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フォレストサイドハウスの住人たち(その5)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2013/12/02 (月) 15:01 ID:JeEqyR.Q No.2439
高級靴店でシューフイッターをしている秋吉春美は里の両親がお膳立てをしてくれた伊熊正太郎
とお見合いをしました。彼は二人の子供を残して奥さんに先立たれた農業を稼業とする50男で
す。アラフォーに差しかかったとはいえ初婚で美人の春美がこの縁談に乗るとは、話を勧めた実
家の両親も期待していませんでした。しかし、大方の予想に反して春美は正太郎に一目ぼれして
しまいました。春美がその気になったのであれば、善は急げとばかりに、お見合い当日、仮祝言
を挙げて二人は夫婦となったのです。

春美自身も気がついていなかったのですが、春美の女性器には生まれつきの不具合が潜在してい
て、初夜の営みで正太郎の超巨根を受けいれることが出来ませんでした。正太郎に励まされて手
術を受けました。春美の症状はよくある症例で、手術そのものも簡単で、その結果、春美は初め
て『女の喜び』を知ることになりました。この一連の事件が春美と正太郎をよりいっそう強く結
びつけることになったのです。

さて、春美には何事も話し合い、助け合ってきた同じ店で働く友人、加納千春がいます。『・・
・私などとは異なり、千春は女として凄い感性に恵まれている、その感性の使い方を一つ間違え
ば奈落の底へ転落する心配がある、心許して付き合う男は慎重に選ぶのだよ・・・』と春美はこ
とある毎に千春にアドバイスしてきました。春美が寿退社してしまうと春美は一人取り残される
ことになります。感性豊かな、言い換えれば男好きでスケベーな千春は一人残されたのです。千
春のこの先が心配です。この章では、少し時間をかけて、千春の行く先を、どんな男との交流が
待っているのか、ゆっくりと追って行くことにします。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[2] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(102)  鶴岡次郎 :2013/12/02 (月) 15:50 ID:JeEqyR.Q No.2440

そして、結婚

唯一の庇護者であり、理解者であった春美が寿退社した後、彼女が心配したような深刻な問題は、
幸いなことに、今のところ千春の身辺では起きていません。確かに男好きで、類まれな性感に恵
まれた千春ですが、どうやら見かけほどバカな女でなく、どんなに肌寂しく、男恋しくなっても、
性感に流されて手当たり次第に男漁りすることがなく、慎重に行動する理性は持ち合わせている
ようです。

千春の男性関係は今のところ、店のお客に限られています。千春の店では安くて数万円、高いも
のでは十数万の靴も珍しくない店ですから、客層はおのずと限定されます。そのため、身体を任
せる客はほとんど50歳以上の裕福なお客なのです。

遊びなれた中年男性の手で彼女のカラダは更に磨きが掛けられ、魅力を増して行きました。そん
な千春を男達が見逃すはずがありません、指名する固定客が増え、常に店でトップの売り上げを
上げているのです。仕事は面白いし、男からチヤホヤされ、セックス面でも十分に満足している
のです。まさに、千春は華の時代を謳歌しているのです。

この頃には、大胆にお客の体に触り、豊満な身体をちらつかせる術も堂に入ったもので、客が興
奮して勃起させると、ニッコリ微笑み、さり気なくスラックスの股間に手を伸ばし、大胆にその
形を確かめるようにゆっくり触るのです。そして、彼女一番の楽しみは、男性客の股間から発散
される香りを嗅ぎ分けることです。男の匂いは個人差は勿論、同一人物でもその時と場合に
よって、多様に変化することを千春は知っていました。

彼女のバストを見て、大部分の男性客は勃起させます。しかし、乳房で反応がよくない時は、男
性経験を積んできた千春は、男を更に高める技を披露するのです。タイトスカートを巧みにたく
し上げ、色鮮やかなショーツを見せることさえやってのけるのです。美人で、上品で、それでい
て豊満な肉体を持った、いい女が意識してその部分を露出しているわけですから、男は堪りませ
ん、男達は一気に勃起させて、欲情した香りをあたりに発散させることになるのです。

たくさんの男に抱かれている内に、男の香りとセックスの強さの間に相関関係があることをいつ
しか知るようになっていました。セックスに強い男はそれなりに女心を惑わせる強い香りを持って
いることを千春は知ってしまったのです。そして、最近では千春は男の香りをかいで、その男の
セックスの強さを的確に言い当てることさえ出来るようになっていたのです。

女なら誰でもこの感性を持っていると千春は思っていたのですが、同僚の女性たちと猥談をして
いる内に、いつしか、男の匂いをかぎ分ける能力がかなり特殊な能力であることに気付いていま
した。それと同時に、他の女達に比べてかなり男が好きで、それも好き好みの幅が広く、目の前
に現われるほとんどの男を受け入れる性質であることにも気付いていたのです。

〈・・私・・、本当にスケベーだわ・・、
そに気になって迫って来た男なら、誰だって拒まない・・、拒めない・・・

皆が『あの人だけには絶対抱かれたくない』という男だって、それほど嫌ではない・・
『・・千春は人一倍スケベーだから、男に騙されないように・・』と、
春美先輩が言っていたのは、このことなんだ・・・・〉
 
自身がかなり淫乱な体質であることを千春は仲間の女達には伏せて、万事控えめに振舞いました。
それでも男達は彼女の本性を見抜いていて、彼女の周りには盛の付いた男達がいつも取り囲んで
いる状態になっていたのです。それでもシューフイターとしての腕前は人並み以上に優れていま
したから、店の経営者は勿論、同僚達の評価は良かったのです。


ある日、彼女にとって、運命の男が店に現れました。それほど身長は高くなく、スレンダーでニ
ヒルな印象を受ける40歳代の男で、千春はその男が店に来た時、正直言って、背筋が寒くなる
印象を受けました。好きになれない、いえ・・正確に言うと、好きになってはいけない危険な男
だと直感的に思ったのです。

その男、佐王子保の足元にうずくまった時、千春は恥ずかしいほど下着を濡らしていました。目
眩がするほど感じていたのです。男が発する目に見えない精気に彼女は完全に打ちのめされてい
たのです。


[3] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(103)  鶴岡次郎 :2013/12/07 (土) 11:14 ID:a/6MC0Is No.2442
夢中でフイッテイングを済ませ、代金を受け取り、その男を送り出した後、千春はトイレに駆け
込み股間に指を入れ激しく擦りました。恐らくその喘ぎ声は外に聞こえたと思います。しかし、
そのこと事態それほど珍しいことでなく、かすかな喘ぎ声を聞いて露骨に顔をしかめる女もいま
すが、大部分の女は身に覚えがあるわけですから、寂しい女が一人慰めているのだと理解して、
何も聞こえなかった風に部屋を出て行くのです。

それから何度か佐王子は店にやってきました。靴を買い求めたのは最初だけで、適当に千春に
フィッテイング・サービスをさせて去って行くのです。他の客と違って、男から積極的に触るこ
としません。

それが女を釣る手だと千春には判っているのですが、気のない素振りをしようとすればそれだけ
で身体が濡れてきて、気がつけば千春は男にまとわりついているのです。
男の股間を触るまでもなく、強い香りを嗅ぎつけて、明らかにそこが反応しているのを千春は察
知しているのですが、男は何も仕掛けて来ないのです。他の男であれば、勃起しているのを確か
めれば一気に攻め立てるのですが、どうしたわけか佐王子の前に出ると、千春は何も出来なくな
るのです。ただ、男の股間に顔を近づけてそこから漂い出る精気を胸いっぱいに吸い込んで、身
体をしとどに濡らしながら、朦朧とした表情を浮かべ、フイッテイングに没頭している振りをす
るのです。

彼が現われてから一ヶ月経ちました。それまで三度来店し、千春は精一杯愛嬌を振り撒き、男の
気を引いたのですが、男は積極的に動きませんでした。4度目を迎えるにあたって、千春は覚悟
を固めて積極的に攻撃すると決めていました。

月に三度も来店した佐王子ですが、靴を買い求めたのは最初の来店の時だけで、それ以降は靴に
はほとんど興味を示さないです。そんな男の様子から千春の女そのものが目的だと彼女は直ぐに
判断して、それならそれなりの付き合い方があると割り切って、千春は応接していたのですが、
男はそれらしい気配を一向に見せないのです。

女を釣るための焦らし戦略だと思っても、それだけでは説明できない不思議な男の態度なのです。
男の態度に千春は次第に焦れてきて、当惑していたのです。そして、次に男が来店する時がラス
トチャンスだと千春は決めました。たとえ成功しなくても、そこで男のことはきっぱりあきらめ
ると決めていたのです。

彼が来店すると、千春は中座してその日のために準備していたショーツに履き替えました。色は
黒、バックからボトムは紐状で、豊満な臀部に吸い込まれて布の存在は外からうかがい知ること
はできません。前はほとんど透き通るようなレース地で僅かに亀裂を隠す程度の大きさで、千春
の薄い陰毛でさえ全部を隠すことができないで、明らかに食み出ている部分が多いのです。もち
ろん、ブラレスです。

淫らな下着に着替えた千春はそれだけで興奮していました。フイッテイングルームへ男を案内す
る途中で千春はいつもより酷く濡らしていました。おそらく嗅覚の鋭い男は女が酷く欲情してい
ることを悟っていたと思います。女の発情を受けて、男も股間を緊張させていました。発散され
る性臭から女は的確に男の勃起を嗅ぎ取っていました。緒戦から二人とも今日、何かが起きると
予感していたのです。


[4] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(104)  鶴岡次郎 :2013/12/08 (日) 14:32 ID:Qfp8Ts12 No.2443

今日が決戦の日と覚悟を固めている千春は彼の体に思い切り近づいて、彼の足元に屈みこみまし
た。男の強い香りが女を襲っています。女はほとんど気をやるほど興奮して、フイッテイングの
手を何度も止めて、気を静めるために深呼吸をしていました。

刺激を受けた女の股間から濃い性臭が溢れ、女のチョトした動作で股間からその発情臭が巻き上
がり、男の敏感な嗅覚を刺激していました。もう・・、二人は・・、類稀な性感を持った男女だ
けに、ベッドの上にいると同じ程度に欲情しているのです。

男の足に顔を付けるようにして靴を合わせながら、女は徐々に両脚を開いて行ったのです。それ
と同時にタイトスカート裾を上に向かって移動させるのです。この二つの動きがスムーズに行わ
ないと無様に尻餅をつくことになるのです。千春はこの動作を見事にやり遂げました。

ほぼスカートの裾が大腿部の付け根まで来たところで、女は顔を上げ、男の顔を見上げました。
確かめなくても大きく開かれた股間では、濡れそぼった陰毛はおろか亀裂のヒラヒラまで男の視
線に曝されていることを女は良く知っています。

男の強烈な性臭が女の鼻腔を襲っていて、女は狂いだすほど欲情していました。良く見れば女の
股間から愛液が床に滴り落ちているのが確認出来るはずです。しかし、そんな素振りを少しも見
せないで、むしろ事務的な調子で女が声を出しました。

「お客様・・、
よくお似合いだと思いますが・・、
いかがですか・・・」

上目遣いで、精一杯の媚を含めて千春は男を見上げました。並の男ならここであっけなくダウン
するはずです。女の股間に視線を向けていた男がここで視線を女に戻しています。男は黙って千
春を見ているだけでした。

冷静な男の様子を見ても、女はひるみません、それならばと・・、さらなる攻撃を仕掛けてきた
のです。さり気なく男の脚に載せられていた右手が徐々に股間に向かって進みはじめました。そ
れでも男は黙って千春を見ています。千春の手が男の股間に届きました。そこは驚くほどの
ボリュームで膨れ上がっていました。


[5] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(105)  鶴岡次郎 :2013/12/08 (日) 15:03 ID:Qfp8Ts12 No.2444
記事2442と2443一部修正しました。読み直していただければ幸いです。


女はためらいなくその膨らみに手を被せ、ゆっくりと擦り始めました。そこで初めて男が口を開
きました。

「何年になるの・・?」

「ハッ・・・?」

「この店に勤めて、何年になるの・・?・」

「八年です・・」

男がプライベートな質問をしたのはこの時が初めてでした。

千春は少し力を入れて男の股間を揉み始めました。両脚は完全に開かれ、タイトスカートはほと
んど腰の部分までまくり上げられ、女の股間は完全に男の視野の中にあります。黒い小さな布で
カバーし切れない部分が食み出し、そこがべっとり濡れているのが離れたところからでも良く判
ります。驚いたことにこれだけの光景を見せ付けられ、女の優しい指が男の股間を揉みほぐして
いるのに、男は動こうとしないのです。さすがに、股間はかなり勃起していて、女はその驚愕の
大きさを十分堪能していました。

女はさらに大きく両脚を開きました。腰を落とし脚を開いていますから、股間は極限まで伸びき
り、亀裂が変形し小さな布を全て飲み込んでいます。愛液が溢れ出て、床に滴り落ちているので
す。

女の自制心の限界が近づいたようです。ゆっくり首を伸ばし、女は男の股間に顔を近づけました。
女の右手が男のファスナーをゆっくり下げ、女の手がズボンの下にもぐりこんでいます。その時、
男が声を発しました。

「何時に終わるの・・・?」

男の質問を受けてズボンの下にもぐりこんでいた千春の手が止まりました。その時既に、勃起し
た男根を女の手が直に掴んでいました。

「エッ・・、アッ・・、お勤めですか・・?
7時の予定です・・・」

「食事でも一緒にどう・・、今日・・」

「ハイ・・、喜んで・・・」

「では・・、7時半に、5丁目の角で待っている・・」

男が立ち上がりました。それまで女の手に握られていた陰茎が女の手と一緒に外へ出ています。
明るい照明に照らし出されたソレは異常な大きさを示し、湯気が出ているように見えるほどべっと
りと濡れているのです。千春はじっとそれを見つめていました。

