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鶴岡次郎が描く情念の世界


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「鶴岡次郎が描く情念の世界」 へようこそ!

お元気ですか、鶴岡次郎です。
今回縁があって、このコーナ担当することになりました。
女と男の揺れ動く情念の世界を描き出し、皆さんのご意見をいただきたいと思っています。
拙文の読後感想、登場人物へのご批判は勿論、皆さんの日常の生活の中で、女と男に関する、
喜び、悩み、告白などご意見をお寄せください。
一緒に考えて、私なりの意見を返信申し上げたいと思っております。
鶴岡次郎
「鶴岡次郎の官能小説作品集」

女教師、真理
妻、由美子の冒険
由美子の冒険〔U〕
由美子の冒険〔V〕
由美子の冒険〔W〕
由美子の冒険、オーストラリア編
三丁目裏通りの社員寮
寺崎探偵事務所物語T
真理子の事件・寺崎探偵事務所物語
寺崎探偵事務所物語(V)、敦子の事件

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フォレストサイドハウスの住人たち(その9) - 現在のレスは56個、スゴイ人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2014/08/29 (金) 13:51 ID:Bu3nxBoY No.2575

子育てに一区切りつけた千春に、それまで抑えられていた情欲の波が堰を切ったような勢いで押し
寄せてきました。彼女自身でもどうすることも出来ない圧倒的な情欲に千春は苦悩するのです。長
期出張から帰ってきた浦上は千春の体が変わったことに気が付きます。そして、しばらく忘れてい
た8年前の佐王子の忠告を思い出していました。

『千春は千人、いや・・、万人に一人の女です・・、
そんな女を妻にする幸せを手にした男は、それなりの覚悟をしなければいけない。

少しでも、異常を感じたら、私に連絡をしてください。
決して一人で解決しようとしないでください・・・・。
千春の幸せを願う気持ちがあれば、必ず私に連絡ください・・・』

浦上はその時がついに来たと感じ取っていました。8年ぶりのコンタクトでしたが、何のためらい
も持たないで、佐王子に連絡を入れたのです。

浦上から連絡を受けた佐王子は、一週間千春に徹底奉仕することを浦上に命じました。浦上は頑張
りました。一週間後、浦上は自身の無力さと、千春の底知れない情欲の凄さをしっかり感じ取って
いたのです。

夫公認で、佐王子と千春は昔の関係を復活することになりました。性豪二人が再会して、スロット
ルを一杯開いて会いまみえるのです。彼らの周囲が無事でいられるはずはありません。この二人を起
点にして、SFマンションに妖しく淫らな雰囲気が広がっていくのです。実はこれまで既に佐王子
が手をそめたいつくかの淫らなエピソードを先行して断片的に紹介しております。これらの事件も
二人が起点であることが追々に明らかになります。

相変わらず普通の市民が織りなす物語を語り続けます。ご支援ください。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきます。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余脱
字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにしま
す。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。

・(1)2014.5.8 文末にこの記事があれば、この日、この記事に1回目の手を加えたことを示しま
す。
・記事番号1779に修正を加えました。(2)2014.5.8 文頭にこの記事があれば、記事番号1779に二
回目の修正を加えたことを示し、日付は最後の修正日付です。ご面倒でも当該記事を読み直していた
だければ幸いです
                                        ジロー  


[47] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(257)  鶴岡次郎 :2014/12/12 (金) 14:48 ID:a72mw.nw No.2625

廓の亭主によると、高は古今の書を読破していてその知識は良家の武家娘でも遠く及ばないほどなので
す。また、和歌の道、茶道の道を究め、その道でも 生活できるほどの腕前になっていたのです。女郎
をしながらそうした道を究めるには血のにじむような努力と強い意志力が必要なのです。

この縁談を壊すつもりでやってきた須藤は、落ちぶれた娼婦像を頭に描いて廓にやってきたのです、し
かし目の前にいる高は良家の妻女のような雰囲気をたたえているのです。須藤はやや足元をすくわれた
ような気分になっています。

〈予想に反して、素晴らしい女だ・・・。
清楚な美人で、廓育ちの陰はどこにも見当たらない・・・、
これなら武家の妻として、明日からでも大手を振って歩ける・・・

それに加えて、素人女では到底出せない色香がそこかしこに滲み出ている、
この色香で迫られたら、若い次郎太などひとたまりもなかったろう・・〉

目の前に座っている高は質素な普段着で、お化粧もほとんどしていません。それでいて匂うような色香
が、白い首筋、濡れた瞳、ふくよかな胸と臀部のラインから湧き上がり、須藤の男心を揺さぶるのです。

〈・・いやいや・・・、
見かけに騙されてはダメだ・・・、
所詮、廓の女だ・・・、
若い侍を色仕掛けで落とし、その妻の座を狙っているのは確かだ・・・、
美しい仮面の下に黒い本性が隠されているはずだ・・・

とはいっても・・、
未婚の女が妻の座を目指すのは当然のことだ・・、
我妻だって、初めて出会った時それとなく乳房をチラ見させたのだから・・
廓の女が、幸せを求めて、多少の仕掛けをしたとしても、
誰もその女を責めることはできないはず・・・〉

高の美貌と上品な雰囲気におされて、ともすればくじけそうになる気持ちを須藤は奮い立たせ、未熟な
次郎太が高の色香に溺れ、女の罠にうまうまと嵌ってしまったと思い込もうとしているのです。その一
方で、目の前にいる清楚な女を見て、また思い直したりしているのです。

「須藤様からそんなにお褒めの言葉をいただいて、
我が身を省みて、恥ずかしい気持ちでいっぱいです・・。

和歌や、茶道が少し出来ても、他のことは何一つ満足にできません。
12歳でこの世界に入りましたので、女として必要なお台所のことも・・、
お裁縫も・・、何もできません・・・。

こんな女が佐伯様の嫁として、勤まるとは思えません。
それで、佐伯様には何度もそう申し上げてお断りしたのですが・・・、
それでも良いからと、強く言われますので・・、

お慕い申し上げる佐伯様とご一緒に暮らせるなら、
どんな苦労にも堪えられると思って…、
厚かましいことですが、佐伯様の愛情に縋らせていただくことにしたのです・・。

須藤様がこの縁談は難しいとお考えなら・・・、
遠慮なくそう言ってください、
悲しいことですが・・、決して恨みに思いません・・・。
どんなに考えても、私が佐伯様に嫁ぐことなど、夢物語なのですから…。

幸い、菊の屋の旦那様から、
何時までもこの店に居て良いと言っていただいております。
他の世界で暮らす術を持ち合わせておりませんので、
生涯、この廓で暮らす覚悟は出来ています・・」

静かに、それでもはっきりと高は自身の心の内を須藤に話しました。


[48] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(258)  鶴岡次郎 :2014/12/14 (日) 17:14 ID:.E3.VxF6 No.2626

思っている言葉をすべて吐き出した高はじっと須藤を見つめています。須藤を見つめる高の濡れた瞳が
幾分強い光を放っています。

〈どうやら・・・、
私がここへ顔を出した時点で、全てを悟り、
お高さんは次郎太のことを既にあきらめているようだ・・・。

妻の座を狙って、次郎太を色仕掛けで落とした性悪女と思っていたが、
それはとんだ誤解だった・・、
お高さんは最初から彼の嫁になれるとは思っていなかったようだ、
次郎太が、先のことも考えないで惚れこんでしまって、
お高さんの心を乱しているのだ・・・。

ここで私がこの縁談に首を振っても・・、
次郎太が騒ぎ立てる可能性はあるが、お高さんは黙って引き下がるだろう・・。
多分・・、その解決策が一番常識的な判断だろう・・・。

しかし・・・、
無理筋と判っている女に惚れた次郎太の気持ちも大切にしてやりたい・・、
また、これほどの女を捨てるのはいかにも惜しい・・・
さて・・・、どうしたものか・・・・〉

お高に惹かれながらも、須藤は迷い続けていました。須藤は目を閉じて何事かじっと考え始めました。
その場にいる、廓の主人、高、そして次郎太がじっと須藤の顔を見つめ、彼の言葉を待っています。須
藤がいかなる結論を出しても、この場にいる者は彼の出した結論に従うつもりでいるのです。覚悟を固
めている高の表情は穏やかです。次郎太一人が落ち着きのない表情でみんなの顔をちらちらと盗み見て
いるのです。

「この話を次郎太から聞いた時、お女郎さんを嫁にするなどとんでもないことだと思いました。
それでも、頭ごなしにそれを言うと、恋に狂った若い者は何を仕出かすか判りませんから、
彼を説得し、この縁談を壊すことが出来る決定的材料を探す目的でここへ一緒に来たわけです・・」

高が微笑みを浮かべて何度か頷いています。彼女が予想した通りの須藤の言葉だったのです。次郎太が
目を剥いて須藤を睨んで何か言い出しそうなそぶりを見せています。右手を振って次郎太の言葉を抑え
込んで、須藤はゆっくりと口を開きました。

「お高さんに会い、親しくお話し合いをして、良く判りました…。
次郎太がお高さんに惚れた理由が良く判りました。
今は・・・、良く惚れたと褒めてやりたい気分です。
私からもお願いします。次郎太の嫁になってやってください・・」

びっくりした表情で須藤を見つめる高、信じられない言葉を聞いたお高はとっさに言葉が出せない様子
です。

突然・・・、大粒の涙がきれいな瞳から溢れ出ています・・。

〈・・・なんと美しい表情だ・・・、
こんな女が自分のモノになるのだったら…、
私は・・、今の身分も、家庭も、全部・・・、捨てても良い・・・

おっと・・・、危ない・・、危ない・・・、
女は怖い・・、その気がなくても男を狂わせる魔物だ・・・・〉

高に見つめられ、彼女が出す大粒の涙を見た須藤は慌てています。年甲斐もなく胸をときめかせている
のです。次郎太もじっと高の表情を見つめています。彼もまた、必死で涙を押さえているのです。

「ご亭主殿・・、お高さん・・、
次郎太の申し出を受けていただけますね…」

「ハイ・・・、
ありがたくお受けいたします…」

廓の亭主と、高が深々と頭を下げて快諾の言葉を出しています。

「・・となると・・・、
これで御両家の縁談がまとまったことになります。
次郎太、お高さん、おめでとう・・・」

須藤が二人に祝福の言葉を言い、二人が深々と頭を下げています。


[49] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(259)  鶴岡次郎 :2014/12/15 (月) 11:35 ID:9tNHIVtY No.2627

須藤は上機嫌で若い二人を交互に見ています。見れば見るほど似合いの二人なのです。それでも須藤は
手放しでは喜べない複雑な思いを噛み締めていました。

女郎と主持ちの侍、普通でない婚姻を決断した二人には、この先、たくさんの苦難が待ち受けているは
ずです。二人のために出来限りのことをする気持ちを須藤は密かに固めていました。そして先ほどから
考えていることを実行に移すべく、口を開きました。

「それで・・・、これからの段取りですが・・、
お高さんと、ご主人さえ異論がなければ、
お高さんを須藤家の養女に迎え入れ、
須藤家から嫁に出してはいかがかと思っているのですが・・、
いかがなものでしょうか・・・?」

「そうしていただければ、これ以上のことはありません…、
何から何までご配慮いただき感謝の言葉もございません・・」

廓の亭主が頭を何度も下げて感謝していました。高は感激で言葉も出せない様子です。次郎太は須藤に
深々と頭を下げて感謝しております。須藤家の養女になれば、お高のことを誰も女郎出身の女だとは思
いません。全てがリセットされ、高は晴れて武家の娘として柏木家に嫁入りするのです。

須藤が上機嫌で廓を出た後、菊の屋の主人、正衛門が次郎太を一人別室へ連れて行き、次郎太が席に着く
や、真剣な表情を浮かべ語りかけました。

「あの娘(こ)は、12歳から10年以上、数知れない男に抱かれてきました。
男に抱かれることがあの娘(こ)の生活のすべてだったのです。
それで、普通の女に比べて、かなり異質な貞操観念を持つようになっています。
このことはよく承知おきください・・」

「勿論、女郎を嫁にするのだから、昔の男関係をとやかく言うつもりはない・・」

「柏木様…、そうではないのです・・!
過去の男性経験を責めないようにしていただくのは勿論ですが、
私が申し上げたいのは、過去のことではないのです・・、
婚姻後に起きるであろう問題についてです・・・」

廓の亭主のやや強い調子の言葉に次郎太がすこし驚いています。

「こうした稼業をしておりますので、私はたくさんの遊女を一般家庭へ主婦として送り出してきました。
そして、必ずと言っていいほど、彼女たちが遭遇する問題を、たくさん見て来ました・・・」

ここで廓の主人は言葉を止めて、じっと次郎太の顔を見つめました。何を聞かされるのか皆目わからな
い表情を浮かべ次郎太は主人の顔をぼんやりと見ていました。


[50] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(260)  鶴岡次郎 :2014/12/16 (火) 15:00 ID:2zAc321Q No.2628
次郎太の顔をじっと見つめて、おもむろに亭主は口を開きました。

「ここでは男に抱かれることが女たちの生活の全てです。
男達によって刻み込まれた記憶が・・、
彼女たちの心と体にずっしりと残るのです。

それはどんなことをしても拭いきれないのです。
年季が明けて普通の生活に戻った時、
その傷跡が突然鮮明に女たちの中で疼きはじめ・・、
やがてその疼きは嵐のように彼女たちの体の中で暴れまわるのです」

「男たちに抱かれた記憶がいつまでも残っていて、
その記憶が家庭に入ってからも女の血を騒がせる・・・、
そういうことですか?・・・」

「ハイ・・・、どんなに足掻いても、
心と体に残された男達の記憶から彼女たちは逃げられないのです。

言い換えれば、嫁ぎ先でご主人に十分抱かれていても、
それだけでは、彼女たちは満足できない身体を持っているのです。
勿論、個人差はありますが、間違いなく、
一般の女たちとは比較にならないほど、彼女たちの情欲は強いのです」

「その話なら聞いたことがある。以前、遊び人の先輩から聞かされたことがある。客商売を長くしてい
た女と付き合うと、男を喜ばせる術をたくさん知っていて貴重だが、少しでもかまわないで放っておく
と、浮気に走り、とんでもなく男狂いするものだと教えられたことがある。だから、そうした女を妻に
することは勿論のこと、深い付き合いもしない方が良いと言われたことがある。

確かに・・、お高さんもそうした女の一人だと言える・・・。
その時は、私は・・、身を呈して彼女をかわいがるつもりだ、
これでも体力では人に負けない自信があるからね・・、ハハ・・・・・・」

酒の席での艶話を次郎太は思い出しているのです。高にも同じような問題が起きるだろうと次郎太は廓
の主人の言葉をその程度に理解したのです。しかし、この時点でも次郎太は問題の本質が判っていな
かったのです。廓の主人はそんな次郎太を哀れっぽい目で見つめ、さらに衝撃的な内容を告げたのです。

「柏木さん・・・、そんな生易しいモノではありません。
情欲が襲ってくると、ある者は自暴自棄になり、
手当たり次第に男を漁り始めます。

また、ある者は欲望と自制心の板挟みになり、
絶望して自分の肉体を始末することになるのです・・・。

この二つの道以外の生き方を彼女たちは選べないのです・・・・」

「えっ・・、何と言った…
手当たり次第に男漁りをするか・・、自害をするか・・、
お高さんには二つに一つの道しか存在しないと言うのか・・
私がどんなに頑張っても、それでは焼け石に水だと言うことなのか・・」

「ハイ・・・、
廓を出て嫁いだたくさんの女達を見て来た私は・・、
そう理解しております・・・・」

「・・・・・・・」

次郎太が両膝を握りしめ、絶句しています。何かに必死に耐えている様子です。


[51] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(261)  鶴岡次郎 :2014/12/17 (水) 14:25 ID:mqphDUQs No.2629

思ってもいなかった話を聞き、うな垂れている次郎太を覗き込むようにして廓の亭主がやさしく声を掛
けました。

「佐伯様・・・、大丈夫ですか…、
もし・・、私の話を聞いて気が変わり、婚約を解消されるのなら、
それはそれで残念ですが、今なら太夫も受け入れると思います・・」

廓の店主がやさしい口調で、それでも本気で訊ねています。

「ご親切なお言葉に感謝する・・・。
少しびっくりしただけです・・。
お恥ずかしいところを見せました…」

うな垂れていた姿勢を正し、次郎太が店主の目をまっすぐに見ています。この店にやってきた時のよ
うに、これから大事を成すと決めた決意が漲った表情を取り戻しています。

「正直申しまして・・、
ご亭主の今の話は予想もしておりませんでした・・。

話を聞いた今でも…、
結婚後、起きるであろう事実を・・、
現実問題として受け入れることはできないのです。

しかし、ご心配は無用です・・・。、
お高さんを娶る決意は変わりません…、
話を続けてください・・、
全てを聞きたいのです・・・」

廓の主が大きく頷いて、ゆっくりと語り始めました。

「燃え上がる情欲と強い貞操観念の板挟みになって、死を選んだ女の話はあまりにも哀れで、これ以上
詳しく話す気にはなりません。ただ、一つだけ申し上げておきたいことがあります。もし、彼女たちの
夫がもう少し思慮深く、愛情が深ければ、何人かの女は死ななくて済んだと思います。

佐伯様には私の言わんとすることがお分かりいただけると思いますが・・、
もし・・・、お高さんが追いつめられるようなことがあれば、
死を選ぶ前に彼女を自由にしてやってほしいのです・・・」

次郎太が黙って頷いています。

「多くの女は死を選ぶほど腹が出来ていません・・・、
いえ・・と言うより、多分・・・、
浮気をすることが、それほどの罪にならないと思っているのです。

身体の要求するまま、男漁りをすることが、当然とまでは思わないものの、
その行為を一般の女性が考えるほどの大罪だとは思わないのです・・・」

次郎太の表情を見ながら、彼の反応を確かめながら亭主は話しています。次郎太の表情は変わりません、
亭主の話に驚いている様子でもなく、かといって、彼の話を頭から信用しない様子でもないのです。耳
を傾けて真剣に聞いているのです。

「男漁りの道を選んだ女たちは抑えきれない情欲に誘われるまま、手近に居る男に手を出します。
それが、舅であったり、義理の兄弟であったり、とにかく男なら誰でも良いのです。

普通の女であれば、その罪を犯せば死を覚悟せざるを得ないような相手でさえ、欲望を優先してその男
に手を出すのです・・・。

こうした行為に走る女たちが何を考え、どんな言い訳を自分に言い聞かせ、近親相関という忌まわしい
禁断の行為に走るのか、正直言って、いまだに私は理解できていません・・・。

ただ、たくさんの事例を見てきた私が、彼女たちの行為を知り、その時いつも驚かされる事実がありま
す。それは、彼女たちの罪悪感が薄いことです。忌み嫌われる近親相関の大罪さえ犯しておきながら、
彼女たちはそれほどその行為を悪いと思っていないのです」

廓の亭主は次郎太の表情を見ながら、言葉を選び話しています。次郎太が亭主の話を少しでも信用して
いない様子を見せれば、その場で話を終わるつもりでいるようです。しかし、次郎太は異論を唱えず、
素直の態度で亭主の話を聞いています。


[52] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(262)  鶴岡次郎 :2014/12/18 (木) 15:28 ID:0KIewlNA No.2630

亭主は次郎太の態度を良しと考えたのでしょう、この男なら亭主のいかがわしい話を正しく受け止める
ことが出来ると感じたのでしょう、彼が持っている情報を時間の許す限り伝えるつもりになっています。

「物心ついた時から、男に抱かれることが生活の全てであった彼女たちは、たくさんの男に抱かれるこ
とにそれほど罪悪感を持たないのです。罪悪感どころか、性交することで彼女たちは安らぎを受け、悩
みを克服する勇気がそこから沸き上がるのだと思います。

