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フォレストサイドハウス(その26)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2020/02/13 (木) 14:58 ID:scrFPQsc No.3263
金倉沙織の物語が終わりました。次に紹介するのはその金倉沙織が脇役で登場する短編です。相変わ
らず平凡な市民の日常を描いた物語です。ご支援ください。


毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。また、文中登場する人物、団体は全て
フイクションで実在のものでないことをお断りしておきます。卑猥な言葉を文脈上やむを得ず使用す
ることになりますが、伏字等で不快な思いをさせないよう注意しますが、気を悪くされることもある
と存じます。そうした時は読み流してご容赦ください。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余脱
字も気がつけば修正しています。記事の文頭または文末に下記のように修正連絡を入れるようにしま
す。修正連絡にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。
〈記事番号1779に修正を加えました。2014.5.8〉


[13] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/06/18 (木) 16:27 ID:nkCk59fY No.3277
「そうです。
安田郁子の夫です…」

「・・・・・・・・」

太朗が名乗っているのに、相手は黙っています。太郎が要件をしゃべり出すのを促している沈黙で
す。

「妻と佐王子さんの関係を最近知りました。
どうしていいか判らないほどびっくりしました。
それで、一度お会いして色々お話をしたいのですが・・・
時間をとっていただけませんか・・・・
勿論、私一人で出かけるつもりです・・・」

素人でなく、闇の世界に生きていると思える男を相手にして、遠回りした交渉手段をとらず、一対一
で面談すると言う直球勝負に出たのです。並みの男にはできないことです。いざとなれば、むざむざ
と負けないと思えるまでに、体力と腕に自信があるせいだと思います。

「そうですか・・、
私達の関係をお知りになったのですか…
それで電話をして来られた・・・・
どうやら・・、
私の素性も、居所もすでに調査済みのようですね…」

「ハイ・・・・・・・」

「私の素性が判った上で・・・、
私と一対一で会談したいとおっしゃるのですね…
さて・・、
どうしたものでしょうか・・・・」

佐王子は少し考えている様子です。わずか一分ほどですが沈黙が続きました。太郎にはその沈黙が永
遠に続くかと思えるほど長いものに感じられました。それでも不用意な発言をしないで太朗はじっと
待ち続けました。ここで焦ったり、怒りをぶつけたりしては彼との勝負は負けだと太郎には判ってい
たのです。

「お話の趣旨は良く判りました。
私も郁子さんのご主人にお会いしたい気持ちになりました。
お勤めの安田さんには土日のお休みが、都合が良いですね…
勿論私たちは土日も休まず、年中無休で店を開いていますが・・・、
ハハ・・・、余計なお話でしたね…・」

「・・・・・・」

「次の土曜日の午後2時からなら空いています。
場所は・・・、安田さんさえ、よろしかったら・・
汚いところですが、店の事務所を使いましょうか・・
誰も居ないので、気軽に話し合えると思います…」

「時間と場所はそれで結構です‥」

「そうですか・・、
それでは・・、土曜日・・」

「あの‥・・、
お願いがあるのですが・・・」

「ハイ・・、
何でしょう‥」

落ち着いた声で、丁寧に佐王子が答えました。太郎に好意を持ち始めているのかもしれません。


[14] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/07/01 (水) 16:14 ID:NO4w1sUI No.3278
「郁子には何も話していません。
いずれ判るにせよ・・・、
今は・・、
彼女はそっとしておきたいのです・・・・」

「・・・・・・・」

意外な展開に佐王子は少しびっくりしていました。てっきり安田家では深刻な離婚話が出ているだろ
うと思っていたのです。良くて賠償金の請求、悪くすれば警察沙汰になる可能性も佐王子は危惧して
いたのです。そのことに備えて腹積もりは固めていたのです。

「佐王子さんを男と見込んでお願いします…
私が郁子の秘密を掴んだこと・・、
あなたに面談を申し込んだことを・・、
今は・・、隠しておきたいのです・・・、
勝手なお願いで申し訳ありませんが、ご協力願えますか‥‥?」