男が自身の手でそれを仕舞いこみ、ファスナーを上げ、女に向かってチョッと微笑んで、潔く背
を向けて、部屋から出て行きました。口をポッカリあけ、男の背を見上げながら、千春は右手を
鼻の前に出し、息を深々と吸い込んでいます。千春の右手は男の液でべっとりと濡れているので
す。強い性臭を胸いっぱい吸い込んで千春は腰を抜かしたように床に尻を落としました。本来な
ら店の玄関でお客を見送るのが接客マナーなのですが、千春は両脚をだらしなく投げ出し、ほと
んど動けない状態です。その場で指を使いたい強い誘惑を感じているのですが、かろうじて、踏
みとどまっています。


[6] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(106)  鶴岡次郎 :2013/12/16 (月) 16:06 ID:LkIBhYdg No.2445
誘われた食事どころは銀座の裏通りにある小料理屋でした。デートで若い女性を食事に誘う店で
はありません。10席ほどの椅子席と5席ほどのカウンター席が有り、40歳代の夫婦が切り盛
りしている店です。二人は店の奥に在る4畳半に案内されました。ここは店が終わると店主夫婦
が仮眠する場所で普段はお客を案内しないのですが、常連の要請があれば開放しているのです。

裏通りの薄汚い小料理屋に案内されて、千春は正直ガッカリしていました。一流のフレンチは無
理にしても、せめて小粋なイタリアンに誘ってほしかったと思っていたのです。しかし、簡素で
すが、粋にまとめられた4畳半に案内され千春の思いに少し変化が現われました。そして、最
初の料理が出てきて、それに箸をつけた時点で、千春はそれまでの思いが間違っていたことを思
い知らされていました。

料理は簡易懐石のコース料理でお客のタイミングにあわせて出される全ての料理が美味しく、出
された日本酒も吟味されたものでした。かってこれほど美味しい料理を食べたことがないと千春
は感動していました。

「美味しかった・・、本当に美味しかった・・・。
すばらしいお店ですね・・・」

三の膳が終わったところで、興奮の治まらない調子をあらわにして千春が佐王子に語りかけまし
た。それまで食べることに夢中で、食事の感想を言うことが出来なかったのです。佐王子はただ
黙って、千春を見つめ杯を舐めていました。

「ここが、こんなにすばらしいお店だったなんて・・、
私・・、知らなかった・・。
このお店の前は何度も通ったことがあるはずだけど・・、
お店の存在さえ、気がついていなかった・・・」

この店を選び、千春をこの店に連れてきた50男の佐王子を改めて、しげしげと見つめていまし
た。そして、彼がこの店を選んだことを何となく納得していました。

銀座には一流のフレンチも、粋なイタリアンも、それこそ石を投げればそこに店があるほどたく
さん存在するのです。50男の佐王子だって若い千春がそんな店を望んでいることは十分理解し
ているはずです。しかしあえて、佐王子は行きつけの小料理屋を選んだのです。普段着姿の佐王
子を見せたい、そんな思いが彼にあると、千春は理解していたのです。

〈このお店は・・・、佐王子さんに良く似合う・・〉

何処にでもいる、目だたない、どちらかといえば貧相にさえ見える男です。お愛想にしても、若
い女がほれ込む男の魅力に溢れているとはとても言えない男です。しかし、類稀な感性を持った
千春には佐王子の魅力が良く判るのです。隠された彼の男性力を千春は見抜き、彼女の目には彼
はこの上なくおいしい男に見えるのです。

まさに、この店と同じように、見かけは普通でも、佐王子の内部には普通の男をはるかに超える
すばらしい能力が秘められているんです。そして、そんな佐王子の凄い能力、おいしい男の魅力
を見抜いた千春もまた、凄い女と言えます。隠れた名店を探し出してこそ一流の職客だと評価さ
れるのですが、その意味では佐王子の竿力を見抜いた千春は一流の性豪と言えます。

食事が終わり二人の足は当然のように近くのシティホテルへ向かいました。佐王子があらかじめ
最上階のスイートを予約しておいたのです。シャワーを交代で使い、その後シャンペンで軽く乾
杯を済ませました。この頃には綺麗に洗い流したはずの千春の股間が溢れるほど濡れていました。
勿論ガウンの下は生まれたままの姿です。


[7] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(107)  鶴岡次郎 :2013/12/25 (水) 11:49 ID:uE8Axr5c No.2447
シャンペングラスをテーブルに置いた佐王子が千春の手をひきつけ、女を彼の側に引寄せました。
くずれるようにして千春が男の膝の上に倒れこみました。緩く結んでいたガウンの腰紐が解け、
千春の裸体が半分以上露になっています。男に抱きしめられた女が嬉しそうな表情で男の股間に
顔を押し付けています。ガウンの布越しに強い男性臭が女の嗅覚を刺激しています。顔を上げた
女があえぎながら男の唇を求めて、顔を寄せています。

音を立てて男が女の唇を吸っています。女の唇が歪み、唇の端から呻き声と一緒に唾液が滴り落
ちています。二人の舌が絡み合って、破裂音を発しています。男の右手が女の乳房をやさしく揉
み解しています。女は腰を寄せ、脚を男の体に絡めています。淡い陰毛で飾られた女陰が男の毛
深い太股に押し付けられています。女が妖しく腰を揺らし、陰部を男の大腿部にこすりつけてい
ます、見る見る内にそこが愛液で濡れています。

突然男が女をソファーの上に押し倒しました。女が嬉しそうな悲鳴を上げています。男の手で両
脚が一杯開かれました。男の頭が女の股間に埋まっています。女が男の陰茎を頬張っています。
二人は獣のように唸り声を上げ、上になり下になりして、互いの陰部を貪り食いました。

男がテーブルの上にあったシャンペンボトルに手を伸ばし、それを取り上げ、一気に亀裂に差し
入れました。冷たい液体を流し込まれた女がうれしい悲鳴を上げています。亀裂に口を付けた男
が中の液体をゴクリゴクリと飲んでいます。女は断末魔に近い悲鳴を上げのた打ち回っています。


ベッドの上で男根を受け入れた時、千春はこのまま死んでもいいとさえ思いました。最初の一突
きで千春は脆くも悶絶しました。千春が覚醒するまで男は挿入を解かずじっと待ち続けました。
千春が目覚めると男はゆっくり腰を起動させました。

女は両脚、両手を男の体に絡めて、絶叫し続けました。男はただゆっくり腰を動かすことに徹し
ていました。30分以上、いや、一時間近く千春はベッドの上で悶え狂い、何度も、何度も数え
切れないほど気をやり、体中の水分を全て吐き出し、シーツは水浸しになり、声は枯れ果て、た
だゼイゼイ喘ぐだけでした。最後に男根が子宮を直接突き上げると、怪鳥の様な悲鳴を一声残し
て、天井に向かって突き上げた両脚を震わせながら千春は深々と逝きました。


短大時代、高校の同級生に処女を与えてしばらくその男と付き合っていましたが、就職してから
はその男ともすれ違いになり、いつしか疎遠になりました。店に勤め始めると若い男性との出会
いはほとんどなくなりました。そんなわけで、千春の男性経験の相手はほとんどが店のお客です。

この店に来る男性たちは社会的地位に恵まれているためプライドが高く、裕福ですが、客観的に
評価して体力と持続力にやや乏しい男達が多いのです。それでも、困ったことに当人たちはいっぱ
しの性豪であると自負している人物が多いのです。
彼等の持ち物は男達が思っているほどりっぱではないですし、オスとして明らかに下り坂にか
かっていて、中には坂の下まで落ちている人もいるのです。

佐王子を知って千春はまさに目が覚めた思いでした。それまでの性交がまるで子供の遊びに思え
たのです。その意味で佐王子はまさに千春の運命を決定付ける男の一人になったのです。


[8] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(108)  鶴岡次郎 :2013/12/26 (木) 20:54 ID:qM/Z/gzY No.2448
千春から望んで何度も佐王子に抱かれました。千春は知りませんが彼の竿を頼りに生きている女は
10指を越えるのです。そんな多忙な竿師、佐王子が一週間に三度以上も同じ女のために時間を割
り振るのは異例のことなのです。このことを考えただけでも、これまで出会ったどの女より、佐王
子にとって千春は特別な女であることが判ります。

彼に抱かれる回数が10度を越えるようになると、さすがに一時の興奮が冷め、千春は佐王子の
こと、これから先のことなどを冷静に考えるようになりました。

〈・・彼は何者だろう・・・・〉

最初に抱いた疑惑がこれでした。当初、佐王子はY市で輸入雑貨の店を開いていると千春に説明し
ていましたが、彼が醸し出す特異な雰囲気や、ベッドでの凄い力から推し量って、彼が普通の商店
主であるはずがなく、かなり危険な人物だと千春は察知していました。深く付き合う相手でないと
判っているのですが、千春の身体が彼から離れることが出来なくなっていたのです。

〈・・彼にはたくさんの女がいる・・〉

次に抱いた疑惑がこれでした。彼に抱かれ、陰茎を口にする時、自分のものでない膣の匂いを嗅ぎ
取り、千春は暗たんとした感情に捕らわれることが一度や二度ではなかったのです。彼ほどの男で
すから他に女がいることは仕方がないと思うのですが、一時間ほど前に他の女に接したに違いない
と思える新鮮な女臭を嗅ぎ取ると、判っていても千春は嫉妬を抑え切れなくなるのです。

〈・・どうして彼は最初から、私にこだわり続けたのだろう・・〉

佐王子はふらりと店に迷い込んできました。・・まさに迷い込むという表現がぴったりする、彼の
出現でした。最初に彼を見た時、「この方は、お店のお客にはなれない人・・」と千春は直感して
いました。服装はこざっぱりしているのですが、それほど吟味したものでなく、靴も一般の市販品
でした。要するにファッション面ではごく普通の男で、金に不自由しているとは見えないものの、
靴一足に十数万円を投じる人とは思えなかったのです。

店内をさり気なく物色しながら歩いている時、他の店員が声をかけてもなま返事をしていたのです
が、千春が声をかけ、彼女の胸につけた名札を確かめると、急に笑顔を浮かべて乗り気になり、
フイッテイングルームへも積極的に入っていったのです。そして千春の勧めにしたがって、あっさ
りと高級靴を買い求め、一週間後にまた来店したのです。そして、一ヶ月に三度、佐王子は来店し
たのです。そして、四度目に彼が来店した時、二人は男と女の関係を結んだのです。

数人いる店員の中で千春は佐王子に気にいられたと最初は思っていたのですが、その後の彼の様子
から察して、ヒョッとすると最初から千春を狙って接近した可能性があると千春は思い始めていた
のです。

〈・・私を気に入ってくれているのは間違いないと思うが・・、
私をどう料理しようと思っているのだろう・・・?〉

千春ほどの女ですから、彼女目当てのお客はたくさんいます。そして、彼女のファンの最終目的は
千春を抱くことなのです。千春もそのことをよく心得ていて、彼女のファンが来店すると、サービ
スに努め、焦らしにじらした上で、機会を見て身体を与えることにしているのです。

一般のお客と同じように千春を抱くことが彼女に近づく佐王子の最終目的だと千春は思っていまし
た。しかし、何度も抱かれる内に、どうやらそれだけが目的でなさそうだと思い始めていたのです。
彼は他の男達と違って、千春を抱くことをそれほどありがたく思っていないのです。
彼の目的はもっと深いところ、想像もつかないところにありそうだと千春は不安を感じるように
なっていたのです。それでも、彼と切れようとは思わなかったのです。


[9] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(109)  鶴岡次郎 :2014/01/06 (月) 15:17 ID:CarytEd. No.2450

〈愛人にするつもりでもなさそうだ・・・、
ではどうして・・、モノにしておきながら
いつまでも私の下へ通うのか・・・

私の体に惚れた・・?
いや・・、彼に限って、それだけはない・・〉

千春の下へ通う男達の来店頻度は、多い時で月に一度、普通は二ヶ月に一度のペースです。そし
て来るたびに高価な靴を買い求め、運がよければ、そのご褒美に千春を抱くことが出来るのです。
佐王子の場合は千春から望んで彼に抱かれ、彼がその気になればいつでも千春が抱ける状況にま
で、千春を調教し終わったのです。

普通の男であればここまで来れば目的達成です。他にも女がたくさん居る様子ですから、千春を
完全に自分のものにしてしまった上、最初の珍しさが少し薄れる頃ですから、千春の下へ通う頻
度が落ちるのが普通です。ところが、彼の態度を見ているとどうやら最終目標にまで到達してい
ない様子で、未だ先がある様子なのです。

千春自身はこの状態が続くことはむしろ歓迎しているのですが、ただ、彼の最終目的がわからな
い以上、いつ今の関係を切られるか不安で落ち着かなくなっているのです。

〈私を本気で愛しているとは思えない・・・、
かといって、面白半分で、私を弄んでいるわけでもなさそうだ・・・、
彼の本音は何処にあるのだろう・・・〉

いつまでも今の関係が続くことを願っているし、彼が愛人にしたいと言い出せば、それを受ける
心構えもできているのです。しかし、彼にその気が無いことは女の勘で判っているのです。千春
がそう思う一番の理由は、彼が千春の上では決して逝かないことなのです。どんなに勃起して、
呻き声を発するほど興奮しても、彼はじっと堪えて決して洩らさないのです。

店に来るお客の大半は千春に対して憧れにも似た淡い恋心を抱いていて、彼女を抱き、彼女の顔
か、身体の上か、出来ることなら彼女の膣の中へ精液を吐き出すことが最終目的なのです。しか
し、お客の中には、千春を娼婦と変わらないと思っている者もいて、面白半分で彼女を抱き、悪
ふざけでSMまがいの行為を仕掛ける男もいるのです。
佐王子は勿論そんな悪ふざけはしません。それでいて、彼の態度に愛があるかと問われると、千
春は寂しく首を振ると思います。