言い換えれば、彼女たちにとって、男に抱かれることは生きるための一番大切な手段であり、活力源な
のです。性行為が彼女たちの生活の原点なのです・・・。

ですから・・・」

「ご主人・・、あなたの言われることは大体判りました・・、
お高の体に染みついた、淫蕩な性癖はある程度まで理解できました・・」

廓の亭主の言葉を遮り、次郎太が声を出しました。

「それで・・、私は何をすればいいのですか・・・。
はっきりと、具体的に指図してください・・。
出来るかどうか判りませんが・・、
お高さんのため、私は全力を尽くしたいと考えています・・・」

長い廓生活でお高の体に淫蕩な習性が染みついているところまでは大体理解した次郎太が、なかな核心
に入らない亭主の話に少し焦れています。遠慮してはっきりとした要求を中々口に出来ない亭主に注文
を付けているのです。

「さすが、佐伯様です。私がこの方ならと見込んだお方です。
そのご質問を実は待っていました…」

話の展開を模索していた亭主は次郎太の質問を得て喜んでいます。

「大和太夫が・・、
いえ・・、お高さんが他の男に手を出すようなことが起きれば、
その時は、私が今まで話したことを良く思い出してください・・・。

男に手を出したのは、勿論、その男に惚れたわけではないのです。
あなた様を裏切るつもりなど、端からお高さんにはないのです。
言ってみれば、それはお高さんの持病なのです」

「病気だと・・・・・・・・?」

「はい・・・、その通りです。病気に罹っているのです…。
病気であれば、治療する必要があります。彼女の体が男を欲しているのですから、
無理に抑え込むと病気は悪化します。適当に男を与えることが必要です。

勿論、妻が他の男に抱かれることは耐えがたいことです。
堪えがたい思いは、お高さんにとっても同じことです、
病気とはいえ、他の男に抱かれるのは、大切な旦那を裏切ることになり、辛いことだと思います。

お高さんを愛し、生涯、妻として彼女を大切にしていただく覚悟がおありなら、
お高さんの望むまま男を与えてください。
そしてここが大切なことですが、その秘密をあなた様が守り抜くのです。
決して、そのことで、お高さんが周りの者から後ろ指をさされることがあってはならないのです」

「・・・・・・・」

大変な話なのですが、次郎太は驚きもせずじっと耳を傾けています。

「よろしいですか、くどいようですがもう一度繰り返して申し上げます。
関係した男達と共謀して、あなた様がお高さんの秘密を守り切る限り、
あなた様ご一家の安泰は保証されると思います。

あなた様の寛大な愛情に応えるため、お高さんはあなたに全力を尽くして奉仕すると思います。
十数年、廓で磨き上げた女の技を惜しみなくあなた様に注ぐのです。
あなた様は男としてこの世で望みうる最上の悦楽をお高さんより与えられることになります。

私の話を理不尽なありえないお伽話だと思わないで、信用してください。
頑張れば、きっと素晴らしい未来が広がると思います・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

あまりの話に次郎太は絶句していました。しかし、次郎太は決して絶望していませんでした。むしろ、
女郎を娶った以上、このようなことは起こりうることだと比較的冷静に受け止めているのです。


[53] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(263)  鶴岡次郎 :2014/12/22 (月) 16:50 ID:.46Wq8vU No.2631
一年近く廓に通い詰めるあいだに、最初は次郎太が惚れこみ、ついで彼の熱意と誠実な人柄に高が陥落
し、二人は将来を約束するまでになったのです。
女郎に惚れたということは、最愛の女が他人に抱かれることを黙って受け入れることが絶対条件なので
す。こうした関係を一年足らず続けた結果、自分の知らないところで最愛の女が他の男に抱かれ、悶え狂
っていることを事実として受け入れる習慣を次郎太は、知らず知らずの間に身に着けていたのです。

最愛の女が他の男に抱かれるのを受け入れることに慣れると、次郎太の感情は次の段階に発展していまし
た。一時間前、明らかに他の男に抱かれたお高を抱いて、見知らぬ男が残した愛欲の残骸をお高の中に見
つけて、次郎太はどうしたことか、すごく興奮するようになっていたのです。こうした下地があったから
こそ、次郎太は廓の亭主の話を黙って受け入れることが出来たのです。

「ご亭主殿、ご親切なご助言痛み入ります。お話の内容はよく理解できました。決して歓迎することでは
ありませんが、そのことでお高さんを嫌いになったりしません。お高さんの様子をよく見て、彼女が一番
安楽に暮らせる道を探します。彼女とはどんなことがあっても生涯離れないことを約束します・・・」

廓の亭主は感動で涙を流して、次郎太の両手を握って、何度も、何度も頷いていました。


「そんな事情があったのね…、
お高さんが男を欲しがるのは病気だと解釈したのね…
その考えはある意味で当たっているかもしれない…。
欲望が襲ってくるとどうしょうもなくなるのだから…、

それにしても、病気だと割り切ってお高さんを自由に泳がせながら、
その一方で、妻を深く愛し続ける次郎太はりっぱだね・・・

あっ・・・、もしかすると家の旦那も・・・・・
あっ・・・、そうか、そうなのね…、
幸恵さん…、家の旦那も同じだと判って、私にお高さんの話を聞かせたのね・・

幸恵が黙って頷き、千春がにっこり微笑んでいます。


独身時代、千春もまた裏の仕事で売春稼業をしていたのです。千春は彼女の表の仕事場である高級靴店で
浦上三郎と出会い、互いに一目ぼれをして結婚しました。長女を出産し、その子が幼稚園に通い始めたご
ろまでは絵にかいたような平和な生活が続きました。ところが、その頃から千春は耐えがたい情欲に襲わ
れるようになったのです。

尋常でない情欲の嵐を受けた千春はこの事態を夫に隠し通すことはできないと悟りました。離婚を覚悟し
て、千春はデルドーを使って強い欲望を散らしている痴態を夫に見せつけました。夫に痴態を見せること
で自身の体に起きた異常を知らせることにしたのです。

千春の夫、浦上三郎は驚きながらも、慌てふためくことはありませんでした。佐王子から、いずれ千春は
男狂いを始めると予告を受けていたのです。その予告うけて5年後に、その予告通りの現象が発生したの
です。三郎はためらわず佐王子にそのことを告げ、協力を依頼しました。

浦上から千春の事情を聞いた佐王子はとりあえず昔の愛人関係を復活することにして、千春の情欲を散ら
すべく、夫公認で定期的に千春を抱くことにしたのです。

浦上三郎がつらい決断をして佐王子に千春を預けた経緯がお高さんと同じであることを、千春に教えた
かったのだと、千春ははっきりと悟っていました。そして、いまさらのように夫、浦上三郎の大きな愛
情を千春は実感していたのです。(1)


[54] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(264)  鶴岡次郎 :2014/12/24 (水) 17:00 ID:7FiYXeNc No.2632
記事番号2631に修正を加えました((1)1950_12_24)


「それでね、お話はまだまだ続くのよ・・・。

お舅さん、義弟の三郎太にはご主人が事情を話して、お高さんを抱くことを要請した。事情が呑み込め
なくて最初は尻込みしていた二人だったけれど、事情が分かってくると、決して嫌なことではなく、む
しろ歓迎すべきことなので、男二人は喜んでお高さんを抱くことにした。

こうして、お高さんは同じ家に住む三人の男に交替で抱かれることになった。月の障りがある日以外、
お高さんはいつも誰かを受け入れ、女の喜びを満喫することになった。

一方、男三人は互いに嫉妬しながらも、一人で彼女を独占することは難しいことを良く知っているし、
お高さんが三人の男に分け隔てなく優しく接したから、表面上、三人は争うことをしないで、女の気を
引くことで競い合った。

こうして、一人の女を巡って、あの手この手を使って、三人の男が女の気を惹こうと努力するのだから、
女にとって、ある意味理想郷が出来上がったことになる・・・」

「凄いね…、
家の中では男三人が夜の相手をしてくれて・・・、
外へ出ると十数人の詩吟の会のメンバーから選り取り、見取りでしょう…、
作り話だと思っても、うらやましい・・・。

でも・・・、
詩吟の会のメンバーは夫である次郎太さんを何と思うだろう・・
きっと、『寝取られ旦那』と、蔑んでいるのかもしれない・・」

「それがね…、
次郎太さんの評判は悪くないのよ・・・、
それどころか、お高さんを嫁にしてから、彼はトントン拍子で出世することになるの、
お高さんは彼にとって、飛び切りの「上げまん」だったの・・・」

千春の顔を見てにんまり微笑んで幸恵はこの物語の続きを話し始めました。


通常、人妻と情を通じた男は、その人妻を落としたことを密かに誇りに思い、人妻の夫を腹の内であざ
けったりするのですが、それは男の力が女の力を上回っている時に限るのです。

お高と情を通じた侍達は、圧倒的なお高の女子力を体感すると、自分達がお高を弄んでいるのではなく、
男達がお高の遊び相手にされていることを直ぐに悟るのです。男に抱かれるお高の様子には悪びれたと
ころがなく、ただひたすら喜びを追い求めているのです。そして、やがて・・・、男たちはお高の夫で
ある柏木次郎太の狙いに気付くのです。

〈これほどの女だ、夫一人で満足できるはずがない・・。
彼女の夫はそのことを悟り、妻を自由に泳がせているのだ。
深い愛情がなくては出来ないことだ。
まさに男の鑑だ・・
とても私にはできないことだ・・・・〉

男達はお高の夫、次郎太の立場を理解し、彼を蔑むどころか、逆に、最愛の妻に大きな愛情を注ぐ次郎
太に尊敬に近い感情を抱くようになっていたのです。

「あら、あら、すごいね・・
圧倒的な女子力が男達の思考にも影響を与えたのね・・・」

「旦那様の次郎太は勿論立派な人だけれど、お高さんだって偉いのよ・・。

彼女はどんな男から声を掛けられても、事情が許す限り『嫌』と言わないのよ、言い寄ってくるのは恰
好のいい、若い男達ばかりとは限らないからね、中には禿で、脂ぎったおっさんもいたはずだけれど、
お高さんは愛想よくそうした男達と付き合ったのよ。

一方、こんな乱れた男漁りをしながら、お高さんは陰日向なく働いた、
頭が良くて、人付き合いも良かったから、
周りの女たちの評判も上々の貞女だった・・・」

「そうなの…、見習わなくてはいけないわね・・・

ところで・・、幸恵さん・・・・、

お高さんの話を聞いていて・・・、
私・・・、心配していることがある…
それは私自身の心配とつながるのだけれど・・・・」

それまでのにやけた表情を引き締めて、少し真面目な表情に戻り、千春が不安を口にしています。


[55] フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(265)  鶴岡次郎 :2014/12/27 (土) 10:22 ID:m7g1CiKY No.2633

「その淫乱貞女の老後は酷いモノでしょうね・・

歳をとって魅力がなくなれば・・、
男達から振り向かれることも無くなり、
旦那にも嫌われ、子供から蔑まされ・・・、

結局一人で暮らすことになり、やがて寂しく死を迎える・・・
好き勝手をやってきた女だから、仕方がないことだけれど・・、
それでも、やっぱり寂しいね・・・」

我が身の将来と照らし合わせて、千春が沈んだ声で質問しています。

「そうでもないのよ・・、
結論から先に言うと、80歳を超える天寿をお高さんは全うするのよ・・・。
子供を8人生み落し、その子供たちを全員立派に育てあげるの・・・。
勿論、全部の子供が彼女と旦那様の実子として育てられた・・・」

「・・・・・・」

千春は目をいっぱいに見開いて幸恵を見つめています。彼女自身の将来に一筋の光明を見つけ出したの
かもしれません。

「下級武士だったお高さんの旦那は、お高さんとの結婚を機に、仕事の上でいろいろな幸運に恵まれて、
次第に頭角を現して、藩の重役まで上り詰めることになる。もともと才能があり、人徳の高い人だった
のは確かだけれど、お高さんが藩の重役の何人かと関係を持ち、明らかにその男達の種だと判る子供を
産んだりもしていたから、次郎太は人事面でかなり厚遇を受けることになったのも確かね・・・。

こうして経済的にも恵まれた環境を手に入れたお高さんはその淫乱性にますます磨きをかけ、数多くの
男を受け入れることになった。生理が上がった後も、彼女の男漁りは衰えなかった。死の床に就いた一ケ
月以外、彼女は男を迎え入れることを止めなかったと言われている。

彼女の葬儀には、子供たちをはじめ、関係した男達がたくさん参列し、盛大なお葬式になった。そして、
彼らは心から感謝の気持ちをささげたと言われている。彼女の死を見届けた夫、次郎太は、『彼女は地
上に降りた天女でした・・』と語った・・・・と、その本は最後に語っていた・・・」 

「いいお話ね・・・」

「ところで、この話には女にとってたくさんの教訓が含まれているけれど、
千春さん…、
この中で一番大切な教えは何だと思う・・・・?」

「・・・・・・・・?」

「判らない…?」

「・・・・・・」

「私は思うの・・、このおとぎ話の中で一番大切な教訓は・・・・、
それはね…、
お高さんが、どんな境遇でも、どんな時でも、
全ての男に感謝の気持ちを持ち続け・・、
すべての男を愛し、中でも旦那様を心から愛したことだと思うの・・、

私はそう・・、考えている…、
そして、私自身もそうありたいと願っている・・・
頭では判っていても、なかなか出来ないことだけれどね・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

幸恵が言いたいことを千春は敏感に察知していました。旦那と佐王子、そして千春の上を通り過ぎるす
べての男たちの大きな愛情に感謝の気持ちを忘れないようにせよと、幸恵が千春に言っているのです。

「あなたから聞いた佐王子さんとの関係・・・、
私には十分理解できないことだけれど・・、
私はどんな時でもあなたの応援団になると決めている、

私に出来ることなら何でも言って・・、
出来る限り、あなたを応援するから・・・」

「よろしくお願いします・・」

この日以来、千春と幸恵の関係はさらに強いものになりました。実の親子の関係でも彼女たちの関係に
かなわないと思えるほどの仲になったのです。


[56] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/12/27 (土) 10:36 ID:m7g1CiKY No.2634
新しい章を立てます。ここまでで今年の投稿を終わります。今年一年、ご支援いただき感謝申し上げます。
来年もよろしくご支援ください。末尾ながら、来るべき2015年が皆様にとっていい年になりますことを心
から祈念いたしております。 ジロー



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フォレストサイドハウスの住人たち(その8) - 現在のレスは24個、人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2014/06/23 (月) 16:43 ID:Y0hYsB6o No.2549
浦上と千春の新婚生活がスタートしました。新しい章でも二人の生活をもう少し追ってみます。や
がて、運命の糸に操られるようにして、フォレストサイドハウスの中で展開するストリーの中心に千
春は押し出されることになります。相変わらず普通の市民が織りなす物語を語り続けます。ご支援く
ださい。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。

  ・(1)2014.5.8   
     文末にこの記事があれば、この日、この記事に1回目の手を加えたことを示します。
  
  ・記事番号1779に修正を加えました。(2)2014.5.8
    文頭にこの記事があれば、記事番号1779に二回目の修正を加えたことを示し、日付は最後
    の修正日付です。
 
   ご面倒でも当該記事を読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[15] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(203)  鶴岡次郎 :2014/07/22 (火) 14:38 ID:JMeePnsI No.2563
真剣な面持ちの浦上を見て、佐王子が少し笑みを浮かべています。そして、おもむろに口を開きま
した。

「ついにその時が来ましたか…、
正直申し上げて、もっと早くやってくると私は予想していました。

おっしゃる通り、連絡を受けてすぐに対応するべきだと思いましたが、
一週間の間を取ったのは、その間に・・・、
浦上さん自身の体で奥様の実態を十分察知してほしいと思ったからです・・」

沈痛な口調で佐王子が話しています。しかし言葉の内容とは裏腹に、佐王子はなんだか嬉しそうな
表情を浮かべているのです。

「以前申し上げたように、奥様は千に一人、万に一人と思えるほど、性感に恵まれた方です。彼女
の中で湧き上がる情欲は凡人には計り知れないものだと思います。もしこの欲望が暴走し始めると、
彼女自身でも、これを制御することは難しいと思います。感情を暴走させないよう、彼女の欲望を
適当にその都度、分散発散させることが絶対必要です。

これまでその兆候が目立たなかったのは子育てに彼女の精力が向いていたからだと思います。子育
てが終わり、いろいろな束縛から解き放たれ、彼女が持っている能力が、ここへきて大きく、花開
いたのですね…、もう・・・、誰も彼女を止めることはできません…」

佐王子が、沈痛な面持ちでつぶやくように言いました。落胆の表情を浮かべ、浦上がじっと佐王子
の表情を読んでいます。

「今はデルドーで一時しのぎが出来ていますが、
いずれ本身でないと満足出来なくなると思います・・。
浦上さんは並以上に強い男ですが、
正直申し上げて、あなた一人では到底、無理だと思います・・・」

「・・・・・・・」

浦上が沈痛な表情で黙って頷いています。一週間千春の相手をして、浦上は千春の底知れない情欲
を体験したのです。どんなに頑張っても、到底一人では太刀打ちできないことを悟ったのです。
もし、この一週間の経験がなければ、男の能力を否定する佐王子の言葉に浦上は反論したかもしれ
ないのですが、今は大人しく頷くことしかできないのです。

「もし・・、このまま何もしないでいれば、
妻は・・、そして僕の家族は・・、どうなるのでしょう・・」

「はけ口の見当たらない、異常な情欲と・・・、
あなたに忠実でありたいと願う愛情の狭間で悩みぬき・・・、
奥様は・・、多分・・、平常心を失うことになると思います・・。
そんなことになれば、平和な家庭に影が差し込みます・・」

男欲しさに体を燃やす千春は、外で男を求めることが出来ないまま、悩み、葛藤して、精神的にも、
肉体的にも、大きなダメージを受け、それが平和な浦上家に影を落とすことになると、佐王子は指
摘しているのです。

「千春に男を与えればいいのですか…?」

「奥様が他の男に抱かれることを浦上さんが快く許し、千春さんが精神的な大きな負担や、度を越
した罪悪感を持たないで、他の男に抱かれることが出来れば、問題はかなり改善されると思います。

それには、浦上さんの辛い決心と、そうした淫らな環境を受け入れるため、奥様の気持ちの整理が
必要だと思います・・」

佐王子が言葉を選びながら、慎重に答えています。浦上はじっと考え込んでいます。男にとって、
かなりつらい決断を迫られているのです。勿論、佐王子が出したこの結論は、浦上にとって、あら
かじめ予想できたことだったのです。


[16] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(204)  鶴岡次郎 :2014/07/29 (火) 12:20 ID:Bu3nxBoY No.2564

視線を床に落とし何事か考えに耽っていた浦上が、覚悟を固めた様子をその表情に見せて顔を上げ
ました。

「佐王子さん・・、千春のことをよくご存じですし、彼女のことを今でも、大切に思っていただい
ていることを私はよく承知しております。ここは経験豊富なあなたに頼るのが一番いいと私は考え
ております。

私は何よりも、千春と我が子の幸せを優先したいのです。
そのために私自身が辛い思いをすることは何とか凌げると思います・・・、
あなたがいいと思われる方法を教えてください・・・」

絞り出すように浦上が声を出しています。

「判りました・・。
浦上さんの決心がそこまで固いのであれば、
ご家族の皆さんの幸せのため、ひと肌も、ふた肌も脱ぎたいと思います。

一つ伺いますが、千春さんが気心を許せる男性をご存じないですか、そうした方が居れば、その方
にお願いして、定期的に千春さんの相手をしていただけるようお願いするのです。それで、かなり
千春さんの心身は安定すると思います」

「一人・・・、心当たりがあります・・」

「そうですか・・、それならその方にお願いするのが一番です。
こんな話なので浦上さんから声をかけるのは難しいでしょうから、
よろしければ私が交渉役になっても構いません。

