり、下の娘は小学6年生です。
伍台先輩のお子さんは・・・」

そこで柏木は口を閉ざしました。数年前に伍台が離婚して、子供は彼の元妻と暮らしていること
を思い出したのです。

「ハハ・・・、良いんだ・・、
確か・・、娘は今年高校を卒業するはずだ・・、
息子は検事になった。血は争えないものだね・・・・」

伍台が笑って、その場をとりなしています。


「私の友人で、元会社重役だった男がいるんだが・・・、
彼の奥さん、由美子さんと言うのだが・・・
いつ頃からのことか、私もはっきり知らないのだが・・、
由美子さんには夫公認の愛人がいて、月の内半分はその愛人と生活している。

彼等のことは良く知っているが、そんな不思議な三角関係の中で、
夫婦仲は昔どおり・・、いや、昔以上に良い関係だ・・。
由美子さんも生き生きと生活しているし、旦那もそれなりに幸せそうだ・・。

朝森夫妻の話を聞いて、由美子さん夫婦を思い出している。
君は朝森夫妻の行動を理解できないと言ったが、
正直言って、私も君の気持ちに近い感想を持っている・・。
しかし・・、多分・・・、
由美子さん夫妻なら、朝森夫妻の心境を正確に理解できると思う・・。

人の罪を暴き、逮捕する役目を担っている我々は、
世の中には人それぞれ固有の人生があり、
人それぞれ、大切にしているモノが違うことを、
しっかり、知っておくべきだと思っている・・」

自身に言い聞かせるように伍台が言うのを、頭を垂れて柏木は聞いていました。


[6] 一丁目一番地の管理人(426)  鶴岡次郎 :2012/06/23 (土) 13:57 ID:0Cuj1U3A No.2255

「君の意見を聞いていて、私は一年前の私自身の姿を見るような思いに捕らわれていました・・。

その頃の私であれば、中年男と一緒に夜逃げした敦子の気持ちなど、理解しようともしなかった
でしょう。半年も一緒に暮らしていた男と別れ、元の夫のところへ戻ってきた敦子も敦子だが、
それを黙って迎え入れた朝森を、男の風上にも置けない奴だと軽蔑したと思います・・。

しかし、この一年、私は先ほど言った由美子夫妻と親しく付き合うようになり、次第に視野が開
けてきた気がしています。

自分で言うのは少し気が引けますが、一生懸命勉強して、難関の大学に合格し、公務員試験にもパ
スし、一応キャリアーとしてて順調に仕事をして来ました。私のこの半生は間違っていなかったと
自信を持って言えます。しかし、由美子夫妻の生き方を見ていると、これで良かったのかと思うこ
とがあるのも事実です・・。

私の生き方を急に変えることは出来ませんが、由美子さん夫妻や、朝森夫妻のような生き方もあ
るのだと、彼らを理解する柔軟さは失いたくないと思っています」

しんみりと語りかける伍台の言葉に、思い当たることがあるのでしょう、身じろぎもしないで柏
木が耳を傾けています。

「先輩・・、よく判りました・・・、ご忠告ありがとうございます。

朝森さん夫妻のことを、頭から軽蔑したのは、私の間違いでした。
おっしゃるとおり、目下のところ、彼等の生き方は私には理解できませんが、これから先、
私なりに勉強してみます。一方的に、私の狭い経験で物事を判断しないように心がけます・・・」

さすがにエリート官僚です。伍台が言わんとすることをいち早く察知しているのです。しかし、
その頭の良さが、そのスマートさが、時には障害になることには、さすがの柏木も気が付いてい
ないのです。これから先、もっと深刻な障害に出会った時、もっと深い教訓を柏木は得ることに
なり、その時また大きく成長するのです。

「うん・・、そうだね・・、
正しいのは自分だけだと思い始めると、僕たちの仕事は、勤まらないと思う。
僕も最近、ようやくそのことに気がつき始めた。遅すぎるよネ・・・。

多分、私などには想像もつかない経験と知恵を朝森さんは持っているのだと思う。
これだけの試練を乗り越えた若い二人なら、
これから先は立ち直って、しっかりした家庭を作ることが出来るでしょう、
多分、九州にいる竹内さんもそのことを望んでいるでしょうね・・・。

柏木管理官・・、どうでしょう・・、
竹内と朝森夫婦に関しては、もう関わらないことにしませんか、
これから先、彼らからは何も聞き出せないと思います。
そして、下手に彼らに触れると、組織の手で彼らが消されるかもしれません。

そっとして置きましょう・・」

「ハイ・・、私も参事官の意見に同感です・・」

その日、二人会話はそれ以上進みませんでした。柏木は今後の協力を約束して伍台の部屋から出
て行きました。〈1〉


[7] 一丁目一番地の管理人(427)  鶴岡次郎 :2012/06/24 (日) 16:11 ID:32JccgU2 No.2256
2255(1)

柏木が部屋を出て行ってから、伍台は今日の予定を秘書に確かめました。珍しく今日は会議の予
定はありませんでした。それでも机の上には決済を待つ書類が山のように積まれています。その
書類にチラッと眼を走らせましたが、それに手を出す様子ではありません。

「いよいよ、その時が来たようだな・・、
これが由美子さんが言っていた潮時なのだろう・・・」

伍台はそう呟いて、どっかりと椅子に腰を下ろしました。何時になく全身に疲れを感じていまし
た。深々と身体を埋めて、その疲労感を伍台は楽しんでいました。それは、仕事の後に襲ってく
る疲労感ではなく、重大な決断を下した後にやってくる安堵感に近い感情でした。柏木から聞い
た朝森夫妻の行動が伍台の背中を押したようで、彼はある決断を自らに下していたのです。

「あれから8年・・、過ぎてしまえばあっという間だったが・・、
随分と長く感じた8年だった・・・」

声に出すとより実感が湧き上がっていました。


十年前、伍台が東北S市の警察署長に就任が決まった時でした。子供達の進学教育の都合で妻、
喜美枝は夫伍台に同行せず、彼は単身赴任をすることになったのです。S市にも有名な進学校が
ありますから、教育面では何も心配する必用はなかったのですが、東京育ちの喜美枝のわがまま
で、一家は離れて暮らすことになったのです。伍台が強く推せば、喜美枝もわがままを押し通す
ことはなかったのですが、夫婦生活にやや倦怠感を感じていた伍台は喜美枝の主張に反対しな
かったのです。

伍台の単身赴任は3年続きました。一年過ぎた時、街で会った男の甘い口車に乗って喜美枝は浮
気をしてしまいました。男は繁華街でイタリアン・レストランを開いている独身の40男でした。

一度だけと喜美枝は思っていたのですが、夫不在の生活の中で、40歳に近い成熟した女に
とって、その男は麻薬のようなものでした。付き合いを重ねる内に、男も喜美枝も真剣になり、
遂に、女は離婚を夫に申し出ました。

このことに一番反対したのは、喜美枝の実父母でした。喜美枝の父、荻原四郎は警察庁の理事官
にまで上り詰めた人で、娘の幸せを考えながらも、離婚で伍台の将来が閉ざされることを一番心
配したのです。

伍台自身は離婚を望んではいませんでしたが、既に喜美枝の心も体もその男の虜になっている状
況を見て、伍台は離婚の覚悟を固めたのです。義理の父母を伍台が説得して、ようやく離婚に漕
ぎつけました。

離婚後一年ほどして、伍台は警察庁に栄転しました。義父、荻原が心配した離婚の影は伍台の出
世にはほとんど影響しなかったのです。

離婚したものの、喜美枝とレストランの経営者とは、結局結婚できませんでした。不況の嵐をま
ともに受けて多額の負債を抱えてレストランは倒産し、経営者の男は母国イタリアに逃げ帰った
のです。傷心を抱えたまま、喜美枝は実家に戻り、子育てに専念し、無事長男を卒業させ、祖父
や父とおなじ法曹界に進ませることが出来たのです。

養育費を定期的に送り、子供たちとは時々会っていたのですが、喜美枝と伍台は離婚後は一度も
会うことはありませんでした。


〈妻の浮気を知った時、私は彼女を軽蔑することで、悔しさを紛らしていた。
未練は残ったが、ふしだらな女を見限ることにした。
当時・・、いや・・一年前までは・・、
その決断が出来た自分を誇りに思っていた・・。

それがどうだ、今では、当時の自分を幼かったと反省している。
あの行為が正しかったと、胸を張って言えなくなっている。
別の道があったのではと、後悔することが多い・・・。
妻、喜美枝を生身の女として見るべきだったと反省するようになっている・・。

由美子さんが僕を変えたのだ、
彼女と過ごした一年が、僕の感性を根底から変えてしまったのだ・・
そして、こんなに変わってしまった、自分自身を僕は喜んでいる〉

椅子に身を沈めたまま、笑みを浮かべて、明らかに一年前と変わっている自身の考え方を伍台は
再確認しているのです。それは、彼自身が驚くほどの変貌振りなのです。そして、彼を変貌をさ
せたのが、由美子なのです。伍台の考え方をこれほど変えた由美子と伍台の関係に、ここで少し
触れてみます。


[8] 一丁目一番地の管理人(428)  鶴岡次郎 :2012/06/25 (月) 11:53 ID:kxRVycgk No.2257

夫、鶴岡の学友である伍台とは、鶴岡と婚約した頃からの付き合いで、男の女の関係というより
は、仲のいい友達のような付き合いを続けていました。親しくなった男とは、早い機会に情を通
じてきた由美子にしては珍しいことです。

伍台と男女の関係を持ったのは最近のことで、数年前、伍台が未だS市の警察署長だった頃です。
由美子は既にそのころ、Uの情婦になっていて、的屋仲間とS市の祭礼へ商用で行ったのです。
そこで、市内見回り中の伍台と偶然再会したのです。その頃、伍台は妻、喜美枝との仲がうまく
行っていなくて、離婚協議中でした。

S市で情熱的な夜を過ごした後、伍台と由美子はその後会うことはありませんでした。二人が情
を交わしてから二年後、伍台の警察庁への栄転が決まりました。東京へ戻ってきた伍台が鶴岡家
を訪れたのは転勤後三年経った時で、その頃伍台が心血を注いで捜査に当たっていた広域売春組
織の摘発に、由美子の手を借りたいため鶴岡家を訪問したのです。その捜査そのものは由美子の
活躍もあり、大成功に終わりました。そして、この事件を契機にして伍台の名前は警察庁内外に
知られるようになりました。