〈・・・真剣勝負に臨む武士のようだ・・・〉

ドラマで名優が演じる武士が真剣勝負をする気迫と鋭さを千春は毎回彼から感じ取っていました。
千春が乱れて、喘ぎ、体中の水分を全て吐き出し、最後に悶絶するまで、彼は冷静に千春を抱き、
ポイントを逃さず攻め抜くのです。まさに、名人のなせる業を存分に発揮するのです。そして、
もっとも不可解なことは、千春が悶え、絶叫しながら深々と逝っても、彼はじっと我慢している
ことです。

女の勘で判るのですが、彼はいやいやセックスしているとは思えなく、それなりに快感を千春か
ら得ているのは確かなのですが、彼は逝かないのです。千春のため避妊を意識しているわけでは
なく、逝かないことが彼のポリシーだと思える態度なのです。これには何か深い事情があるはず
だと千春は考えていたのです。


彼に抱かれるのが10度を越えた頃から、佐王子の来店は少しペースダウンして、月に二度ほど
になっていました。今日は20日ぶりに抱かれたのです。千春はいつものように何度も気を失い、
体中の水分を全て搾り出され、声がかすれるほど喘ぎ声を上げ、最後にはいつものように深々と
逝って、濡れそぼった全裸の身体をしどけなくベッドに投げ出しています。

佐王子はこの日も一滴も洩らさず我慢を続けました。そして千春の側で天井を向いて眼を閉じて
いるのです。勝負を終えた侍がひっそりと控えている様そのものです。彼の名刀は未だ直立して
いて、雄雄しく天井を睨んでいます。やがて、女が眼を開けて、首を捻って男を見ました。男は
女の覚醒に気がつかない様子です。

「ネェ・・・、一つ聞いてもいい・・・?」

「・・・・・・」

千春の声で佐王子が顔だけ女に向けました。


[10] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(110)  鶴岡次郎 :2014/01/12 (日) 18:01 ID:yf1Td5ac No.2451

「私じゃ・・・、ダメなの・・・?
私が相手では、最後まで逝けないの・・・?」

「・・・・・・・・」

女に向けていた視線を天井に戻し、佐王子は黙りこくったまま、じっと天井を睨みつけています。
返事をするつもりはない様子です。

「ネェ・・、やっぱりそうなの・・、
私じゃ・・、ダメなの・・・?」

身体を反転させて、千春が男の体に乗りあがり、直立した陰茎を右手でかなり強く握り締めてい
ます。

「そんなことはない・・、
今まで経験したどんな女より、千春は凄い・・、
そう言っては何だが、百戦錬磨の俺が、たじたじとなるほどすごい・・」

「だったら、一度くらい逝って見せてよ・・
このままでは、女として、自信をなくしてしまう・・」

男の体の上に乗りあがり、濡れた股間を男の脚に押し付け、男の乳房に口を付けて、女が甘えた声
を出しています。まるで駄々っ子のようです。

「う・・ん・・・、そうだネ・・・」

ここで男は何かを考えている様子を見せています。女から執拗な質問攻めを受けて、本音を話そ
うか、止め様か、男の内面で葛藤が起きているのです。

ところが、女は握り締めた男根の魅力に惹き付けられ、それを攻めることに夢中になり始めている
のです。そのため自身が発した質問で男の気持ちが動き始めたことなど気がつかない様子です。冷
静に観察すれば、男が初めて心の扉を開き始めているのが女には判るはずなのですが・・。

男の変化に全く気がつかない様子で、女は右手で陰茎をいじくりながら、両脚を一杯開いて、陰茎
の先端を亀裂に押し当てようとしています。女にとって、男から質問の答を引き出すことは、
もう・・、どうでもいい様子です。今は、握りしめた逞しい陰茎を膣の奥深く導くことで頭が一杯
の様子です。

「千春・・、チョッと・・、チョッと待って・・、それは後にして・・、
すこし話がある・・、聞いてほしいことがある・・」

亀頭が既に膣に入り込み、女が騎乗位の姿勢をとろうとして、身体を起こそうとした時、男が女の
肩を両手で押さえてその動作を止めました。女は不服そうな表情で男を見ています。

「千春・・、話を聞いてくれるか・・・?」

「ハイ・・・・」

ここで初めて女は男の変化に気がついた様子です。下から見上げる男の表情が意外に真剣なのが
判ったのです。千春は腰を浮かせて、一旦亀裂に飲み込んだ陰茎を吐き出しています。そして、素
直に男の身体から下りて、ベッドの上に横座りしました。男の顔数センチのところに濡れた亀裂が
滑り降りてきました。勿論意識して女が見せ付けているのです。

今まさに好物を口いっぱいに頬張ろうとしたその部分から透明な愛液が絶え間なく流れ出て、
サーモンピンクの内壁がてらてらと光り、そこだけが別の生き物のように怪しくうごめいているの
です。


[11] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(111)  鶴岡次郎 :2014/01/13 (月) 12:33 ID:gPeevFHc No.2452
これほどの光景を見せ付けられても、男は動じることなく、目の前のみだらな生き物からあっさり
視線を外し、ゆっくりと起き上がりました。女は未練の残る視線を男の股間に向けています、勢い
を失わない陰茎が千春に向かって牙をむいて、雄雄しい姿で直立しているのです。

男はまっすぐに女の顔を見て、少し笑みを浮かべました。こんな優しい表情を見せることは稀です。
勿論千春はそのことに気がついていました。そして次の瞬間、男が別れ話を切り出す可能性が高い
と千春は考え、不安な表情を隠そうとしないで、男を見つめています。千春の様子を見て、男は彼
なりに女の様子が少しおかしいと思った様子です。男は何度か頷いています。男から迷いは消えた
ようです、何もかも千春に話す気になったのです。

「どうやら千春は俺の正体に疑いを持っているようだな・・、
そうなんだ・・・、千春に隠していることがある。
いつまでも、千春に伏せておくつもりではなかった・・、
時期が来れば何もかも話すつもりだった・・・」

千春を真正面から見詰め、男はここでまたニッコリ微笑みました。千春はその笑顔を見て、さらに
不安が増しました。男が何を言い出すか不安が強くなったのです。

「俺は雑貨商などでなく、Y市で風俗店を開いている。
抱えている女の子が10名足らずの小さな店だ・・・。
風俗店のオーナと言えば、多少聞こえはいいが、
元をただせば女を苦界に引き入れる汚い仕事をしているケチな男だ・・・」

表情を変えないで千春は黙って聞いています。そんな千春の様子を見て男は少し驚いた表情を浮か
べています。

「おや・・、あまり驚かないネ・・・、
どうやら、俺の素性に気がついていた様子だネ・・・
世間知らずのお嬢様だと思っていたが・・・、
案外、千春はしっかりしているんだね・・・」

佐王子の問いかけに、千春が黙って微笑んでいます。どうやら佐王子が別れ話をするつもりでない
と判り、千春はそれなりに安堵しているのです。

「比較的裕福な家庭で育った俺は、二人の兄貴たちと同じ様に一流大学を出て一流会社に入り、平
凡なサラリーマンになる道が敷かれていた。ところが、希望した大学の受験に失敗したところで俺
の歯車が狂いだした。
浪人中・・、詳しい事情は割愛するが、奇妙な縁で生涯の師匠と仰ぐ方、その道で伝説となってい
る有名竿師と出会い、風俗関係の仕事に入ることになった。

それ以来、竿師と呼ばれ、ヤクザ組織でも最下等の女たらしを稼業にしてきた男だ。勿論、両親や
親族とは絶縁状態になり、今もその関係は修復できていない。全国を渡り歩いてさんざ悪行を尽く
し、40歳近くになって、ようやく里心が疼きだし、Y市に落ち着いたのは10年前だ・・・」

佐王子の話を聞いても千春はビックリしませんでした。何となくそうした経歴を想像していたので
す。

「今はY市の風俗店の経営の傍ら、これと思う女を発掘して、商売女として訓練して、長年ひいき
にしていただいているお客にその女達を斡旋する仕事をしている。稼ぎは風俗店の方が圧倒的に多
いが、俺の経歴と好みから言えば、こちらの売春斡旋稼業が本業と言える。

だが、俺一人で切り盛りしていて、その上昔のようにあこぎな稼ぎをしないようにしているので、
ほとんど経費倒れの状態だ。それでも、俺はこの稼業が本職だと思っているから、これから先も続
けていくつもりだ・・」

佐王子は淡々と語っています。その語り口と彼の態度から、話の内容が全て事実に違いないと千春
は感じ取っていました。そして、佐王子の言葉どうりであれば、佐王子が千春に近づいた目的は千
春を陥れ、商売女にすることが目的だと彼は告白しているのに等しいのです。それでも千春はこと
さら驚いた様子を見せていません。冷静に佐王子の話を聞いているのです。ここまでは千春の想定
範囲内のストリーなのです。


[12] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(112)  鶴岡次郎 :2014/01/16 (木) 13:44 ID:LkIBhYdg No.2453

「俺が千春に接近したのは、実はある方の指令を受けてのことだ。俺からはその方の名前を明かす
ことは出来ないが、千春も良く知っている方だ。全くの偶然なのだが、その方は千春のお客である
と同時に、私のお客様でもある方なのだが・・・」

意外な展開に千春がビックリしています。

「その方は千春のことを私に話してくれた。千春の売春まがいの行為、靴を売るため、お客に抱か
れていることをその方から聞いたのだ・・・」

眼を一杯開いて千春は佐王子をただ見つめています。話の展開が意外すぎて考えがまとまらないの
です。しかし、千春の身の上に重大な災難がのしかかってきたことは確かなのです。

お客の一人が千春の秘密を、こともあろうに風俗店経営のならず者、佐王子に洩らしたのです。そ
して、秘密を知ったその男が千春に近づいてきて、千春はその男が仕掛けた罠に嵌り、男の体に溺
れきって、男の言うことであれば、何でも従う女に仕込まれてしまっているのです。絶対あっては
ならないことが起きたのです。

恐喝され、法外な要求を突きつけられ、場合によっては、どこか知らないところへ売り飛ばされる
心配さえ出てきたのです。千春は不安で泣き出したい思いでした。

お店での買春行為に関してお客と千春は同罪で、お客が千春の秘密をバラすことなど、夢にも思わ
なかったのです。しかし、こうして、ことが起きてみると、お客が秘密を第三者に得意げに話す可
能性は大いに存在したのです。その場合一番被害を受けるのは千春で、秘密を洩らしたお客はそれ
ほど大きな打撃を受けないのです。

秘密をバラしそうな客の顔を数人、千春は思い浮かべていました。その気で疑ってみると軽薄で、
無責任な男もかなりいたのです。悔やんでも悔やみきれない思いにとらわれていました。そして、
この仕事から早く足を洗っておくべきだったと、いまさらのように悔やんでいたのです。

〈・・しかたがない・・・、
誰も恨むことは出来ない・・。
悪いのは私自身だ・・。

これも運命だ・・・、
過ちの傷口を広げることだけは避けよう・・、
この男の脅かしは、死んでも受け入れない!
この男が何を考えているか判らないが、これ以上男の勝手にはさせない、
場合によっては、警察に訴え出て、何もかもさらけ出してもいい・・〉

千春の立ち直りは見事でした。奈落の底に突き落とされる様な落胆と、やりきれない自己嫌悪から
素早く立ち直り、千春はこれ以上事態を悪化させないよう、男の侵攻をここで食い止める決意を固
めていました。

そう決心すると、先ほどまでのうろたえた気持が嘘のようにその影を潜め、千春は男を迎え撃つ心
構えをしっかり固めていました。千春の変化は佐王子にも判ったようです。かなり固い表情になり、
戦闘的な、敵意に満ちた千春の表情を見て、少しあわてた口調で佐王子が言葉を出しました。

「誤解しないで欲しいが、その方は面白半分や、千春を陥れるために、千春の秘密を私に話したの
ではない。千春のことを心配して、このまま今の売春まがいの行為を千春が続けていくことに不安
を持っていて、私に相談されたのだ・・」

佐王子が真剣な表情を浮かべ、丁寧な口調で千春を説得しています。千春の固い表情は変わりませ
ん。じっと男を睨みつけているのです。

「私は今まで何百人もの女を苦界に引き込み、酷いことも数知れないほどやってきた。そんな私を
恐れ、千春が私を信用しないのは当然だ。

だが、今日だけは信じて欲しい。千春を幸せにしたいと願っているあの方の命を受けて、私は千春
の前に現われ、私流のやり方で千春に近づき、私流の考え方で千春を苦境から救い出したいと考え
ている。

千春の嫌がることや、千春が不利になることは一切しないと約束する。それどころか千春が幸せに
なる道を見つけ出せるよう、この身を投げ出して協力したいと思っているのだ。

もし、私の話に少しでも疑問を持っているようなら、これから先の話は続けても意味がないので、
話をここで終わりにして、千春と俺の関係も今日、この場限りとしてもいいと思っている・・。

千春がそう望むのであれば、いままでのことをすべて水に流して、私は黙ってこの部屋から出て行
くつもりだ・・・。

どうだろう・・、このまま話を続けてもかまわないだろうか・・・?」

ここで佐王子が言葉を切り、千春の表情を読み取ろうとしています。千春はかすかな笑みを浮かべ
て、二、三度頷きました。佐王子が満足そうに大きく頷いています。


[13] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(113)  鶴岡次郎 :2014/01/19 (日) 16:20 ID:BfLeCneg No.2454
「私の依頼主は自分だけでなく、千春が複数のお客に抱かれていることを何となく感じ取っていて、
今の店を辞めて、売春まがいの行為からすっぱり足を洗ってくれるなら、どんな援助も惜しまない
とおっしゃっている。千春が望むのであれば、独立して靴店を開くことだって可能だとおっしゃって
いる・・」