ところで・・・、その方はご近所にお住まいなのですか・・・」

「佐王子さん…、
千春も、そして私も心を許せる人は・・、
それは、佐王子さん、あなたです…。

こんな難しいことを頼めるのは、あなたを置いて他には考えられません、
お仕事が忙しいと思いますが、千春のため、私たち家族のため、
お力を貸していただけませんか・・・」

「・・・・・・・・」

冷静に考えれば、浦上の選択はこの場の状況を考えると、ごく妥当なものだと思いますし、当然佐
王子もそのことをある程度予想すべきだと思うのですが、意外なことにこの依頼を佐王子は予想し
ていなかったようで、驚きで言葉を失っているのです。


[17] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(205)  鶴岡次郎 :2014/08/04 (月) 14:11 ID:0ORqP2u2 No.2566

夫が頭を下げて妻を抱いてくれと頼んでいるのです。そして佐王子が今でも千春を愛しているのは
彼の態度を見れば判るのです。千春にしても佐王子に抱かれるのであればそれほど大きな抵抗を感
じないであろうと浦上は考えているのです。

これだけ条件が整っているのに、佐王子は困惑の表情を浮かべて、ただ黙り込んでいるのです。佐
王子の沈黙の意味を浦上は捉えかねていました。

「ご迷惑だと思いますが、曲げて了承願いたいのです。佐王子さんであれば、千春も安心して身を
任せることが出来ると思います。私も、佐王子さんであれば、悔しいことは悔しいですが、なんと
か我慢できる気がするのです。他の男と千春が関係することは・・、この切羽詰まった状況で気の
小さい男だと思われても・・、なんとしても我慢できないのです」

浦上の話はほとんど佐王子の耳には入っていませんでした。日頃から人の世の動きを読むのに長け、
臨機応変に戦略を立てる佐王子にしては珍しく、今回の浦上の提案は寝耳に水の思いだったのです。

浦上の申し出を予想すべきだったと、佐王子は今になって、自身の迂闊さを責めているのです。そ
して、このような簡単な状況判断が出来なかった理由が佐王子には良く判っているのです。予想で
きなかったその事実より、浦上の依頼を予想できなかった理由を悟り、佐王子にしては珍しく、狼
狽え、慌てふためいているのです。

〈俺としたことが…、
浦上さんの依頼を全く読めていなかった・・。
状況を追って行けば浦上さんの出方は簡単に読めたはずだ…、

『千春さんを抱いてくれ・・』と頼まれて、こんなに有頂天になっている。
千春さんへの思いで、俺の勘が完全に狂っていたのだ・・、
俺も、意外に若いところが残っているようだ…〉

自分の中に残っている若さを自嘲しながら、佐王子は全身に湧き上がる興奮を楽しんでいました。
こんな思いを持つのは本当に久しぶりなのです。そして、今更ながら千春を思う自身の気持ちの強
さ、真摯さに気づき、我が身と、心の若さに驚き、そして同時に喜びを噛み締めていたのです。

「私はもう直ぐ55歳になります。若い頃の様に無茶は出来ない体だと思うことが最近多いのです。
商売の方もむやみに間口を広げないよう注意しております」

佐王子が珍しく気弱な発言をしています。申し出を断られるのではと、浦上は心配そうな表情で佐
王子を見ています。

「良いでしょう・・、他ならぬ浦上さんと千春さんのことです。
私でお役に立つようなら、精いっぱい頑張らせていただきます・・・」

「ありがとうございます・・・」

佐王子が軽く頭を下げ、浦上が深々と頭を下げています。これで男二人の話し合いは完了したので
す。


[18] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(206)  鶴岡次郎 :2014/08/06 (水) 14:06 ID:6UY14g1o No.2567

方針が決まれば実行は早い方がいいと、浦上が提案して、二人はそのレストランを出て、歩いて10
分ほどの距離にあるFSマンションへ向かいました。自宅で待っている千春には佐王子を連れて行
くことを浦上は連絡しませんでした。

佐王子を見て千春は驚き、次にはあまりの嬉しさで、その場にうずくまり泣き出してしまったので
す。二人の男は互いに顔を見合わせて、笑っていました。

二人とも食事は済ませて来たと告げたのですが、千春は手早くビールと軽いつまみを準備して二人
を無理やり食卓に座らせました。笑みを浮かべて二人の男はおいしそうにビールのコップを傾けま
した。

千春の心づくしの料理が食卓に並べられました。豚肉と小エビ、イカなど海鮮物が入った中華風野
菜炒めと鯵の塩焼きです。これらはいずれも佐王子の大好物なのです。さすが、昔関係のあった元
恋人の好物料理は忘れていないのです。そして、その料理をよく覚えていて、手早く準備した千春
は佐王子への好意を未だ失っていないようです。

勿論、佐王子は千春の心づくしを理解していました。古風なやり方で、合掌した両手の指の間に箸
を挟み込み、目を閉じて感謝の祈りをささげているのです。その閉じた瞳から、涙が・・、ゆっく
りと滲み出ていました。

以前、二人が付き合っていた時のことです。佐王子が一人住まいをするマンションへ、佐王子が留
守の間に訪ねてきた千春は、良くこの料理を作ってくれたのです。佐王子が夜遅く仕事を終えてマ
ンションのドアーを開けると千春の声と一緒に、このごちそうの香りが佐王子を出迎えていたので
す。

真剣に千春との結婚生活を考えた時期もありました。結婚話を出さば断われるはずがないと確信し
ていたのです。しかし、佐王子には結婚を申し出る勇気がなかったのです。結果として浦上に千春
を奪われ、佐王子はそれ以来固定した女を作ったことさえないのです。

久しぶりに千春の料理を見て思わずさ佐王子の涙腺が緩んでいるのです。まさか、千春の嫁ぎ先で、
この料理で接待を受けるとは、佐王子は夢にも思っていなかったのです。ただ一人、浦上だけは中
華と和食が入り混じった、この妙は組み合わせの料理の意味を理解できていなかったのです。



「僕が呼び出して、この近くのレストラン・・・、
ほら、イタリアンで何とか言ったかな、
千春と二、三度行ったことがある店なんだが・・・」

「レストラン地中海でしょう・・」

「アッ・・、そうそう・・、
その地中海に佐王子さんを呼び出して、
久しぶりに飲むことにしたのだよ・・」

実のところは話に夢中になっていて、レストランでは浦上も佐王子もほとんどの飲み食いしなかった
のです。話し合いが終わり、二人の男は緊張から解放され、空腹を感じ始めていたのです。千春の料
理の腕はかなりの物でした。それから次々と出される料理も若い主婦としては合格点以上の出来栄え
でした。二人の男は大いに飲み、食べました。

昔話に花が咲き、二時間余りがあっという間に過ぎました。もう、夜の10時を回っています。そ
れでも、肝心の話はまだ千春に告げていないのです。

「佐王子さん・・、夜も遅くなったようだから、
今夜はよろしければ泊まって行きませんか・・・?」

かなり酩酊した視線を宙に走らせながら、浦上が佐王子に言っています。元々、浦上はそんなに酒
に強くないのです。飲めばすぐに眠気を催して眠りおちる質なのです。佐王子が恐縮して手を振って
いますが、浦上は酔っ払い特有の執拗さで自分の主張を続けています。

「判りました・・、
明日は休日ですから、私の仕事も休みです。
今夜はお世話になります」

佐王子の返事を聞いた浦上は安心したのでしょう、そのままテーブルに顔を伏せて、眠りおち、鼾
を発しています。

「あら、あら・・、こんなに酔っ払って・・、
ゴメンナサイ、この人がこんなに酔っ払うのは久しぶりなんです。
佐王子さんに会って、よほどうれしいのだと思います・・」

「昼間の疲れがどっと出たんだよ・・、
寝室へ連れて行った方がいいね・・」

佐王子と千春が大男の浦上に肩を貸し、やっとのことでベッドに寝かせつけました。笑いながら、
浦上の背広を脱がせている千春を残して、佐王子は一人で寝室を出ました。


[19] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(207)  鶴岡次郎 :2014/08/11 (月) 16:21 ID:QICNc5kU No.2568
20畳ほどの居間に革張りのソファーがあり、大型テレビもここでは小さく見えます。ソファーに
腰を下ろし佐王子はゆっくりと部屋の中を見渡しました。床に敷き詰めた絨毯の上にいくつかの幼
児用玩具が転がっているのが愛嬌です。

千春と別れて以来、佐王子は彼女のことを一日だって忘れたことがありません。浦上家の周りにア
ンテナを広げていて、それなりに浦上家の情報は掴んでいるのです。千春の退職、長男の出産、F
Sハウスへの転居、浦上の部長昇格、浦上家のことはかなりのところまで掴んでいるのです。そし
て、千春が幸せな生活を送っていることを心から喜んでいたのです。

そんな時、突然浦上から電話連絡を受け、千春が底知れない情欲に取りつかれ、悩まされているこ
とを知らされたのです。当然、いつかはこの日が来ることを佐王子は予想していたのですが、いざ、
それが現実になると、佐王子は慌てました。狼狽える自身をしかりつけながら、佐王子は必死で対
応策を練りました。

何を置いてもまず浦上が千春の症状を正確に理解し、彼一人の力では千春の症状に到底対応できな
いことを彼自身の体で学び取ることが大切だと佐王子は考えたのです。それで、一週間、千春に奉
仕することを浦上に命じたのです。

浦上は頑張りました。並の男では一日か二日で音を上げていたでしょう、一週間、とにかく頑張り
通したのです。その結果、浦上は自身の無力さと千春の人間離れした情欲をよく理解したのです。
そして、この先、千春と一緒に生活をするためには、どんなに嫌でも、どんなに堪えがたいことで
あっても、千春に他の男を与えることが必要だと悟ったのです。

浦上から千春を抱くように依頼された時、佐王子は慌てました。予想さえしていなかった浦上の申
し出を聞き、嬉しさと、驚きで、言葉を失っていたのです。しかし、冷静になって考えると、浦上
の申し出はそれほど意外なことではなかったのです。過去の経緯を考えると、佐王子が対応するの
が一番簡単で、安全なことは自明のことなのです。

〈ああ・・、俺も焼きが回ったかな…、
千春のことを今でも忘れられなくて、俺の目が曇っていたということか・・〉

佐王子は自嘲的にそうつぶやいていました。

〈待てよ…、あいつ…、千春には何も告げなかったが…、
そうか・・、すべて俺に預けて、
酔ったそぶりを見せて、あいつは寝てしまったんだ…、
さて・・、どうすればいいのだろう…〉

その昔、手玉に取った千春ですから、どこを吸い、どこを擦れば、どう鳴くか、女の体の隅々まで
知り尽くしているのですが、人妻になった千春は、今では遠くに立つ女なのです。黙って抱き寄せ、
口を吸えば喘ぎだし、簡単に靡いた女ではなくなっているはずなのです。


千春がダイニングルームに戻ってきました。大男の浦上を相手にかなり奮闘したのでしょう、前髪
が乱れ、額にうっすらと汗がにじみ、髪の毛が額に張り付いているのです。来客を予想していな
かったのでしょう、胸のところが大きく開いた薄手で、ミニの花柄ワンピースの下はどうやらNB
らしく、豊かな乳房の半分以上が顔を出し、授乳経験のある黒い乳首がくっきりと布を押し上げて
いるのです。

その昔、その景色は見慣れているはずなのですが、久しぶりに接する佐王子には新鮮に見えました。
少年の様にその光景から慌てて視線を外しているのです。

「ああ・・、疲れた…、
背広を脱がせるだけで大仕事だった・・、
あの様子では朝までぐっすりネ・・・・、

保さん…、
今夜は泊まって行けるのでしょう・・」

久しぶりに名前で呼ばれて佐王子は少し慌てています。


[20] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(208)  鶴岡次郎 :2014/08/16 (土) 18:01 ID:.QQhd7XU No.2569
体がほとんど触れるほど近づいて、男の側に千春が座りました。懐かしい女の体臭が男の鼻孔を刺
激しています。それだけで、男は高揚した気分になっています。

「そうだな…
明日の仕事は午後からだし、
家に帰っても誰も待っていないから・・、
迷惑でなければ、泊めていただくかな・・」

千春の顔を見ないようにして、何気ない口調で男が返事しています。

「そうして・・、
主人もきっと喜ぶと思う・・、
ところで、Y市のマンションは以前のままなの…」

「ああ・・、そうだよ、
千春ちゃんが泊まっていた頃と何一つ変わっていないよ」

「あら・・、そう・・
懐かしいな・・・、
ああ・・、そう、そう、窓から見えるラブホテル、
相変わらずなの…」

「以前より、過激になっている、
こちらが見ていると判ると、わざと脚を開いて見せる女もいる…、
多分、大部分が素人の女だと思うけれど・・、
その気になると、女の方が大胆だね・・」

「ふふ・・・・」

二人きりになると一気に昔のことが蘇り、二人の仲は急速に接近しています。無理もありません、
千春がまだ20歳そこそこで、初めて佐王子に抱かれ、それから8年余り、佐王子の手で女の全て
を開発され、彼の要請で娼婦にまで身を落としたのです。考え方によっては浦上と過ごした8年間
の結婚生活より、佐王子と過ごした8年間の方が千春にとっては密度が濃いと思います。

「一週間前、ご主人から電話があった・・・、
10年近く会っていないはずだから、正直、最初はだれか判らなかった・・、
千春の名前を聞いてようやく思い出したほどだった・・」

「10年は経っていないは、8年足らずよ・・」

「そうだったかな・・、
それにしても遠い昔の気がする・・・。
確か、千春と彼の結婚について三人で話し合うことになったんだったね、
俺も若かったが、あの時、千春はほんの子供だった気がする・・」

「よく言うわね…、
そんな子供みたいな女にお客を取らせていたのよ、保さんは・・」

「ハハ・・・、
これは一本参った・・、
確かに、おっしゃる通り俺はどうしょうもない男だよ・・
今も、あの頃とちっとも変らない渡世を送っているよ・・」

「相変わらずね・・、
自分のことをそんな風に言うのは…、
でも、どうしょうもない男だったら主人は声を掛けないと思う、
どんな相談をしたのかわからないけれど・・・、
主人は保さんを信頼しているのよ・・」

少し真剣な表情で、やや強い調子で千春が言っています。


[21] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(209)  鶴岡次郎 :2014/08/21 (木) 13:43 ID:nYpHgyUI No.2570

「概略を電話で聞いたのだが、とても込み入った話なので、
その場で結論を出せなくて、日を改めて面談することにした・・。
それが今日だった・・・、
この近くのレストランで話し合いをした・・・」

「きっと、私のことでしょう・・」

「・・・・・・・」

佐王子が黙って頷いています。

「それで保さんは・・
どう答えたの…」

「どう答えるて…」

「とぼけないで、私には判っているのよ、
保さんを見た時ピーンと来た・・・、
私のことを保さんに頼んだのでしょう…」

「・・・・・・・」

佐王子は千春の勘の鋭さにびっくりしていました。この調子ではすべて見通されていると覚悟を決
めていました。

「相変わらず勘の良い子だ・・、
今から話すことはお二人にとって、とっても大切なことだから、
話の先が読めていても、一通り、私の説明を黙って聞いてほしい・・。
それほど大切な話なのだ・・・」

佐王子の真剣な様子を見て、事の重大さがわかったのでしょう、千春が黙って頷いています。

「千春・・・、
ああ・・、二人きりの時は、これからも千春と呼ばせてほしい・・

ご主人と話し合っていて、判ったことなんだが…、
浦上さんは千春のことを本当に大切に思っているようだ・・。
多分、ご主人は千春をこの世で自分の命より大切だと思っているようだ。

これから先、どんな事態が発生しても、
ご主人の千春への愛情を疑ったりしてはいけない。
このことを、千春はしっかり頭に刻み込んでほしい・・」

千春が笑みを浮かべて頷いています。

「千春が想像しているように、ご主人から千春を定期的に抱いた欲しいと、今日、正式に申し込み
があった。ご主人一人ではとても千春を満足させること出来ないとおっしゃるのだ」

予想していたこととはいえ、浦上が佐王子に正式に申し込んだことを聞き、千春は驚きを押さえる
ことが出来ませんでした。

「以前付き合っている時感じていたのだが、千春は一人の男で満足できる女でないと思っていた。
誤解しないでほしいのだが、千春が見境なく男漁りをする女だと言っているのではない、むしろ、
逆に千春はとても貞操観念の強い女だと思っている。それだけに、一人の男に縛り付けると、自分
の欲望と強い貞操観念の板挟みにあって、精神に異常をきたすほど悩む可能性が高いと思っている。
このことは俺も、浦上さんも、同じ意見だ・・」

佐王子は熱心に語りかけました。千春はどのような気分でこの話を聞いているのでしょうか、見る
限りではおとぎ話を聞いているように、おだやかで、明るい表情で耳を傾けています。 

「ご主人は、千春さえ同意すれば、定期的に千春を抱いて良いと言われている。
幸い、俺の仕事は夜が中心だから、昼間、このマンションに来て務めを果たしてほしいと指示され
た。勿論、俺にとってはこちらからお願いしたい気持ちが正直なところだから、一も、二もなく、
その場でお引き受けした次第だ・・・、
こんな事情だが、どうだろう、千春の気持ちは…」

恋する少年の様に、素直な、それでいて、男のねばりつくようなギトギトした執念を、その瞳の奥
に見せて佐王子が千春を見つめています。千春は相変わらず捉えどころのない表情で佐王子を見つ
めています。


[22] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(210)  鶴岡次郎 :2014/08/22 (金) 17:50 ID:JMeePnsI No.2571

佐王子の質問には答えないで、ゆっくりと千春が立ち上がりました。そして、少し後ずさりして、
テーブルから少し離れたところに立ち、彼女の全身を佐王子に見せつけています。その表情から彼
女の意図は知ることはできません、茫洋として、視線は宙を漂っているのです。佐王子は黙って千
春を見つめていました。

ゆっくりとワンピースの肩紐を肩から外しました。最初に左肩、そして右肩、支えを失った布が肩
から滑り落ち、腰の位置で留まっています。ダイニングテーブルを照らす淡い光が女の豊かな胸を
浮き出させています。やはりNBです。

女も興奮しているのでしょう、男の視線を感じて、豊かな乳房が大きく、ゆっくりと上下に動いて
いるのです。大ぶりの乳房の先端にある黒い突起が明確に立ち上がっています。

女の手がワンピースを下へ一気に下ろしました、白いショーツも一緒に引き下げられています。全
裸の女が淡い光の中に立っています。慣れ親しんだ肉体を男はじっと見つめています。滑らかな胸、
張りのあるウエストライン、そして数えきらないほど交わったその部分、どの部分にも甘い思い出
が秘められているのです。欲情した時に発せられる特有の香りが女の体から発散されています。全
ての記憶が男の頭脳に蘇っています。

「主人の気持ちをありがたくいただかせていただきます。
私にとっては、これ以上の物は考えられないありがたい贈り物です。
ご存じのとおり、万事に行き届かない女ですが、よろしくお願い申します」

女はその場に正座して、両手を前にだして、深々と頭を下げました。つやつやとした女の背中と臀
部が男からよく見えます。

「俺との関係を復活することになって、
千春から俺やご主人への要求はないのか・・」

佐王子が訊ねました。

ゆっくりと頭を起こした千春が真っ直ぐに男に視線を向けて、やがてゆっくりと口を開きました。
形のいい乳房と魅惑的な股間の茂みが男の視線を捉えています。女は両手を膝に置き、絨毯の上で
正座しています。