鶴岡家を訪ねた時、伍台は聞かれるままに、妻、喜美枝と別れて一人寂しく官舎暮らしている事
実を告げたのです。伍台が離婚した時期と、由美子と伍台の肉体関係が出来た時期が一致してい
ることに気がついた由美子は愕然となっていました。

〈・・伍台さんの離婚は、私のせいかもしれない・・・〉

女性に限らず誰でも、浮気相手が浮気の直後離婚した場合、その離婚はあの浮気のせいではと思
うものですが、この時の由美子もその懸念を抱いたのです。既に紹介したように、伍台の離婚は
妻、喜美枝の浮気が原因なのですが、由美子はそのことまでは知らされていなかったのです。

伍台にS市で再会した時、彼が影を背負っているように感じた由美子は伍台にそのことを訊ねま
した。夫婦仲がゴタゴタしていて、伍台が傷心を抱えて単身で暮らしていることを聞かされて、
由美子の女心が疼きました。顔見知りの伍台の妻、喜美枝を裏切ることに抵抗を感じながら、二
人は夏祭りの興奮をそのまま受け継いで、情熱的な一夜を過ごしたのです。その時以来、喜美枝
に対して由美子は後ろめたい思いを抱き続けていたのです。

〈・・・もし私が原因だとしたら・・、放っては置けない・・〉

伍台が離婚したと聞いて、由美子の女心が激しく動きました。それ以来、二人は月に一、二度の
頻度で会うようになりました。その頃には喜美枝の浮気が離婚の原因で、由美子の責任は何もな
いと知るようになっていたのですが、深みに入り込んだ関係を元に戻すことは出来ませんでした。


カラダの相性が良かったせいでしょうか、二人の仲は急速に接近しました。自然の流れで、由美
子には心を許し、伍台は胸の内を全て、彼女に曝すようになっていました。

「私と離婚したものの、喜美枝と浮気相手の仲は直ぐに破局を迎えました。

男に逃げられ、多分、熱病から冷めたのだと思います。
一度だけ私に電話を入れてきました。
あの時、喜美枝の話をちゃんと聞いてやるべきだったと・・、
今でも後悔しています。

それ以来、喜美枝の動向は気にしていました。
彼女が一人で立派に子育てしたことも良く知っていました。
勿論、男の影はその欠片も有りませんでした。

出来ることなら、彼女と再婚して、もう一度人生を立て直したい・・。
何度も・、そう思いました・・。

しかし、私はどうしても、喜美枝が犯した罪を忘れることが出来ないのです。
たぶん、目の前に裸体の喜美枝が現われたとしても、
僕は彼女を抱けないと思います・・・。

彼女が心を込めて作ってくれたご馳走だって、
口に入れた直後、吐き出してしまうと思います・・。
僕はそんな、意気地のない男なんです・・・」

情熱的な一時を過ごし、全身が濡れた由美子を腕の中に抱きしめたまま、伍台は喜美枝への思い
を由美子に語っていたのです。彼のなえた男根を右手であやしながら、由美子は笑みさえ浮かべ
て、伍台の話を聞いていたのです。


[9] 一丁目一番地の管理人(429)  鶴岡次郎 :2012/06/26 (火) 11:51 ID:ZxWy6BWo No.2258

由美子の優しさに溺れ、彼女の豊潤な体に包まれて、社会的な地位や、男の意地を捨て、女に逃
げられた男の弱さを曝して、伍台は取り留めなく話しました。それまで誰にも言えず、澱のよう
に心の底に溜まっていた恨み、悔しさ、未練、怒り、そして後悔などなど、伍台は堰を切ったよ
うにそうした感情の澱を吐き出したのです。

由美子は根気強く聞きました。しかし、決して伍台の繰言に同調したり、慰めを云ったり、喜美
枝の行為を非難したりしませんでした。ただ、伍台の愛撫に狂い、悶え、彼の肉棒を深々と女陰
にくわえ込み、泣き叫び、全身を痙攣させて女の喜びを爆発させ、セックスに悶える女の性を、
女の凄まじい業を、伍台に見せ付けたのです。

伍台にとって由美子は人生で二番目の女でした。そのことを由美子は直ぐに察知して、知ってい
る全ての閨の技を駆使して伍台を翻弄しました。

可憐で清楚な女性象を大切にしてきた伍台にとって、ベッドで悶え狂う由美子は想像さえ出来な
い女性像でした。最初は途惑い、あきれましたが、決して、嫌悪感を感じている様子ではありま
せんでした。

由美子との逢瀬を重ねるにつれ、50歳を過ぎた伍台は、初めて女を知ったように由美子に溺れ
ました。夫以外の男に抱かれ、セックスに溺れきって、喜悦の声を上げ、のた打ち回る由美子を
見て、「可愛い・・、愛しい・・」と思うようになっていました。

一年近く二人の関係は続きました。伍台にとって由美子とのセックスは彼の人生観を変えるほど
のものでした。口には出しませんが、伍台にとって、妻とのセックスが子供の遊びに思えたはず
です。

〈セックスがこれほど楽しく・・、奥が深いモノだとは・・・
喜美枝とのセックスでは、想像さえ出来なかった・・・。

・・・ということは・・・・。

あの男に抱かれた喜美枝も同じ様に感じていたはずだ・・・〉

由美子の手でセックスに開眼した伍台は、同じ思いを妻、喜美枝もイタリア男の腕の中で感
じ取ったはずだと、心に痛みを感じながら、冷静に分析できるようになっていたのです。


イタリア男の体に溺れた妻、喜美枝の乱れる姿を想像して、当初は汚らわしいと軽蔑していた伍
台ですが、由美子と深い関係になり、奔放に振舞う由美子を見て、女の性の本質を理解するよう
になり、伍台の中に大きな変化が起きていたのです。


〈・・喜美枝も由美子さんと同じ女だ・・、
あのイタリア野郎に・・、いいように弄ばれて・・、
彼の腕の中で、由美子さんと同じ様に乱れたはずだ・・。

男の私でさえ、これほどまでに由美子さんのセックスに溺れている、
女の感性は男の100倍以上だと聞く、
そうであれば、喜美枝があの男に溺れきった事情が良く判る

この味を知ってしまったら・・・、
僕とのセックスで味わえなかった喜悦を知ってしまったら・・、
もう・・、僕の所へ戻る気持にはなれなかったろう・・・

喜美枝は先ずセックスの虜になり、心まで取り込まれたのだ・・
想像も出来ない欲望の嵐に弄ばれて、喜美枝は道を踏み外したのだ。
いや・・、欲望に忠実に生きる、生き物本来の道に戻ったのかもしれないが・・・

いずれにしても、あの男と生涯一緒に暮らせるとは思っていなかったはずだ、
その先に地獄が待っていると判っていても、
行けるところまで行くつもりだったのだろう・・。

女の性の凄まじさが、想像を超えた凄さが、今の私には良く理解できる・・〉

イタリア男の体に溺れ、二児の母である立場をも捨てる覚悟で、離婚を決意した喜美枝の気持
ちを、伍台は理解できるまでに成長していたのです。


[10] 一丁目一番地の管理人(430)  鶴岡次郎 :2012/06/29 (金) 14:55 ID:TG6nkVw6 No.2259

伍台のセックス観が大きく変わった頃、土手の森殺人事件が起きたのです。そして、この頃から
由美子を抱きながら語る伍台の繰言が少し変わっていました。由美子はこの時を待っていたので
す。


この日、都内のホテルでデートした由美子はある決意を固めて、伍台に抱かれていました。

「喜美枝はイタリア男のテクニックに騙されたのだ・・、
どんな女でも、イタ公の手にかかれば、イチコロだよ・・
喜美枝一人だけが、悪いと思えない・・・
イタ公の下へ喜美枝を走らせた責任の大半は僕にある・・・」

激しい情交が終わり、心地よく疲れた裸体をベッドに投げ出して、伍台がいつものように喜美枝
を思って繰言吐き出し始めました。いつもは笑って聞いている由美子がこの日、初めて反応しま
した。

「体験したことはないけれど、イタリアの伊達男は凄いんだってネ・・・ェ・・。
優しくて、スケベで、逞しくて、何よりも、女と遊ぶのが大好きな人種らしい。

喜美枝さんがその男に溺れたのは、おなじ女である私には、良く判る・・。
申し訳ないんだけれど、燃え始めると、
燃え尽きるまで、女は自分の力ではその火を消せないの・・・。

男がイタリアに逃げて、熱病から冷めた時、
喜美枝さんは失ったものの大きさに、改めて気が付いて、自身の軽率さと、
イタリア男の体に溺れたインランな自身の身体を呪ったと思う・・・」

珍しく反応した由美子の応援歌を伍台は気持良さそうに聞いていました。信頼している由美子が
証言すると、喜美枝の行為が伍台の中で、徐々に正当化され、由美子の言葉が心地よく彼の心に
響いていたのです。

「伍台さん・・・、
女はネ・・、追い込まれた時・・、寂しい時・・
自分でもどうにもコントロールできない衝動に取り付かれることがあるの・・。

その対象が、男である場合もあるし、時には買い物であることもある・・。
判っていても、今まで築いたモノを全て失うことになると、判っていても、
その衝動に身を任せる以外、他に動きが取れないことがあるの・・。

喜美枝さんの場合はそれが、イタリア男だった・・・。
私の場合は、若い男と買い物だった・・。

熱病から冷めた時、女は自らの身体を抹殺したいほど、落ち込んでしまう・・。
そんな時、手を差し伸べてくれる人がいれば、女は本当に救われる。

私は主人に救われた・・・・。
私を救ってくれた主人は私にとって特別の男性(ひと)。
この先どんなことがあっても裏切ることは出来ない。
私の心は、生涯主人のものです・・」

由美子の話を素直な気持で伍台は受け入れていました。そして、由美子を救った鶴岡と同じこと
が、自分に出来ないはずがないと思い始めていたのです。こんなところでも、男は競争心を刺激
されると、その気になるのです。鶴岡と伍台は大学の同期で、活動舞台は違いますがいわばライ
バル関係です。由美子の狙い通り、伍台はやる気を興しているのです。

「喜美枝さんは・・、私とは違って、自分の力で立ち直った・・・。
子育てに自らを埋没することに生きる道を見つけた。
立派だと思う・・・、私には多分・・、出来ないと思う・・・。

でも・・、女の心を救えるのは、優しい男の手だけなの・・。
身体は立ち直っても、喜美枝さんの心の傷は癒えていない・・。
喜美枝さんは、今でも伍台さんを待っているはず・・・」

由美子の言葉に新しい真実が含まれていたわけではありません。既に、伍台は自身でも由美子と
同じ結論に行き着いているのです。それでも、改めて由美子の口からそのことを聞くと、新鮮に
想えるのです。