自身の娘に近い年齢で、清純そのものに見える千春を抱いた後、大方のお客は自身のスケベ心は棚に
上げて、千春の将来を真剣に心配して、そんな仕事から早く足を洗うことを忠告するのが常でした。
経済的に困っているのなら、資金援助をするから、自立して店を開くことを打診してきた男も少な
くありませんでした。

千春を独占したいスケベ根性は見え隠れするものの、お客たちが本気で千春の身を案じてくれてい
ることには千春はいつも感謝しておりました。どうやらそのお客達の中のある人物がいつまでも汚
い仕事を続けている千春の身を心配するあまり、その道のプロである佐王子に相談したのだと千春
は理解していました。そうであればそれほど心配することではないのです。千春はゆったりとした
気持ちを取り戻していました。

「私のような女にそこまでおっしゃっていただいたことに感謝申し上げます。実を言うと、そんな
親切なお申し出を受けたのはこれが初めてではありません。以前にも、数人のお客様から、今のよ
うに親切なお言葉を直接いただいたことがあります・・・」

千春の言葉に、微笑みを浮かべた佐王子がゆっくりと頷いています。どうやらそうした経緯も佐王
子は承知している様子です。

「その時も申し上げたのですが、私はそんな高額な投資をいただけるほど価値のある女ではないの
です。私の身体を自由にしていただく条件でも、そんな大きな金額にはとても値しないと思ってお
ります・・」

ゆっくりと語る千春の言葉を佐王子は黙って聞いています。

「勿論お店を持つことは、私達シュー・フィッターの夢です。夢の実現のために、お金持の愛人に
なった仲間もいます。しかし、私はその道を選びたくないのです。

もし、そんな身分不相応な援助を私が受けたとしても、今の私にはそこまで実力が整っていない
ため、当然のことながらその援助に報いる成果を生み出すことが出来なくて、お店をダメにするこ
とになり、悩み、苦しみ、今よりさらに不幸な境遇に堕ちると思います。それだけは避けたいので
す。

たとえ、社会の底辺に堕ちるとしても、自分で納得の行く道を選択して、その上で道を踏み外し転
落するのなら、あきらめがつくと思うのです。身分不相応な境遇に身を置き、途惑いと、後悔に満
ちた人生を生きることだけは避けたいと、今も肝に銘じているのです。

そんなわけで、その方のお申し出にはお礼を申し上げ、今回も、辞退させていただきたいと思うの
です・・」

高額の援助を受け、その男の愛人になり、気楽に生きる安易な人生を千春はここでも拒否している
のです。あらかじめその答を予想していたのでしょう、佐王子は笑みを浮かべて千春の言葉を聞い
ていました。

「良く判りました。千春さんがそう答えるだろうとその方もおっしゃっていました。私も千春さん
の気持ちは良く理解出来ます。この話はこれ以上無理強いしません。あの方にもそう伝えます。

ところで千春さん・・、
若い女性には失礼で、唐突な質問で恐縮ですが、出来れば答えて欲しいのだが・・・、
千春さんは売春稼業をどう考えていますか・・・」

それまでの笑みを消し、真剣な表情で佐王子が質問しています。いよいよ佐王子は本題に入って来
たようです。


[14] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(114)  鶴岡次郎 :2014/01/20 (月) 14:22 ID:FWYZRykc No.2455
 記事番号2454に一部修正を加えました。

「どう思うかと聞かれても・・、
ご存知のように、現在、私はそれに近いことをやっています。
一人になると、自己嫌悪と罪悪感でいつも悩んでいます。
出来れば、こんな仕事から足を洗いたい・・、
いつもそう思っています・・・」

「何故・・、足が洗えないのですか・・・・、
千春さんなら、その気になればいくらでも道は拓けるでしょう・・」

「そう思うのですが・・、
一方では・・、不景気だから、今の仕事を辞めると、
次の仕事が見つからないと思えて・・・、
ズルズルと・・・。

フフ・・・・、佐王子さん・・、判っているのネ・・、
『そんな奇麗事、聞きたくない・・』、そんな顔をしているわネ・・」

途中で言葉を止めて、千春は佐王子の顔を覗きこみ、悪戯っぽい表情を浮かべてニッコリ微笑みま
した。

「いいわ・・、佐王子さんだから、はっきり申し上げます・・。
私、この仕事が好きなんだと思います。

男達からチヤホヤされることも好きですし、
それに・・、私・・・、
恥ずかしいけれど、全部告白しますネ・・、
私・・、男に抱かれるのが嫌いではありません・・・」

なにやら思いつめた様子で、千春は一気に告白しました。誰にもいえない秘密を告白して気が楽に
なったのでしょうか、大きく深呼吸した千春は、今度はゆっくりとした調子で話し始めました。

「この仕事から足を洗って、しかるべき恋人を作って、
やがて、結婚・・・、旦那様一人を守って・・、そして子育て・・、
そんな人生に憧れることがないといえば嘘になります。

でも・・、本気で今の仕事を辞める気になれないのです・・。
その原因は、私・・、判っています・・。

私、人一倍スケベーなんです。
たくさんの男に抱かれることが好きなのです。
ほとんど病気だと思えるほど、そのことが好きなんです・・」

笑みさえ浮かべて千春は語っています。おそらくこんな本音を彼女が吐き出したのは以前同僚だった
春美との女子会以来のことだと思います。 

「佐王子さんの質問に未だ答えていないですネ・・、
私にとって売春稼業は・・、天職だと・・、
そう言っても、決して過言ではないと思えるのです・・。
出来ることなら、生涯その稼業を続けたいと願っています。

軽蔑するでしょうね・・、
バカな女だと思いでしょうネ・・」

笑みを浮かべながら、低い声で千春は話しています。それなりに冷静に考えた末での結論のようで
す。

「店を持たせると、先ほどうかがったありがたいお話を断ったのは、本音を言えば、ご主人様一人
を大切に守り切る自信がないことも一つの理由です。

いずれ裏切り行為に走ることが目に見えているのに、人の好意を踏みにじることになる可能性が高
いのに、そんな私が人様の善意を受け入れることが出来ないのです」

真っ直ぐに佐王子を見詰めて千春は、言葉を選びながら話しています。そして、口を出たその言葉、
話の内容に、千春自身が驚いているのです。今まで、真剣に彼女自身の強い性欲や、セックス好き
の体質と真正面から向き合ったことがなかったのです。言葉に出して、千春は初めて納得していま
した。そして、自身の生きてゆく方向をしっかり見据える気持ちになっていたのです。


[15] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(115)   鶴岡次郎 :2014/01/21 (火) 16:31 ID:3L0fH68s No.2456
『ほとんど病気だと思えるほど、セックスが好きでたまらない・・』と、丸裸の女が本音を語って
いるのです。並の男であればここで女に飛びかかっても不思議はありません。女もその仕掛けを拒
否しないと思います。しかし佐王子は違いました。佐王子はただ黙って聞いていました。彼の瞳に
は、異性への劣情は勿論存在しません。深い愛情・・、というより、千春への慈しみの気持が溢れ
ているのです。

「良く話してくれた。先ほど言ったように、男と女の性が生々しく行き交う現場で私は生きてきた
から、いろんな女性の生の姿を誰よりもたくさん見た来たと思っている。そんな私だから、千春の
話を聞いてもそれほど驚かない、むしろ、若い千春が自身の持つ女性特有の体質に気がついて、け
なげにもその体質と向き合おうとしていることを知って感動している。私でよければこれからも何
でも相談して欲しい、きっと力になれると思う・・」

千春の瞳に涙が溢れていました。その涙に気がつかないふりをして佐王子は話を続けました。

「私は売春稼業をそれほど悪いことだとは思っていない。むしろ、やりようによっては立派なビジ
ネスだと思っている・・。この考えはこれまで歩んできた私の人生から出てきたもので、勿論、全
ての人に受け入れられるものではなく、むしろ批判する人が多いことも知っている。また、このビ
ジネスがこの国の法律の下では非合法であることも、勿論良く知っている・・」

気負った様子を見せないで、淡々と佐王子は語り始めました。千春は真剣な表情で聞いています。

「売春稼業を天職だと思って、楽しみながら稼いでいる女達を私はたくさん見てきた。むしろ、売
春婦の中には、そうした考えを持つ女性が多いように思える。そして、女性の皆さんに本音を伺え
ば、案外、千春さんに近い考えを持つ方が多いのかもしれないネ・・・

ハハ・・・・・、勿論これは冗談です。
こんなことを私が言ったと、誰にも言わないでほしい・・、
女は恐いからネ・・、ハハ・・・・・」

笑いながら佐王子が話しています。千春も笑みを浮かべていますが、頷いているところを見ると、
佐王子の冗談を頭から否定するつもりはない様子です。

「若い頃は組織の命令もあって、あこぎなことをたくさんやってきて、沢山の女性を泣かせてきた。
歳を経て、こんな私でも独立することが出来、自分の店を持つことが出来るようになると、昔泣か
せた女性達への贖罪の気持ちもあって、女性の気持に沿った稼業の進め方を考えるようになった。

男と違って、性欲を持て余した女達にはそのはけ口は意外と狭いのだ。やり方を間違えると、性病
だとか、望まない妊娠だとか、離婚だとか、女性には浮気のしっぺ返しが大きなダメージになること
が多いのだよ・・・」

佐王子の説明に千春が何度も頷いています。

「そんな女性の密かな欲望を、抑えようとしても抑えきれない情欲を、合理的手段で発散させるお
手伝いを私はしたいと思っている。勿論、私自身も、わずかだが利益を上げさせていただくことに
しているのだが・・・」

千春の目が輝いてきました。佐王子への期待が膨らんでいる様子です。

「結論から先に言おう。千春さん・・・・、これからは『千春さん』と呼ばせていただくことにし
ます。私に大切な身体を託してくれる女性は大切なビジネスパートナーだから、それなりの敬意を
払うのが当然だと思うからです・・。

お店での売春行為は今日を限りにすっぱり止めてください。今のまま続ければ、いずれ、悪い男に
引っかかるか、それでなければ、お店の幹部に知られて、恥ずかしい思いをして、お店を辞めるこ
とになると思います。そうなれば、千春さん・・、判るでしょう・・、立ち上がれないほど大きな
ショックを受けることになります」

千春が何度も頷いています。千春の反応に佐王子が笑みで答えています。


[16] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(116)  鶴岡次郎 :2014/01/24 (金) 16:39 ID:MWD89pW. No.2457

「明日からは、身体を餌にすることを止めて、本来のシューフィッターの仕事に戻るのですが、先
ず最初にやることは、これまで関係を持ったお客全てと性的な縁を完全に切ることです。身奇麗な
体になって、それから後、新しいビジネスを展開したいと思っています。これは非常に大切なこと
で、もし、いままでの腐れ縁が続くようなら、新しい仕事を始めることは出来ません。

多分、これまで腐れ縁のあるお客は千春さんが拒否しても、いろいろ仕掛けて来ると思います、そ
の時あまりにつっけんどんに対応して、喧嘩別れをしては意味がありません。シューフイッターの
仕事はこれから先も続けるわけですから、良いお客を手放す手はありません、お客たちが状況を自
分で判断して身を引くように仕向けるのです。その方法を私が教えます・・・・」

佐王子の言うとおりで、いままで肉体関係を持ったお客を納得させるのは至難のことだと千春は
思っているのです。結局、すったもんだして、最後には店を辞める道しか残されていないことにな
ると、千春はややあきらめに似た気持ちになっていました。それでも身体を餌にした営業活動はこ
の機会にきっぱり止める気持には揺るぎはないのです。

佐王子は丁寧に作戦を授けました。千春は熱心に耳を傾けました。半信半疑だった千春が佐王子の
作戦を聞いて、徐々に作戦の成功を信じるようになりました。彼女自身でもいくつか作戦の細部に
アイデアを出す様になり、話が終わる頃には千春もその作戦でお客達を説得できる自信を持つよう
になっていました。

「多分このやり方で千春さんのお客は納得して手を引くと思います。そして、私の計算どおり展開
すれば、千春さんが何もしなくても、同じ様に売春行為を続けている千春さんのお仲間も、千春さ
んの動きに同調して、ヤミの仕事を止めることになると思います。

そうなれば、あのお店からいかがわしいヤミの営業行為は完全に消えることになるのです・・・」

「本当ですか・・、そうなればどんなにいいか・・、私だけ止めても、仲間の誰かがお客に抱かれ
ていれば、いつかその行為がバレて、過去の私の行為まで掘り起こされることになりかねませんか
ら、出来ることなら、仲間全員があの仕事をやめてくれればいいのだけれど・・・、そんなこと無
理ですよネ・・・、皆、いろいろ事情があるから難しいのかな・・・」

「出来ると思います、いや・・、一掃しなければいけないのです。
もし、この計画が上手く行かなかったら、次の手は考えていますから、
あのお店からヤミの営業活動を完全に葬り去ります・・・」

低い声ですが、佐王子が力強く伝えました。断定的な佐王子の宣言を聞くと、それだけで、ことが成
功する気持ちになるのです。千春はうっとりとして佐王子を見つめています。完全に男を信頼し
きった女の瞳です。

「身体を餌にした闇の営業活動をお店から一掃出来たら、次は千春さんを私が売り歩きます。千春
さんは今までどおりお店の勤務を続けていただきます。時期が来れば、私が動き出しますから、千
春さんはただ待っていただくだけで結構です。それまでは少し欲求不満が溜まるかと思いますが、
我慢していただきたいと思います。どうしても我慢できなくなったら、私が出向きお役に立ちます。
どうでしょう・・、こんな条件ですが、私と契約していただきますか・・・?」