「私は佐王子さんが好きでした。
いえ・・、今でも大好きです。
ですから、元の様に抱かれるのは正直言って、うれしいです。
でも、その半面、少し怖いのです…」

静かな、控えめの声で女が言いました。男は黙って頷いています。この種の話をする男女の会話に
しては、互いに恐ろしく冷静です。

「保さんとの関係を元に戻すに当たって、一つだけ申しあがておきたいことがあります。こちらか
らお願いしておきながら、いろいろ条件を付けるのは本来してはいけないことだと言うことも良く
判っています。しかし、このことだけは、はっきりしておきたいのです。もし、佐王子さんがこの
ことを約束していただけないのであれば、今回の話は私から断りたいとさえ思っています・・」

真剣な面持ちで千春が語っています。全裸の女が恥じらいを見せないで、求道者のような表情をし
て真剣に語る姿には、不思議な魅力があります。その道の専門家である佐王子にとっても新しい発
見であるようで、熱い視線で千春を見つめています。

「佐王子さん・・、良いですね…?」

何も反応を見せないで、うれしそうにただ千春を見つめている佐王子を見て、その態度を咎めるよ
うに、千春が返事を催促しています。


[23] フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(211)  鶴岡次郎 :2014/08/23 (土) 11:45 ID:Y0hYsB6o No.2572

夫公認で抱かれることになり、いわばその愛人契約条件を真剣な表情で話す全裸の千春に佐王子は
見惚れていたのです。裸の女が男を誘う手管には慣れきっている佐王子ですが、裸であることを忘
れたように真剣に話しかける千春にはそれまで経験したことが無い不思議な魅力があったのです。
千春の言葉で我に返り、少し慌てて返事をしています。

「エッ・・、ああ・・、勿論、その通りだ、
千春の言い分が通らなかったらこの話は無しだ・・
ご主人も、もちろん私も、千春の嫌がることは絶対しない・・」

佐王子らしくもなく、偶然垣間見せた千春の新しい魅力に心を奪われ、返事を忘れていたのです。

「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。それでは申し上げます。

以前、佐王子さんに抱かれている時、何時、佐王子さんから結婚を申し込まれるのかと、私は心を
弾ませて待っていました。妻にしていただかなくても、愛人関係をはっきりさせていただくだけで
もよかったのです。

『千春は俺の女だ・・』とはっきり約束していただけるだけで、良かったのです。しかし、私の気
持ちが判っているのに、佐王子さんは最後まで、誘いの言葉をかけてきませんでした。今でも、そ
のことでは佐王子さんを恨んでいます・・」

いたずらっぽい表情で千春が語っています、佐王子が困った表情で千春を見ています。

「現在では、ご存じのように私は人妻で、子供も一人います。
主人を心から愛していますし、子供と主人を守るためなら、私は自分の命など惜しいとは思いま
せん。以前とはここが違うのです。私には守るべきものが出来たのです」

誇らしげな表情で千春が語っています。

「保さんに抱かれると、多分、私は夢中になり、保さんと離れたくないと思うようになるはずです。
もしかすると、今の生活を捨てて、保さんの懐に飛び込もうとするかもしれないのです。こんな自
分の変化が、私は怖いのです・・」

「・・・・・・」

おそらく本音を千春は語っているのだろうと佐王子は理解していました。それでも男は黙って頷い
ているだけでした。

「そこでお願いがあるのです。
もし・・、私が保さんに夢中になり、今の家庭を忘れるようなそぶりを少しでも見せたら、その時
は、私を殴りつけてもいい、乱暴な言葉を吐いても良い、考えられる限り汚い言葉で私をののしり、
私をボロ布の様に捨ててほしいのです・・。

早い段階なら、元に戻れると思うのです…」

「・・・・・・・・・・・・」

唖然として佐王子が千春を見つめています。千春は真剣そのものです。

「佐王子さんは男だから、女の私より、理性的に行動できると思っています。
それに、佐王子さんにも守るべきものがたくさんあるはずです。
いまさら、私ごとき女のために今の生活を捨てる気持ちは持たないと思います。
だから、佐王子さんにお願いするのです・・。
今の家庭を守るため、ぜひ、私の願いを聞き届けて下さい・・」

「判った・・、千春の覚悟が良く判った…、
千春の言った言葉はそのまま、私自身の自戒の言葉にするよ。
千春を俺のモノにしたくなったら、俺は黙って千春から離れることにする。
勿論、千春が旦那や子供を捨てることは絶対許さないつもりだ・・」

こうして、好意を抱きながら、互いの意に反して別れて暮らしていた男と女が、再会し、男と女の
関係を復活する奇妙な愛人契約条件を取り交わしたのです。両人ともに凄まじい能力を秘めたその
道の達人です。迸り出た愛液があたりに立ち込めるほどすごい情交がこれから展開されると思いま
すが、果たして今取り交わした口約束がどこまで守られるか・・、どちらが先にこの約束に違反す
るか、じっくりと見守っていくことにしたいと思います。

そして、千春と佐王子がこの契約を交わしたことにより、佐王子はSFマンションに頻繁に出入り
するようになり、このマンションに住まう幾人かの女が佐王子の牙にかかり、それまでとは異なる
女の道を選ぶことになるのです。その経過についてはすでにいくつかエピソードをそれぞれ個別に
紹介しておりますが、これから先に紹介する話も含めて、いずれ整理して、それぞれのエピソード
の相関関係を明らかにするつもりです。


[24] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/08/23 (土) 12:07 ID:Y0hYsB6o No.2573
話の区切りが来ましたので、新しい章を立てます。ジロー


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フォレストサイドハウスの住人たち(その7) - 現在のレスは26個、人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2014/05/08 (木) 11:40 ID:88ncIuVg No.2520
浦上三郎と千春の結婚が決まりました。「万人に一人の女・・、娼婦になるために生まれてき
た女・・」、そんな女と浦上は結婚すると決めたのです。
「早期発見が大切です…、対処方法を誤ると、みんなが不幸になりますから・・」と、謎の言葉を
残して佐王子は立ち去りました。「先のことを考えるより、先ず、彼女に溺れる生活を楽しも
う・・」と、浦上は腹を固めています。浦上と千春、ようやくスタートラインに付いた若い二人の
前途には洋々たる未来と、大きな不安が待ち構えている様子です。もう少し二人の生活を追ってみ
ます。相変わらず、変化の乏しい市民の生活を描きます。ご支援ください」

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(1)1940.5.8とあれば、その記事にその日、手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました。(2)1940.5.8』、文頭にこの記事があれば、
     記事番号1779に二回修正を加えたことを示し、日付は最後の修正日付です。
    ご面倒でも当該記事を読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[17] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(181)  鶴岡次郎 :2014/06/10 (火) 15:14 ID:BEeQWxFM No.2538
夫人が話の内容を良く理解していないあいまいな表情を浮かべています。千春は少し心配になりま
した。過激な内容の話に夫人が完全に引いてしまったのではと思ったのです。

「奥様・・・、あの・・・、奥様・・・」

「アッ・・、千春さん…」

我に返った夫人が無理矢理笑みを作っています。〈心ここにあらず〉の様子に見える夫人を見て、
千春の中に漠然とある疑惑が首を持ち上げていました。しかし、それは明確な形のないもので、千
春はすぐにその考えを頭の隅に追いやり、夫人と向き合いました。

「調子に乗ってバカなことを話してしまいました。
汚い話ばかりであきれたでしょう・・、
私はこんな女なのです・・。
私のこと、軽蔑されるでしょう…」

「いえ、いえ・・・、軽蔑するなんて、そんなことは絶対ありません。
恋する男性のためなら、女は何をしても許されるべきだと思います。

でも・・、さすがに・・、職場で男性のモノを咥えるなんて・・、
理恵にはもちろん、私でも想像さえできないことでした・・。
正直言って・・、女の見栄や、羞恥心を超えて、
男性を喜ばせることだけに没頭できる千春さんがうらやましい・・・。

理恵だって・・、
あなたのような才覚と、経験があれば、
もっと、三郎さんを幸せにできたと思います。

それで・・、三郎さんはようやくあなたを抱く気になったのね…」

「いいえ・・・、その時は、そこまで話が発展しませんでした。
彼・・、久しぶりにモノが自立できたことを素直に喜んでくれました。
それで、私に気を許したのでしょう・・、正直に話してくれたのです。

奥さんを亡くして4年、
いろいろ試したけれどダメだったと教えてくれました。
どんな女と出会ってもダメだったと言うのです。

私・・・、それを聞いて、
なくなった理恵さんが忘れられなくてEDになったのだと思いました。
理恵さんと彼の関係の深さに強く嫉妬しました・・・。
今夜は何が何でも、彼をものにすると、決めたのです・・。

楽しい食事の後、私から誘ってホテルへ直向しました・・・」

「そう・・あなたからホテルへ誘ったの・・、
さすがにやるわね…、

・・・でどうだったの、彼のサイズは・・・?
理恵の言う通り、すごいモノなの…?」

いささか唐突に、夫人がみだらな質問しています。千春が驚いた表情を浮かべています。夫人も今
まで使ったことが無い淫らな言葉を発したことを恥じて、少し顔を紅潮させているのです。


[18] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(182)  鶴岡次郎 :2014/06/11 (水) 16:07 ID:qJLEPkeY No.2540

「あら…、私・・・、三郎さんのサイズを聞いたりして…、
恥ずかしい・・、千春さんが悪いのよ、
先ほどからきわどい話を聞かせるから、私まで感化されてしまいました・・。
でも、とっても気になっているのよ・・、
経験豊かなあなたが、彼のモノをどう評価したのか・・」

「・・・・・」

「ねぇ・・、黙っていないで、何か言ってよ、
あなたが黙っていると恥ずかしさが増すのよ…」

夫人がことさら快活に振る舞っているのが千春にも読めました。先ほど頭の隅に首をもたげた疑惑
が形を見せ始めていたのです。

〈様子を見る限り、
私からその事実を聞くまでは三郎さんのEDは知らなかったようだ・・、
夫人にとって、この事実は全く予想外の出来事だったようだ・・・。
それでも、不思議なことに、彼の病気の原因には心当たりがあるようだ・・

彼にEDを引き起こさせた原因に心当たりがありながら、
今まで、その事実を知らなかった…。

この事実は何を語っているのだろうか・・・、
いずれにしても、私からそのことを質すことはできない、
夫人が切り出すまで待つことにしよう・・ 〉

このように覚悟を決めた千春は夫人のペースに乗ることにして、出来るだけみだらな話を披露する
ことにしました。勿論、こうした話題が不得意なわけではないのです。

「お店であんなに苦労したことが嘘のように、
ホテルへ入ると三郎さんギンギンになっていて、当の本人でも驚くほどでした。
もちろん、私は大歓迎です・・・」

「そう…、
想像するだけでも、わくわくするね…
・・で、彼のモノをしっかり確認したのでしょう…」

生唾を飲むようなしぐさを見せて、夫人は興奮した表情を隠そうともしないです。

「ハイ・・、先輩から教えられていて、初めての方と寝る時は、
相手の体を十分チェックするようにしているのです。
そんなわけで、三郎さんのモノもしっかり・・、確かめました。
目で見て・・、握ってみて・・、口に含んで・・、十分にチェックしました・・」

「さすが、千春さん・・」

「奥様もご存知のように、どんなに立派な男性器でも、いつでも完璧に、100%勃起すること
はありませんよね、私たちが普段接する男性器は70から80%勃起すれば上々だと言えます。

この時の三郎さんは違いました。四年間の空白を一気に埋めるつもりなのでしょう・・、
彼のモノはいきり立ち、力強く、比較的経験のある私でも、あれほど完璧に勃起したモノをそれま
で見たことがありませんでした」

「そう・・・、凄いね…」

夫人の瞳がみだらに濡れているのです。千春は比較的冷静です。


[19] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(183)  鶴岡次郎 :2014/06/12 (木) 16:00 ID:a6eUA7KQ No.2541

「結論から先に申しあげると、100%勃起した三郎さんのモノは、さすがに並のサイズをはるか
に超えていて、比較的経験のある私でも、安易な気持ちでは、とても太刀打ちできないと思いまし
た。経験の乏しい女性だとあるいは苦痛を感じることがあるかもしれません。しかし、正直に申し
上げると、怪物と呼ばれるほどのモノではありません。

ここだけの話にしていただきたいのですが、彼以上のモノを何度か受け入れた経験があります。私
から見て、彼のサイズは上の下クラスだと思います」

「そう・・・、上の下なの…、あれで・・・、
・・・で、上の中、上の上クラスとなると・・、どうなるの…、
私には、想像することさえできない・・、
千春さんはそんなものを、何度か食べたことがあるの…」

「はい・・、上の上クラスかどうか判りませんが、
少なくとも三郎さんのモノと比べて、
一目でその違いが判るほどのモノを何度か食べたことがあります」

「そう・・、それは・・、
世間で言うほど美味しいモノなの・・」

「私の経験で言うと、普通の女性には、最初からその味の良さは分からないと思います。奥様の
前で、さも経験があるように、こうして生意気なことを言っていても、私も最初から大物を十分味
わうことが出来たわけではありません・・・。

最初の頃、私が十分になっていないのに、乱暴に大物を挿入されて、
そのあまりの激痛で、気が遠くなったことさえあります・・。

その時知ったのですが、私の膣はそのころ未成熟で、柔軟性に欠け、お汁も少なく、あまり大きな
モノを受け入れる体勢ができていなかったようです。多分理恵さんもこれと同じ状態だったと思い
ます。その後経験を積んで、事前準備をすることを覚え、かなりの大物でも、難なく呑み込めるよ
うになりました。

そうなると、大きなモノの本来の味が判るようになりました。やはり大物は味が違います。

最初はやはり苦痛を感じます、全身が張り裂けるような思いをして、大物を何とか受け入れて、丁
寧に攻められると、次第にアソコが潤ってきて、しばらくすると、信じられないほど短時間に高め
られて、一気に頂点に駆け上がるのです。

それから何度も、何度もいかされて・・、もう・・、ここらで終わりだと思ったら、その先がある
のです。大物はここからが違うのです。深い、深い、本当に深いところに落とされるのです・・。

正直言って、何度も経験する必要はないと思います。チャンスがなければ、その味を知らないでも
構わないと思います」

「そう・・・、そんなにいいの・・、
私は・・、多分、その味を知らないまま、女を終わるのね…」

夫人が真顔で呟いています。


[20] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(184)  鶴岡次郎 :2014/06/13 (金) 11:33 ID:BdvXhW22 No.2542

夫人の心情を察知したのでしょう、千春がやさしい声で慰めました。

「正直言って、あまり心が通わない、ただ巨大なだけがとりえのモノは、その味がどんなに強烈
でも、生涯の伴侶とする気にはなれません。人それぞれ身体の相性があるとよく言われますが、
毎日接する相手は、ほどほどのサイズが良いと私は思います」

「千春さんが言うと、何となく説得力がある・・・。
あなたが言う通り、究極の味を知るとその後が味気なくなると思う・・、
足りない・・、もう少し大きければ・・、もう少し強ければ・・と、
日頃不満に思っている程度がちょうどいいのかもね…、
私のような平凡な女には、今の主人がちょうどいいのよ・・」

「おっしゃる通りだと思います。
ああ・・、いえ・・、ご主人のサイズのことを言っているのではありません。

私は幸か不幸か、いろいろな男に抱かれて、様々な経験を積むことが出来ました。
大きい人、そうでない人、好みの方、そんなに好きになれない方・・・、
いろいろな男に抱かれました・・。
でも・・、一番良かったのは・・、断然、三郎さんです・・」

「やはり・・、心を惹かれた殿御が、女には一番ていうことね…」

「ハイ・・・」

「たくさんの男を知っていて、その上で・・、
夫にする男はナニのサイズも大切だけれど・・、
心が通い合うことが大切だと言い切る千春さん。
私などとても及ばない見識の持ち主です。本当に感動しました。

三郎さんとのこと、私が余計な心配をする必要は無かったんだ・・。
上の下クラスの三郎さんのモノなど、
問題なく受け入れることが出来ているんだ・・」

「ハイ・・、おかげさまで楽しんでいます。
彼から電話がかかって来て、彼と会えると思うだけで体が熱くなり、
恥ずかしいのですが、彼の声を聴くだけで異常に潤ってくるのです。

彼がいきなり入って来ても、楽々、飲み込み、
彼のモノで苦痛を感じたことは一度もありません。
それどころか、毎回、気持ちよくて、失神してしまうのです…。

ああ・・、こんなはしたないことを申し上げて・・、スミマセン…」

千春がペロと舌を出し、おどけた仕草で頭を下げました。

「いいのよ…、
そう・・、すごいね…、毎回失神するの…、
いいわね…、ちょっとうらやましい・・・・。

千春さんはすごいね…、
本当に、うらやましい・・・

あんな大きなモノを・・・、
最初から楽々受け入れることが出来たなんて・・
その上、毎回失神しているなんて…」

艶然と塚原夫人が笑っていました。そして、次の瞬間夫人の表情にわずかな変化が現れました。ど
うやら、夫人は自身の失言に気が付いた様子なのです。


[21] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(185)  鶴岡次郎 :2014/06/15 (日) 15:51 ID:iqwCU4pE No.2543

夫人のつぶやきを聞いことで、千春の心にある疑惑が確信に変わっていました。このチャンスを逃
すとその事実を質す機会は永久に来ないと思えたのです。そして、今の淫蕩な会話の流れの中なら、
夫人も本音を吐き出すことが出来るはずと思ったのです。

「間違っていたら、勘忍していただきたいのですが…、
もしかして・・・、
奥様、三郎さんのアレをご存じなのですか…」

「あら・・、やはり気が付いたのね…、
千春さんて・・、見かけ以上に頭が良くて、勘が鋭いのね・・。

いいわ・・、いつかは誰かに話すべきだと思っていたことだし・・・、
考えてみれば、話すべき相手としてあなた以上の方は居ないと思えてきた・・」

悪びれた様子を見せないで夫人があっさりと言ってのけました。

「理恵と三郎さんの夜の生活が不調なのは、
三郎さんの巨根が原因だと推定できたけれど、
どの程度に大きく、どんなに努力しても理恵には無理なのか、
慣れれば何とかなるものなのか・・、
それが私たちの最大の問題になったところまでは話したでしょう・・・」

「それで、ご自分で実証見聞してみることにしたのですね…」

「そう・・、
理恵のことを思う気持ちが半分、
女としての興味半分というのが正直な気持ちだった・・。
ただ、このことは理恵には内緒にして進めるべきだと最初から思っていた」

塚原夫人は淡々と話しています。強い日差しを遮る街路樹の下は快適で、そこで立ち止まり、楽し
げに話し合っている二人の女の姿はそのまま一枚の絵画になる景色です。


夫人は浦上を自宅へ招き、ストレートに問題をぶつけました。最初はびっくりして、笑いでごまか
していた浦上も、夫人の説明を聞き、彼女がかなり熱心に、真剣に、若い二人の夜の生活改善を考
えていることを理解しました。

「それで、お母さん、僕は何をすればいいのですか…」

「正直言って、私にも良く判らないの・・。
理恵のアソコが普通と変わらないのなら、
三郎さんのモノが異常に大きいことになる。

慣れてくれば、何とか収まるようになるのか、
何時まで経っても駄目なものか、それを見極めるべきだと思っている・・」

ここまで話して、突然あるアイデアが夫人の脳裏にひらめきました。

「アッ・・、そうだ・・、
三郎さん、他の女との経験があるでしょう、
理恵には黙っているから、その時のことを教えてちょうだい…」

「そうですね・・、
全部玄人の女が相手ですから、あまり参考にはならないと思いますが・・・」

「・・で、何人経験があるの・・?」

「5人です・・」

「エッ・・、5人も・・・、
これだから、男性は信用できない・・・、
・・で、その結果は、どうだったの・・?」

「二、三人から大きいと言われましたが、
出来ないことはありませんでした」

「そう・・、
・・と言うことは、慣れれば理恵でもなんとかなるわけよね・・・」

夫人はここで考え込んでしまいました。


[22] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(186)  鶴岡次郎 :2014/06/16 (月) 15:30 ID:.QQhd7XU No.2544