[11] 一丁目一番地の管理人(431)  鶴岡次郎 :2012/07/02 (月) 11:45 ID:mtDQVfao No.2260

「伍台さん・・、
私のことをインランだと思うでしょう・・・
男を漁りを続ける私を、スケベーだと思うでしょう・・。

それでも、主人も、Uさんも私を大切にしてくれる。
伍台さんだって、こうして、毎月私を抱いてくれる、
もし、これが逆の立場だったら、私は焼もちを妬いて黒焦げになっている。

そんな男達を本当に立派だと私は感謝している・・。
私へそそがれる男達の愛情がなかったら、多分、私は生きてゆけないと思う、

こんな私だけど・・、どうしょうもないほどインランだけど・・、
男達を思う気持の強さでは誰にも負けたくないと思っている。

これと言って特長のない私に出来ることは、
私自身の気持ちをごまかさないで、
一生懸命、私で有り続け、男達に尽くすことだと思っている・・。

こんな私・・、嫌い・・・?」

「・・・・・・・」

裸体で抱き合ったまま、由美子の右手が伍台の陰茎を握り、彼の指が女の亀裂に触れ、優しくそ
こを刺激している中で、由美子が少し真面目な表情で伍台に囁いています。

返事の代りに伍台が由美子を強く抱きしめています。

「ありがとう・・、伍台さん・・
いつか言おうと思っていたことだけれど、
役所にいる伍台さんも凄いけれど、夜の伍台さんはもっと凄いよ・・・」

由美子が伍台を煽て、彼の頬にキッスをしています。伍台が苦笑しています。

「私・・・、思うんだけれど・・・、
喜美枝さん・・・、イタリア男に開発しつくされて・・、
昔の、清純で、大人しい女から脱皮して、
今の私と同じように、とんでもなく、インランな女に変わっていると思う・・・、

伍台さんはそう思わない・・・?
そんな喜美枝さんを、その気になれば、自分のモノに出来るのよ・・、
楽しいことだと、思わない・・・?
それとも、インランな喜美枝さんは嫌い・・・?」

突然の質問に、伍台がびっくりしています。しかし、彼の陰茎は正直に反応して、むくむくと、
立ち上がり始めたのです。伍台がインランな喜美枝を歓迎している証です。由美子は凄く喜んで
いました。

「アラ・・アラ、アラ・・・
伍台さんたら・・、喜美枝さんのことを思ってこんなに勃起して・・
悔しい・・、

インランに変貌した喜美枝さん・・、いえ奥様を抱きたいのでしょう・・
このことを知ったら彼女喜ぶと思う・・、
今頃、この剛棒に恋焦がれて、彼女自身を指で慰めているかも・・・、
フフ・・・・、

伍台さんなら、インランな喜美枝さんをメロメロにすることが出来ます。
間違いなく、この剛棒でイタリアの伊達男を忘れさせることが出来ます・・・。

私をメチャメチャに弄んだように、
喜美枝さんを抱いてあげて・・・、ああ・・・・」

彼女自身の言葉に興奮した由美子が身体を伍台にこすり付けています、男がうれしそうに微笑ん
でいます。

「でも、今日のところは、私が先に、食べることにするわ・・・・
いただきます・・ゥ・・、フフ・・・・・」

伍台の肉棒を握り締め、彼の上に身体を乗せ、両脚を拡げて、右手で器用に、肉棒を亀裂に導き
いれました。そして、由美子は一気に天国へ持って行かれました。


[12] 一丁目一番地の管理人(432)  鶴岡次郎 :2012/07/04 (水) 14:19 ID:MoTGiKt. No.2261

自室の椅子に深々と身体を沈めて、一週間前、都内のホテルで過ごした由美子との会話を昨日の
出来事のように伍台は思い出し、身体の一部を勃起させていました。この現象は由美子を思って
のことに違いないですが、一方では由美子の奔放に乱れる姿に、喜美枝を重ねていることも確か
なのです。


喜美枝が女の性に目覚めてイタリア男に走った訳を、由美子は彼女のカラダで伍台に教え込も
うとしていることを、賢明な伍台はある時点から察知していました。そして、伍台は積極的に由
美子の仕掛けに乗っていたのです。

それでも、一年余りの付き合いの中で、由美子が喜美枝のことを話題に出すことはなかったの
です。伍台が喜美枝の繰言を繰り返しても、決してその話題に乗ることはなかったのです。そ
れが、この日は違いました、由美子は積極的に喜美枝の立場を擁護したのです。伍台にその言葉
を受け入れる素地が出来たことを由美子は確信していたのです。


シャワーを浴び、由美子は気だるい身体にガウンをまとい、伍台に向かい合う形でソファーに腰
を下ろし、彼が準備したビールを一息に飲み干しました。乾いた喉に、黄金色の液体が染み渡って
いました。

「伍台さん・・・、喜美枝さんのことで少し話をさせてください。
勿論、貴方ほどの方に私からあれこれ、申し上げることは何もありません・・・、

全てを理解したあなたがこれから先、喜美枝さん受け入れるのか、
あるいは、永久に受け入れを拒否するのか、それはあなたのお心次第です。

ただ、男と女の問題ではあなたより経験がある私から、
一つ申し上げておきたいことがあります。よろしいでしょうか・・」

少し態度を改めて由美子が、伍台を真っ直ぐに見つめて話しています。真面目な表情で・・と
言っても、ガウン一枚を羽織った由美子の膝が割れて、黒々とした陰部が顔を出し、胸元では、小
ぶりの乳房がほとんど露になっているのです。

腰にバスタオルを巻いた伍台が笑みを消して由美子を見つめています。彼の股間には少し萎えた
肉棒の先端が顔を出しているのです。

「スケベな私に一年余り付き合ってくださったことに先ずお礼申し上げます。

この一年余りの経験は、伍台さんには驚きの連続だった思います。
でも、これが多くの女の本音だと申し上げて、それほど大きな間違いでないと、
私は自負しております。

大方の女は、殿方が想像されているよりは、はるかにスケベーで、インランなのです。
これは喜美枝さんにも当て嵌まります・・・」

伍台が苦笑いをして頷いています。

「ご存知のように、人が人を恋する気持は移ろい易いものです。
喜美枝さんに激しい愛情を感じる瞬間がきっと来ると思います。

その時、その感情だけを信じて、彼女が過去に何をしたか、全て忘れて、
一歩踏み出すべきだと思います。

二人の仲にとって重要なのは、過去ではなく、これから先のことなのです。

男と女の仲には、目に見えない潮時があって、
その瞬間を外すと、互いの気持がどんなに強くても、恋は実りません。
男と女の関係は、考える対象ではなく、感じ取るものだと思います・・」

伍台の表情から笑みが消え、真剣な面持ちで由美子を見つめています。

「失礼を承知で勝手なことを言わせていただきます・・、
伍台さんは考えすぎです・・・。

伍台さんと喜美枝さんの仲にも、
これから先、『今だ・・』と、感じる潮時が必ず訪れるはずです。
その潮時を逃さず、深く考え込まないで、先ず一歩前へ船出してください・・」

由美子はそれだけを言って、ゆっくり立ち上がりました。そして伍台に背を見せ、ショーツをつ
け、ブラを身につけました。屈みこんだ由美子の股間から、女陰が鮮やかに、そのピンク色の襞
まで見せていました。その後姿を伍台がじっと見つめていました。

男の視線を十分意識しながら、ブラウスとスカートを着けて、由美子が振向き、ニッコリ微笑み、
黙って頭を下げ、伍台に再び背を向けて部屋の入口へ向けてゆっくりと歩み始めました。

「由美子さん・・、
また会えますよね・・・」

由美子が振向き、謎めいた笑みを浮かべ、少し首を傾けました。そして、再び背を向けて、今度
は全てを振り切るようにして足早に歩みはじめ、ドアーを開け、部屋の外へ出て行きました。バ
スタオルを腰に巻いたままの伍台は由美子の後ろ姿を何時までも見つめる姿勢を保っていました。


[13] 一丁目一番地の管理人(433)  鶴岡次郎 :2012/07/05 (木) 14:42 ID:t./wY4r6 No.2262
一週間前の熱い思い出の中に埋没していた伍台がゆっくり立ち上がり、薄暗い執務室の天井を見
上げ、しばらく考える様子を見せ、そして、何事かを決めたようで、背広の内ポケットから私用
の携帯電話を取り出しました。公用の携帯電話は庁内にいる限りは秘書の机上に置かれているの
です。

「由美子さんが言っていた潮時が来たようだ・・・」

柏木から聞かされた朝森とその妻敦子の話が、伍台の心に火を点けていたのです。今が潮時だと
感じ取っていたのです。伍台はメモリーに入っている相手先を呼び出しました。直ぐに反応があ
りました。

「ああ・・、喜美江・・・、
僕だ・・・

子供たちは元気か・・、ああ・・、そうか・・・、
お義父(とう)さんも、お義母(かあ)さんも・・、それは良かった・・・。

ところで・・、今日の夜、時間が空いているか・・?
うん、一緒に飯でも食べようと思うのだが・・、

そうか・・
では・・、夜の7時、赤坂の・・・」

プチ・フランスレストランの名前を伝えて、伍台が電話を切ろうとしました。

「待って・・・、もう少し話して下さい・・・。
何故・・、どうして・・、私を誘う気になったのですか・・、

あの時以来、私は、あなたの誘いをずっと待っていて、
今、とっても幸せですが・・、
この幸せが消えるのが恐いのです・・・。

良かったら、私を誘った訳を教えてください・・・」

幸せが泡沫〈うたかた〉のように消えないか、それが心配で、喜美枝は勇気を振り絞って質問し
たのです。

何か行動する時、喜美枝が想像も出来ないほど考え抜き、準備を整えて行動に移す人で、決して
その場の思いつきで行動しない人だと、伍台を理解しているのです。今度の誘いも、伍台には
それなりの深い考えがあってのことだと推測したのです。

最悪のケースを考えると、何時までも他の再婚話を断り続け、あれ以来従順な姿勢を見せて、
じっと待っている喜美枝に、伍台のところへ戻る可能性がないことを告げる為に、最期の晩餐に
誘ったとも受け取れるのです。

このまま不安な気持ちを抱いて夜まで待てない、最後通告を受けるのなら、早い方がいいと覚悟
を決めて、喜美枝は勇気を振り絞って声を出したのです。

「う・・・ん・・、
喜美枝を誘った理由(わけ)か・・・

そうだな・・、それほど深い魂胆があるわけではない。
ある事件が起きて、最近、それは無事解決したのだが・・、
その事件の渦中に若い夫婦がいて・・、彼らは容疑者じゃないのだが・・、
偶然のめぐり合わせで、若い妻は、殺人事件の第一発見者となった・・」