千春は黙って頷き、佐王子に抱きつき、彼の唇に吸い付きました。男が女の股間に指を埋めていま
す。女がうめき声を上げながら、自らベッドに倒れこみました。
この後、二人は二時間あまり絡み合い、この時初めて佐王子は千春の中で逝きました。勿論、全身
を痙攣させながら千春は深々と悶絶しました。


[17] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(117)  鶴岡次郎 :2014/01/25 (土) 11:47 ID:uE8Axr5c No.2460
 にせ医者さんの投稿を別のスレに移しました(ジロー)

佐王子と秘密契約を済ませた翌日、いつものように千春は店に出ました。昼過ぎ常連のお客の一人
である田所が店にやってきました。彼は都内でかなり大きなレストランを経営している50男で、
千春とは二、三度寝たことがあるのです。

ほぼ三ヶ月ぶりにやってきた田所は、個室へ入るとそのチャンスを待っていたように、素早くス
カートの下へ手を伸ばしてきました。千春は笑みを浮かべたまま、両脚を固く閉じて、彼の侵入を
阻止し、その手を軽く払いのけました。

「どうしたの千春ちゃん・・、
しばらくご無沙汰したから怒っているの・・?」

予想外の千春の拒否反応に田所がビックリして、それでも甘えた声で不満を訴えています。

「すみません・・、チョッとしたことがあって・・、
以前のようにお店では、戯れることが出来なくなったのです・・」

「チョッとしたことって・・・、
エッ・・、もしかして・・、
ここでやっていることがバレたの・・・?」

今度は真顔に戻り、心配そうな表情を隠さず、千春に質問しています。個室で戯れていることがバ
レれば、お客である田所だって責任を問われることになるのです。

「エェ・・、はっきりしたことは判らないのですが、
新人の一人がお客様にお尻を触られて、泣き出し、
それで・・、少し騒ぎになったようです」

「ビックリしたよ・・・、
千春ちゃんのしていることがバレたと思ったよ・・」

スカート下へもぐりこませた手を引き戻しながら、田所が少し安心して、笑みを浮かべながら答え
ています。

「店長から全員に注意があり、お客様からセクハラ行為を受けたらどんな小さなことも報告するよ
うに強く言われました」

「それであれば、千春ちゃんが黙っていれば・・・・、
いままでどおり・・、なあ・・、いいだろう・・・」

卑猥な笑みを浮かべ千春を抱き寄せ、素早く唇を寄せています。

「チョッと・・、田所さん・・、待って、待ってください・・・。
それだけでは無いのです、お客様と一緒に個室へ入ると、店長がドアーの外に立って、中の様子を
探っているのを見たと、仲間の一人が教えてくれました」

「エッ・・、本当・・・」

ビックリして千春の身体から手を離し、田所は扉に視線を走らせています。


[18] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(118)  鶴岡次郎 :2014/01/26 (日) 16:14 ID:qM/Z/gzY No.2461
「驚かせないでくれよ・・・、
これでも気は弱い方なんだよ・・、
まさか店長が立ち聞きしていないだろうネ・・・」

半信半疑の表情で田所が千春に尋ねています。

「フフ・・・、心配しないで下さい・・、
店長は本社へ出かけて留守ですから・・、大丈夫です。

「しかし、個室の表で盗み聞きするとは・・、
店長・・、何かをつかんでいるのかな・・
従業員を店長は信用していないのかな・・・」

もう・・、千春に手を出す意欲を失ったようで、田所はどっかりと椅子に腰を下ろし、何かを探る
目つきで考え込んでいます。

「お客様を誘って、合意の上で淫らな行為にふけっているケースもあると、
店長は従業員を疑っているようです。仲間の一人がそう言っていました。
ここは大人しくしていた方がいいと思って、お客様にも事情を説明して協力していただいているの
です・・・」

「そういう事情なのか・・・、判った・・・、
それなら、今日のところはおとなしくした方が良さそうだね・・、
いずれ、ほとぼりが冷めたら、またよろしくお願いするよ・・」

「ハイ・・、でも・・、本当にほとぼりが冷めることがあればいいのですが・・、
どうやら、今度ばかりはただでは済みそうもないと思えるのです・・」

「・・・・・・・・」

深刻な様子で話す千春をじっと田所が見つめています。新人店員へのセクハラ事件に意外に深刻な
問題が含まれていることにようやく田所も気がつき始めた様子です。

「これまでもセクハラの注意は何度かありましたが、今回は違うのです、
店長は本気でこの問題解決に取り組もうとしているのが良く判るのです。
私・・・、何だか恐くて、うかつな行動は取れないと思っています・・・」

「う・・ん・・・、そういうことか・・・、店長は本気なのか・・、
今回のセクハラ事件で店長は何かを感じ取ったのかな・・、
いや・・・、チョッと待てよ・・・、
千春ちゃん・・、その事件の後、店長はお客のヒヤリングもしたのだね・・?」

「ハイ・・、その子が泣き叫んで、両親にも、出身学校へも言いつけると騒いだそうです。
それで、店長は前例の無いことですが、お客様を応接間に案内して、事情を聞いたのです。

お客様の責任を追及するつもりではなく、双方の事情を公平にヒヤリングするのだと断り、
お客様も出来た方で、快くヒヤリングに応じてくれたと聞いています。
軽いからかいの気持ちで触ったことを認めたお客様が見舞金を出して、その事件は治まりました。
勿論、その新人も今は元気で働いています・・。

それで全て丸く治まれば問題なかったのですが、その日以来、店長のセクハラ追及が強くなり、
先ほど申し上げたように、すねに傷を持つ私などは凄く落ち着かない気分になっているのです・・」

千春の説明を聞いて、田所はなにやら考えこんでいる様子です。心配そうな表情で千春が田所を見
ています。


[19] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(119)  鶴岡次郎 :2014/01/27 (月) 15:44 ID:cZ3CpOAU No.2462
それが癖なのでしょう、独り言を言いながら田所は盛んに推理を重ねています。不安そうな表情を
浮かべ千春が田所を見つめています。千春の嘘が見破られるのではないかと、内心ひやひやしなが
ら千春は田所の表情を覗っているのです。

「ウン・・・、判った・・、読めたぞ・・・・。
バカな客が油断して、言ってはならないことを店長に洩らしたのだ・・・、
そうに違いない・・。それで店長は事の重大さに気がついたのだ・・・」

突然大きな声を田所が出しました。どうやら千春の語った偽のストリーを信用して、田所が店長の
行動を分析しているようなのです、千春は内心でにんまりとしていました。

田所と千春の付き合いはそれほど長くありません、田所が知り合いから千春のことを教えられ、来
店したのが一年ほど前で、それが目的で来店したわけですから、初めての来店なのに、田所は最初
から強引でした。いくらなんでも初会から身体を与えることには千春は抵抗したのですが、唇を奪
われ、陰唇に指を受け入れると、50男の巧みな技に千春は易々とねじ伏せられました。その日、
千春は喜悦の叫び声を上がるほど個室で乱れたのです。

二回目以降は田所は勝手知った我が家のように振るまい、強引にカラダの関係を要求し、その都度、
千春を深々と逝かせていたのです。忌み嫌いながらも、強引に抱かれると身体を開き、しとどに濡
れる関係、田所と千春の間はそんな関係でした。

女心も、世間体もあまり気にしないで自由に振舞っているように見える田所ですが、案外繊細な所
もあり、千春は知りませんが、淫らな行為の後、冷静に戻ると、自身も都内に店を持つ経営者であ
る田所は、自分の店の店員がもしこんな破廉恥な行為をやっていれば大変だと、毎度、少し後ろめ
たい気分になっていたのです。


千春から新入社員のセクハラ事件を聞き、自身を店長の立場に置いて、セクハラ事件を自身の店で
起きた問題として考えたのは田所にとって自然の流れでした。そうすると、この店で起きたことが
田所にはその現場にいるかのように良く見えてきたのです。

側にいる千春のことを忘れたように、田所は考えに耽っています。どうやら核心に迫ったようで、
いつものにやけた好色オヤジの表情は完全に消え、仕事の出来るレストランオーナーの顔に戻って
います。結論が出たようです、軽く頷きながら、田所は自身がひねり出した結論を口に出していま
す。その結果によほど自信があるのでしょう、珍しく興奮した口調です。

「判った・・、全て読み取ったぞ・・、俺も棄てたものじゃないな・・・・、
店長はもみ消しにかかっているのだ・・・、
新人セクハラ事件も、千春の行為も、全て闇からヤミに葬るつもりなのだ・・」

田所は千春に視線を戻しました。もう・・、その表情は仕事の出来る50男の顔に戻っています。
そんな田所を見たの初めてですから、驚きながら千春は姿勢を正しています。

「多分、千春ちゃんは眼をつけられていると思う・・・、
店長は全てを知っていると思った方が良い・・、
何も言わないのはそれなりに理由があるはずだ・・・。

千春ちゃん・・、いい機会だ・・!
千春ちゃんが決心しているように、セクシャルなサービルは止めることだ。

店長だってコトを荒立てる気はないから、今止めれば、
全て闇から闇に葬られることになるはずだ・・・、
これからは、真面目にシューフイッテイングの仕事をすることだネ・・・。

じゃ・・、俺はこれで失礼するよ、
ああ・・、送らなくてもいいよ、また来るからネ・・・」

田所は飛び立つように店を出て行きました。田所がこの店に再び来ることはないでしょう。

田所の後ろ姿に頭を下げながら、千春は笑を噛み殺していました。佐王子からアドバイスをうけた
とおりに千春は田所に説明したのです。まさかこんなに上手くことが展開するとは思っていなかった
のです。
(@2014.1.29 一部本文を修正)


[20] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(120)  鶴岡次郎 :2014/01/31 (金) 14:55 ID:kPNyK7ss No.2464
@2014.1.29 記事番号2462に修正を加えました。

田所は送り出した後、千春は佐王子に電話を入れました。佐王子が授けた作戦が見事成功した結果
を報告するためです。午後一時過ぎなのですが、夜の仕事している佐王子は未だベッドの中にいま
した。一通り千春の説明を聞いた後、佐王子は電話の先で一言も言わないで何事か考えている様子
です。万事作戦通り上手く展開したのですから、お褒めの言葉があるはずと思っていた千春は、佐
王子の沈黙をどう理解していいのか、当惑しています。

「千春さん・・、明日、仕事を休むことが出来ますか・・?」

「エッ・・、年休を取るのですか・・・?
しばらく休んでいないし、今は比較的暇なシーズンですから・・、
問題なく取れますが・・・」

「それでは、明日一日休んでください・・」

「うれしい・・、それってお誘いですね・・・
佐王子さんが部屋に来てくれるのですか・・、
それとも・・、どこかへ出かけますか・・、
幸い体調もいいので、私・・、何処へでも行きます・・・」

うまくことが運んだ褒美に抱いてくれるのだと、千春は弾んだ声を出しています。そんな千春の弾
んだ声を無視するように、事務的な調子を崩さないで佐王子が質問しました。

「千春さん・・、先日聞いたお店の新入社員の名前を、もう一度教えてください・・」

売春行為を止める作戦を練ることになった時、店の事を一通り千春から佐王子に教えていたのです。
その時新入社員のことも千春は彼に告げていたのです。

「ハイ・・、佐藤 薫ちゃんですが・・。
とっても可愛い子なんですよ・・」

少し雲行きがおかしくなったと感じながら、千春はそれでも、快活に答えています。

「ああ・・、そうでしたね・・、判りました・・。
明日は仕事が詰まっていて、どうにも身体を空けることが出来ません。
千春さん一人でゆっくり休んでください・・。
明後日、こちらから連絡をいれます・・」

電話が一方的に切られました。悔しい発信音を聞きながら、千春は思わず側の椅子を蹴飛ばしてい
ました。


翌日午前10時過ぎ、30歳代に見える一人の男が、千春の勤める店にやってきました。身長は1
80センチ近くあり、長髪をオールバックにした中々イケ面の男です、サラリーマンには見えませ
ん、着ている物も靴も、高価なブランド品ですが、全身から怪しい匂いが立ち上がっている人物で
す。

「いらっしゃいませ・・、どのようなものをお探しですか・・・」

店の入り口を見張っていた新人の佐藤薫が淑やかに近づき恭しく頭を下げています。この時間ほと
んど来客はなく、新人の薫一人が店先に出てお客を待っているのです。先輩達は控え室にいて直ぐ
駆けつける体勢です。


[21] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(121)  鶴岡次郎 :2014/02/03 (月) 14:52 ID:zGYOiiRk No.2465

その客、南伊織は店員が胸につけた名札を確かめ、狙い通り薫が応対に出たことを知り、内心で
ガッツボーズをしていたのです。

「知人からこの店を紹介されたのだが・・・、
加納千春さんはいるかね・・・?」

男はにこやかに微笑み、薫に近づき、身体をかがめて、彼女の耳に口が触れるばかりに近づき、囁
いています。男の息を頬に感じ取り、ハッとして、薫は反射的に身体を離しています。処女の本能
が店で受けた接客訓練を超えて反応したのです。はしたない行動に出たことに気がついたので
しょう、顔を赤らめ、頭を下げ、一歩南に近づき、親しさをこめて、今度は新人研修で教わった接
客マナーどおりに答えました。