「勿論・・・、了解です。
むしろ、私から、そのことをお願いしたい気持ちです‥」

晴れやかに佐王子は答えました。安田太郎への好意を隠そうとしていないのです。

「ありがとうございます…、
いろいろ失礼なことを申し上げたにもかかわらず・・、
こちらのわがまままで快くお聞き届けていただき・・、
感謝します・・・」

電話の向こうで安田太郎が頭を下げている雰囲気を感じ取り、佐王子も深々と頭を下げていました。
そこで二人は電話を切りました。

「ふう・・・、
バレてしまったか…、
それにしても・・・、
安田さん・・・、
若さに似合わず、なかなかの人物だな・・、
土曜日が楽しみだ・・・」

受話器を置いて、佐王子は大きく息を吐き出し、不敵な笑みを浮かべて独り言をはっきりと口にしま
した。追い詰められた状況を楽しんでいるようにさえ見えるのです。郁子を堕落させた事実を旦那に
握られたことを心配しているより、どうやら安田太郎の人物そのものに興味を持った様子で、本気で
安田太郎との面談を楽しみにしている様子なのです。


[15] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/07/16 (木) 15:46 ID:5tS4Y4Lg No.3279
約束した土曜日、安田太郎がY市にある佐王子の店にやってきました。指定された午後二時の面会時
間の30分前に太郎は店の前に着きました。この種の店に来るのは彼にとって初めての経験です。少
しためらった後、店の入り口に立っている制服姿の若い男性店員に名乗り、佐王子に会いたいと伝え
ました。あらかじめ指示を受けている様子で若い店員は愛想よく太郎を先導して、入り口に近い店長
室に案内しました。

天井近くの窓から陽光が入って室内は明るい雰囲気です。そして、それなりに整頓されていて、薄暗
い、何やら怪しい雰囲気の部屋を想像していた太郎には予想外の光景でした。

12畳ほどの部屋に入ると隅にあるデスクで書類を読んでいた佐王子が老眼鏡を外して、笑みを浮か
べて立ちあがりました。ビデオで見るよりやや歳を感じる風情です。

「この種の店へいらっしゃるのは初めてでしょう…、
どうですか、何やら怪しい雰囲気でしょう…」

「いえ、いえ・・、怪しいなんて…
お恥ずかしながら、入店するのは初めてには違いありませんが・・・、
ここは会社の役員室と変わりありません…」

「ハハ・・・・、
役員室ですか…
もっとも、役員は私一人ですから、
ここが役員室であることは間違いありませんが・・・」

笑い合いながら軽い調子で初対面の挨拶を交わしています。そして互いに相手の能力を探り合ってい
るのです。

完全に感情を制御して平然と佐王子に向き合っている安田太郎を見て、思った通り、若いに似合わ
ず、なかなかの人物だと佐王子は感じ取っています。一方、太朗は佐王子を見て、ビデオで見たより
年老いた感じを受けているのですが、体の線がしっかりしていて、動きにスキがないのを素早く感知
して、秘めた格闘能力は並みでないと彼の戦闘能力を再認識しているのです。

簡単な挨拶の後、太朗は一気に彼の言い分を吐き出しました。自宅にビデオカメラを仕掛け、郁子の
乱れた男出入りの証拠をつかみ、自宅売春の疑いを持つに至ったことを告げました。

佐王子は黙って聞いていました。太郎は極力感情を抑えたつもりなのですが、その口調はかなりきつ
いものになっていました。太郎が語り始めた最初の内は、佐王子はかなり緊張した様子でしたが、太
朗の説明が終わる頃には落ち着いた様子で、太朗の話が終わる頃には笑みさえ浮かべているのです。