むしろのんびりした語り口で伍台が話し始めました。もったいぶって、回りくどく伍台が話す時
は、彼が考えに考え抜いて、ある結論に到達した証であることを喜美枝は良く知っています。今
回はどんな決論に行き着いたのか、喜美枝はそれこそ、息を詰めて次の言葉を待っていました。


[14] 一丁目一番地の管理人(434)  鶴岡次郎 :2012/07/06 (金) 14:04 ID:De6rmYmo No.2263

「その若い妻は中年過ぎの男、禿で背の低い会社社長と浮気を続けていた。ところが不況の波を
もろに受けて、その中年過ぎの男が経営していた会社が倒産し、彼は債権者の追及を交わすため
に、夜逃げすることになった。その中年男は若い情婦に夫の下へ帰るように告げた。しかし、そ
の若い情婦は、何故か、若くて将来性豊かで、イケ面の夫を捨て、禿で背の低いその男を選び、
男の逃避行に同行した。

決して、夫に不満があったわけではなく、その中年男に惚れ抜いていたわけでもなかった。これ
は私の想像だが、忙しい夫の愛情が途切れたチョッとした隙間に、50男が割り込んだ来て、い
つの間にか若い妻の心を・・、いや・・、多分、彼女の肉体を、わしづかみにしていたのだと思
う。

一方、女は・・、一緒に逃げても行く末には破局以外ないと判っていながら、その男を捨てる気
になれなかった。男との情事に溺れていたことは確かだが、それだけで女が男と行動を共にする
とは思えない。多分、今、中年男を助けることが出来るのは、この世で彼女しかいない、これは
人生の定めだと彼女自身の気持ちを追い込んだ結果、その男についてゆくことにしたのだと思う」

伍台の話を聞きながら、喜美枝の弾んだ心は急速に冷えていました。事件に登場した若い夫婦の
エピソードを語りながら、喜美枝が犯した罪を伍台が、今まさに追求していると喜美枝は自覚し
ていました。この話の筋であれば、決定的な離別の言葉が伍台の口から発せられるはずだと、喜
美枝は覚悟を固めていました。

喜美枝の浮気相手も40歳を過ぎた、禿で小男のアラブ系イタリア人だったのです。喜美枝の気
持を思ってかなりひいき目にその男を評価しても、イケ面で、高級官僚である伍台と二人の子供
を捨てて走るほどの男とは、とても思えない人物なのです。そしてそんな男の甘い言葉に乗って
抱かれ、気がついた時は深みに嵌っていたのです。週に何度も呼び出しを受け、このままではい
ずれ夫、伍台にバレることになると、喜美枝は最後の覚悟を固めました。

ある日、『・・彼無しでは生きてゆけない・・』と、伍台に告白し、離婚を申し出たのです。伍
台は勿論、その話を聞いた喜美枝の父母もびっくりしました。
確かに夫婦の間に隙間風が吹いていて、その上伍台が単身赴任することになり夫婦の危機が見え
ていたのは事実だったのです。しかし、そうしたことは長い夫婦生活の間ではよくあることで、
決定的な離婚にまで発展するほど深刻な状態でないと伍台も喜美枝の両親も思っていたのです。

喜美枝は周囲が驚くほどの執念を燃やして離婚を要求しました。その様子を見て伍台は寄りを戻
すことをあきらめ、自らかってでて喜美枝の両親を説得したのです。しかし、いざ離婚が成立す
ると、それで全ての問題にケリが付いたように喜美枝はその男と会うことを避けるようになった
のです。浮気相手がイタリアに帰った時も、あらかじめその筋書きを知っていたかのように平然
としていました。

そして、一番奇妙なことは、あれほどイタリア男に執着した喜美枝が、離婚後は全く男に無関心
になり、まるで求道者のように子育てに熟れた身体を埋没したのです。

このように、喜美枝の離婚劇には不可解な点が多いのです。このことに、勿論伍台も、由美子も
気付いていて、〈・・彼女は未だ明らかにしていない何かを、隠しているはず・・〉と思ってい
たのです。しかし、結局、喜美枝があれほど頑なに離婚を要求したその理由は知るまでに至って
いなかったのです。


伍台の口から決定的な別れの言葉がいつ出るか、おどおどして聞き耳を立てている喜美枝の気持
を知ってか知らずか、電話の向うで伍台はゆっくりと話を続けています。

「一方、妻に裏切られた若い夫は、本音は、妻を求めていながら、彼女の後を追おうとしな
かった。多分、若い夫が真剣に妻の行方を追えば、その若い妻は進んで夫の前に姿を現したに違
いないと私は思っている。しかし、男は動こうとせず、女も夫に連絡を入れなかった。若い二人
の意地の張り合いがこの問題の解決を長引かせたといえる。

このまま進めば、若い夫婦の仲は完全に終局を迎えていたはずだ。
幸い、その50男が、ある事件を契機に目を覚まし、半年後に彼女を解放した・・。
女は、迷わず夫のところへ戻ってきた。多分、勇気のいる行動だっただろう・・・」

矛先の向きが変わってきたことを喜美枝は敏感に感じ取っていました。彼女の身体が緊張と興奮で
で小刻みに震え始めていました。

「夫は黙って、彼女を迎え入れた・・。
何よりも彼女が大切だと思っていたからだ、

夫も、妻も、大きな回り道をしたが、
おそらく、二人の間には以前より深い絆が出来たと思う・・。

この若い夫婦を見て、僕は教えられた。
互いの犯した罪を認めながら、その罪の意識を何時までも引きづるのではなく、
新たな道を切り拓こうとしている若い夫婦の行動に文句なく脱帽した。

私にこれから先、どれだけの人生が残されているかわからないが、
考えているだけではダメで、行動すべきだと思った。

それで喜美枝に電話をした。
二人で話し合って、壁が乗り越えられないか、試す気になったのだ・・・。

ああ・・、仕事の電話が入ったらしい、詳しいことは今夜話すよ・・・」

ここまで伍台が一方的に話し、ここで電話を切ろうとしました。通話が消える間際に、「ありが
とう・・」と、元妻、喜美枝の弾んだ声が、伍台の耳に心地よく響いていました。〈1〉


[15] 一丁目一番地の管理人(435)  鶴岡次郎 :2012/07/08 (日) 15:36 ID:Sp892jUo No.2264
2263(1)

伍台と食事の約束を済ませた喜美枝は自宅の部屋で泣き崩れていました。喜美枝の両親は、今は
隠退して悠々自適の生活をしているのですが、娘が伍台から食事に誘われた話を聞き、同じ様に
涙を流していました。

喜美枝との電話を終えた伍台はレストランの予約を済ませ、その後少し考えた様子を見せて、六
本木にあるプチ・ホテルに予約を入れました。幸いスイートの予約が取れました。ここは、婚約
時代、忙しい伍台の時間に合わせて、喜美枝と待ち合わせて、熱い時間を過ごした思い出の場所
だったのです。

全ての準備が完了した後、用意周到な伍台は、最期の仕上げに由美子に電話を入れました。

「由美子さん・・、
どうやら、私達は『潮時』を迎えたようです。

今晩、喜美枝を食事に誘いました。
その後、流れ次第では、喜美枝を抱くつもりです」

「そう・・・、
いよいよ決心したのですね・・・」

電話の向こうで由美子が涙を溢れさせていました。

「由美子さんにこんなことを頼めた筋合いではないのですが、
いままでいろいろ面倒見てもらった由美子さんに、
もう一度だけ、甘えることにしました・・。

生真面目な妻ではなく、インランな喜美枝を抱きたいのです。
喜美枝だって、イタリア男に抱かれた時のように、全てを忘れて乱れたいと思っているはずです。

しかし、今二人きりで会えば、互いにけん制しあって、以前の殻から抜け出すことは出来ないと
思います。そうなると、味気ないセックスとなり、二人の関係はここで終わります。

それで、由美子さんに相談することにしたのです・・」

ここまで伍台の話を聞いて、彼の相談事がある程度まで想像できた由美子は、彼女なりに作戦を
練り始めていました。

「喜美枝にはインランな素顔をそのままで、私と接してほしい・・、
彼女が自分の意志で決めて、昔の殻を破り、奔放に乱れて欲しい・・・、
私は心からそれを願っているのです。

しかし、その場で私が頼んでも、喜美枝は容易に私の真意を理解出来ないと思います。女心をコ
ントロールするに十分な閨の力を私が持っていれば、力ずくで喜美枝をインランにさせることが
出来るはずですが、とてもその自信が有りません。それに万が一失敗した時のことを考えると無
謀なことは出来ないと、しり込みしてしまうのです。

結局、私にはいい工夫がなくて・・・、
由美子さんに相談することにしたのです・・」

「・・・・・・・・」

電話の向うで由美子は笑みを浮かべたまま、口を閉ざしていました。慎重な伍台らしい依頼内容
だと思っていたのです。その一方で、その依頼内容は由美子にも渡りに船だと我が意を得た思い
になっていたのです。


[16] 一丁目一番地の管理人(434)  鶴岡次郎 :2012/07/09 (月) 16:52 ID:5kbpNU4I No.2265

一年がかりで伍台を教育して、ようやく女性の性を教え込み、イタリア男とのセックスに溺れた
喜美枝の中にある女の性、女の業を理解させたのです。喜美枝と伍台が元の鞘に納まるためには、
喜美枝の教育が必要だと思っていて、その機会を狙っていたのです。伍台の話を聞いて、その機
会が突然訪れたことを喜びながら、あまりにも急な話で由美子は少し慌てていました。

約束のデイナーまでの数時間内に喜美枝を洗脳して、彼女が進んでインランな素顔を曝すように
仕組む必要があるのです。かなり難しい仕事ですが、由美子にはどうやら勝算があるようです。
・・というのも、喜美枝には既にインランな素地が出来上がっているわけですから、後は彼女の
気持を前向きにするだけで目的が達成できると由美子は考えたのです。

喜美枝と伍台が再会する日が決まれば頼まれなくても、喜美枝に接近して、彼女を洗脳する役目
をかって出ようと思っていたのです。既に、その日のために由美子の中では喜美枝攻略の筋書き
が完成していているのです。残る作業は、その場の状況にあわせて少し修正するだけで本番用の
筋書きが出来上がるのです。由美子は喜美枝攻略シナリオの最期の仕上げにかかっていました。