「加納千春でございますね・・、
申し訳ございません、加納は本日おやすみをいただいております。
私、佐藤でよろしければご用件を伺うことが出来ますが・・」


靴を二、三足選び、二人はシューフイッテイングルームに入りました。椅子に腰掛けた男の足元に
薫がうずくまり、靴を履かせ、フイッテイングしています。

この店のユニホームは胸元が比較的ルーズな白い薄地のブラウスと紺のタイトスカートで、スカート
丈は膝上二センチから三センチのミニです。ミニで屈みこみ、お客の靴を調整するのはかなり窮屈
な姿勢になるのは避けられなくて、千春のようにベテラン店員になると、思い切りスカートの裾を
上に吊り上げ、ショーツを見せながらフイッテイングするのです。それが、この店の隠れた売り物
にもなっているのです。

脚を横に投げ出し、直に床にお尻をつけて、上体を腰の部分で窮屈にねじり、薫はフイッテイング
をしています。男があれこれ注文を出しますから、自然とスカートの裾が上がり、白いショーツが
見え隠れしています。無理な姿勢をとっているせいでしょうか、スカートはパンパンに引っ張られ
て、臀部から太ももにかけてカラダの線が浮き上がり、可憐な表情には不似合いな色香が薫の身体
から発散されているのです。

「アッ・・、止めてください・・、何をするのですか・・」

ショーツに伸びてきたお客の手を払いのけ、薫はその場に反射的に立ち上がりました。怒気を含み、
今にも泣き出しそう表情で男を睨みつけています。彼女に伸ばした右手を宙に止めて、男は苦笑い
を浮かべて薫を見ていました。

全身を怒りで震わせ、今にも泣き出しそうな薫の表情をみて、この世で一番・・・・それは少し大
げさですが、少なくとも、いままで見た女の中で一番印象的な表情だと、男は口をポッカリ開き、
うっとりと薫の顔を見つめていました。後になって、彼が佐王子に仕事の成果を報告した時、『あ
の娘だけは騙したくなかった・・、あの時ほど自分の因果な仕事を恨んだことがなかった・・』と、
南は語っていました。


二人はその場で凍りついたように、にらみ合っていました。男の手を本能的に振り払い、男を睨み
つけている薫は次第に冷静さを取り戻して行きました。ここが店の中であること、そして、男がそ
れ以上攻めてこない様子なので、薫は平静に戻り、自身の行為を見返る余裕を取り戻していたので
す。

〈・・研修で教えられていたセクハラ行為とはこれなんだ・・、
いきなり手を払ったけれど・・、これで良かったのだろうか・・、
もっと穏やかな対応をするべきだったのかしら・・、

お客様に謝るべきか・・
いや・・、それは出来ない・・、
でも・・、お客様にどう声をかけたらいいのか・・〉

さすがに名店の店員ともなると、出来る子のようで、冷静に戻ると、彼女は自身の取った対応が正
しかったのか、もっと他の対応があったのか見返していたのです。そして、自分の力ではとうてい
この場を治めることが出来ないと判断した薫は接客訓練で教えられていた最期の手段を取ることに
したのです。

「・・・店長を呼ばせていただきます・・・」

硬い表情を崩さないで、ようやくそれだけを男に告げて、薫は備え付けの電話を取り上げました。
そして店長に簡単に事情を説明して電話を切りました。

「店長がここへ参ります・・」

南の顔を見ないようにして、薫は事務的に伝えました。男は黙って頷いています。逃げようとすれ
ば逃げるチャンスは一杯あったのですが、何故か男は大人しく椅子に腰を下し、薫が店長に電話を
かけている間も落ち着いた様子を見せていました。覚悟を決めて店長と対決するつもりのようです。


[22] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(122)  鶴岡次郎 :2014/02/04 (火) 20:41 ID:PUt3NqaY No.2466

薫が電話を置くと、間を置かず、年配の店員を一人連れて店長が駆けつけてきました。落ち着いて
はいますが、緊張した面持ちです。店長が名刺を差し出し、男に自己紹介しています。男は名刺を
持たない習慣だと断り、名前を名乗りました。男は落ち着いていて、恥じる様子も、悪びれた様子
も見せないで、淡々と店長に接しています。

「少し時間をいただいて、佐藤から事情を聞きたいと思いますが、
よろしいでしょうか・・・」

男が無言で頷いています。薫がもう一度要領よく事情を伝えました。男は薫の話に一切口を挟まず、
むしろ悠然と椅子に腰を下ろし彼等の会話を聞いていました。

「南様・・、
今佐藤が話しました内容に間違いはありませんでしょうか・・?」

男が黙って頷いています。男は笑みさえ浮かべているのです。

「それでは・・、南様・・、少しお客様のお話を伺いたいと思うのですが、
ここは店の中ですので、何かと差しさわりがあります、汚いところですが、
店長室へご足労いただきたいのですが、よろしいでしょうか・・」

丁重ですが、嫌とは言わせない迫力を見せて、店長が男を別室へ誘いました。男は軽く頷きました。
店長が先に立ち、男がその後に続いて一緒に部屋を出ました。

薫は店長と一緒にやってきた年配の店員に肩を抱かれて二人を見送っていました。男が部屋を出て
扉が閉まると、それまで堪えていた緊張が一気に解けたのでしょう、薫は涙を溢れさせ、先輩の肩
に顔を押し付け、声を忍んで泣き出しました。

南と店長は応接間兼店長室になっている小さな部屋へ入り、粗末なソファーに向かい合って座りま
した。店長から質問がある前に男が口を開きました。

「実は、こちらの店は初めてだった。知り合いから紹介してもらった加納千春さんを指名したのだ。
親切で、人を逸らさない、その上とびっきりの美人で、腕のいいフイッターだと聞いていた。
ところが、あいにく指名した千春さんは休暇中で、あの子が・・、
たしか、佐藤薫さんだったな・・、彼女が僕に付いてくれたわけだ・・」

その客は悪びれた様子を見せないで語っています。

「あの子が騒ぎ始めて初めて判ったことだが、あの子は新入店員でそんなことが出来る子では
なかったのだと知った。指名した千春さんが居ないのだから、今日のところは大人しく引き下
がっていればよかったのだが・・・。

ただ、応対してくれたあの娘(こ)がとても可愛くて、つい、その気になってしまって・・、
俺としたことがもっと良く観察すれば、そんなことを受けいれる子でない事は、直ぐに判ったは
ずだったんだが・・・。

お尻に触ったことは認める・・、
何も知らない新人店員をからかった俺が悪かった・・。
これからは相手を選ぶことにするから、今回はこれで勘弁して欲しい」

男はセクハラ行為を素直に認め、数枚の万札を差し出し謝っているのです。あまりに素直な男の態
度に店長は驚きながらも、その一方で、男の真意を探る目つきをしています。

「お金で済ませることが出来るとは思えないが・・、
これで何とか穏便に治めて欲しい・・。
勝手な言い分で申し訳ないが、これ以上騒ぎが大きくなり、俺の身内にこのことがバレると、
チョッとまずいことになるのだ、ここだけの話にして欲しい・・。
お願いする・・・」

男が深々と頭を下げています。どうやら、ケチなセクハラ行為で素人の店を騒がせたことが親分筋
に伝わるとかなりのお仕置きがあるようで、男は素直に罪を認めて、これ以上大騒ぎになるのを止
めたい意向のようだと、店長は男の立場をそのように理解していました。


[23] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(123)  鶴岡次郎 :2014/02/05 (水) 12:25 ID:UJWHxZXs No.2467
男が素直に犯行を自白した本音が判ったことで、店長はかなり余裕を取り戻していました。もし、
男が犯行を否認したら、どう決着をつけようか思案がまとまっていなかったのです。

〈こんな男でも、親分に責められるのが恐いのだ・・、
しっかりした組織のようだから、このことがバレたら、軽くて一年の降格、
再犯であれば、一番下のチンピラまで降格されるかもしれない・・、
いずれにしても、この男の弱みを掴んだ・・・・。

それにしても・・、恐れていたことが現実になった・・。
さて・・、どうするか・・・、
幸い、この男はそのことをネタにして脅かしをかけるつもりは無い様だ・・、
そうであれば、口を封じるだけでいいことになるが・・・・・〉

お客が素直に罪を認めた真意が判り、店長はほっとしながらも、お客の言葉に愕然としていました。
男の言葉どおりであれば、加納千春ならセクハラ行為を易々と受け入れると、お客の知り合いから
面白おかしく教えられ、千春のカラダ目当てにこの店に乗り込んできたのは確かなのです。

それまで、千春達の破廉恥な行為をうすうす知りながらも、好調な売り上げを維持するため黙認し
てきた店長ですが、その行為を初めから期待して来店するお客がいることを初めて知ったのです。
その行為がお客の間にかなり知れ渡っていることを店長は悟ったのです。一番恐れていたことが現
実になったのです。

〈店員達の破廉恥な行為このまま放置すれば、やがて噂が噂を生み、店員の身体を餌にして営業を
しているいかがわしい店の烙印を押され、本社からきついお叱りを受け、閉店に追い込まれること
になる・・・。

人知れず、この問題を解決したい・・、今なら何とかなるはずだ・・・〉

店長は宙に視線を向け、目の前に居る南の事を忘れて、店員達の不祥事の始末方法を考えることに
夢中になっていました。

「店長・・、どうだろう・・、
これで許していただけるだろうか・・」

「アッ・・、そうでしたね・・」

我に帰った店長が目の前に居るお客、南に微笑みかけています。先ずこの男の処分を決め、それか
らこの男の口を封じなくてはいけないと、店長は考えました。一見してまともな稼業の男には見え
ないですが、話せば判る男だと、店長は判断したようです。

「私どもの店員が新人で、お客様のからかいに対して、やや過剰な反応をしたにもかかわらず、正
直にお話しいただき、その上、そのことを十分反省されていることが良く判りました。私共がこれ
以上、申し上げることは何もありません・・。

私共にとっても、お客様にとっても、今回の事は名誉なことではありません・・、
いろいろ考えたのですが・・・、
お客様さえ納得いただけるなら、全てを水に流したいと思っております・・・。

お客様、今回の事は全て・・、忘れてください・・・。
私共も、今日起きた事は全て忘れます・・。

そして、このお金は引っ込めてください。
何もなかったことに・・、
あの子には私からも良く言っておきます・・」

テーブルに置かれたお金を押し戻しながら店長が笑みを浮かべて言っています。ビックリした表情
で男が店長を見ています。

「無罪放免なの・・・、そう・・、そう言っていただけると・・、
俺としては有難いのだが・・、何だか悪い気がするネ・・・、

判った・・、店長のご好意に今回は甘えることにする・・」

そう言って、男はテーブルの上のお金を取り上げ、ポケットに納めました。男の動きとその表情を
店長が油断なく探っています。次に男へ突きつける要求の成否を店長は探っているのです。


[24] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(124)  鶴岡次郎 :2014/02/07 (金) 12:17 ID:a/6MC0Is No.2468
店長が頭を下げています。

「さっそくご了解いただき、感謝申し上げます。
これから先も、当店をよろしくお引き立てお願い申します。
そして、勿論・・、あのようなお戯れは今回限りということで・・、
このことも、よろしくお願い申します」

「ハハ・・・、参ったね・・、
判った・・、これからは気をつけるよ・・」

「ところで、お客様さま・・・、先ほどの南様のお話では、お知り合いの方が加納千春をご贔屓
(ひいき)にしていただいていると言うことで、彼女のことをお知り合いから紹介を受けたと
おっしゃっていましてね・・・」

満面に浮かべていた笑みを消し、少し姿勢を改め、店長は男を真正面から見つめ、口を開きました。
店長のただならない様子を感じ取り、男は迎え撃つ姿勢を見せています。

「南様・・・、

失礼を承知で申し上げます。もしかすると・・、加納ならあのような戯れを受け入れるはずだと
南様はお仲間の方からそう教えられたのではありませんか・・?

それで、南様は佐藤も加納と同類だろうと思われて手を出された・・・・。
私はそういう風に推測したのですが・・・、間違っているでしょうか・・?」

迷った末に店長はストレートに本題に入ることにしたのです。普通の人間と異なり、この種の男に
は言葉を飾らず、ストレートに質問をぶつけ、その反応を見る、こうしたやり方がいいと店長は判
断したのです。案の定、露骨な質問にも男は驚きを見せないで、ただ黙って頷いています。店長の
言葉を全て認めているのです。

「やはりそうでしたか・・・」

店長は落胆の様子を隠そうとしません。男がそんな店長の様子をじっと見ています。

「どうやら、お客様も、そして、お客様のお仲間も大きな誤解をされているようです。そして、お
客様にそうした誤解を与えたことを私は今、大いに反省しております。

よろしければ、少しお時間をいただいて、私の説明を聞いていただきたいのですが・・、
ありがとうございます・・」

沈痛な面持ちで低い声で、店長が語っています。南は熱心に耳を傾け、大きく頷き、店長の話を聞
く姿勢を見せています。

「加納千春は当店を代表する優秀なシューフイッターで、技術、接客態度共に優秀で沢山のお客様
からご好評をいただいております。私から見ましても、彼女は情のこもった接客をしますので、お
客様からたいそう可愛がれ、ご指名をいただく回数も店では常にトップクラスです。

お客様によっては興に乗ると、セクハラに近い悪戯を仕掛けたり、女の子が聞くと恥ずかしがる戯
言を言う方も結構多いのです。そんな時、彼女は嫌がらず、優しく応えますので、時々、お客様が
誤解をされて、軽い悪戯が更に進行することがあります。そうなるとセクハラ行為そのもので、い
かに大切なお客様でもそうした行為をされたのでは出入りを止めていただくことになります。

彼女はそんな時でも、上手くいなして、大きな騒動を起こしたことがありません。お客様に喜んで
いただけるなら、多少のわがままは黙って受け入れようと加納は考えているようなのです。

多分、南様のお知り合いの方は、そうした加納の接客を受けて、彼女を軽い、遊び好きの女だと誤
解されたのだと思います。それでお仲間の南さんにもそのことを得意げに話されたのだと思います・・・」