一分、二分と時間が経ちました。夫人はまだ考えに耽っています。この件では三郎は夫人の言いな
りになると決めているようで辛抱強く夫人が結論を出すまで待つようです。

「三郎さん…、
5人の玄人女と出来たことは朗報です・・。
理恵も慣れれば、三郎さんを受け入れ、セックスを楽しめる可能性が見えて来たわけです。

それで、考えたのですが、この結論の最後のダメ押しで、私の眼で三郎さんのモノを実地検証した
いのです。私から見ても、大丈夫だと思えれば、これほど心強いことはありません。後は、理恵に
経験を積ませればいいことになりますから・・」

「実地検証ですか…、
私は良いですが、どうすればいいのですか…?」

「通常状態をただ見るだけでは不十分だと思います。
臨戦態勢になった姿をとっくり拝見したいのです・・」

「やはり・・、そうでしょうね…
理恵が居れば、何とかなると思いますが、
私一人では少し時間がかかると思いますが、良いですか…?」

「仕方無いですね…」

かなりきわどい話ですが、元々世間知らずで、まじめな二人は、科学実験に立ち会う学者の様に、
みじんも淫らな様を見せないで会話を続けているのです。

ズボンを脱ぎ、ショーツを下ろして、浦上はかなり毛深い股間を夫人の前にさらしました。昼下が
りの塚原家のリビングルームの窓から、明るい日差しが差し込み、浦上の股間を余すところなくあ
らわにしています。それは幾分緊張しているようで、いわゆる半立ちの状態です。そして強い男性
臭が夫人の鼻孔を襲っています。バッグから老眼鏡を取り出し、夫人は至極真面目な表情でしげし
げとそれを見つめているのです。

「立派です・・。
私・・・、こんなモノを初めて見ました・・・」

夫である塚原氏や、結婚前に経験した数人の男性と比較して、浦上のモノははるかにすごいのです。
夫人はその実態を検証する本来の目的を忘れて、魅力的なその姿に見惚れているのです。

「では、失礼して、少し大きくしてみます」

浦上が右手で男根をしごき始めました。夫人が前にいるせいでしょうか、若い浦上のモノでも、な
かなか大きくならないのです。心配そうな表情で、今にもそれに手を出しそうな雰囲気を出しなが
ら夫人はその部分を凝視しているのです。

「ダメですね・・、
人前でこんなことしたことがありませんので、
思うように大きくなりません…」

浦上が弱音を吐いています。何事か決心したようで、夫人が彼に近づき、ソファーに座っている彼
の前に跪きました。そして、股間に顔を寄せて、いきなり男根を口に入れたのです。

「あぁ・・、お母さん…」

予期しない攻撃に浦上が慌てて悲鳴を上げています。それでも、男根は一気に反応して、ぐんぐん
と大きくなっているのです。
  
「ぷわぁ・・・、
凄い・・、これでは慣れない理恵では絶対無理…、
子供を産んだ私でも、自信が持てない…」

一気に膨張した男根が夫人の口を塞ぎ、息苦しさから男根を吐き出しています。それを手に取り、
そのずっしりした重さ、粘りつくような感触、指二本ではその半周分も握り切れないその太さを、
夫人はしみじみと味わっています。


[23] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(187)  鶴岡次郎 :2014/06/17 (火) 11:41 ID:eg3FUBOY No.2545
夫人はそこで口を止めました。そこから続く二人の絡みを予想していた千春は、女の情欲に溺れ、
禁断の行為に走った夫人の告白を聞かざるを得ない困惑と、すこし淫らな期待とわずかな嫉妬心を
抱きながら再び夫人が口を開くのを待っていました。

「そこまでだった・・・。
正直言って、欲しかったけれど・・・、
いくら何でも娘の夫と関係を持つ・・、
そんな獣のような真似はできませんからね・・」

そう言って、夫人は千春に寂しい笑みを投げかけました。千春も軽く頷いて夫人の意見に同意して
います。冷静に対処した夫人の行動に千春は内心で拍手を送っていたのです。

「私がそれ以上何もしないことを察知したのでしょう・・、
彼は大きくなったモノの始末にトイレへ駆け込み、
私はただ茫然とその場に座っていました・・・。

彼が洗面所から戻り、何やら呟いて頭を下げて、私の前から去りました。
それ以来、彼から連絡もなく、私からも連絡しませんでした。

三郎さんはこの日のことを理恵にはしゃべらなかったと思います、娘は私の破廉恥な行動を知らな
いと思います。それでも、何となく理恵に申し訳なくて、それまで頻繁に彼らの家を訪ねていた私
でしたが、その事件以降、彼女たちの家に行く気になれなかった。

私に会うのが辛いのでしょう、三郎さんは実家には来なくなり、理恵はもともと実家に寄り付くタ
イプでありませんでしたから、二人が実家を訪ねることはありませんでした。こうして、私の無分
別な行動が私と娘夫妻の間に決定的な壁を造ってしまったのです・・」

淡々と話していますが、夫人の瞳には涙があふれているのです。

「その後まもなく理恵の癌が見つかり、あっけなく、あの子は旅立ちました。結局、三郎さんとは
気まずい思いをしたまま今日まで来てしまったのです。彼が重度のEDに罹っていたなんて夢にも
思わなかった。あなたの話を聞いて初めて私は重大な過ちを犯したことに気が付いたのです。

私とのあの忌まわしい行為にまじめな三郎さんはずっと罪悪感を抱いていて、その罪を理恵に告白
する前に彼女が亡くなり、罪悪感の捨て場を失った三郎さんは一時的なEDに陥った。そうに違い
ないと私は思っています。

謝って済むとは思えませんけれど、もし機会があれば、直接三郎さんに謝りたい気持ちですが、今
となっては遅すぎます。私は生涯この罪を背負ってゆくつもりです。

でも・・、あなた出現で、三郎さんは5年間のEDから抜け出すことが出来た。もし、あなたと出
会っていなければ、三郎さんは一生EDのまま過ごすことになっていたかもしれないのです。そう
であれば、私の罪はさらに許しがたいものになり、私の命でも償いきれないものになっていたと思
います。

三郎さんの男があなたによって蘇ったことで・・・、
私もあなたに救われました・・・。
千春さんには本当に感謝しています・・・」

夫人の長い告白に千春はじっと耳を傾けていました。夫人が深々と頭を下げるとあわてて、千春も
頭を下げています。

「そう言っていただけると・・、
スケベーな私でも人さまのお役に立てることがあるんだと・・・、
少しホッとします…」

「スケベ・・、さすが千春さんは面白い言葉を使うのね・・、
そう・・、スケベーな千春さんの力で、
三郎さんも、わたしも・・、そして多分理恵も・・・、
救われたのよ…、すべてあなたのおかげよ…」


[24] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(188)  鶴岡次郎 :2014/06/18 (水) 16:13 ID:EB9E2l.A No.2546

夫人の告白を聞きながら、千春は自分が持っている情報を重ね合わせて、なぜ浦上が重度のEDに
陥ったのか彼女なりの分析をしていました。夫人は義母である身を忘れて破廉恥な行為を仕掛けた
自身の罪だと考えているのですが、千春は夫人のせいとは思っていないのです。夫人とのあの行為
をくよくよ悩み、それでEDに陥るほど、浦上は弱い男でないと思っているのです。このままでは
夫人が哀れだと思う気持ちが強くなり、千春の立場からそのことに触れるのは問題だと思いながら、
勇気を奮って口を開きました。

「奥様・・、三郎さんのEDのことですけれど・・、
奥様はご自分一人の責任だと思い込まれていますが、
私は、少し違う考えを持っています…」

「千春さん・・、
私のことを思って慰めていただけるあなたの気持ちはありがたいと思います。
三郎さんがEDになった原因は、あなたも気が付いているようですが、
おそらく、複数の要因が存在すると思います。
しかし、その中の一つが私の汚い行為であることは間違いない事実です。

彼の発症が私の責任だと言っても、それは私の気休めだけで、
今となっては、償うことも、謝ることさえも出来ないのです。

三郎さんのこれから先のことは千春さんにお願いするより他に手はないのです。
本当に申し訳ないのですが、彼のことをよろしくお願い申します・・」

「ハイ・・・・・」

千春は夫人に自身の意見を告げる気になったのですが、浦上のEDのことになると夫人はただ頭を
下げ、許しを請うかたくなな姿勢を崩さないのです。この様子では、この場で千春の分析結果を披
露しても、自身の罪だと思い込んでいる夫人が千春の言葉を正しく受け取らず、単なる慰めの言葉
と受け取る可能性が高いと考えたのです。慰めと誤解されると少し厄介なことになると思い、千春
は黙り通すことにしました。もし、夫人がそのことで深刻に悩み続ける様子であれば、機会をとら
えて、浦上から説明するのが一番だと千春はとっさに考えたのです。

千春の分析では、浦上のEDは夫人の破廉恥な行為のせいではなく、理恵との結婚生活を充実した
ものに出来ないまま、理恵と死別してしまったことに対して浦上は強い罪悪感を持ち、男として一
人の女を幸せにできなかったことに自信喪失した結果、重度のEDに陥ったと千春は考えているの
です。

客観的に見て、千春の分析結果に説得力があるように思えますが、本当のところは、どちらが正し
いのか、あるいはまったく別の要因が作用しているのか、良く判りません。

いずれにしても、これから先、よほどのことが起きない限り、千春はこの問題を自分から掘り起こ
すことはしないと覚悟を固めていました。今日、夫人が口にした事実全てを封じ込むつもりでいる
のです。


「あぁ・・、ご主人と三郎さんが迎えに来ています・・
女の長い立ち話に痺れを切らしたようですね…」

先に駅に着いていた塚原氏と浦上が歩み寄ってくるのを見て、千春が声を出し、男たちに手を振って
います。

「千春さん・・、今日は楽しかったわ…、
結婚生活を楽しんでくださいね…、
またお会いできるといいですね…
それと・・・」

塚原夫人が千春の耳に口を寄せて何事かささやいています。千春が口に手を当てて恥ずかしそうに
笑って夫人を見ています。『大物を食べ過ぎて、体を壊さないように・・・』と、夫人が囁いたの
です。

「それでは・・、またお会いできる日を楽しみに待っています・・。
奥様・・、ご忠告通り、大好物を食べ過ぎて体を壊さないように、頑張ります・・」

千春と塚原夫人はにこやかに笑みを浮かべて別れのあいさつを交わしました。


[25] フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(189)  鶴岡次郎 :2014/06/19 (木) 14:39 ID:4CZkjdzs No.2547

二人になった浦上と千春は自宅へ向う電車の中で、のんびりと会話を交わしていました。理恵の墓
参りを済ませたことで、結婚式前に済ませておくべき準備がすべて完了したのです。塚原夫妻には
結婚後、機会を見つけて挨拶をする予定だったのですが、図らずも理恵の墓前で出会うことになった
のです。塚原夫妻と良い出会いができ、夫妻に結婚の報告と別れの挨拶ができたのです。これで思
い残すことなく結婚式に臨めると・・、浦上は上機嫌でした。


また千春は塚原夫人からとっておきの告白を聞くことが出来て、それはそれで満足していました。
すべてが順調に進み、若い二人は充実感と幸福感でいっぱいになっていたのです。

「塚原夫人と随分楽しげに話していたね・・、
どんな話をしていたの・・」

「私のお店の事や、お客様のこと・・
ああ・・、それに、私の男性経験を聞かれた・・」

「へぇ・・、
夫人とは初対面だろう…。
そんなことまで話すんだ、
女の人は凄いね…、
・・で、何と答えたの・・・」

「正直に言ったわ・・、
三郎さんが初めての人でないことも、
三郎さん以外の男性を複数知っていることまで話した」

「塚原夫人は驚いただろう・・」

「そんなに驚いていなかった・・、
私を見て、この女はある程度、経験を積んでいると判っていた様子だった。
そして、経験が豊富なことはいいことだと、笑って、励ましてくれた・・。
アッ・・、そう、そう・・、早く子供を作れとも言われた・・」

「子供をね…」

浦上が遠くを見る表情をしていました。彼の表情を見て千春には感じるものがあったのですが、そ
のことを無視して、陽気に次の言葉を出しました。

「私・・、
頑張りますと答えた…
子宝に恵まれたら、真っ先に連絡するとも言った…」

「夫人は・・、理恵のこと・・・、なんか言っていたの・・」

「理恵さんのことはお互いに意識して、話題にしなかった・・」

「そう・・、そうだったの・・」

「いい人達ね・・、理恵さんのご両親・・」.

「うん・・・」

それ以降、二人が理恵のことを話題にすることはありませんでした。


[26] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/06/19 (木) 14:43 ID:4CZkjdzs No.2548
新しい章を立て、新スレへ移ります。ジロー


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フォレストサイドハウスの住人たち(その6) - 現在のレスは36個、スゴイ人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 16:25 ID:qM/Z/gzY No.2480

佐王子に説得されて、シュー・フィッターの仕事に専任することを決意した加納千春は、佐王子が
描いた戦略通り、見事に闇の仕事を切ることに成功しました。それだけではなく、仲間の店員たち
も彼女の巧みな誘導で足を洗うことができたのです。一番喜んでいるのは何も知らされていない店
長かもしれません。
さて、闇の仕事を切り捨てた千春に次の仕事が待っています。佐王子の言う通りであれば、「管理
された形で売春をする仕事」が待っているはずですが、どんな展開が待っているのでしょうか、相
変わらず普通の市民の物語を語り続けます。ご支援ください。なお、トンボさんのご指摘に従い物
語の冒頭で、これまで語ってきた登場人物を整理して説明をいたします。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[27] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(157)  鶴岡次郎 :2014/04/18 (金) 15:56 ID:eFWSYnIQ No.2508

火照った体の隅々に冷たい水が行き渡っています。浦上は大きく息を吐き出しました。それだけで、
浦上は立ち直っていました。四肢に力がみなぎり、彼の中に戦う意欲がむらむらと湧き上がってい
ました。表情から怯えは消えています。浦上の変化に佐王子も気が付いた様子です。目を細めて、
若い浦上の様子をじっと見つめています。

「佐王子さん・・、熱くなりすぎて、少し言い過ぎました。
おっしゃる通り、千春さんとあなたの間に横から入り込んだのは私です、
その意味で、あなたが私に文句を言うのは当然です・・。
私からあなたに文句を付けるのは、明らかに道理に反します。
それは認めます・・・

しかし、たとえ道理に反していても、すべての人から批判を浴びようとも、
人が人を好きになることを止めることはできません・・・・」

冷静に戻った浦上は、話の展開でも、話の筋でも、その道を踏み外したのは浦上自身だと気が付い
たようです。このままでは佐王子に寄り切られると危機感を感じ取っていたのです。謝るべきとこ
ろは素直に謝り、劣勢を立て直すことにしたのです。

「佐王子さん…、
あなたにはとうてい許せないことだと思いますが・・、
私は千春さんを愛してしまったのです。
この気持ちはどうすることも出来ません。

なたにとっては、迷惑この上ない話だと思いますが、
あなたの愛人である千春さんを私は愛してしまったのです。
千春さんの幸せを願うことでは、私とあなたは同じ立場に居ると思います。

そこで一つお願いがあります。
これから先、万が一、私が千春さんと離れることになって、
千春さんとあなたの関係がこのまま続くことになっても、
あなたに、絶対守ってほしいことなのですが・・・・、
聞いていただけますか・・・・・」

必死の表情を浮かべ浦上が話しています。佐王子が黙って頷いています。

「ありがとうございます…。
あなたは先ほど、『・・俺が先に手を付けた、俺の女だ・・』と言いましたね・・、
その他、この場で口に出すことさえできない、蔑みの言葉をたくさん使いました。

千春さんに少しでも愛情を感じておられるのなら・・、
いえ・・、千春さんのことを大切に思っておられるのであれば・・・、
いえ・・、あなたが千春さんを愛しているのは、僕には良く判るのです。
そうだからこそ・・、こうして申し上げているのです…。

千春さんを辱める言葉は使わないでほしいのです。
千春さんを人前で辱めるのは止めて欲しいのです・・・・」

やや怒気を含めながら浦上が話しています。苦笑を浮かべて佐王子が頷いています。心配そうな表
情で千春が浦上と佐王子を交互に見ています。

「あなたが本当に千春さんを愛し、千春さんもそれで満足して、私よりあなたを選ぶというのであ
れば、残念ながら、私は引き下がるより他に道はないと思います。しかし、あなたの話を聞いてい
て、あなたが判らなくなっています。私が引き下がることが千春さんの幸せに結ぶ付かないと思い
始めているのです・・」

佐王子を真正面から見つめて、浦上が渾身の気持ちを込めて話しています。

〈・・この男はなんていい顔をしているのだろう・・・!
この瞬間、惚れた女のために、すべてを捨てている・・・・・、
俺にもこんな時があったのだろうか・・・忘れてしまったな・・〉

焦点の合わない、遠くを見るような視線で浦上の顔を見ながら、佐王子は過ぎ去った昔を思い出し
ていました。

「男女の愛の形は人それぞれに違うことは、経験の浅い私にも何とかわかります。
それでも、私にはあなたの気持ちが判りません・・・。
あなたは千春さんを本気で愛しているのに、
その一方で、あなたは稼業の駒として千春さんを利用しています。

あなたの話通りであれば、5年間、千春さんは女の盛りを犠牲にして、あなたに奉仕した勘定です。
このままあなたとの関係を続けることが、
千春さんの幸せに結びつくとは、とうてい私には思えないのです・・」

静かに、明瞭な言葉で浦上は話しています。千春はやや面を伏せて、聞いています。佐王子は視線
を宙に向けています。二人それぞれに、浦上の言葉に深い感銘を受けているようです。


[28] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(158)  鶴岡次郎 :2014/04/19 (土) 12:26 ID:T3Gxc42E No.2509

かなり厳しく非難されているのですが、佐王子は何も反論しません。反論する材料がないのか、あ
るいは反論する意欲がないのか、いずれにしても佐王子は口を閉じたままです。酷くやられている
のですが、佐王子の表情は穏やかで、満足げな様子さえ見せているのです。千春は下を向き、肩を
震わせています。

千春の様子はともかく、佐王子の態度は浦上には不可解であり、不気味です。浦上は勝利を確信で
きないまま、最後の言葉を出すことにしたのです。まさに運を天に任せる心境だったのです。

「佐王子さん…、どうでしょう・・・
ここらで、千春さんを自由にしていただけませんか・・。
千春さんの幸せのために、決断してください…。

それとも、未だ絞り足りないというのですか・・・」

後には引かない毅然とした覇気を見せて浦上が言い切りました。冷静に戻った浦上に隙はありませ
ん、さすがの佐王子も反論できないのでしょうか・・・。

胸の内にあるものを全て話し終わった浦上がことをやり遂げた満足気な表情を浮かべ、佐王子を見
ています。挑戦的な言葉を投げかけられた佐王子ですが、なぜかこの場にふさわしくない嬉しそう
な表情を浮かべているのです。

「もし、私が千春を手放したら・・、
あなたはどうするのですか・・・?」

「どうするって・・・、
今、ここで、貴方にそれを言わなくてはいけないのですか・・」

「ぜひ、聞かせてください・・・、
千春も同じ気持ちだと思います・・・」

佐王子が千春をチラッと見て、ゆっくり語りかけています。千春がコックリ頷いています。どうや
ら佐王子の作戦に浦上はすっぽり嵌ったようで、ぎりぎりの瀬戸際に追い込まれ、男の本音を吐き
出す羽目に追い込まれた様子です。