「もし、もし・・、由美子さん・・」

「そんな大声を出さなくても、よく聞こえています・・」

突然、黙り込んだ由美子のことを気にして、大声を上げる伍台に、わざと、つっけんどんに由美
子が答えています。由美子にすれば、喜美枝攻略の筋書きを整理するため、少し沈黙の時間が必
要だったのです。その由美子の沈黙を由美子のご機嫌が悪くなったと解釈したようで、電話の向
うで伍台が困り果てていました。

「判りました・・、
私から喜美枝さんに電話を入れます。

でも・・、
私と伍台さんの関係は一切口に出しませんから、そのつもりでいてください。
喜美枝さんが素顔を出すよう、上手く話しますから安心してください。
喜美枝さんがインランな素顔をさらけ出しても、決して嫌がらないで下さいね、

それから・・、これは私の最後のアドバイスですが、
彼女の恋人については、適当に妬く様にしてください・・
本気で、彼女を責めない様にしてくださいネ・・・」

「勿論です・・。
由美子さんの教えられたとおり行動します。
彼女がその気にさえなってくれるなら・・、
私はインランな彼女の全てを・・、
男と過ごした過去も含めて、無条件で受け入れるつもりです・・
このことを、今、由美子さんに約束します・・・」

「その言葉を信用します。それでは任せてください・・、
彼女を洗脳してホテルへ送り込みますから、
私を狂わせたように、全身全霊で、喜美枝さんを可愛がってください・・。
きっと成功すると思います。良い結果連絡を待っています・・・」

由美子との連絡を終えて、伍台は右手を握り締め突き上げるガッツ・ポーズを決めていました。


[17] 一丁目一番地の管理人(435)  鶴岡次郎 :2012/07/12 (木) 14:25 ID:P4u/hepQ No.2266
伍台との電話を終え、由美子はその場で喜美枝に電話を入れました。彼女の頭の中には喜美枝攻
略の完全なシナリオが出来上がっているのです。久しぶりの挨拶を交わして、由美子はゆっくり
本題に入りました。

「主人と伍台さんは、以前どおり、親しく付き合っていて、何でも話し合う仲のようです。先ほ
ど、私・・、二人の電話を偶然盗み聞きしたのです。それで、伍台さんと喜美枝さんが久しぶり
に再会して食事をすることを知りました。

お二人の仲が元に戻ることを願っている夫は、伍台さんにいろいろアドバイスをしていました。
その話を隣の部屋で断片的に聞いていて、おせっかいついでに、私からも、喜美枝さんにアドバ
イスすることを思い立ったのです。

女は女同士、何かのお役に立てればと思ったのです。このことは主人にも、勿論、伍台さんにも
内緒のことです。ご迷惑でなければ、聞いていただけますか・・」

突然の由美子の電話に喜美枝は驚いていましたが、伍台が鶴岡に相談した経緯を聞いて、むしろ
安堵していました。

「きっと・・、彼からご主人に相談したのだと思います。おそらく女性を食事に誘うことなど、
私と別れてからは伍台は一度も経験がないと思います。私の扱い方で、ご主人に相談したのだと
思います。

実は、私も悩んでいて、誰かに相談したい気持なのです。
彼から食事に誘われて、凄くうれしいのですが、
私・・、何を準備して、どう対応していいのか、迷っていて・・、
かといってこんなこと相談できる人もいなくて、
本当に困っているところでした・・・。

由美子さんに相談に乗っていただけるのなら、
こんな心強いことはありません。よろしくお願い申します・・。

実は、久しく出かけることがなかったので、今のシーズン、
何を着て行ったら良いのか、そんなことから悩んでいるのです・・」

服装、化粧、デイナーでの話題など当たり障りないところから話題が弾け、結局由美子と喜美枝
の電話は、延々と二時間あまり続きました。


「食事の時、別れた恋人のことは喜美枝さんから一切話題に出さないことです。
あなたが話題にしなければ、伍台さんがその話題を出すことはないと思います。
何度か浮気をしましたが、私から浮気相手のことを話題にしたことは一度も有りません。
そうすると、主人もそのことを話題にしないのです。

男って言う動物は不思議な生き物で、妻の浮気相手のことが、どんなに気になっていても、男達
は面と向かっては質問はしてこないのです。社会的にそれなりに地位が固まった男はなおさらこ
の傾向が強いようです。伍台さんも、家の主人もそれは誇り高い男達です。私達が話題に出さな
い限り、絶対妻の恋人のことは聞いてきませんから、その性癖を上手く利用するのです・・・」

若い頃からかなり男遊びをして、そのたび毎に鶴岡に許されている過去の罪を由美子は告白しま
した。その経験から、女性から浮気相手の話題は出さないことだと教えたのです。

「昼間は絶対恋人のことを話題に出さないといったけれど、
ベッドの上ではネ・・・、
男って、本当に変わるの・・・、
昼間はあれほど紳士ぶっていた彼が、変わるの・・、

『・・アレが大きいか、どうか・・』、
『・・何処にキッスをされた・・』とか、
『・・失神したことはあるか・・』など、低俗なことを、こと細かく聞いてくる・・

どちらが本当の主人なのか、最初は途惑っていた・・。でも、慣れてくると、無理に主人の持つ
男の本質を掘り下げるのではなく、男とはそうしたものだと頭から丸呑みして、理解することに
した。喜美枝さんもそうすることを勧めます。

ところで、多分、今の喜美枝さんには参考になると思うので、
私が初めて浮気をした時のことを少し話してみます・・・」

頃合を見て、由美子は話題をセックス関係に振りました。電話の向うで、喜美枝が緊張している
雰囲気を由美子は感じ取っています。思ったとおり、伍台とのセックスが一番気になっているの
だと由美子は確信していたのです。由美子はシナリオどおり話を進めることにしました。


[18] 一丁目一番地の管理人(436)  鶴岡次郎 :2012/07/14 (土) 16:13 ID:mlfujSkQ No.2267

「結婚して三ヶ月目だった、長期海外出張で主人が居ない時、街で出会った40男とフラフラと
関係を持ったことがあった。初めての浮気だった。その頃、セックスの良さがようやく判り始め
ていて、身体の疼きを抑え切れなくて、男なら誰にでも抱かれる気分になっていたのだと思う。

その男は逞しくて、酷く日焼けをした大きな男で、初めて彼の腕に抱かれた時、日向の香りがし
たことを鮮明に覚えている。後で判ったことだけれど、日雇い土建職人の暮らしを続けている独
身の男だった。

最初はその日限りの浮気のつもりだった。それが、ズルズルと、主人の留守中、一ヶ月近く、毎
日のようにその男に抱かれた。

罪の意識があったのは最初の二、三日だった。40男のテクニックと逞しい体に溺れて、6畳一
間の汚い彼の下宿に入り浸り、男は仕事を休み、昼夜問わず、私は翻弄され、悶え、時間を問わ
ず、全身で彼を受け入れ、泣き叫んで暮らしていた・・・」

喜美枝の気持ちは複雑でした。イタリア男との過去は今となっては決して思い出したくない古傷
なのです。それが、伍台の電話でその過去を掘り返され、今また、由美子によって古傷を弄られ
ているのです。いっそ電話を切ってしまおうとも思いましたが、善意から由美子が電話をしてき
たことが良く判るだけに、我慢して聞くことにしているのです。

「古いアパートだったから、私達のことはアパート中に知れ渡り、評判になっていたと思う、そ
れでも、私は何とも思っていなかった。多分、今思うと、その40男の手で幼かった私の身体と
心が一気に開花して、常識的な羞恥心を忘れることが出来たのだと思う。多分、あのアパートの
生活がその後に続くインランな人生における私の原点だと思います。

あの男の手で、私は全く別人に変わりました。いえ、正確に言えば、潜在的に存在していた女の
本質が、あの男の手で日の眼を見ることになったのだと思います。

出張から帰ってきた主人に、覚悟を決めて全てを告白した。離婚になっても仕方がないと思って
いた。主人には申し訳ないけれど、あれだけの楽しんだのだから、これも一つの女の生き方だと
思って、どんなことになっても、決して後悔してはいけないと思っていた。その一方では、主人
と別れたくない気持は強く、出来ることなら、こんな私を受け入れて欲しいと淡い期待を持って
いた。

その男には、お世話になったお礼を言って、いくばくかのお金を与え、別れを告げた。その男は
私を愛していると泣いて縋ってきたけれど、何とか納得させた。男とはそれ切りだった・・・」

電話の向うで喜美枝は、黙って由美子の話を聞いていました。思い出したくもない自身の浮気を
連想することを嫌って、最初は聞き流していたのですが、話の途中から耳を傾け始めたのです。
由美子が何か重要なことを伝えようとしているのを、どうやら喜美枝は悟ったのです

「結局主人は許してくれた。許されたその夜、主人の腕の中で大しく抱かれていた。以前より感
じ易くなっている体にびっくりしながら、それでも、それを気配に出さないよう我慢していた。

女って、ダメなんですね・・・、
主人が入って来た時、我慢出来なくなって・・、我を忘れてしまって・・・。
気が付いたら、あの40男の上で悶えたように、
主人の身体の上に馬乗りになって、悶えていた・・・。

本当にスケベーでしょう・・・、
勿論、主人はびっくりしていた・・・
だって、新婚三ヶ月の妻が騎乗位で乱れるのだから・・・」

「それで・・、その後はどうなったのですか・・・」

「どうなるって・・・、
主人、凄く喜んでくれて、もう一度抱いてくれた・・。

そしたら、もっと大きな波が押し寄せてきて、
私・・、あの男に教えられたいやらしい言葉を一杯吐き出して、
悶えに、もだえていた・・・。

もう・・、どうなってもいい気分だった。
これで嫌われて、捨てられることに成っても仕方がないと思っていた・・・
これが私の素顔なんだから、とうてい隠しきれない、
そんな、開き直った気持ちになっていた・・・・」

「・・・・・・・・」

由美子の話を聞きながら、喜美枝は自身の犯した罪と由美子の罪を比較しながら、同じ様な罪を
犯しながら、今の由美子と自身の境遇の差を、しみじみと見直していました。そして、こうした
状況になったのは、誰のせいでもなく、彼女自身の弱さと未熟さ故だったことを痛いほど感じ
取っていたのです。そして、自身の淫らな体験を語りながら、喜美枝に語りかけている由美子の
本意をおぼろげながら喜美枝は理解し始めていたのです。先ほどまでの喜美枝では有りません。
真剣な表情で由美子の一言一言に反応しているのです。