ここでも男は黙って頷いています。

「加納千春は南様のお仲間が考えておられるような女では、決してありません。

多分、お友達は南様と同様イケ面で、もてるタイプの方だと思います。そんなすばらしい方をお客
に迎えて、加納が商売気を離れて奉仕したとしても不思議はありません。多分、普段はしない特別
サービスをしたのかもしれません。加納も生身の女ですから、いい男を見て多少の行き過ぎたサービ
スをしたからと言って責めるわけには行かないと私は考えています。

南様のお仲間は大切なお得意様ですが、私共の店員が誠心誠意で接客した態度を誤解され、根も葉
もない噂話を他人に吹聴されてはとても困るのです。

加納にしても、商売気を離れて奉仕した結果を面白おかしく他人に話されては可愛そうです。もし
彼女がこの話を聞けば、きっと悲しむと思います。せっかくの女心が汚されたと思うでしょう・・」

ここで言葉を切り、店長は南の様子を注意深く観察しています。ここで、南が店長の説明を否定し、
『・・しかし、私の知人は加納千春と何度も寝たことがあると教えてくれたよ・・、この事実はど
う説明するの・・?』と、言い張り、反撃に出てくるようなら、その時は、南と真っ向勝負で、厳
しく迎え撃つ覚悟を固めているのです。

店長の危惧は空振りで、南は店長の顔を見つめたまま、何度も頷き、店長の説明を全面的に受け入
れているのです。


[25] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(125)  鶴岡次郎 :2014/02/11 (火) 17:00 ID:c1q096I2 No.2470

男を真正面から見つめて店長は笑みを浮かべています。しかしその瞳は鋭く光っているのです。並
みでない店長の迫力を感じ取り、男の顔から笑が消え、店長の顔をじっと見ています。

〈・・この店長・・・、
先ほどから素人とは思えないほど落ち着いている・・・。
何処から見ても、明らかに遊び人と見える俺に対応していながら、
恐れるどころか、俺を見下してさえいる・・。

そして、今見せているこの迫力・・、
今は大人しく店長に収まっているが・・・、
元をただせば、ただ者では無いだろう・・・

ここで無理押しをすれば、この店長のことだ、何を言い出すか判らない。
ほぼ目的は達成したことだし、おとなしく引き下がる時だ…」

店長の表情、態度から、男は自身と同じ匂い、それもかなり強い匂いを感じ取り、姿勢を正してい
るのです。

「こうした話は、酒の席でよく話題になるが、本当だったことが一度もない・・、
俺としたことが、そんな話に乗って、ノコノコ出てきたことが恥ずかしいよ・・

良く考えれば・・、これほどの名店で、
安キャバレーのようなおふざけが許されるはずがないのだ・・、
俺が甘かったよ・・。

知人から聞いた加納千春さんの話は全部忘れることにする。
勿論、知人にもそのことを良く伝えておく・・。

あの子・・、佐藤薫さんといったね、酷いことをしてしまった。
店長からよく謝っておいてほしい。
出来れば全て、忘れてほしいと伝えてほしい・・、
店長このとおりだ、今回のことは堪忍して欲しい・・」

男が深々と頭を下げ、店長がそれに応えて深々と頭を下げています。互いに相手の気持ちが良く
判っているようです。店の玄関まで男を送って行った店長が男の後ろ姿に深々と頭を下げていま
した。


その日、閉店を30分早めた店長は全店員を集め、今日発生したセクハラ事件を公表しました。

「佐藤君はお客様のセクハラ行為に堪えながら、騒ぎ立てることなく、やんわりとお客の手を振り
払い、私に電話をしてきた。この時点で、お客はまずいことになったと反省をはじめていたと思う。

私がヒヤリングすると、深く行為を恥じ、反省をしたお客はお見舞金を差し出し、佐藤君に謝りた
いと言い出すまでになっていた。

勿論、お客様のお気持ちだけはありがたくいただいて、お金は受け取らなかったが、反省を示した
お客様の気持を佐藤君が理解してくれて、そのお客を許すと言ってくれた」

店長は佐藤薫の勇気ある行動と、敏速な対応を絶賛しました。出席している店員全員が拍手をして
いました。

「はっきり言って、皆さんの技術プラス皆さんの魅力の両方がこの店の売りです。魅力のある皆さ
んですから、これから先も、何かとお客様が悪戯を仕掛けることがあると思います。その時は、お
客様を悪者扱いには出来ません、酷い事態にならないよう、やんわりと抵抗して逃げてください。

お客様が非常に魅力的であったり、あるいは皆さんの気持が異常に高ぶっていて、お客の誘いをあ
る程度までなら受け入れようと、限度を超える接待したいと思うことが起きるかもしれません。

お客様と淫らな関係を持つ事は、皆さんに限って、絶対ないと信じておりますが、店長の立場から
ひと言、注意しておきたいと思います・・・」

そこで言葉をとめて、店長は全員を見回しています。次に店長が何を言い出すのだろうかと皆が固
唾を呑んでいます。中でも、すねに傷を持つ店員達はまともに店長の顔が見られなくて、視線を床
に向けています。


[26] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(126)  鶴岡次郎 :2014/02/16 (日) 17:23 ID:LkIBhYdg No.2472

半数近くが店長と視線を合わせていないのです。店長の顔をまともに見ることができない店員の数
が予想以上に多いことを知り、店長は愕然としています。

〈・・なんと・・・、半数近くがお客と通じているのか・・、
加納千春と・・、彼女の他、多くても二、三人と思っていたが・・・・、
清楚の容姿を見せている、立花佳代までもか・・〉

全身が震えるほどの戦慄を感じながら、それでも笑みを浮かべて店長は全員を見回していました。

〈加納千春を中心にした二、三人を処分すれば恥ずかしい事実を葬り去ることができると思ってい
たが・・・、店員の半数がこの問題に関与しているとなると・・・、
関係者を全員処分することはできない、そんなことをすれば、店をつぶすことになる。

では・・、どうすればいいのか・・・・〉

結論が出ないまま店長はゆっくりと口を開きました。

「その昔、聞いた話ですが、ある店でお客と不自然な関係に陥った店員がいました。彼女はもとも
と優秀な店員だったのですが、悪いお客に騙されたのだと思います。そのお客にそそのかされて、
他のお客にも限度を超えて媚を売り、時には自分の体を提供するようにさえなったのです。

その店員は仲間の店員に誘いかけ、同じ様な行為をさせるようになりました。そうなると、短期間
にほぼ半数の店員がそうした行為に走るようになったのです。

しかし、いつまでもそのことを隠し通すわけには行かなくて、お客の口からそのことが洩れて、噂
が噂を生み、あっと言う間に、その店はいかがわしい風俗店のように見られることになったのです。

そうなると、良いお客は逃げ出し、そのことが目的のお客だけが来るようになり、その店は通常の
商売が出来なくなり、廃業に追い込まれました。働いていた店員たちは、真面目に働く意欲をその
時既に失っている者が多く、結局大部分の女性が風俗関係に身を落としたと聞いています。

これは作り話ではなく、実際にあった話です・・・」

全店員が店長の顔を見つめ、熱心に耳を傾けています。

「最初に申しあがたように、私たちは非常に誘惑の多い職場で働いています。そして、皆さんは紛
れもなく魅力ある女性です。少しでも油断すると、恐ろしい魔の手が伸びてきて、気が付かない内
に堕落するのです。私たち一人一人が、正しい理性と自覚をもって接客することが何よりも大切で
す。私たちの店をみじめな状態にしてはいけないです。

お客様からセクハラ行為を受けたら、どうにもならない状態に陥る前に、佐藤君がしたように、私
に先ず連絡を入れてください。皆さんと力をあわせて、この微妙な問題に、逃げないで、真正面か
ら取り組みたいと思っています・・・」

店長の気迫のこもった気持は店員全員に届いたようです。接客業ですから多少の事は認めるにし
ても、度を越しては店の品位に関わり、店員の気持も荒んだ来ると店長は警告しているのです。

ここまで訓示した店長に最大の難問が残されていました。千春をはじめとした破廉恥行為をやって
いる店員への対応です。


[27] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(127)  鶴岡次郎 :2014/02/17 (月) 14:29 ID:HuEeYEOw No.2473

既に決定的な証拠を掴んでいる千春と疑わしい二、三人の仲間が対象であれば、彼女たちを密かに
呼び出し、良く話し合えばことは解決すると店長は考えていたのです。しかし、半数近い店員がこ
の犯罪に関係しているとなると、彼女たちの罪を暴くと、社内で事が公になり、罪を犯している店
員は勿論ですが、店長も処分を免れられないのです。その上、そのことが外に漏れると店も閉店に
追い込まれる可能性が高いのです。

みんなを前にして、店長はこの先の対応策をじっと考えていました。策を考え出すにはあまりに時
間は短いのです。しかし、先延ばしにはできないのです、この場ではっきりと方針を出さないと悔
いを残すことになるのです。店長は笑みを浮かべて全員を見回しながら、すごいスピードで頭の中
を回転させていました。

〈うん・・、これしかないな!
決定的な証拠をつかんでいる晴美も、疑わしい店員たちも、今回はこのまま泳がせよう、そしてみ
んなに見える形で監視を強化しよう、それで彼女たちが行為を止めれば、それはそれで結構だし、
私の目を盗んで犯行を重ねるようなら、その時は現行犯を押さえて、厳しく対処しよう・・〉

店長は決心を固めました。そして、少し厳しい表情を浮かべ、口を開いたのです。

「今回のような事件がこの先も起きると思います。皆さんだけにその対応をお願いして済ませるこ
とはできないと思っております。今まで以上に、私自身も店頭に出て、お客様の対応に努めるつも
りです。

そして出来るだけ皆さんの側にいて、皆さんを守りたいと思っています。
お客と一緒に個室に入った皆さんを、私はいつも見守っています。
扉の外にはいつも私がいると思って、安心して働いてください・・」

この言葉は千春のようにすねに傷を持つ店員へ向けたものだったのです。佐藤薫のように、何も悪
いことをしていない店員は言葉どおり、店長がいつも見守ってくれると受け止めたのですが、お客
と個室で戯れている店員は、〈店長が個室の外で見張っている。悪い事は出来ない・・〉と、受け
止めたのでした。

お客からセクハラ行為を受けたら直ぐに報告するよう周知させると同時に、店長は内偵を強化する
ことを宣言し、すねに傷を持つ店員にはそれと判る表現方法で、個室も監視の対象にすると宣言し
たのです。

店長の狙いは明らかです。千春は勿論、同じことをしている店員たちに恐怖を与え、千春達が彼女
達自身の判断で自発的に行為を止めるように誘導する作戦なのです。そしてこれこそ、佐王子の狙
いでもあったのです。


[28] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(128)  鶴岡次郎 :2014/02/18 (火) 15:23 ID:pmKYlsCk No.2474

佐藤薫のセクハラ事件が発生した翌日、休暇明けの千春は出社してその事件の全貌と、店長訓話の
内容を知りました。そして、セクハラ事件の被告、南伊織こそ佐王子が差し向けた仕掛け人である
ことを察知していました。

千春と一緒に今回の筋書きを決めた時は千春が架空の噂をお客に広めることにしていたのです。そ
して、田所にはこの筋書き通りの内容を説明し、彼を信じ込ませることに成功したのです。田所を
うまく騙した千春の報告を聞いて、佐王子は考えました。

〈勘のいい田所と同じように他のお客が状況判断するとは限らない・・、
千春が田所に説明したセクハラ事件を実際に引き起こし、
あの店の関係者をその気にさせることにしよう・・・〉

レストランのオーナーである田所は、断片的な千春の説明を聞き、勘良くすべてを見通し、危険を
察知して逃げたのですが、他のお客が田所のように勘がいい人ばかりではないのです。今回の作戦
を確実にするため、千春が田所にした嘘の情報を現実のものにするべく、佐王子は腹心の部下、南
伊織を店に派遣したのです。南が新人店員、佐藤薫へ仕掛けたセクハラ事件に対して、佐王子の期
待通り、いや、その期待をはるかに超える反応を店長は見せたのです。あらかじめ店長と示し合わ
せていても、こう上手くは運ばないと思えるほどの結果でした。

結果として、店長をはじめ、店員全員がこの事件に巻き込まれ、その日の内に、店を挙げてセクハ
ラ追放活動が展開されることになったのです。千春がまき散らす予定であった噂話だけではここま
で到達するのは難しく、たとえ、ことがうまく進んでもこんなに早く狙いが実現するとは思えない
のです。
千春は改めて佐王子の非凡な力を認識していたのです。そして、彼に傾く気持ちはますます強く
なっていました。


田所に上手く対応できた千春はすっかり自信をつけたようです。それから毎日にように訪れる顧客
を相手に、時には涙を浮かべ、時には哀れみを乞う様に、丁寧に説明しました。

お客に応じて少しストリーの筋は変えましたが、大筋は田所に説明した内容を踏襲したのです。お
客たちは全員千春の説明に納得してくれました。そして、彼女を慰め、励まし、これからもシュー・
フイッターの千春をひいきにすると約束してくれたのです。

ある日、訪れた桜田は少し違いました。

「千春ちゃん・・、判った。
お店で戯れることは楽しいが、それが危険なことは良く判った・・・、
残念だけれど、店では大人しくするよ、その代わりと言っては何だが、
以前のようにホテルでのお楽しみはいいのだろう・・・、
店長だってそこまでは追っかけてこないだろう・・、
8時に、以前待ち合わせた○○ホテルでどう・・?」

「スミマセン・・、桜田さん・・・。
どうやら、店長は探偵を使って、私達のオフ時間の身辺も密かに調べているようなのです・・・。
なにしろ、お客様と変な関係が公になると、お店の信用問題になりますし、お客様にもご迷惑をか
けることになると思います。それで、店長は本気で疑わしい行為を店から追放する気になっている
のです。多分、店長は私達の誰かがお客とホテルへ行っている事実を既に掴んでいると思います。