「ビデオを見て、奥様の裏稼業を探り当て、
黒幕は私らしいと的を絞ったのですね…。
普通の男ならビデオを証拠にして奥様を責め抜くものですが・・、
安田さんはその方法をとらなかった・・・、
それどころか、奥さんには何も言っていない…。
おそらく探偵社に依頼して、密かに私を調査したのでしょう‥、
間違っていますか・・・」

笑みを浮かべて佐王子が安田太郎に質問しています。

「ご指摘のように探偵社へ依頼し、佐王子さんを探りました。
すぐにこの店のことが判り、都内のお住まいも判りました。
探偵社はさらなる調査を進めるよう言ったのですが、断りました。
佐王子さんのことを詳しく調査するのが目的ではなかったからです‥」

太朗の説明に佐王子が頷いています。

「私の身元が分かったからには、
それ以上の調査を他人に依頼する必要はない、
私と直談判して、
自分で問題解決するつもりになられたのですね・・」

「・・・・・・・・」

佐王子の質問に安田が頷いています。


[16] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/07/29 (水) 15:09 ID:GUEknb9w No.3280
「失礼ながら、お若いのに、冷静ですばらしい決断をされましたね・・・。
そしてこの店を一人で訪ねるという大胆な行動力を発揮された…。
並みの方ではない、怖い方だと感じました・・・」

「・・・・・・」

佐王子の誉め言葉に安田は黙って苦笑を浮かべています。

「素晴らしい体格を拝見して思ったのですが・・、
武道を極められた方ではないかと推察しております・・・、
間違っていますか‥‥?」

「今はなまってしまって、ダメですが・・・、
学生の頃柔道をやりました・・。
4段まで行って、地区優勝したこともあります」

「やはりそうでしたか…」

佐王子が何度も、何度も頷いています。

「お聞きしたいのは・・、
何故、郁子があの商売に入り、
今も、楽しそうに続けているのか・・・
その訳が知りたいのです‥」

「・・・・・・・」

素直な口調で太朗が切り込みました。表情を崩さず佐王子は太郎の視線を受け止めています。そし
て、太朗の質問には今は答えるつもりはないことを佐王子の強い視線が伝えているのです。太郎は佐
王子の返事を待たないで発言を続けました。

「騙され、脅されて・・、
あの商売に引き込まれた…。
最初はそう思いました・・」

「・・・・・・・・」

佐王子の表情は変わりません。

「ビデオを何度も見て、詳しく分析している内に・・、
どうやら、その線はないと判断するようになりました・・。
警察に相談することを止めたのは・・、
妻は決して被害者ではない・・、
むしろ、妻は法を進んで破っていると思ったからです・・」

「奥様は被害者でなく・・、
犯罪者だと、安田さんは考えたのですね…」

鋭いところを佐王子が突いています。

「ハイ・・・、残念ながら・・・、
あのビデオを見る限りは・・・、
妻の無実を証明するのは難しい…
妻はあの商売を楽しんでいると・・・、
悔しいですが・・、
そう・・、思いました・・・」

ここまで佐王子を睨みつけ、挑戦的に語って来た太郎が、妻の罪を認めるくだりになって、さすがに
視線を落とし、肩をすぼめています。

「良く判りました・・・、
安田さんがそこまで考えておられるのをうかがい、
私も決めました・・。
ご質問にはすべて正直に答えます‥」

安田太郎の顔に強い視線を向け、佐王子は静かに、しかし力強く語りかけています。


[17] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/08/18 (火) 10:57 ID:QEHW9gw. No.3282
「私のような人間が正直に告白するといっても・・、
とても信用できないと思いになるでしょう・・・、
・・が・・、
これでも、この道では苦労を重ねて、一応の成功を収めた男です。
安田さんのお人柄に惚れこんで、全てを告白する気になりました。
ご信頼を裏切るようなことはしません…」