「私の求婚を断った理由が・・、
今あなたから聞いた彼女の過去が原因であるというのなら・・・・」

ここで言葉を止めました。佐王子も、千春も、まさに固唾を飲んで、浦上の次の言葉を待っている
のです。浦上は目を閉じて、もう一度彼自身に問いかけていました。

「私はそんな過去を問題にしません。
私は改めて、千春さんに結婚を申し込みます・・」

冷静な声で浦上は答えていました。そして、心の内にいるもう一人の彼自身に、もう一度問いかけ
ていたのです。

〈本当にそれでいいのだね・・、
売春婦の千春を妻に出来るのだね・・〉

自分自身に問いかけ、涙を流し、浦上をじっと見つめている千春を見て、浦上は自分に迷いがない
ことを確信していたのです。

「判りました・・。
今日を限りに私は千春から手を引きます。
私から千春の過去を暴き立てることを勿論しません。
それに、誰かが少しでも千春の過去に触れようとしたら、連絡してください。
私が身を呈して、それを防ぐことをお約束いたします。
それが、せめてもの私のお礼奉公です…」

そのタイミングを待っていたようにすらすらと口上を述べ立てる佐王子を見て、ようやく佐王子の
真の狙いに浦上は気が付いていました。まんまと彼の罠にはまり込み、本音を吐き出したことに気
が付いているのです。勿論悪い気分ではないようです。


[29] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(159)  鶴岡次郎 :2014/04/20 (日) 14:55 ID:b/c3IKNs No.2510
千春がそっと右手を伸ばし、浦上の左手をつかんでいます。それに気が付いた男が右手を女の手の
上に載せています。男と女は黙って視線を絡ませ会っています。女の瞳に涙があふれ、水滴が頬を
伝って、きれいな顎から滴り落ちています。男がハンケチを出して、女の頬をぬぐっています。女
が微笑み、男が笑顔でその微笑みに応えています。

目の前で繰り広げられる控えめな男と女の行為を佐王子は黙って見ていました。この喫茶店に入って
から初めて・・、いや、おそらく彼の生涯でも数えるほどしかないと思いますが、胸の内をあからさ
まに表情に表わしているのです。今にも泣きだしそうな、悔しさを抑えきれないような、それでい
て、慈愛を含んだ、あきらめを感じ取った、満足げな表情を浮かべているのです。

二人にしばらくの時間を与えて、頃合いを見て佐王子がゆっくりと口を開きました。

「私の出番は終わったようなので・・、
ここで失礼します・・」

「アッ・・・・佐王子さん・・、
えっ・・、帰るのですか・・、
そうですか・・・、本当にありがとうございました・・」

二人の世界に入り込んでいた男と女は、今更のように佐王子の存在に気が付いて、びっくりして佐
王子を見ているのです。さすがに、千春があわてて、感謝の言葉を告げています。千春の慌てた様
子が、とってつけたような感謝の言葉が、佐王子の胸にぐさりと突き刺さっていました。

〈俺の存在を忘れるほど舞い上がっているのだ・・、
いいよ・・、いいよ、
俺のことは忘れてくれ・・、
それがお前の幸せにつながるのだ・・〉

愛に溺れた男と女は時として、周囲にいる善良な者を知らず知らずに傷つけることがあります。こ
の時の佐王子がまさに愛する二人の犠牲者なのです。勿論二人はそのことに気が付いていません。
佐王子も傷つけられたそぶりさえ見せないのです。

「浦上さん・・、
今日は失礼なことを数々申し上げましたが、
これすべて千春を愛するが故に口に出したことです。
浦上さんであれば私の気持ちはお分かりいただけると思います・・・。
では・・・、これで・・・」

いろいろ言いたいことはあるはずですが、好敵手に敗れた侍の様に、恨み言も、捨て台詞もなく、
むしろ、あっけないほどあっさりと別れの言葉を言い切り、浦上に一礼して、佐王子は立ち上がろ
うとしました。

「佐王子さん・・!
チョッと待ってください・・・」

浦上が声をかけました。立ち上がりかけた腰を下ろし、佐王子が浦上の顔を見ています。一呼吸を
置いて、浦上が口を開きました。一言、一言、言葉を選びながら、慎重に語り始めました。

「佐王子さん・・、一つ教えてください・・・・
売春のこと・・、貴方が言わなければ・・、
僕はそのことを永久に知ることはなかった。

あなたの愛人だと・・。
それだけ言えばすむ話ではなかったのですか・・・」

「確かに、私が言わなければ、千春さんも自ら進んで自身の恥を話すことはしないでしょうから、
秘密は表に出ることはなかったと思います。

それなら、何を好んでそこまでさらけ出したのか・・・・。
当然の疑問ですね…、さすがは浦上さんです・・」

佐王子が一応感心して見せています。

「私も、随分と考えました・・。
結局、全てを話すことにしたのです・・・。
それは、千春の・・、いえ・・、千春さんの幸せを考えた上でのことです」

「千春さんの幸せを考えた上ですか…、
僕にはそうは受け取れませんでした・・・。

はっきり申し上げると、最初は僕に対する嫌がらせだとさえ思いました。
私を千春さんから遠ざける作戦だと受け取りました。

そして、今回の三者会談が佐王子さんの演出だと判った今でも、
千春さんの過去をそこまでさらけ出す必要はなかったのでは・・・、
この思いは捨てきれません・・・・」

何か感じるところがあるのでしょう、浦上が執拗に質問を続けています。佐王子も浦上の質問の狙
いをある程度理解している様子で、かなり慎重に構えています。どうやら男二人の勝負はまだ終
わっていない様子です。


[30] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(160)  鶴岡次郎 :2014/04/21 (月) 15:55 ID:UV5e0h7o No.2511

この質問が出てくるのを佐王子は予想していました。そしてもちろん、説得力のある答えも準備し
ているのです。ただ浦上の様子を見て、適当にあしらえる相手でないと判断したようで、佐王子は
言葉を選びながらゆっくりと話し始めました。どうやら、彼の説明で浦上を完全に納得させる自信
がないようです。

「浦上さんがそう受け取ったのは当然です。
あなたを少しイラつかせて、本音を引き出すつもりだったのですから・・・。
やや、過激な言葉を使ったことは謝ります。

あなたの質問の件ですが、お二人の将来を危うくするようなことは言いたくなかった、
出来ることなら、このことは千春さんと私だけの秘密にしておきたいと思っていました。
千春さんも多分そのつもりだったと思います。

いろいろ考えた結果、秘密をお話しすることが千春さんにとってベストだと思ったのです・・、
それで千春さんの了解も得ないで、私の独断でお話ししたのです」

「そうですか・・、千春さんのためを思ってのことですか…、
だめですね・・・、私にはやはり納得できません…。

ご覧の様に、未熟者ですから、佐王子さんの本心が良く理解できません。
面倒なことをお願いするようで申し訳ありませんが、
経験の乏しい僕にも判るように説明いただけませんか・・・」

佐王子に対する浦上の評価がかなり好転しているのです。見かけによらずしっかりした考えを持った
男、彼の職業や、見かけで判断した以上にできる男だと浦上は佐王子を評価しているのです。言葉
使いも丁寧になっています。経験の深い先輩に教えを乞う姿勢さえ見せているのです。

「もし私が売春のことをあなたに伏せていたら・・・、
千春は・・、いえ・・、千春さんは・・、
一生その秘密を抱えて、あなたと暮らすことになる。
そんな苦労を、彼女にさせたくないと思いました・・・」

浦上が頷いています。

〈そのことは勿論考えた…、
最愛の夫には勿論、誰にも話せない秘密を抱えて生きることは、確かにつらいことだ、
しかし、秘密を話せば僕が彼女を見捨てることを、心配しなかったのか・・

どちらを取るか・・、難しい判断だ・・・・
僕なら、この場は秘密を守る道を選ぶと思う・・・・〉

浦上の釈然としない表情を見て、佐王子は少し慌てていました。

「私がその秘密を話して、それで離れて行く男であれば・・、
浦上さんはそれだけの男だと・・、
あなたを取り逃がしても・・、
千春さんにとって惜しい男ではないと思ったのです・・。
千春さんにはもっといい男が似合うと思ったのです・・・」

そこで佐王子は口を止め、いたずらっぽ笑みを浮かべて浦上を見て、そして視線を千春に向けま
した。千春の瞳から涙があふれていました。それでも、必死で泣くのを我慢しているようです。

〈驚いた・・・、この人は僕の心を読み切っている…、
僕が不審に思っている事実をズバリと突いてきている…
この人にはかなわない・・、
釈然としないが、佐王子さんには悪気がないようだから・・、
これで良しとしよう…〉

佐王子の説明に浦上は苦笑を浮かべて大きく頷いています。ようやく納得した浦上を見て、佐王子
が何度も、何度も頷いています。


[31] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(161)  鶴岡次郎 :2014/04/23 (水) 16:22 ID:z32FHhMA No.2512

佐王子に笑みを返しながら、浦上はまだあきらめきれないようで、佐王子の言葉の裏を探っていた
のです。

〈佐王子さんの説明は一応筋が通っているが…、
それでも、売春のことを口にして良い理由としては軽すぎる…、

その一言で、私は千春さんをあきらめていた可能性もあった、
その一言で、千春さんが望む結婚話は消える可能性が高かったはず、
これほど重大な秘密をバラすには、それなりのもっと深い理由があるはず。
佐王子さんは本当の理由を隠している…、そうに違いない…

そうか…、もしかすると…、
千春さんと結婚する僕に、そのことを知らせる必要があった・・、
そうだ・・、それだ・・、そう考えると全ての謎が解ける・・・、

では、その必要性とは何だ・・・、
破談の危険を犯しても、売春のことを僕に告げる必要性とは…
判らない・・・・〉

浦上と結婚したいと望む千春の希望を聞き、佐王子は初めから千春と浦上を結び付ける積りで、今
日の会見を自作自演したのです。そうであれば、千春と浦上の縁談話を根底からつぶしてしまう可
能性を秘めた売春の件を、あえて口に出すのは少し変だと浦上は考えたのです。千春と口裏を合わ
せて隠し通すことだって出来たはずで、むしろ、そうするのが普通の選択だと浦上は考えたのです。

確かに、佐王子の説明はなかなか説得力のあるものですが、浦上はそれだけでは納得していなかった
のです。勿論、佐王子が悪意を持って、本当の理由を隠しているとは疑っていないのですが、ある複
雑な理由があって、佐王子は本音を今は隠していると浦上は考えているのです。

浦上が複雑な悩みを抱えていることなど気づかない様子で、佐王子は真正面から浦上を見つめて、少
し改まった口調で口を開きました。

「あなたは私の予想を超える素晴らしい方でした。
千春のこと、安心して任せることができます。
よろしく、お願い申します…」

佐王子が浦上に深々と頭を下げています。浦上も頭を下げています。千春を見て、佐王子がやさし
い口調で言葉を出しました。

「千春・・、良かったな、いい人に巡り合えて・・、
もう・・、会うことはないと思うが、今まで、本当にお世話になった・・・。
幸せになるんだよ・・・・」

「佐さん・・・、佐王子さん…
私こそ、…本当にお世話になりました…。
うう・・・・」

もう・・、千春は堪えることが出来ないで、テーブルの上に泣き崩れました。店に居る他の客が何
事かと彼らを見ていますが、男二人が笑みを浮かべているのを見て、トラブルでないと判断した様
子で、騒いだりしないで静かに見守っているのです。

「では・・、私はこれで失礼します・・」

佐王子が立ち上がり、千春と浦上も遅れて立ち上がりました。三人は丁寧に頭を下げて別れのあい
さつを交わしました。そして、その場で潔く背を向けた佐王子が出口へ向けて大股で歩き始めまし
た。

ぼんやりと佐王子の背中を見つめながら、浦上はまだあの事を考えていたのです。

〈なぜ・・、売春のことを僕に話す必要があたのだろう・・
これで・・、秘密は闇に葬り去れるのか…、
時間が経てば、いずれ忘れるだろうが・・、気になるな・・・・〉

奥歯に物が挟まったような、そんなすっきりしない気持ちで浦上は佐王子を見送っていました。


[32] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(162)  鶴岡次郎 :2014/04/25 (金) 13:03 ID:eNnkX25c No.2513

二、三歩、歩いたところで突然佐王子が立ち止まり、振り向き、笑顔で浦上に声をかけました。

「浦上さん・・、
言い忘れたことがありました・・、
ちょっといいですか…?」

立ち止まったまま手招きしているのです。浦上が立ち上がり、佐王子のところへ歩み寄りました。
千春に聞かせたくない話があると判断したのです。

声を潜めて、浦上の耳に顔を近づけて佐王子は話しています。笑みを浮かべて話しているので、仲
のいい友達が別れ際に、人には聞かれたくないきわどい話を交わしているように見えるのです。千
春も首をかしげ、笑みを浮かべ、男二人を見ています。どうやら、千春には佐王子のささやき声は
届いていない様子です。

「今からお話しすることは私とあなただけの秘密です。
勿論、千春さんにも聞かれたくないことです。
緊張しないで、不自然でない程度に笑みを浮かべて聴いてください・・」

佐王子に呼ばれて、ある期待から全身に緊張感をにじませていた浦上が肩の力を抜き、笑みを浮か
べて男同士のたわいない戯言を聞いている雰囲気を出しています。

「浦上さん…、
売春の件をあえて暴露した理由(わけ)を・・・、
あなたは納得していませんね…」

びっくりした表情で浦上が佐王子の顔を見ています。まさかそこまで読まれているとは思ってい
なかったのです。

「そんなにびっくりした顔をしてはダメです…、
笑って、笑って…、そうです・・」

「驚きました…。
判りましたか…、
佐王子さんには、本当にかないませんね…」

「お客の表情を読むのが私の仕事ですから・・」

「若造の考えていることなど、
あなたにとってはすべてお見通しってことですかね・・・」

すこしすねた表情を浮かべて浦上がつぶやき、佐王子がにっこり微笑んでいます。

「私は先ほど申し上げたように女衒です。
女のことは、女本人よりよく知っているつもりです・・
女の体を売り買いする女衒の私から見て、千春さんは千人・・、
いえ、多分、数万人に一人の女性です。

数知れない女性を抱いてきた私でも・・、
彼女ほどの女性は彼女と他一名しか知りません。
その意味で、あなたは選ばれた幸運な男性です・・」

予想外の、大変な話になりそうな予感で浦上は、体が震えるほどの緊張を感じていました。そして、
佐王子が今まで隠していた本音をいよいよ話し出すのだと感じ取っていたのです。


[33] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(163)  鶴岡次郎 :2014/04/26 (土) 15:29 ID:QVyeAXME No.2514

佐王子に言われたとおりそれまではにこにこ笑っていたのですが、佐王子がいよいよ核心に触れる
内容を話し出すと判ると、笑みを忘れて、佐王子を睨み付けるように見ています。無理もありませ
ん、これから結婚しようとする女の隠された性、それもかなり突飛な性を、この4年間千春をさん
ざん弄び、彼女を売春婦に仕立て上げた憎い50男から聞かされるのです。浦上が平静状態を保て
ないのは当然です。

「浦上さん、そんな怖い顔をしてはいけません、
笑いを絶やさないようにしてください。
くだらない冗談を聞かされているふりをしてください」

佐王子の注意を受けて、また浦上が笑い顔を作っています。

「一流靴店に勤めている女性がその一方で売春をしているのは、
だれが考えても破廉恥で、異常なことですよね、
普通こんな恥ずかしいことは、誰にも話しませんよね、
まして、相手が結婚相手となれば、なおさら、この秘密は隠します。

それにもかかわらず、彼女をそうした境遇に落とした張本人の私が、
あえてその秘密を、婚約者であるあなたに話しました。
何故そんなことをした・・、そんな秘密を暴露する必要はなかったと・・、
誰でも不思議に思いますよね・・・。
あなたが、そのことで私を詰問したのは当然です・・・」

浦上が軽く頷いています。

「私の説明で納得してほしいと思ったのですが・・、
案の定、頭の切れるあなたは私の説明では満足していなかった。

私があえて、千春の秘密をあなたに話したのは・・・、
千春と結婚するあなたには、千春の本性を知ってほしい・・、
知るべきだと考えたからです・・・」

必死で笑顔を作っていますが、浦上の視線は宙を漂っているのです。彼の頭の中で様々な考えが駆
け巡っているようです。

「売春稼業を始めさせたのは私です・・・。
その意味で、この場で、あなたに殴り倒されても私は何の文句も言えません、

しかし・・、
今から申しあがることは決して私自身の犯した罪を擁護するためのものではなく、
あなたと千春さんの幸せを考えた上でのことだと、理解して欲しいのです。

もし私がその道を付けていなかったら・・・・、
今頃、彼女はもっとひどい環境で、
どこかの風俗店でその稼業をやっている可能性が高いのです。
おそらく、そうであれば、あなたとの結婚話が出ることはなかったでしょう…」

佐王子が手引きをしていなかったら、千春は堕ちるところまで堕ちたはずだと、佐王子は言ってい
るのです。これが佐王子の言い訳でないとすると・・、釈然としない気持ちなのですが、浦上はた
だ黙って聞いていました。


[34] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(164)  鶴岡次郎 :2014/04/29 (火) 11:01 ID:HSnIyvu. No.2516
かなり思い切ったことを言ったので、怒りや、拒否反応を見せるのではと、佐王子は心配して、浦
上の様子を探っているのです。

〈おや・・、この若造…
見込んだ通り中々の男だ…、
この程度の話では狼狽えないようだ…〉

質問も、文句も、口に出しそうにないのを察して、佐王子はゆっくりと口を開きました。いよいよ
核心に触れるつもりのようで、珍しく彼の表情が少し固くなっているのです。

「彼女は特別な女性であることを忘れないでください・・。
言い換えれば・・・、そう・・・・、
その家業をやるために生まれてきた女だと言っても過言ではありません」

ここまで露骨な話を聞かされても、浦上は少し笑みを浮かべて、宙に視線を漂わせている姿勢を変
えないのです。佐王子の話に耳を傾けているのは確かなようで、話が途切れると、次を促すように
佐王子を見るのです。むしろ、慎重に言葉を選んでいる佐王子の方が緊張気味です。

「勿論・・、彼女自身はそのことについて自覚していません・・。

残念ながら、この世の中は彼女のような女性が生きてゆくにはあまり制約が多すぎます・・・。
実を言うと、私の稼業でも、彼女のような女は生き辛いのです。
そのことがあまり好きだと、商売が商売でなくなり、やりすぎて体は勿論、精神までも壊すことに
なるのです。何事も、ほどほどが良いのですよ・・・。

多くの男は彼女のような女を求めながら、いざ、その女を手中にすると、
自分では意識しないで、その女の魅力を封じるようになるのです。
女を十分喜ばせることができないのに、
狭い檻の中に縛り付けるのが、男なんですよ…・」

ここで、大きく息を吐き出し、佐王子は卑屈な笑みを浮かべて、浦上に同意を求めるようなしぐさ
を見せています。浦上は姿勢を崩しません。

「他の男には目もくれないで、一人の男性を守って生涯暮らしてゆくことは・・・、
おそらく・・、彼女自身は一生懸命頑張ると思いますが・・、
不可能に近いことだと思います・・。

一般的な意味での結婚生活を立派にやり遂げようとすると・・・、
いずれ・・・、彼女は心に重篤な病を持つようになるでしょう・・」

ストレートな表現を好む佐王子ですが、この時ばかりは遠回しに、核心をずらせて話しているの
です。そのうえ、言葉を選びながら話しているので、話がとぎれとぎれになっています。

「佐王子さん…」

じれた浦上が不満そうな表情を浮かべています。ついに、口を開きました。それでも笑みを浮かべ
ているのは立派です。

「おっしゃっている意味が今一つよく理解できません・・・、
私なりに、あなたの言葉の裏を無理に理解すると・・、

将来・・、それもかなり近い将来・・・
彼女の思いにかかわりなく・・・、
千春さんは、いずれ売春婦に戻ることになると・・、

あなたはそう思っているのですか・・?」

「・・・・・・・」

浦上の質問に、佐王子が黙って頷いています。


[35] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(165)  鶴岡次郎 :2014/04/30 (水) 13:57 ID:sFSlN1hE No.2517