[19] 一丁目一番地の管理人(437)  鶴岡次郎 :2012/07/15 (日) 15:58 ID:kfA5WQT2 No.2268

「翌朝・・・、主人が優しく私を抱き締め、
『・・・乱れる由美子が好き・・』だと、言ってくれた。
『こんなに由美子をインランに育ててくれた人にお礼を言いたい・・・』
冗談だと思うけれど、真顔でそんなことまで言ってくれたの・・。

私・・、最初、からかわれているのだと思った。
でも、次の夜も、その次の夜も、汚いはずの私の身体を主人は抱いてくれた。
私は狂いに狂った・・・。
そして、結局、以前にも増して、私達の仲は上手く行くようになった。

インランな本性を全てあらわに出した私を、主人は優しく受け入れてくれて、
それを可愛いと言ってくれたの・・、
私は主人を信じて、私のありのままをさらけ出し、彼に尽くすことを決めた・・」

そこで由美子は口を止め、喜美枝の反応を確かめていました。電話の向うで、喜美枝が泣いてい
るようでした。由美子は電話を持ったまま、待ちました。由美子の話から喜美枝が何かを感じ取
り、伍台とのデートに賭ける決意を言い出すのをじっと待っているのです。


「由美子さん・・・、
一つ聞いても良い・・・?」

喜美枝が思いつめた調子で口を開きました。

「一ヶ月もその男と付き会っていて、
赤ちゃんは出来なかったの・・?
避妊はどうしていたの・・・?」

喜美枝の質問は唐突な内容でした。由美子の描いたシナリオからは外れる質問内容でした。それ
でも、由美子は落ち着いてありのままを答えました。

「当時、私は心も身体も幼かったけれど、避妊には気を配る知恵だけは、結婚前から、ある人に
教えられていて、専門医に調合してもらった避妊薬を常用していました。

私達は昼夜なく狂ったように絡みあっていましたから、コンドームなどを使っていれば、手違い
が必ず起きていて、私は間違いなく妊娠していたと思います。そうすれば、私の人生はそこで大
きく狂ったはずです・・」

喜美枝の質問に答えながら、由美子は喜美枝の離婚の原因を遂につきとめたと・・、思っていま
した。そして、思い切って、そのことを口に出しました。

「喜美枝さん・・・、
間違っていたらゴメンナサイ・・・、
もしかして・・、
お腹に赤ちゃんが出来たので離婚を決めたのですか・・?」

「・・・・・」

電話の向うで喜美枝がびっくりして言葉を飲んでいる雰囲気が伝わって来ました。

「今まで、誰にも話したことがない事実だけれど、
由美子さんのご推察の通りよ・・・、

十分注意していたつもりだったけれど・・・、
後で考えると、彼が意図的に仕込んだらしく・・・、
気がついた時は3ヶ月に入っていた・・・・

浮気をしただけでも伍台の人格を踏みにじっているのに、
その上その男の子を身篭ったと判れば、
伍台は勿論、両親の社会的生命を断つことになります。
罪深い私には、伍台にお願いして離婚してもらう以外、選択肢がなかった・・」

イタリア男、アダモの甘い言葉と愛の技に引きずりこまれて、喜美枝は不注意で妊娠してしまった
のです。それに気がついた時、喜美枝は奈落の底に叩き込まれました。そして、どうやら妊娠は
アダモが計画的に仕込んだものだと判った時、アダモへの思いが急速に冷め、その反動で伍台へ
の強い愛情をいまさらのように感じていたのです。しかし、事態は取り返しのつかない状態まで
進展していたのです。誰に相談することも出来ない喜美枝は悲壮な決意を固めたのです。


[20] 一丁目一番地の管理人(438)  鶴岡次郎 :2012/07/16 (月) 13:16 ID:jmbiKYhs No.2269
お腹が目立たない内に全てを処理しなければいけないのです。喜美枝に許された時間は僅かしか
有りませんでした。伍台には、浮気が本気になったことを告げ、離婚話を切り出したのです。勿
論、伍台も喜美枝の両親も反対を通り越して、ただ当惑するだけでした。それでも、喜美枝は頑
なに離婚を望みました。

男が出来たことが離婚を決意した原因だと理解しながらも、喜美枝の態度に浮ついた様子が微塵
もなく、むしろ思いつめた悲壮感が漂っているのを不審に思いながら、伍台は喜美枝の希望を受
け入れることにしました。二人の子供の親権も喜美枝に譲ったのです。

一方喜美枝は伍台と離婚話を進めながら、アダモとも別れる準備を始めていました。そんな矢先、
アダモの店が倒産したのです。傷心を抱えてイタリアに帰るアダモを喜美枝は冷静に見送ったの
です。もちろん、この時、喜美枝のお腹の中に彼の子が宿っていることをアダモは知りませんで
した。

身篭った子は一人で育てる決意を喜美枝は固めていました。しかし、不幸は続くもので、アダモ
が国へ帰った一ヶ月後流産してしまったのです。この時点で初めて喜美枝は母親だけに妊娠の事
実を告げ、助けを求めたのです。

こうして、アダモとの恋は喜美枝の心と体に大きな傷を残して終わりました。そして、喜美枝は
生涯を費やして、伍台への罪を償う決意を固めていたのです。

「由美子さんのようにしっかり避妊を心がけていれば、
伍台との決定的な破局だけは避けられた可能性が高いと思います。
誰を恨むことも出来ません。全て、私自身の責任です・・・」

由美子が対処したように、喜美枝も避妊を心がけてさえいれば、自ら別れ話を切り出し、強引に
離婚劇を仕立て上げる必要がなかったのです。アダモとの浮気だけに止めておけば、伍台との仲
が決定的な破局に追い込まれることは防げたかも知れないのです。

「未だ若かった由美子さんが、良くそこまで配慮出来たのね・・、
誰かに教えられたと言っていたけれど・・」

「ハイ・・・、
小学5年の時、叔母から教えられました・・」

20年以上前のその日の出来事を由美子は昨日のように覚えているのです。お祝いの赤飯と鯛の
姿焼きが準備され、叔母ゆり子と父、そして由美子の三人でお祝いをしたのです。笑みを浮かべ
た父の瞳が濡れていたのも由美子はよく覚えています。そして、夜、由美子の部屋を訪ねてきた
叔母が、珍しく改まった口調で教えてくれたのです。

「おめでとう・・、これで由実子も一人前の女だよ・・。

女はネ・・・、
子供を産むことが出来るの・・、
これは神様が女性に与え下さった最大の能力だと思う。

それだけに、この能力の使い方を間違えると、
女性は立ち上がれないほどのダメージを受けることになる。

妊娠、出産は女の意志で決めること。
このことだけは、女として絶対忘れないように・・・
亡くなったお姉ちゃんに成り代わって、このことだけは伝えておきます・・・」

鶴岡と結婚して、二人の娘を授かり、その後複雑な男性関係を展開することになったのですが、
由美子はいつでも叔母、ゆり子の言葉を忠実に守り続けているのです。

「そう・・・、
幼い由美子さんにそのことを教えた叔母さんも、
その言葉を忠実に守っている由美子さんも、立派ね・・

私は高価な代償を払って、そのことの大切さを教えられたけれど、
由美子さんは、小学生の頃からその心構えを作っていたのネ・・」

何度もうなづきながら喜美枝がつぶやくように言いました。そしてしばらく頭を垂れて、何事か
を考えていました。電話の向うで由美子は喜美枝の次の言葉をじっと待っていました。

やがて、意を決した表情で頭を上げた喜美枝が、ゆっくり口を開きました。

「私・・、必死で子育てをしてきました。
伍台から託された子供達はそれなりに立派に成長してくれました。
これで許されたとは思いませんが、
このままで、女を終えたくない気持も強いのです・・」

それまで、打ちのめされたようにうな垂れていた喜美枝がようやく立ち直ったようです。由美子
のアドバイスに何かをつかんだ様子もうかがえます。また、長い間隠し通した妊娠のことを由美
子に告白したことも彼女の肩の荷を降ろす効果があったようです。彼女の声に張りが出ているの
です。(1)


[21] 一丁目一番地の管理人(439)  鶴岡次郎 :2012/07/17 (火) 12:51 ID:jkqM7e5A No.2270
2269(1)

由美子の浮気話を聴いて喜美枝は癒されていました。実は、由美子の話を聞くまでは、伍台に会
えば、どんなに燃えても、何とか繕って、イタリア男の手で開発された喜美枝の素顔は絶対表に
出さないと決心していたんです。それでも、本当にそれでいいのか、女の感性を殺して伍台との
新しい生活を獲得することがいいのか、喜美枝は悩み続けていたのです。

悩んでいる喜美枝に、由美子の告白は一筋の光明を与えました。由美子のように誠実に自身をあ
りのままをさらけ出せば・・、頑張って伍台に誠意を見せれば・・、喜美枝にも道が開けるかも
しれないと思い始めていたのです。もしかして、由美子の夫である鶴岡のように、伍台がみだら
な喜美枝を好んでくれる可能性がゼロではないと思い始めていたのです。

「もし、伍台がもう一度私を受け入れてくれるのなら・・、
そのチャンスに賭けたい・・、
伍台の気持をもう一度、引寄せたい・・・

そして・・、出来ることなら・・・、
由美子さんのように、自由に、私の女自身を彼にさらけ出したい・・、
でも、その一方で、そんなことをすればあきれ果てた彼に見放されるかもしれないと、
心配になるのです。

こんな気持でいるのですが、自信がもてなくて、何も決められないのです。
由美子さん助けてください・・・。
私・・、由美子さんの言うとおり行動します・・・」

今、新たに訪れたこのチャンスをぜひ実らせたい、そのためには、由美子に頼り切ろうと喜美枝
は咄嗟に心に決めたようです。

電話の向こうで深々と頭を下げる喜美枝の熱意を由美子は十分に感じ取っていました。そして、
喜美枝も伍台と同じように、相手の気持ちに合わせようとして、彼女自身の気持ちを封じ込めよ
うとしているのに気付いていたのです。

本質は生真面目な伍台と喜美枝が、互いに相手を思うあまり、互いの思いとは違う方向に歩みは
じめて数年過ぎたのです。そして、ここで立ち止まり、もう一度寄りを戻すことを考え始めたの
です。『同じ過ちを犯させてはいけない』、由美子はそう考えました。

そのためには、二人が自身の殻を破り、自らの欠点も、恥部も、相手に曝すことから始めるべき
だと由美子は考えたのです。

〈喜美枝さんは考えすぎです。
・・・何も考えないで、自分自身をさらけ出すことです。
そうすれば、伍台さんもきっと理解してくれると思います・・〉

・・と、このように、喜美枝の求める答を理屈っぽく説明しようとしたのですが、賢明な喜美枝
はそんな言葉は既に自身でも考え付いていて、共感しないだろうと、由美子は別の説明方法を考
えたのです。