「・・・・・・」

安田太郎が神妙な表情を浮かべ、無言で深く頭を下げています。佐王子が満足そうに頷いて、冷めた
コーヒーを口に入れ顔をしかめています。

「ああ・・、すっかり冷めましたね…、
熱いのを今すぐ用意します…」

言葉が終わらない内にソファーから立ち上がり、ガラス衝立で覆われた、店長室の片隅にある湯沸か
し場に向かっています。どうやらここでは店長自らコーヒーを沸かして飲んでいる様子です。

「奥様との出会いは一年ほど前になります‥‥」

衝立の向こうで、コーヒーの支度をしながら佐王子が語り始めました。

「お宅の近くでの仕事が終わり、昼下がりの陽気に誘われて・・・、
マンションの前の公園へふらりと入っていった時です、
一人・・、きれいなご婦人がベンチでうなだれて座っていました・・」

安田郁子が売春稼業に入った経緯を佐王子は語るつもりのようです。安田太郎が緊張した表情で聞き
耳を立てています。衝立の向こうでガチャガチャと音を立てながら佐王子はゆっくりと語っていま
す。

「あまりに堕ちこんだ様子だったので・・、
心配になり・・・、
思い切って声を掛けました・・・、
変なおっさんから声を掛けられて、最初は警戒していましたが、
そこを商売柄、ご婦人に取り入る術を身に着けていますので、
難なく奥さんと親しく話す仲になりました。
そして、時間をかけて奥様の悩みを聞きだしたのです・・」

熱いコーヒーをお盆にのせて佐王子がソファーに戻ってきて、コーヒーを太郎に勧めました。

「奥様は大きな悩みを抱えていて・・、
誰に相談することもできないで、ほとんど絶望的になっておられました・・・」

安田太郎の表情をうかがいながら、佐王子はいく分楽しそうに語っています。

「一年前と言えば…、
ああ・・、そうですか…、
あの頃のことですね・・・、
私達にとっては最悪の危機が訪れた時でした・・・・
・・・で、郁子は佐王子さんにそのことを本当に話したのですか‥
とても信じられないですね…・」

何かに気づいた様子を安田太郎はその表情に浮かべています。それでも初めて出会った得体の知れな
い男に夫婦の秘密を郁子がしゃべるはずがないと思っている様子です。

「ご主人が疑われるのは当然です‥。
しかし、奥様がすべてを私に告白されたのは事実です‥」

「そうですか‥」

「歳も離れていますし、
名前も知らない、得体の知れない男が相手ですから‥
奥様はかえって話し易かったのだと思います…、
ご夫婦の最大の秘密までを私にすべて話してくださいました。
私はただ黙って聞き役を演じ切りました・・・」

「郁子は・・、
不妊のことを佐王子さんに話したのですね‥」

「・・・・・・・」

佐王子が黙って頷いています。


[18] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/08/21 (金) 15:18 ID:LuLaTvpk No.3283
「佐王子さんのお話をうかがい、
なんとなく事情が判り始めました・・」

売春稼業に転落した妻の事情が判り始めたのでしょう、安田が納得した表情でつぶやいています。

「子作りをあきらめることになり・・、
絶望的になっていたのです・・、
そんな時・・・
偶然佐王子さんに出会ったのですね…」

「正確に言えば・・、
偶然ではありません・・、
ガールハンテイングしている私が奥様に目を付けたのです…
これはチャンスだと思いました・・・・」

安田太郎から視線を外さないで佐王子はずばりと切り込んでいます。太郎の表情が少し歪みました
が、すぐに元に戻りました。

「もう・・、お気づきだと思いますが・・
素人の奥様に上手く取り入り、
彼女たちの心の隙間に忍び込み、
チョッとした隙を突いて、
彼女たちを私の世界にいざなう…、
それが私の商売です・・・」

「・・・・・・・」

太朗の顔を真正面から見つめて、佐王子ははっきりと告げました。佐王子の挑戦的な視線を安田太郎
はしっかり受け止めています。二人は数秒間にらみ合いました。最初に視線を外したのは佐王子でした。