もうしばらくは・・、いえ・・、これから先は・・、
残念ですが・・・、私達は身奇麗に暮らさなければならないのです。
セックス抜きで、接客することになると思います。

当然といえば、当然ですよネ・・・。本当に残念です・・・。
桜田さんに可愛がっていただいた思い出を大切にして、真面目に働きます・・」

涙を浮かべて話す千春の言葉に桜田はしきりに頷いて、破格のチップを彼女の手に残して個室から
出て行きました。

こうして二ヶ月も経つと、あらかたの顧客に千春は事情が変わったことを伝え終わりました。全て
のお客が千春の説明を信用し、快く引き下がりました。そして、この頃から、千春は個室の扉を開
け放したままフイッテイングをするようになりました。


[29] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(129)  鶴岡次郎 :2014/02/23 (日) 15:04 ID:bY9R.bzM No.2475

セックス抜きの接客をするようになっても千春の売り上げは落ちませんでした。それまで以上に心
を込めて接客しましたし、それまではおざなりだった新商品の勉強も身を入れてやりました。その
結果シューフイッターとしての千春の腕は目に見えて向上しました。お客の評判も上々です。
 
〈一生この仕事をしたい…、日本一のフィッターを目指したい・・〉

そんな気分にさえ千春はなっていたのです

今日も、いつもの様にドアーを開け放したままのフイッテイング・ルームで接客をして、高級靴を
売り上げた千春は、お客を店の玄関まで見送りに出て、ホッとした表情をして店に戻ってきました。
この瞬間が千春たちにとって一番うれしい瞬間なのです。

お茶でも飲もうかと休憩室へ向かおうとした時、同僚である佐野亜紀が側に来て、千春の手をとって
休憩室へ引っ張って行きました。いつもと違って、亜紀の表情は何かを思いつめた様子です。この時
間、休憩室には二人以外誰も居ません。

「千春・・、聞いた・・?
店長が私達の素行調査をしているのを知っている・・・?」

ひそひそ声で亜紀が千春の耳側で囁いています。亜紀は千春と同年齢で、渋谷ギャル系のファッ
ションが似合う可愛い娘です。

「素行調査って・・・?
エッ・・、もしかして、あのことなの・・?」

「ウン・・、あのこと・・・、
お客と寝ていることよ・・
店長は探偵を雇って、私たちのオフ時間も調べているそうよ・・」

亜紀と千春はお客と寝ていることを互いに告白しあった仲です。

「エッ・・!
探偵を使っているの・・・」

驚いて問いかける千春に亜紀が深刻そうに黙って頷いています。

「どうしょう・・、亜紀・・、
店長は何処まで知っているの・・・?
私のことも知っているの・・?
どうしょう・・、クビになるかしら・・、困ったわ・・・」

初めて聞いたかのように、驚きの表情を隠さず、千春は次々と質問を投げ続けました。冷静に見
ると、千春の慌てようはわざとらしいのです。勿論、亜紀はそのことに気がつく余裕はありません。

「千春・・、落ち着いて・・、
私や、千春のことがバレたとは言っていない・・」

「そう・・、そうなの・・
私たちのことはバレていないのね・・・、良かった・・」

ホッとした表情で千春が笑みを浮かべています。しかし、その表情がすぐに厳しいものに変わりま.した。

「亜紀・・店長が探偵を使っているのをどこで知ったの…?
もしかして、誰かがホテルで遊んでいるところを現行犯で探偵に押さえられたの…?
それとも、店長が何かをつかんでいて、誰かを呼び出して注意したの?
そうでなければ・・・、ああ・・、判らない…

亜紀・・、その話を何処で聞いたの・・・?
亜紀・・、私達・・、これからどうすればいいの・・?」

うろたえた千春が矢継ぎ早に質問を発しています。さすがに、亜紀があきれた表情で千春を見てい
ます。

「千春!・・少し落ち着きなさい、
そんなに次ぎから次に質問しては返事ができない・・・

店長から直接聞いたわけではない、
誰も店長から呼び出しを受けていない、
たぶん店長は個別の名前までつかんでいないはず…、

探偵を雇っている話を、お客の一人が、今日私に教えてくれた・・
そのお客は、他のお客からその噂を聞いたらしいの・・」

「そうか・・、又聞きの噂話なのね・・、
お客様の間でそんな噂が広がっているのよ、きっと・・
そうだとすると・・、
亜紀が知っているほどだから、他の仲間も知っているはずね・・」

「ほとんど全員知っていると思う・・、
お客と寝ている子も、寝ていない子も、
皆、成り行きを、じっと見守っていると思う・・」

情報の発信元はお客の一人だと亜紀が語るのを聞いて、千春は内心にんまりしていました。疑わし
い店員の素行調査を店長が探偵社に依頼したとのうわさ話の発信元は千春自身なのです。千春がそ
の噂話を桜田に話したのはニケ月前です。噂話は人から人へ駆け巡り、こうして発信者の千春の元
へ戻ってきたのです。佐王子の狙い通りの筋書きで事が進展しているのです。


[30] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(130)  鶴岡次郎 :2014/02/25 (火) 15:00 ID:uE8Axr5c No.2476

「ところで・・、店長は何処まで知っているの・・・?
亜紀・・、大切なことだから、
知っていることを全部教えてちょうだい・・」

「ウン・・、そう言われてもね・・、
そんなに詳しく聞いたわけではないし・・、
そのお客もはっきりしたことは知らないようだった・・・、
それでも、店長は未だ具体的な証拠を掴んでいないと・・・、
私は思いたい・・・」

「たしかに・・、亜紀の言う通りかもしれない…、
店長が私達の行為をはっきり掴んでいれば、
大人しくしているはずがない、直接私達を追及しているはず、
今頃、私も、あなたも首になっていてもおかしくない…。
それが無いということは・・・、未だ店長は証拠をつかんでいないのよ」

「千春・・!・・ 頭が良い・・その通りだよ、
店長が私達に何も言わないということは・・・、
私達の秘密を裏付ける証拠を未だ掴んでいないということだネ・・・・

ああ・・、良かった・・、本当に良かった・・、
実を言うとネ・・、なにもかも店長に知られてしまったと、
心配で、心配で、仕事が手につかなくて…、
千春に相談しにやって来たのだよ・・」

今にも泣きだしそうな表情で亜紀が喜んでいます。

「だって・・、昨日・・・、
私・・、二週間ほどレスだったから、我慢できなくて、
お店の外ならバレないと思って・・、
お馴染みさんとホテルへ行って・・、朝まで・・・・。

今日、ホテルから直接出勤してきたところ、
別のお客様から店長が探偵を雇っている話を聞かされて、
てっきり、ホテルのことがバレたと思った・・、
もう・・、ダメだと思っていた・・・・

良かった・・、本当に良かった・・」

涙ぐみながら、顔をくしゃくしゃにして亜紀が喜んでいます。

「亜紀・・、安心するのは早い、そんな噂が立ったという事は、何か疑わしい気配を店長がつかん
だと思うの、それで店長はそんな淫らなことが起きないよう、もし既に起こっているのなら、それ
が公になる前に火を消したいと思って、監視を始めていると私は思うの・・。

もしかしたら、私達に少しは疑いを持っているから、監視を始めたとも考えられるけどね・・、
いずれにしても、ヤバイ状況なのは確かよ・・」

「エッ・・・、そうなの・・、どうして判ったのかしら・・、
誰か、チクッたのかしら・・?」

「そうではないと思う、薫ちゃんのセクハラ事件が店長をその気にさせたのだと思う。訓話で、よ
その店で店員がお客と怪しい関係に陥り、お店を閉鎖することになったと店長が話をしていたで
しょう・・。

薫ちゃんのセクラハ事件が起きてみると、こうした事件は何時起きてもおかしくなくて、むしろ今
まで起きなかったことが不思議だと店長は考えたと思うの・・。
そうであれば、いずれお客と寝る子も出てくるかもしれない、もしかすると、すでにお客とそうし
た関係に陥っている店員がいてもおかしくないと・・、店長は警戒を強めたと思う・・・。

それで・・・、私たちの注意を喚起するため、探偵を雇い、その噂話をわざと広めた・・。店長の
狙いは、『もし・・、やっているなれば、今のうちに足を洗ってほしい・・』と、私たちに伝える
ことなのよ・・・」

「そう・・、そうなのか・・
別の店で起きた事例から、自分の店を調べる気になったのね・・、
私たちの行為を暴くことが目的でなく、私たちに警報を発することなのね、
あの店長ならそう考えるでしょうネ・・・」

「亜紀・・、
私はもう・・、御客と寝るのは止めることにする。
良い事でないのは確かだし・・・、
恥ずかしい行為を暴かれてお店をクビになったら、生きて行けない・・・、
たくさんの男に抱かれる楽しみが無くなるけれど・・、
我慢出来ないほどではないし・・」

「千春が止めるのなら、私も止める・・
実を言うとね・・、
いつまでもこんなこと続けるわけには行かないから、
止めるきっかけを探していたの・・」

「じゃ・・、そうしよう・・」

「ウン・・」


[31] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(131)  鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 11:40 ID:qM/Z/gzY No.2478

あっけないほどあっさり、二人は買春行為を止めると宣言しています。

「千春・・、なんだかとってもいい気分だね・・」

「そうだね・・、周りの雰囲気が変わった様な気がする・・」

ホッとした表情で二人は互いに頷きあっています。おそらく、これまで罪悪感と自己嫌悪感をいつ
も抱いて過ごしてきたのです。大きな肩の荷を下ろしたような気分に二人はなっているのです。

「それでね・・亜紀・・、私たちが止めると、一方的に決めても、それだけでは済まないのよ・・、
今まで可愛がっていただいたお客様に事情を説明して、これからは只の店員とお客様の関係に戻る
ことを理解していただけことが大切になる」

「そうだね・・、私達だけが止めると決めても、
お客様が許さない場合がありそうね・・」

「ことが事だけに、大ぴらに閉店通知を出すこともできないしね・・。中には、無理やり、やらせ
ろと言い出す人だっているかもしれない・・。私達だって、その行為が嫌で止めるわけでないし、
一度くらいなら禁を破ってもと、思うことがあるかもしれない・・。でも・・、止めると決めた以
上、どんなことがあってもお客様の要求を受け入れてはいけないと思うの、これが一番大切だと思
う・・・」

「そうだね・・、中途半端にするのが一番いけないことだね、私なんか意志が弱いから、一度抱か
れるとそのまま続けることになりそう・・・。
千春・・・、どうしたらいいだろう・・」

「お客様には出来るだけ正直に事実を告げて、理解していただくことにするといいと思うの・・。
お客様から声がかからなくなったら、私達から仕掛けることはないからね…。自然と、悪い習慣は
消えると思う・・、少し時間はかかるけど、じっと我慢することが大切だと思う。

私は・・、店長が私達の行為に何となく気がついて内偵を始めた様子だから、大事になる前に、口
を拭って何も無かったことにしたいと、お客様に頭を下げてお願いするつもりよ・・・。変に隠し
立てすると妙な噂が広がるといけないからね、お客さまだって、良いことをしていると思っていな
いから、すぐに判ってくれるよ・・」

「うん・・、私も・・、千春の言うとおりにする。
誘われてもホテルへは絶対行かないことにする・・
でも・・、正直言うと、少し寂しいネ・・・、ふふ・・・・」

「仕方がないョ、亜紀・・・、我慢、我慢・・。
ほしくなったら、お店と関係のない男を選ぶことにしよう。
これを機会に、いい恋人でも探そうか・・、ふふ・・・・・」

「恋人ね…、若い男でしょう・・、
私・・、若い男では満足できないかも…、
おじさん達に抱かれることに慣れて、若い男では逝けない体になったかも・・」

「亜紀のスケベ・・!
でも・・、私もそうかも・・・、ふふ・・・
私達って・・、年の割には、知り過ぎているのかもね・・・」

「仕方がないよ・・、その内、Hのうまい男を見つけよう・・」

「そうだね・・」

二人はにっこり微笑み会い、互いをハグしました。亜紀と千春がお客に抱かれるのを止めたこと、
そしてお客様へ説明する内容が、同じ行為を続けていた他の店員へもその日の内に伝わりました。
店長の訓示で怯えていた彼女達は直ぐにお客に抱かれることを止めました。お客への説明では、口
を揃えて、千春と同じ説明をしました。

元々、後ろめたい思いで店員たちを抱いていたお客たちは、彼女たちから事情を聞くと、直ぐに納
得して引き下がったのです。たちの悪いお客がしつこく付きまとうようなら、佐王子本人の出番も
あると彼は考えていたのですが、さすがに名店のお客たちです、店員たちから事情を聞くとあっさ
り引き下がったのです。

こうして、その店から淫靡な行為はとりあえず一掃されることになりました。深く先行してその行
為が密かに行われている可能性は完全に否定できませんが、それでも、ほとんどの個室で扉は開け
放たれたまま接客が行われるようになりましたし、店員同士のプライベートな会話でも、そうした
行為が話題に上がることはなくなっていたのです。以前、この店でかなり大ぴらに行われていたそ
の行為が、恥ずべき行為として地下深く葬り去れたことは確かなのです。

加納千春に関して言えば、その後、完全にその行為と無縁になりました。毎日、明るく、生き生き
として好きな仕事に打ち込んでいるのです。

〈もっと早く止めておけばよかった…〉

心から、千春はそう思うことが多いのです。佐王子の計略は見事に成功したのです。これで、この
店における汚い過去の痕跡は、彼女の心からひとまず完全に消し去られたことになります。


[32] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 11:52 ID:qM/Z/gzY No.2479
新しい章を立てますので、スレを新設します。 じろー


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