二人の男は黙って見つめあっていました。短い言葉のやり取りでしたが、意図は浦上に完璧に通じ
たと佐王子は感じ取っていました。

〈この若造・・、
見かけもなかなかの二枚目だが・・・・
頭も切れるようだ・・・、
俺の言っていることを間違いなく受け止めたようだ…。

さて・・、そこまで知った上で、千春を嫁に出来るかな…、
今、しきりに考えているようだが、どんな結論を出すか、楽しみだ〉

浦上の視線は自身の胸の内に向けられ、佐王子から得た新らたな情報によって自身の決意に変化が
生じていないか、注意深く確かめているのです。

〈娼婦になるために生まれた来た女…、
万に一人の女・・、
僕はそんな女に惚れたらしい・・・・。

一目で惚れた時点で、僕には千春以外の選択肢はなくなっているのだ…。
どこまで行けるか判らないが、行き着くところまで行こう…、
先のことを考えるより、先ず、彼女に溺れる生活を楽しもう・・・〉

短時間で浦上は結論を出していました。晴れやかな表情で佐王子に向かって大きく、力強く頷いて
いました。佐王子は・・、目を潤ませて、何度も・・、何度も頷いていました。

「私のアドレスです。いつでも連絡をください。
千春さんのことで相談に出来るのは、私だけだと思ってください・・
私が今日話したことが少しでも気になる現象を目にしたら、
迷わず、必ず一報ください・・。
早期発見が大切です…、
対処方法を誤ると、みんなが不幸になりますから・・・」

謎のようなささやきとメモ用紙を残して佐王子は足早にレストランを出て行きました。


「何を話していたの…、
ずいぶんと楽しそうだったけれど…」

席に戻ってきた浦上に千春が質問しています。

「いや・・、男同士のたわいのない話だよ・・」

「何・・、聞きたい…、
私には話せないこと・・」

「そうでもないが…」

不自然に隠すと、馬脚を現すことになると浦上は考えました。

「千春さんの好きなラーゲは・・、
後ろからだと佐王子さんが教えてくれた・・」

「エッ・・・、嘘・・、そんなこと話し合っていたの…、
スケベー…、嫌ね…、
男の人っていつもそんな話をしているの・・・、
ねえ・・、他にも何か言っていた…」

「後ろからしながら、前を触るといいと教えてもらった。
その他、いろいろ教わったが・・、
それはその場になれば実戦で千春さんにも教えます、

佐王子さんは言っていた・・。
・・・とにかく好き者だから・・、
夜のサービスを欠かさないようにと言われた・・」

「あら・・、あら…
大変なお話ね・・、
ねえ・・、それで、三郎さんはどう答えたの…」

「頑張りますと、言ったさ…」

千春が大声で笑い出し、浦上もつられて笑っていましたが、佐王子の残した言葉が大きく彼の上に
乗しかかっていました。それでも、千春を幸せにできるのは彼自身だとの思いにすこしの迷いもあ
りませんでした。


[36] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/04/30 (水) 14:11 ID:sFSlN1hE No.2518
章が変わりますんで、新スレを起こします。  じろー


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フォレストサイドハウスの住人たち(その5) - 現在のレスは32個、スゴイ人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2013/12/02 (月) 15:01 ID:JeEqyR.Q No.2439
高級靴店でシューフイッターをしている秋吉春美は里の両親がお膳立てをしてくれた伊熊正太郎
とお見合いをしました。彼は二人の子供を残して奥さんに先立たれた農業を稼業とする50男で
す。アラフォーに差しかかったとはいえ初婚で美人の春美がこの縁談に乗るとは、話を勧めた実
家の両親も期待していませんでした。しかし、大方の予想に反して春美は正太郎に一目ぼれして
しまいました。春美がその気になったのであれば、善は急げとばかりに、お見合い当日、仮祝言
を挙げて二人は夫婦となったのです。

春美自身も気がついていなかったのですが、春美の女性器には生まれつきの不具合が潜在してい
て、初夜の営みで正太郎の超巨根を受けいれることが出来ませんでした。正太郎に励まされて手
術を受けました。春美の症状はよくある症例で、手術そのものも簡単で、その結果、春美は初め
て『女の喜び』を知ることになりました。この一連の事件が春美と正太郎をよりいっそう強く結
びつけることになったのです。

さて、春美には何事も話し合い、助け合ってきた同じ店で働く友人、加納千春がいます。『・・
・私などとは異なり、千春は女として凄い感性に恵まれている、その感性の使い方を一つ間違え
ば奈落の底へ転落する心配がある、心許して付き合う男は慎重に選ぶのだよ・・・』と春美はこ
とある毎に千春にアドバイスしてきました。春美が寿退社してしまうと春美は一人取り残される
ことになります。感性豊かな、言い換えれば男好きでスケベーな千春は一人残されたのです。千
春のこの先が心配です。この章では、少し時間をかけて、千春の行く先を、どんな男との交流が
待っているのか、ゆっくりと追って行くことにします。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[23] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(123)  鶴岡次郎 :2014/02/05 (水) 12:25 ID:UJWHxZXs No.2467
男が素直に犯行を自白した本音が判ったことで、店長はかなり余裕を取り戻していました。もし、
男が犯行を否認したら、どう決着をつけようか思案がまとまっていなかったのです。

〈こんな男でも、親分に責められるのが恐いのだ・・、
しっかりした組織のようだから、このことがバレたら、軽くて一年の降格、
再犯であれば、一番下のチンピラまで降格されるかもしれない・・、
いずれにしても、この男の弱みを掴んだ・・・・。

それにしても・・、恐れていたことが現実になった・・。
さて・・、どうするか・・・、
幸い、この男はそのことをネタにして脅かしをかけるつもりは無い様だ・・、
そうであれば、口を封じるだけでいいことになるが・・・・・〉

お客が素直に罪を認めた真意が判り、店長はほっとしながらも、お客の言葉に愕然としていました。
男の言葉どおりであれば、加納千春ならセクハラ行為を易々と受け入れると、お客の知り合いから
面白おかしく教えられ、千春のカラダ目当てにこの店に乗り込んできたのは確かなのです。

それまで、千春達の破廉恥な行為をうすうす知りながらも、好調な売り上げを維持するため黙認し
てきた店長ですが、その行為を初めから期待して来店するお客がいることを初めて知ったのです。
その行為がお客の間にかなり知れ渡っていることを店長は悟ったのです。一番恐れていたことが現
実になったのです。

〈店員達の破廉恥な行為このまま放置すれば、やがて噂が噂を生み、店員の身体を餌にして営業を
しているいかがわしい店の烙印を押され、本社からきついお叱りを受け、閉店に追い込まれること
になる・・・。

人知れず、この問題を解決したい・・、今なら何とかなるはずだ・・・〉

店長は宙に視線を向け、目の前に居る南の事を忘れて、店員達の不祥事の始末方法を考えることに
夢中になっていました。

「店長・・、どうだろう・・、
これで許していただけるだろうか・・」

「アッ・・、そうでしたね・・」

我に帰った店長が目の前に居るお客、南に微笑みかけています。先ずこの男の処分を決め、それか
らこの男の口を封じなくてはいけないと、店長は考えました。一見してまともな稼業の男には見え
ないですが、話せば判る男だと、店長は判断したようです。

「私どもの店員が新人で、お客様のからかいに対して、やや過剰な反応をしたにもかかわらず、正
直にお話しいただき、その上、そのことを十分反省されていることが良く判りました。私共がこれ
以上、申し上げることは何もありません・・。

私共にとっても、お客様にとっても、今回の事は名誉なことではありません・・、
いろいろ考えたのですが・・・、
お客様さえ納得いただけるなら、全てを水に流したいと思っております・・・。

お客様、今回の事は全て・・、忘れてください・・・。
私共も、今日起きた事は全て忘れます・・。

そして、このお金は引っ込めてください。
何もなかったことに・・、
あの子には私からも良く言っておきます・・」

テーブルに置かれたお金を押し戻しながら店長が笑みを浮かべて言っています。ビックリした表情
で男が店長を見ています。

「無罪放免なの・・・、そう・・、そう言っていただけると・・、
俺としては有難いのだが・・、何だか悪い気がするネ・・・、

判った・・、店長のご好意に今回は甘えることにする・・」

そう言って、男はテーブルの上のお金を取り上げ、ポケットに納めました。男の動きとその表情を
店長が油断なく探っています。次に男へ突きつける要求の成否を店長は探っているのです。


[24] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(124)  鶴岡次郎 :2014/02/07 (金) 12:17 ID:a/6MC0Is No.2468
店長が頭を下げています。

「さっそくご了解いただき、感謝申し上げます。
これから先も、当店をよろしくお引き立てお願い申します。
そして、勿論・・、あのようなお戯れは今回限りということで・・、
このことも、よろしくお願い申します」

「ハハ・・・、参ったね・・、
判った・・、これからは気をつけるよ・・」

「ところで、お客様さま・・・、先ほどの南様のお話では、お知り合いの方が加納千春をご贔屓
(ひいき)にしていただいていると言うことで、彼女のことをお知り合いから紹介を受けたと
おっしゃっていましてね・・・」

満面に浮かべていた笑みを消し、少し姿勢を改め、店長は男を真正面から見つめ、口を開きました。
店長のただならない様子を感じ取り、男は迎え撃つ姿勢を見せています。

「南様・・・、

失礼を承知で申し上げます。もしかすると・・、加納ならあのような戯れを受け入れるはずだと
南様はお仲間の方からそう教えられたのではありませんか・・?

それで、南様は佐藤も加納と同類だろうと思われて手を出された・・・・。
私はそういう風に推測したのですが・・・、間違っているでしょうか・・?」

迷った末に店長はストレートに本題に入ることにしたのです。普通の人間と異なり、この種の男に
は言葉を飾らず、ストレートに質問をぶつけ、その反応を見る、こうしたやり方がいいと店長は判
断したのです。案の定、露骨な質問にも男は驚きを見せないで、ただ黙って頷いています。店長の
言葉を全て認めているのです。

「やはりそうでしたか・・・」

店長は落胆の様子を隠そうとしません。男がそんな店長の様子をじっと見ています。

「どうやら、お客様も、そして、お客様のお仲間も大きな誤解をされているようです。そして、お
客様にそうした誤解を与えたことを私は今、大いに反省しております。

よろしければ、少しお時間をいただいて、私の説明を聞いていただきたいのですが・・、
ありがとうございます・・」

沈痛な面持ちで低い声で、店長が語っています。南は熱心に耳を傾け、大きく頷き、店長の話を聞
く姿勢を見せています。

「加納千春は当店を代表する優秀なシューフイッターで、技術、接客態度共に優秀で沢山のお客様
からご好評をいただいております。私から見ましても、彼女は情のこもった接客をしますので、お
客様からたいそう可愛がれ、ご指名をいただく回数も店では常にトップクラスです。

お客様によっては興に乗ると、セクハラに近い悪戯を仕掛けたり、女の子が聞くと恥ずかしがる戯
言を言う方も結構多いのです。そんな時、彼女は嫌がらず、優しく応えますので、時々、お客様が
誤解をされて、軽い悪戯が更に進行することがあります。そうなるとセクハラ行為そのもので、い
かに大切なお客様でもそうした行為をされたのでは出入りを止めていただくことになります。

彼女はそんな時でも、上手くいなして、大きな騒動を起こしたことがありません。お客様に喜んで
いただけるなら、多少のわがままは黙って受け入れようと加納は考えているようなのです。

多分、南様のお知り合いの方は、そうした加納の接客を受けて、彼女を軽い、遊び好きの女だと誤
解されたのだと思います。それでお仲間の南さんにもそのことを得意げに話されたのだと思います・・・」

ここでも男は黙って頷いています。

「加納千春は南様のお仲間が考えておられるような女では、決してありません。

多分、お友達は南様と同様イケ面で、もてるタイプの方だと思います。そんなすばらしい方をお客
に迎えて、加納が商売気を離れて奉仕したとしても不思議はありません。多分、普段はしない特別
サービスをしたのかもしれません。加納も生身の女ですから、いい男を見て多少の行き過ぎたサービ
スをしたからと言って責めるわけには行かないと私は考えています。

南様のお仲間は大切なお得意様ですが、私共の店員が誠心誠意で接客した態度を誤解され、根も葉
もない噂話を他人に吹聴されてはとても困るのです。

加納にしても、商売気を離れて奉仕した結果を面白おかしく他人に話されては可愛そうです。もし
彼女がこの話を聞けば、きっと悲しむと思います。せっかくの女心が汚されたと思うでしょう・・」

ここで言葉を切り、店長は南の様子を注意深く観察しています。ここで、南が店長の説明を否定し、
『・・しかし、私の知人は加納千春と何度も寝たことがあると教えてくれたよ・・、この事実はど
う説明するの・・?』と、言い張り、反撃に出てくるようなら、その時は、南と真っ向勝負で、厳
しく迎え撃つ覚悟を固めているのです。

店長の危惧は空振りで、南は店長の顔を見つめたまま、何度も頷き、店長の説明を全面的に受け入
れているのです。


[25] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(125)  鶴岡次郎 :2014/02/11 (火) 17:00 ID:c1q096I2 No.2470

男を真正面から見つめて店長は笑みを浮かべています。しかしその瞳は鋭く光っているのです。並
みでない店長の迫力を感じ取り、男の顔から笑が消え、店長の顔をじっと見ています。

〈・・この店長・・・、
先ほどから素人とは思えないほど落ち着いている・・・。
何処から見ても、明らかに遊び人と見える俺に対応していながら、
恐れるどころか、俺を見下してさえいる・・。

そして、今見せているこの迫力・・、
今は大人しく店長に収まっているが・・・、
元をただせば、ただ者では無いだろう・・・

ここで無理押しをすれば、この店長のことだ、何を言い出すか判らない。
ほぼ目的は達成したことだし、おとなしく引き下がる時だ…」

店長の表情、態度から、男は自身と同じ匂い、それもかなり強い匂いを感じ取り、姿勢を正してい
るのです。

「こうした話は、酒の席でよく話題になるが、本当だったことが一度もない・・、
俺としたことが、そんな話に乗って、ノコノコ出てきたことが恥ずかしいよ・・

良く考えれば・・、これほどの名店で、
安キャバレーのようなおふざけが許されるはずがないのだ・・、
俺が甘かったよ・・。

知人から聞いた加納千春さんの話は全部忘れることにする。
勿論、知人にもそのことを良く伝えておく・・。

あの子・・、佐藤薫さんといったね、酷いことをしてしまった。
店長からよく謝っておいてほしい。
出来れば全て、忘れてほしいと伝えてほしい・・、
店長このとおりだ、今回のことは堪忍して欲しい・・」

男が深々と頭を下げ、店長がそれに応えて深々と頭を下げています。互いに相手の気持ちが良く
判っているようです。店の玄関まで男を送って行った店長が男の後ろ姿に深々と頭を下げていま
した。


その日、閉店を30分早めた店長は全店員を集め、今日発生したセクハラ事件を公表しました。

「佐藤君はお客様のセクハラ行為に堪えながら、騒ぎ立てることなく、やんわりとお客の手を振り
払い、私に電話をしてきた。この時点で、お客はまずいことになったと反省をはじめていたと思う。

私がヒヤリングすると、深く行為を恥じ、反省をしたお客はお見舞金を差し出し、佐藤君に謝りた
いと言い出すまでになっていた。

勿論、お客様のお気持ちだけはありがたくいただいて、お金は受け取らなかったが、反省を示した
お客様の気持を佐藤君が理解してくれて、そのお客を許すと言ってくれた」

店長は佐藤薫の勇気ある行動と、敏速な対応を絶賛しました。出席している店員全員が拍手をして
いました。

「はっきり言って、皆さんの技術プラス皆さんの魅力の両方がこの店の売りです。魅力のある皆さ
んですから、これから先も、何かとお客様が悪戯を仕掛けることがあると思います。その時は、お
客様を悪者扱いには出来ません、酷い事態にならないよう、やんわりと抵抗して逃げてください。

お客様が非常に魅力的であったり、あるいは皆さんの気持が異常に高ぶっていて、お客の誘いをあ
る程度までなら受け入れようと、限度を超える接待したいと思うことが起きるかもしれません。

お客様と淫らな関係を持つ事は、皆さんに限って、絶対ないと信じておりますが、店長の立場から
ひと言、注意しておきたいと思います・・・」

そこで言葉をとめて、店長は全員を見回しています。次に店長が何を言い出すのだろうかと皆が固
唾を呑んでいます。中でも、すねに傷を持つ店員達はまともに店長の顔が見られなくて、視線を床
に向けています。


[26] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(126)  鶴岡次郎 :2014/02/16 (日) 17:23 ID:LkIBhYdg No.2472

半数近くが店長と視線を合わせていないのです。店長の顔をまともに見ることができない店員の数
が予想以上に多いことを知り、店長は愕然としています。

〈・・なんと・・・、半数近くがお客と通じているのか・・、
加納千春と・・、彼女の他、多くても二、三人と思っていたが・・・・、
清楚の容姿を見せている、立花佳代までもか・・〉

全身が震えるほどの戦慄を感じながら、それでも笑みを浮かべて店長は全員を見回していました。

〈加納千春を中心にした二、三人を処分すれば恥ずかしい事実を葬り去ることができると思ってい
たが・・・、店員の半数がこの問題に関与しているとなると・・・、
関係者を全員処分することはできない、そんなことをすれば、店をつぶすことになる。

では・・、どうすればいいのか・・・・〉

結論が出ないまま店長はゆっくりと口を開きました。

「その昔、聞いた話ですが、ある店でお客と不自然な関係に陥った店員がいました。彼女はもとも
と優秀な店員だったのですが、悪いお客に騙されたのだと思います。そのお客にそそのかされて、
他のお客にも限度を超えて媚を売り、時には自分の体を提供するようにさえなったのです。

その店員は仲間の店員に誘いかけ、同じ様な行為をさせるようになりました。そうなると、短期間
にほぼ半数の店員がそうした行為に走るようになったのです。

しかし、いつまでもそのことを隠し通すわけには行かなくて、お客の口からそのことが洩れて、噂
が噂を生み、あっと言う間に、その店はいかがわしい風俗店のように見られることになったのです。

そうなると、良いお客は逃げ出し、そのことが目的のお客だけが来るようになり、その店は通常の
商売が出来なくなり、廃業に追い込まれました。働いていた店員たちは、真面目に働く意欲をその
時既に失っている者が多く、結局大部分の女性が風俗関係に身を落としたと聞いています。

これは作り話ではなく、実際にあった話です・・・」

全店員が店長の顔を見つめ、熱心に耳を傾けています。

「最初に申しあがたように、私たちは非常に誘惑の多い職場で働いています。そして、皆さんは紛
れもなく魅力ある女性です。少しでも油断すると、恐ろしい魔の手が伸びてきて、気が付かない内
に堕落するのです。私たち一人一人が、正しい理性と自覚をもって接客することが何よりも大切で
す。私たちの店をみじめな状態にしてはいけないです。

お客様からセクハラ行為を受けたら、どうにもならない状態に陥る前に、佐藤君がしたように、私
に先ず連絡を入れてください。皆さんと力をあわせて、この微妙な問題に、逃げないで、真正面か
ら取り組みたいと思っています・・・」

店長の気迫のこもった気持は店員全員に届いたようです。接客業ですから多少の事は認めるにし
ても、度を越しては店の品位に関わり、店員の気持も荒んだ来ると店長は警告しているのです。

ここまで訓示した店長に最大の難問が残されていました。千春をはじめとした破廉恥行為をやって
いる店員への対応です。


[27] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(127)  鶴岡次郎 :2014/02/17 (月) 14:29 ID:HuEeYEOw No.2473