「かまいませんよ・・・、
思い切り、私を投げ飛ばしても構いませんよ・・、
それで、幾分かでも安田さんの気が治まるなら・・」

すこし笑みを浮かべて佐王子が言いました。

「正直言って…、
佐王子さんをこの場で投げ飛ばしたい・・・、
今はそう思っています…、
しかし、もしそんなことをしたら…、
私は一生悩み続けることになります…
妻をそこまで追い込んだのは私だからです‥」

大きく息を吐き出し、安田太郎が顔をゆがめながら、無理に笑いを作り出しています。

「子作りをあきらめることになった妻は・・
生きる気力さえ失いかけていたのです・・。
そこへ・・、運悪く…
稀代の女たらしが通り合わせた…
郁子が抵抗できるはずがないですね…・‥」

「・・・・・・・・」

すこし笑みさえ浮かべて、自嘲的に安田太郎が言葉を吐き出しました。佐王子は黙って聞いていま
す。

「私がもっとしっかりしておれば・・・、
妻にそんな思いをさせないで済んだのですが…
いやいや・・、
あの時・・、私は何もできなかった・・・・
妻の気持ちを考える余裕を失っていました・・。
妻の苦悩を理解する努力さえしていなかった・・・」

自問自答している安田太郎を佐王子はじっと見つめていました。


[19] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/08/22 (土) 16:24 ID:W/UriDCQ No.3284
苦悩の表情を必死で抑え込もうとしている安田を見ながら、佐王子がゆっくりと口を開きました。

「私のやっていることが・・、
違法で不条理な行いであることは自覚しております、
いずれ、何らかの報復、処罰を受ける時が来ることは覚悟しております。
しかし・・、これが私の生きる道、商売なのです」

佐王子が真剣に語り始めました。

「奥さんを堕落させたのは、私です‥。
それでも私は安田さんに頭を下げません‥。
これが私の生きる道だからです・・。
勿論、懲罰は甘んじて受けます‥。
私が出来る範囲内で、賠償交渉にも応じます‥」

「・・・・・・・・」

低い声で、しかし明瞭に佐王子が語っています。安田太郎は黙って佐王子を見つめています。

「もし、安田さんがそれをお望みなら・・・、
無条件で奥様から手を引きます‥
どう・・・、されますか・・・・?」

「・・・・・・」

佐王子の質問に安田太郎は答えません、じっと佐王子を見つめているばかりです。佐王子はようやく
安田の異常な表情に気がつきました。安田の表情には当惑の影が色濃く表れているのです。郁子を苦
界に引き込んだ佐王子への怒りでもなく、かといって嫉妬でもなく、ただ困惑している表情なので
す。佐王子の提案を理解することさえできない奇妙な混迷ゾーンに安田太郎は入り込んだ様子です。

「安田さん・・・、
大丈夫ですか…、
黙っていないで何か言ってください・・、
今日、ここへいらっした目的は何なのですか‥
私を懲らしめるためにいらっしたのでしょう…」

「・・・・・・・・」

安田太郎は心ここにあらずといった風情なのです。佐王子は次の言葉を飲み込み安田の異常な表情を
じっと見つめています。

「ああ・・・、
そうですか・・・・
無理ありませんようね…
予想もしなかった奥様の裏切りを知ったのですからね…」

ここへ来て佐王子はようやく安田の精神状態を理解した様子で、笑みさえ浮かべて優しい表情で安田
を見ているのです。

「ああ・・・、
失礼しました・・・」

ようやく我を取り戻した様子で安田太郎が苦笑いをしています。


[20] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/09/02 (水) 12:05 ID:EIvgqQnY No.3285
勝手の判らない風俗の店を訪れ、それまでその種の人種には会ったことがない安田が、妻を転落させ
た張本人である、その道の達人佐王子と面談しているのです。緊張がないと言えば嘘になります。そ
の緊張に堪えて安田太郎はここまで気を張って来たのです。しかし、ここへ来て、郁子転落の経緯を
教えられ、安田の張りつめた気持ちは一気に崩れているのです。