「主人と伍台さんが電話で話しているのを、隣の部屋で聞いていたら、
断片的で、確かなことは判らないけれど・・・、
『・・見せしめのため、毛を全部剃ってしまえ・・』と、
主人が言っていた・・」

「エッ・・、嫌だ・・、そんなこと・・・」

「フフ・・・、
喜美枝さん・・、本当に嫌なの・・?」

「由美子さんまで・・・、嫌ネ・・。
でも、由美子さんには隠せないわね・・、
全部・・、話してしまおうかな・・・、フフ・・・・・」

少し興奮した面持ちで喜美枝が話しています。女同士であっても、こうした浮いた会話は喜美枝
にとっては実に数年ぶりのことなのです。その効果もあって、喜美枝の閉ざされていた女の扉が
ゆっくり、軋みながら開いているのです。このことを由美子は計算しているのです。


[22] 一丁目一番地の管理人(440)  鶴岡次郎 :2012/07/18 (水) 12:06 ID:ED/uktXY No.2271

「恥ずかしいけれど全部告白します・・。
それが出来ないようでは、由美子さんの足元にも近づけませんから・・、
思い切って、淫らな私の全てを話します。
でも・・・、聞けば、きっと、私を軽蔑すると思います・・」

何度か躊躇しながら、それでもようやくその決心がついたようで喜美枝は話し始めました。相手
の顔が見えない電話での会話であったことも、この際、喜美枝に幸いでした。

「アソコを剃られることには、
私・・・、慣れています・・・。

三日に一度、アダモに剃られていた・・・
ああ・・、言ってしまった・・・・、
恥ずかしい・・・・」

少し上ずった、かすれ声で喜美枝が告白しています。

「彼・・・、アソコを舐めるのが何よりも好きで・・・、
それで・・、毛がない方が味が良いと言うのよ・・・

最初は恥ずかしかったけれど、すっかりそうすることに慣れて、
剃られるのは、本当は、大歓迎なの・・・、
私って・・、インラン・・・?」

「インラン、とってもインランよ、
つるつるのアソコを舐めてもらうのが大好きなのでしょう・・・、
私など、かなわないほど変態よ・・・。

きっと、素顔の、そんな喜美枝さんに接することが出来れば、
伍台さん、泣いて喜ぶわよ・・・、
きっと、アソコを剃るのだって、大好きだと思う・・」

「そうだと、良いんだけど・・・」

「伍台さんの気持を心配しているようだけれど、
そんなに彼の気持を気遣う必要はないと思う。

だってそうでしょう・・、
やり手のイタリア男の手でもてあそばれて・・、
ゴメンナサイ・・、下品な言葉を使って・・・」

「いいのよ・・、由美子さん・・、
本当のことだから・・・、
あの頃・・、私・・、本当に狂っていた・・・」

「他の男を知って、喜美枝さんが女として、驚くほど成長して、
インランになったことを伍台さんは十分承知をしていると思う。
そのことを知った上で、元妻を食事に誘ったのよ・・。

何故、あなたを誘ったか・・、判る・・・?」

「・・・・・・・・・」

電話の向うで喜美枝は息を詰めて、由美子の次の言葉を待っていました。勿論、この質問の答を
喜美枝は持っているのです。その答が正解であることを願いながら、喜美枝は受話器を握り締め
ているのです。

「この疑問に答える唯一の説明はこうだと思う。

伍台さんも、主人と同じ種類の男なのよ。
本音をなかなか明かさないけれど、
ああ見えて、他の男に抱かれた、浮気好きで、インランな女房が大好きで、
そんな妻を喜んで抱くことが出来る貴重な男なのよ・・・」

「・・・・・・・・」

喜美枝の期待したとおりの答を由美子が言うのを聞いて、喜美枝は大粒の涙を流していました。

「だから、インランな喜美枝さんを歓迎してくれるはず・・・。
浮気相手がいたことを恥じないで、むしろ、その事実を女の勲章だと思って、
何も考えないで、彼の腕の中で、おもいきり乱れなさい・・」

「私・・、多分、伍台に抱かれると、自分を抑えることが出来ないと思います
彼・・、アダモに教えられたカラダの喜びが抑えられないと思います。

それで、伍台に会うのがとっても恐かったのです・・・。
淫らな私を見れば、伍台はきっとその場で私を突き放すだろうと、不安だった。

由美子さんの話を聞いて、決心がつきました・・。

私、伍台のためなら、死ぬ気で頑張れます・・・

彼の前で、私の全てをさらけ出します。
嫌われることになっても、インランな私の全てを曝します・・。

あの事件以来、すっかり忘れていた女を飾る習慣を取り戻します。
大好きなイタリアン・ファッションを着ることにします。

デイナーには胸が半分見えるようなワンピースを着て行きます。
下着も赤いTバックにします。
抱かれたら・・、思い切り乱れます・・・」

泣きながら喜美枝が話していました。由美子は黙って聞いていました。


[23] 一丁目一番地の管理人(441)  鶴岡次郎 :2012/07/21 (土) 16:10 ID:tRH2oZVE No.2272

それから、ひとしきり話が弾み、女同士の気安さからか、由美子は過去に経験した男の話をかな
り露骨に披露しました。それが由美子が仕掛けた呼び水だと判っていながら、喜美枝も負けずに
恥ずかしい話を告白し始めました。こうして、二人の女は競い合って淫らな体験を話すことに
成ったのです。

「そう・・、そうなのよ・・・
男って、不思議な生き物ネ・・・、
あの気持は女には判らない・・・。
大切な自分の女を他の男に曝したがるのよネ・・・、

それで由美子さん・・・、
大勢の男の前で、指で開いて、アソコの中まで見せたの・・・、
凄い・・、由美子さん・・、興奮したでしょう・・・。

実は・・、由美子さんほどでないけれど、
私もその経験が少しあるの・・・。
私・・、言っちゃおうかな・・・
ハダカを見られた話なら、取って置きの話が私にもあるのよ・・」

ストリップ劇場に出演した由美子の話を遮るように喜美枝が話し始めました。

「在日のイタリアの仲間が時々マンションに来ていた。
ある日、私がキッチンでお酒の支度をしていると、居間にいる男達が騒がしいの、
何事かと顔を出すと・・・、男達がニヤニヤして私を見るの・・、

何と・・、アダモがネ・・
私たちの絡んでいる恥ずかしい写真を、仲間の男達に見せているのよ・・、
誰にも見せない約束で撮った写真だから・・、
後で自分で見ても、恥ずかしさで身体が震えるような写真ばかり・・、

一杯両脚を開いて、指でアソコを開いている写真とか、
彼のモノを咥えて微笑んでいるのもあった。
極め付きは、喘ぎ声がばっちり入ったビデオまで披露してしまった。

逃げ出すわけにも行かないから、アダモの側に座っていたけれど、
男達が私の身体をじろじろ見て・・、とっても恥ずかしかった・・・

ビデオの途中で・・、アダモがいきなりキッスをしてきて・・・
彼が酷く興奮しているのが判った・・・
夢中で彼にしがみ付いていた・・」

喜美枝の声は弾んでいて、嬉しそうなのです。


[24] 一丁目一番地の管理人(442)  鶴岡次郎 :2012/07/25 (水) 13:34 ID:WEEqpOjs No.2273

「フフ・・・、
男は皆おんなじネ・・・、
どういうわけか、女房の乱れた姿を他人に見せたがるのよ・・、

私はそんな男の癖が嫌ではないけれど、
喜美枝さん・・、その時、どんなだった・・・、

もしかして・・、ビショ、ビショだった・・?」

淫蕩な口調で由美子が質問しています。喜美枝は完全に興奮状態です。

「ああ・・・、由美子さん・・・、イジワル・・・ゥ・・。
ああ・・・、あの時のことを・・・、思い出します・・。

いけないことだと判っていながら、
アダモの手が私の衣服を脱がせ始めた時、
私は抵抗しなかった・・・。

ブラウスを取られ、ブラを押し上げられて、乳首を吸われた・・。
そうなると、もう・・・ダメ・・・」

話しながら、当時を思い出して、喜美枝はスッカリ濡らしていました。そして、電話での会話で
ある利点を生かして、彼女の指が股間に伸びているのです。

「彼の手がスカートの裾にかかり、お腹のところまで巻き上げられた。
ひも付きTバックの前がびっしょり濡れているのが自分でも判った。

男達にそこを見られていると思うと
カッとなって・・、愛液が音を発して噴出していた。

もう・・、行きつくところまで行くつもりになっていた・・・。
ショーツの隙間からアダモの指が入ってきた・・、
私・・、自分で両脚を広げていた・・・、
スケベーでしょう・・・・。

指で一杯にそこを開かれて、男達が覗きこんでいた・・・。
新たに噴出した愛液を見て男達が何事か叫んでいた・・。

そして、男達の前で、アダモのアレを深々と受け入れていた・・・
教えられていたイタリア語で怪しい言葉をいっぱい吐いていた・・

ああ・・・、たまらない・・・」

由美子の受話器に喘ぎ声が聞こえるほど、喜美枝は興奮しているのです。

「気がついた時は、男達はその場から居なくなっていたけれど、
彼らには、私の全てを見られてしまったのです・・。

それからしばらくは、彼らに会うのが、とっても恥ずかしくて・・・、
でも・・、彼等はそれ以降ずっと紳士的につきあってくれました。

後で判ったことですが、男達は真面目なイタリア人で、
東洋系素人女のアソコが見たかったらしくて、
アダモに頼み込んだらしいの・・。

これから先、あんな経験は出来ないかもしれません・・、
そう思うと・・、女として・・、チョッと寂しい気分になります・・・

そうだ・・、こんなことも有りました・・。
アダモと車の中でキッスをしている時、お互いに興奮して・・、
彼が求めてきて、私も拒否しなかった・・・

夜の8時を過ぎた頃で、
住宅街の路上に止めた車の側を帰りを急ぐサラリーマンが何人も通っていた。
そんなところで抱かれるのは初めてだったけれど、
私・・、彼の指をアソコに感じながら、彼のモノをしっかり咥えていた・・」

喜美枝を縛り付けていたタガが外れたようで、堰を切ったように喜美枝はアダモとの体験談を
しゃべり始めました。彼女の話を聞いていて、アダモが決して喜美枝を粗略に扱っていなかった
ことに由美子は気が付いていました。