「佐王子さんの面談して・・、
事と次第では何らかの手を打つと覚悟を決めて、
この店にやってきました・・」

「怖い顔をしていましたよ・・・、
あの時は・・、
力ではとてもかなわないと判っていましたから・・、
もしもその時がくれば・・、
確実にやられると覚悟を決めていました・・。
ハハ・・・・」

佐王子が笑いながら頷いています。

「佐王子さんのお話をうかがい、良く判りました・・。
あの商売に入ったのは郁子の自発的意志であり、
決して強制されたものではないと判断できました。
実はそのことを一番恐れていたのですが、
不安が見事的中しました・・・」

安田が冷静に語っています。

「今、思うと・・・
あの時・・、佐王子さんと出会った時・・・、
郁子は私との結婚生活を捨てる覚悟を固めていたのだと思います…
佐王子さんに会って、いろいろお話をうかがい・・、
離婚を踏みとどまったのだと思います…
佐王子さんのおかげで離婚の道以外が見つかったのだと思います・・・」

「・・・・・・・」

否定も肯定もしないで、佐王子は黙って聞いています。

「そこまで自分の気持ちを追い詰めていたなんて…
私は何も知らなかった・・・・」

語りながら、突然、頬に涙を流しています。無理に笑みを浮かべて、安田太郎は話を続けようとして
います。佐王子が黙ってティッシュ・ボックスを差し出しています。

「佐王子さんの話を聞いて・・
思い切って売春家業の世界へ入るのも一つの道だと気がついたのだと思います。
不妊を苦にして、主婦の生活を捨てると決めていた郁子は・・
別の世界で生きることに気持ちの逃げ道を見つけたのかもしれません。
砂を噛むような結婚生活を続けながら、
別の世界を覗くのも面白いかもと思ったのかもしれません‥」

「・・・・・・・」

佐王子が黙って頷いています。

「私がすべての事情を知っていることを郁子が知れば・・、
おそらく、郁子の暴走は止まるでしょう…
しかし、そうなれば・・・、
おそらく・・・・
郁子は生きてはいないでしょう‥‥」

「・・・・・・」

安田の不安な言葉を佐王子が無言で肯定しています。


[21] フォレストサイドハウス(その26)  鶴岡次郎 :2020/09/10 (木) 10:57 ID:6CU.hAwo No.3286

「これから先のことですが…、
私は何も知らなかった・・、
この店へも来なかった・・、
佐王子さんとも会わなかった…。
そう言うことにしたいと思っております…」

迷いがなく、決心は固い様子で、すらすらと安田太郎は話しています。

「つきましては・・・、
ご迷惑でも、佐王子さんにご協力いただきたいのです…
佐王子さんにはこれまで通り、郁子の面倒を見ていただきたいのです・・・・
そして・・、もし・・・」

「ああ・・、
そこまでお話を聞けば十分です。
辛い話を全部言わなくても、結構です…」

安田太郎の口を途中で止めています。

「これから先も、奥様がその気になれば・・・、
今まで通り商売は続けさせていただきます。
しかし私からは決して商売を強制しません」

「よろしくお願い申します」

安田が頭を下げています。

「もし・・・、
安田さんが奥様の暴走を止める気持ちになられたら・・、
その時は、安田さんのため・・・、
影になって力を尽くし、協力をいたします‥‥
それでいいですか‥‥?」

「よろしくお願い申します…」

安田太郎は深々と頭を下げ、そしてゆっくりと背を向けて店長室を出て行きました。

それから半年ほど過ぎた頃、郁子が決めて、彼女の仕事は終わりました。安田太郎はそのことを佐王
子からの連絡で知りました。どうやら、もう一度子作りにチャレンジする気持ちを郁子は取り戻した
様子です。


[22] 新しいスレッドに移ります。  鶴岡次郎 :2020/09/10 (木) 11:00 ID:6CU.hAwo No.3287
この章を完結します。新しい章へ移ります。 ジロー


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