[25] 一丁目一番地の管理人(443)  鶴岡次郎 :2012/07/31 (火) 11:37 ID:GT63kYYI No.2275

暇を持て余した有閑マダムと独身のオーナーシェフ、このシツエイションで想像されるのは男と
女のただれた愛欲情景で、いずれ女の体に飽きが来たイタリア男が女を捨てることになると誰し
もが想像するのです。ところが、喜美枝の話を聞く限りではアダモは真剣に喜美枝を愛し、早い
時期に将来を共にする覚悟を決めていたとようだと由美子は理解したのです。それほど、アダモ
は純粋で、ひた向きな愛情を喜美枝に捧げていたのです。

アダモは喜美枝を彼好みの女に仕立て上げようと懸命に努力しました。ファションは勿論、化粧
から歩き方までアダモは喜美枝に細かく要求しました。彼と一緒にいる時は、スカートの下には、
下着と呼べないような小さな布を着けさせ、それが男の仕事だと思っているように、絶えず彼の
指が喜美枝の下半身に触れていたのです。

日本の男と決定的に違うのが唇の使い方でした。キッスは勿論ですが、手の指先から、足の指先
まで、女の全身に唇を這わせ、根気強く女を嘗め回したのです。女はそれだけで何度も天国へ上
り、身体中の水分をほとんど吐き出していたのです。

アダモのイタリア流トレーニングが行き届いてくると、喜美枝はすっかり変貌していました。そ
れでなくても目立つ豊かな肢体が、セクシイなイタリアファッションで包まれると、街中の男が
彼女に視線を集めました。初めは恥ずかしがっていた喜美枝は直ぐに見られる楽しみを憶え、下
着や、豊かな乳房を、見知らぬ男達に巧みにちらつかせる技と工夫を直ぐにマスターしていたの
です。

一時間も街を歩くと、男達の視線を全身に感じ取り、喜美枝はいつもしとどにカラダを濡らして
アダモのアパートに戻っていました。そして、部屋に入りアダモを見ると自ら男にしがみ付き、
全身を男に預けて狂ったのです。伍台と暮らしていた貞淑で、物静かな主婦の面影はどこかに吹
き飛んでいたのです。


喜美枝は楽しそうに、止め処なく、アダモとの生活を由美子に語り続けました。由美子は時々冷
やかしの言葉を挟みながら喜美枝の話を聞いていましたが、頃合を見て、ある思いを込めて質問
しました。

「彼・・、真剣に喜美枝さんを愛していたのね・・、
最初から結婚を真剣に考えていたと思う・・・
喜美枝さんは彼のことをどう思っていたの・・・?」

「エッ・・、彼のこと・・・?
どう・・・て・・」

興奮した体に冷水を浴びせられたように、電話口の向うで喜美枝が口ごもりながら返事をしてい
ます。それまでの淫らな口調とちがって、由美子の真面目な質問に困り果てている様子です。そ
の話題には触れて欲しくない様子なのです。


「伍台が単身赴任して、寂しさと同時に開放感を感じて、
味に惹かれて通い詰めていた彼のレストランで何度目かの誘いがあって、
なんとなくその気になって・・、ある夜、抱かれた・・、
一回きりだと自分自身に言い訳を言っていた・・・」

覚悟を決めたようで、触れられたくない過去の恥部を由美子に話す気持になったようです。喜美
枝は真面目な口調で話し始めました。


「それまで経験しなかったほど、丁寧に愛撫されて、
この時、初めて私はセックスの良さを知った・・・。

アダモに惹かれたことは確かだけど、
恋に落ちたのかと問われると、そうでなかったと答えることになる。
でも、彼とのセックスに強く惹かれたことは間違いない・・・」

初めて知ったカラダの喜びと、華麗なセックステクニックに喜美枝は心も身体も奪われていたの
です。

「でも・・、妊娠したことを知り、私は目が覚めた・・。
彼の子を身篭ることなど、考えてもいなかった。
妊娠したことで、彼への愛情が完全に消えた。

残るのは自己嫌悪と・・、
私をこんな立場へ追い込んだ彼への恨みだけだった・・・」

喜美枝は一言一言考えながら、当時を思い出しながら話しています。由美子はただ黙っていま
した。

「アダモが国に帰る時も、彼の後を追う気持ちはなかった・・。
これから先、どう生きて行くか、何も考えることが出来なかった。
ただ、お腹の子供のことを考えると不安で、
死んでしまいたいと、何度も思った・・・・」

電話の向うで当時を思い出し、涙声になっている喜美枝の声を由美子はただ黙って聞いていま
した。この無言が由美子が出来る唯一の抗議の姿勢だったのです。


[26] 一丁目一番地の管理人(444)  鶴岡次郎 :2012/08/03 (金) 11:40 ID:rkE8knOs No.2276

「由美子さん・・、
酷い女だと思っているでしょう・・、
私は女の風上に置けない、ダメな女なのです・・」

「・・・・・・」

どうやら喜美枝は由美子の沈黙の意味を理解している様子です。

「流産と判った時、私は初めて一連の事件に真剣に向き合うことが出来ました。
そして、この時初めて、大きな間違いを犯したことに気が付いた・・。

由美子さんが今感じておられるように、
当時の私は思い上がったバカな女でした。
ただ体の快楽だけを求めて、その結果大切な夫の愛情を裏切ってしまった。
それだけでなく、当時の私には男の真心が見えていなかった・・。

子供を失い、その時初めて、その子を授けてくれた男の愛情を改めて知らされたのです。
そのことに気がついた時は、既にその男は手の届かない遠くへ行っていた。

なに不自由ない生活を保証してくれた夫、伍台を裏切り、
ただ肉の快楽を求めた女・・・、
そんな女を真剣に愛し、一緒に暮らそうと、子供まで授けてくれたアダモ、
私はそんな優しい男達の愛情に何一つ応えていなかったのです・・。

何の取り得もない、少し見映えが良いだけ女なのに、
男達にチヤホヤされるのは当然だと思い上がっていました

人の心を理解することが出来ない、
性欲に狂ったバカな女なのです・・・・。
私のせいで、伍台にも、アダモにも・・、
取り返しのつかない大きな迷惑をかけました。

男達から見向きもされなくなった今・・、
初めてそのことに気がついているのです。
遅すぎますよネ・・、バカな女です・・・・」

「・・・・・・・」

喜美枝が特別性質(たち)の悪い女だと由美子は思っていません。それどころか性格も、頭脳も
人並み優れた女性だと思っているのです。そんな喜美枝でさえ、性欲に翻弄されると、後になって
当の本人が眼を背けるような身勝手な行動をすることになるのです。
女なら誰しも彼女と同じ過ちを犯す可能性が高いと由美子は思っているのです。それが、持って
生まれた女の性、女の業だと由美子は考えているのです。

「由美子さん・・、
こんな私でも、伍台に会う資格があると思いますか・・・?」

「男と女のことは、ある境界を越えると、他人は入り込めなくなります。
喜美枝さんのケースも、私がアドバイスできる範ちゅうを超えています。

ただ・・、一つ言えることは、
伍台さんは全て承知の上で、喜美枝さんをデイナーに招待したのです。
私なら、彼の気持を信じて、在りのままの自分を彼に曝します。
男の大きな気持にこの際甘えるのも女の特権だと思います。

後は喜美枝さん自身が、勇気を持って決めるべきです」

「判りました・・・。
それだけ聞けば、十分です。
彼に裸でぶつかってみます・・。

それで・・、一つ、由美子さんにお願いがあります。
もし・・、彼が受け入れてくれたら・・・、
いいえ、彼との仲が決裂しても、
これから先、由美子さんのお友達でいたいのです。
よろしいでしょうか・・・?」

「勿論、喜んで・・、
伍台さんを交えて、私の家でお食事会がもてたらいいですね・・」

二人の長い電話会議は終わりました。喜美枝は久しぶりに戦う女に戻っていました。


[27] 一丁目一番地の管理人(45)  鶴岡次郎 :2012/08/06 (月) 14:02 ID:gRjosl/k No.2277

一方、由美子への電話依頼を終えた伍台の気分は高揚していました。これで喜美枝とのデートの
準備は全て完了したのです。

僅か一時間前、柏木管理官に会うまでは、生涯の敵、真黒興産を追い詰めながら、今一歩で取り
逃がしたことを悔やんで、〈あの時、・・・しておけば良かった・・、ダメだな・・、後のなって
こんなことに気付くようでは・・、僕はまだまだ、未熟だ・・〉と、くよくよと悩んでいたので
す。そして、新たな仕事への意欲が目に見えて落ちていたのです。

それが、今は違うのです。喜美枝と食事の約束をした、ただそのことだけで、彼自身でも驚くほ
どの覇気が湧き上がり、仕事への意欲が増していたのです。伍台は山のように積まれた書類に向
かいました。先ほどまでは、この書類の山には気付かないふりをしていたのです。

そして、あれほど思いつめていた真黒興産へのこだわりが、嘘のように彼の中で消えていたので
す。手痛い敗北を味わった事件をより冷静に見ることが出来るようになり、真黒興産も数ある容
疑者の一人・・、被疑対象の一つ、として見ることが出来るようになっていたのです。

これから先、〈・・取り逃がした売春組織の捜査に取り付かれた参事官・・〉と、陰口を叩かれ
ることはなくなると思います。どうやら、伍台はまた、一歩大きな成長を遂げたようです。


その翌朝、喜美枝から由美子に電話がありました。

「由美子さん・・・、
今ホテルから連絡しています。
彼はもう・・、役所へ出勤して・・・、
私・・、一人きり・・・」

由美子は正直ほっとしていました。

「あのネ・・・、
私・・・、剃られちゃった・・・、
フフ・・・、今、とっても幸せ・・・」

それだけ言って喜美枝はそこで言葉を飲みました。言おうか止めようか、少し迷っている様子
です。

「私・・・、言えなかった・・・・、
妊娠したことは言えなかった・・・。

これから先、この大きな罪を私一人でお墓まで持って行きます。
そして、どんなことがあっても、こんな間違いは二度と犯さないようにします」

「・・・・・・・」

由美子はただ黙って喜美枝の話を聞いていました。多分、その立場に立てば由美子だって、喜美
枝と同じことをするだろうと思っていたのです。

「また連絡します・・・。
今度は、もっと良い連絡が出来ると思います・・」

明るい声で喜美枝は一方的に宣言し電話を切りました。由美子の瞳に涙が溢れていました。


[28] 新しいスレを立てます  鶴岡次郎 :2012/08/06 (月) 14:24 ID:gRjosl/k No.2279
新しい章へ移ります。   ジロー


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