既に決定的な証拠を掴んでいる千春と疑わしい二、三人の仲間が対象であれば、彼女たちを密かに
呼び出し、良く話し合えばことは解決すると店長は考えていたのです。しかし、半数近い店員がこ
の犯罪に関係しているとなると、彼女たちの罪を暴くと、社内で事が公になり、罪を犯している店
員は勿論ですが、店長も処分を免れられないのです。その上、そのことが外に漏れると店も閉店に
追い込まれる可能性が高いのです。

みんなを前にして、店長はこの先の対応策をじっと考えていました。策を考え出すにはあまりに時
間は短いのです。しかし、先延ばしにはできないのです、この場ではっきりと方針を出さないと悔
いを残すことになるのです。店長は笑みを浮かべて全員を見回しながら、すごいスピードで頭の中
を回転させていました。

〈うん・・、これしかないな!
決定的な証拠をつかんでいる晴美も、疑わしい店員たちも、今回はこのまま泳がせよう、そしてみ
んなに見える形で監視を強化しよう、それで彼女たちが行為を止めれば、それはそれで結構だし、
私の目を盗んで犯行を重ねるようなら、その時は現行犯を押さえて、厳しく対処しよう・・〉

店長は決心を固めました。そして、少し厳しい表情を浮かべ、口を開いたのです。

「今回のような事件がこの先も起きると思います。皆さんだけにその対応をお願いして済ませるこ
とはできないと思っております。今まで以上に、私自身も店頭に出て、お客様の対応に努めるつも
りです。

そして出来るだけ皆さんの側にいて、皆さんを守りたいと思っています。
お客と一緒に個室に入った皆さんを、私はいつも見守っています。
扉の外にはいつも私がいると思って、安心して働いてください・・」

この言葉は千春のようにすねに傷を持つ店員へ向けたものだったのです。佐藤薫のように、何も悪
いことをしていない店員は言葉どおり、店長がいつも見守ってくれると受け止めたのですが、お客
と個室で戯れている店員は、〈店長が個室の外で見張っている。悪い事は出来ない・・〉と、受け
止めたのでした。

お客からセクハラ行為を受けたら直ぐに報告するよう周知させると同時に、店長は内偵を強化する
ことを宣言し、すねに傷を持つ店員にはそれと判る表現方法で、個室も監視の対象にすると宣言し
たのです。

店長の狙いは明らかです。千春は勿論、同じことをしている店員たちに恐怖を与え、千春達が彼女
達自身の判断で自発的に行為を止めるように誘導する作戦なのです。そしてこれこそ、佐王子の狙
いでもあったのです。


[28] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(128)  鶴岡次郎 :2014/02/18 (火) 15:23 ID:pmKYlsCk No.2474

佐藤薫のセクハラ事件が発生した翌日、休暇明けの千春は出社してその事件の全貌と、店長訓話の
内容を知りました。そして、セクハラ事件の被告、南伊織こそ佐王子が差し向けた仕掛け人である
ことを察知していました。

千春と一緒に今回の筋書きを決めた時は千春が架空の噂をお客に広めることにしていたのです。そ
して、田所にはこの筋書き通りの内容を説明し、彼を信じ込ませることに成功したのです。田所を
うまく騙した千春の報告を聞いて、佐王子は考えました。

〈勘のいい田所と同じように他のお客が状況判断するとは限らない・・、
千春が田所に説明したセクハラ事件を実際に引き起こし、
あの店の関係者をその気にさせることにしよう・・・〉

レストランのオーナーである田所は、断片的な千春の説明を聞き、勘良くすべてを見通し、危険を
察知して逃げたのですが、他のお客が田所のように勘がいい人ばかりではないのです。今回の作戦
を確実にするため、千春が田所にした嘘の情報を現実のものにするべく、佐王子は腹心の部下、南
伊織を店に派遣したのです。南が新人店員、佐藤薫へ仕掛けたセクハラ事件に対して、佐王子の期
待通り、いや、その期待をはるかに超える反応を店長は見せたのです。あらかじめ店長と示し合わ
せていても、こう上手くは運ばないと思えるほどの結果でした。

結果として、店長をはじめ、店員全員がこの事件に巻き込まれ、その日の内に、店を挙げてセクハ
ラ追放活動が展開されることになったのです。千春がまき散らす予定であった噂話だけではここま
で到達するのは難しく、たとえ、ことがうまく進んでもこんなに早く狙いが実現するとは思えない
のです。
千春は改めて佐王子の非凡な力を認識していたのです。そして、彼に傾く気持ちはますます強く
なっていました。


田所に上手く対応できた千春はすっかり自信をつけたようです。それから毎日にように訪れる顧客
を相手に、時には涙を浮かべ、時には哀れみを乞う様に、丁寧に説明しました。

お客に応じて少しストリーの筋は変えましたが、大筋は田所に説明した内容を踏襲したのです。お
客たちは全員千春の説明に納得してくれました。そして、彼女を慰め、励まし、これからもシュー・
フイッターの千春をひいきにすると約束してくれたのです。

ある日、訪れた桜田は少し違いました。

「千春ちゃん・・、判った。
お店で戯れることは楽しいが、それが危険なことは良く判った・・・、
残念だけれど、店では大人しくするよ、その代わりと言っては何だが、
以前のようにホテルでのお楽しみはいいのだろう・・・、
店長だってそこまでは追っかけてこないだろう・・、
8時に、以前待ち合わせた○○ホテルでどう・・?」

「スミマセン・・、桜田さん・・・。
どうやら、店長は探偵を使って、私達のオフ時間の身辺も密かに調べているようなのです・・・。
なにしろ、お客様と変な関係が公になると、お店の信用問題になりますし、お客様にもご迷惑をか
けることになると思います。それで、店長は本気で疑わしい行為を店から追放する気になっている
のです。多分、店長は私達の誰かがお客とホテルへ行っている事実を既に掴んでいると思います。

もうしばらくは・・、いえ・・、これから先は・・、
残念ですが・・・、私達は身奇麗に暮らさなければならないのです。
セックス抜きで、接客することになると思います。

当然といえば、当然ですよネ・・・。本当に残念です・・・。
桜田さんに可愛がっていただいた思い出を大切にして、真面目に働きます・・」

涙を浮かべて話す千春の言葉に桜田はしきりに頷いて、破格のチップを彼女の手に残して個室から
出て行きました。

こうして二ヶ月も経つと、あらかたの顧客に千春は事情が変わったことを伝え終わりました。全て
のお客が千春の説明を信用し、快く引き下がりました。そして、この頃から、千春は個室の扉を開
け放したままフイッテイングをするようになりました。


[29] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(129)  鶴岡次郎 :2014/02/23 (日) 15:04 ID:bY9R.bzM No.2475

セックス抜きの接客をするようになっても千春の売り上げは落ちませんでした。それまで以上に心
を込めて接客しましたし、それまではおざなりだった新商品の勉強も身を入れてやりました。その
結果シューフイッターとしての千春の腕は目に見えて向上しました。お客の評判も上々です。
 
〈一生この仕事をしたい…、日本一のフィッターを目指したい・・〉

そんな気分にさえ千春はなっていたのです

今日も、いつもの様にドアーを開け放したままのフイッテイング・ルームで接客をして、高級靴を
売り上げた千春は、お客を店の玄関まで見送りに出て、ホッとした表情をして店に戻ってきました。
この瞬間が千春たちにとって一番うれしい瞬間なのです。

お茶でも飲もうかと休憩室へ向かおうとした時、同僚である佐野亜紀が側に来て、千春の手をとって
休憩室へ引っ張って行きました。いつもと違って、亜紀の表情は何かを思いつめた様子です。この時
間、休憩室には二人以外誰も居ません。

「千春・・、聞いた・・?
店長が私達の素行調査をしているのを知っている・・・?」

ひそひそ声で亜紀が千春の耳側で囁いています。亜紀は千春と同年齢で、渋谷ギャル系のファッ
ションが似合う可愛い娘です。

「素行調査って・・・?
エッ・・、もしかして、あのことなの・・?」

「ウン・・、あのこと・・・、
お客と寝ていることよ・・
店長は探偵を雇って、私たちのオフ時間も調べているそうよ・・」

亜紀と千春はお客と寝ていることを互いに告白しあった仲です。

「エッ・・!
探偵を使っているの・・・」

驚いて問いかける千春に亜紀が深刻そうに黙って頷いています。

「どうしょう・・、亜紀・・、
店長は何処まで知っているの・・・?
私のことも知っているの・・?
どうしょう・・、クビになるかしら・・、困ったわ・・・」

初めて聞いたかのように、驚きの表情を隠さず、千春は次々と質問を投げ続けました。冷静に見
ると、千春の慌てようはわざとらしいのです。勿論、亜紀はそのことに気がつく余裕はありません。

「千春・・、落ち着いて・・、
私や、千春のことがバレたとは言っていない・・」

「そう・・、そうなの・・
私たちのことはバレていないのね・・・、良かった・・」

ホッとした表情で千春が笑みを浮かべています。しかし、その表情がすぐに厳しいものに変わりま.した。

「亜紀・・店長が探偵を使っているのをどこで知ったの…?
もしかして、誰かがホテルで遊んでいるところを現行犯で探偵に押さえられたの…?
それとも、店長が何かをつかんでいて、誰かを呼び出して注意したの?
そうでなければ・・・、ああ・・、判らない…

亜紀・・、その話を何処で聞いたの・・・?
亜紀・・、私達・・、これからどうすればいいの・・?」

うろたえた千春が矢継ぎ早に質問を発しています。さすがに、亜紀があきれた表情で千春を見てい
ます。

「千春!・・少し落ち着きなさい、
そんなに次ぎから次に質問しては返事ができない・・・

店長から直接聞いたわけではない、
誰も店長から呼び出しを受けていない、
たぶん店長は個別の名前までつかんでいないはず…、

探偵を雇っている話を、お客の一人が、今日私に教えてくれた・・
そのお客は、他のお客からその噂を聞いたらしいの・・」

「そうか・・、又聞きの噂話なのね・・、
お客様の間でそんな噂が広がっているのよ、きっと・・
そうだとすると・・、
亜紀が知っているほどだから、他の仲間も知っているはずね・・」

「ほとんど全員知っていると思う・・、
お客と寝ている子も、寝ていない子も、
皆、成り行きを、じっと見守っていると思う・・」

情報の発信元はお客の一人だと亜紀が語るのを聞いて、千春は内心にんまりしていました。疑わし
い店員の素行調査を店長が探偵社に依頼したとのうわさ話の発信元は千春自身なのです。千春がそ
の噂話を桜田に話したのはニケ月前です。噂話は人から人へ駆け巡り、こうして発信者の千春の元
へ戻ってきたのです。佐王子の狙い通りの筋書きで事が進展しているのです。


[30] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(130)  鶴岡次郎 :2014/02/25 (火) 15:00 ID:uE8Axr5c No.2476

「ところで・・、店長は何処まで知っているの・・・?
亜紀・・、大切なことだから、
知っていることを全部教えてちょうだい・・」

「ウン・・、そう言われてもね・・、
そんなに詳しく聞いたわけではないし・・、
そのお客もはっきりしたことは知らないようだった・・・、
それでも、店長は未だ具体的な証拠を掴んでいないと・・・、
私は思いたい・・・」

「たしかに・・、亜紀の言う通りかもしれない…、
店長が私達の行為をはっきり掴んでいれば、
大人しくしているはずがない、直接私達を追及しているはず、
今頃、私も、あなたも首になっていてもおかしくない…。
それが無いということは・・・、未だ店長は証拠をつかんでいないのよ」

「千春・・!・・ 頭が良い・・その通りだよ、
店長が私達に何も言わないということは・・・、
私達の秘密を裏付ける証拠を未だ掴んでいないということだネ・・・・

ああ・・、良かった・・、本当に良かった・・、
実を言うとネ・・、なにもかも店長に知られてしまったと、
心配で、心配で、仕事が手につかなくて…、
千春に相談しにやって来たのだよ・・」

今にも泣きだしそうな表情で亜紀が喜んでいます。

「だって・・、昨日・・・、
私・・、二週間ほどレスだったから、我慢できなくて、
お店の外ならバレないと思って・・、
お馴染みさんとホテルへ行って・・、朝まで・・・・。

今日、ホテルから直接出勤してきたところ、
別のお客様から店長が探偵を雇っている話を聞かされて、
てっきり、ホテルのことがバレたと思った・・、
もう・・、ダメだと思っていた・・・・

良かった・・、本当に良かった・・」

涙ぐみながら、顔をくしゃくしゃにして亜紀が喜んでいます。

「亜紀・・、安心するのは早い、そんな噂が立ったという事は、何か疑わしい気配を店長がつかん
だと思うの、それで店長はそんな淫らなことが起きないよう、もし既に起こっているのなら、それ
が公になる前に火を消したいと思って、監視を始めていると私は思うの・・。

もしかしたら、私達に少しは疑いを持っているから、監視を始めたとも考えられるけどね・・、
いずれにしても、ヤバイ状況なのは確かよ・・」

「エッ・・・、そうなの・・、どうして判ったのかしら・・、
誰か、チクッたのかしら・・?」

「そうではないと思う、薫ちゃんのセクハラ事件が店長をその気にさせたのだと思う。訓話で、よ
その店で店員がお客と怪しい関係に陥り、お店を閉鎖することになったと店長が話をしていたで
しょう・・。

薫ちゃんのセクラハ事件が起きてみると、こうした事件は何時起きてもおかしくなくて、むしろ今
まで起きなかったことが不思議だと店長は考えたと思うの・・。
そうであれば、いずれお客と寝る子も出てくるかもしれない、もしかすると、すでにお客とそうし
た関係に陥っている店員がいてもおかしくないと・・、店長は警戒を強めたと思う・・・。

それで・・・、私たちの注意を喚起するため、探偵を雇い、その噂話をわざと広めた・・。店長の
狙いは、『もし・・、やっているなれば、今のうちに足を洗ってほしい・・』と、私たちに伝える
ことなのよ・・・」

「そう・・、そうなのか・・
別の店で起きた事例から、自分の店を調べる気になったのね・・、
私たちの行為を暴くことが目的でなく、私たちに警報を発することなのね、
あの店長ならそう考えるでしょうネ・・・」

「亜紀・・、
私はもう・・、御客と寝るのは止めることにする。
良い事でないのは確かだし・・・、
恥ずかしい行為を暴かれてお店をクビになったら、生きて行けない・・・、
たくさんの男に抱かれる楽しみが無くなるけれど・・、
我慢出来ないほどではないし・・」

「千春が止めるのなら、私も止める・・
実を言うとね・・、
いつまでもこんなこと続けるわけには行かないから、
止めるきっかけを探していたの・・」

「じゃ・・、そうしよう・・」

「ウン・・」


[31] フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(131)  鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 11:40 ID:qM/Z/gzY No.2478

あっけないほどあっさり、二人は買春行為を止めると宣言しています。

「千春・・、なんだかとってもいい気分だね・・」

「そうだね・・、周りの雰囲気が変わった様な気がする・・」

ホッとした表情で二人は互いに頷きあっています。おそらく、これまで罪悪感と自己嫌悪感をいつ
も抱いて過ごしてきたのです。大きな肩の荷を下ろしたような気分に二人はなっているのです。

「それでね・・亜紀・・、私たちが止めると、一方的に決めても、それだけでは済まないのよ・・、
今まで可愛がっていただいたお客様に事情を説明して、これからは只の店員とお客様の関係に戻る
ことを理解していただけことが大切になる」

「そうだね・・、私達だけが止めると決めても、
お客様が許さない場合がありそうね・・」

「ことが事だけに、大ぴらに閉店通知を出すこともできないしね・・。中には、無理やり、やらせ
ろと言い出す人だっているかもしれない・・。私達だって、その行為が嫌で止めるわけでないし、
一度くらいなら禁を破ってもと、思うことがあるかもしれない・・。でも・・、止めると決めた以
上、どんなことがあってもお客様の要求を受け入れてはいけないと思うの、これが一番大切だと思
う・・・」

「そうだね・・、中途半端にするのが一番いけないことだね、私なんか意志が弱いから、一度抱か
れるとそのまま続けることになりそう・・・。
千春・・・、どうしたらいいだろう・・」

「お客様には出来るだけ正直に事実を告げて、理解していただくことにするといいと思うの・・。
お客様から声がかからなくなったら、私達から仕掛けることはないからね…。自然と、悪い習慣は
消えると思う・・、少し時間はかかるけど、じっと我慢することが大切だと思う。

私は・・、店長が私達の行為に何となく気がついて内偵を始めた様子だから、大事になる前に、口
を拭って何も無かったことにしたいと、お客様に頭を下げてお願いするつもりよ・・・。変に隠し
立てすると妙な噂が広がるといけないからね、お客さまだって、良いことをしていると思っていな
いから、すぐに判ってくれるよ・・」

「うん・・、私も・・、千春の言うとおりにする。
誘われてもホテルへは絶対行かないことにする・・
でも・・、正直言うと、少し寂しいネ・・・、ふふ・・・・」

「仕方がないョ、亜紀・・・、我慢、我慢・・。
ほしくなったら、お店と関係のない男を選ぶことにしよう。
これを機会に、いい恋人でも探そうか・・、ふふ・・・・・」

「恋人ね…、若い男でしょう・・、
私・・、若い男では満足できないかも…、
おじさん達に抱かれることに慣れて、若い男では逝けない体になったかも・・」

「亜紀のスケベ・・!
でも・・、私もそうかも・・・、ふふ・・・
私達って・・、年の割には、知り過ぎているのかもね・・・」

「仕方がないよ・・、その内、Hのうまい男を見つけよう・・」

「そうだね・・」

二人はにっこり微笑み会い、互いをハグしました。亜紀と千春がお客に抱かれるのを止めたこと、
そしてお客様へ説明する内容が、同じ行為を続けていた他の店員へもその日の内に伝わりました。
店長の訓示で怯えていた彼女達は直ぐにお客に抱かれることを止めました。お客への説明では、口
を揃えて、千春と同じ説明をしました。

元々、後ろめたい思いで店員たちを抱いていたお客たちは、彼女たちから事情を聞くと、直ぐに納
得して引き下がったのです。たちの悪いお客がしつこく付きまとうようなら、佐王子本人の出番も
あると彼は考えていたのですが、さすがに名店のお客たちです、店員たちから事情を聞くとあっさ
り引き下がったのです。

こうして、その店から淫靡な行為はとりあえず一掃されることになりました。深く先行してその行
為が密かに行われている可能性は完全に否定できませんが、それでも、ほとんどの個室で扉は開け
放たれたまま接客が行われるようになりましたし、店員同士のプライベートな会話でも、そうした
行為が話題に上がることはなくなっていたのです。以前、この店でかなり大ぴらに行われていたそ
の行為が、恥ずべき行為として地下深く葬り去れたことは確かなのです。

加納千春に関して言えば、その後、完全にその行為と無縁になりました。毎日、明るく、生き生き
として好きな仕事に打ち込んでいるのです。

〈もっと早く止めておけばよかった…〉

心から、千春はそう思うことが多いのです。佐王子の計略は見事に成功したのです。これで、この
店における汚い過去の痕跡は、彼女の心からひとまず完全に消し去られたことになります。


[32] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 11:52 ID:qM/Z/gzY No.2479
新しい章を立てますので、スレを新設します。 じろー


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フォレストサイドハウスの住人たち(その4) - 現在のレスは40個、スゴイ人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2013/08/29 (木) 13:29 ID:stgNSIf. No.2398
カラオケ遊びの果てに、加奈と悠里は竿師、佐王子に釣り上げられました。加奈はかろうじて逃
げ延びたのですが、悠里は完全に彼の魚篭(びく)に閉じ込められたのです。親友悠里が佐王子
の餌食になり、娼婦に落とされた責任の一端は自分にもあると加奈は思い込んでいます。何とか
悠里を『娼婦の篭』から助け出そうと加奈は決意を固めています。これから先、加奈はどんな仕
掛けをするのでしょうか、そして、娼婦という境遇に入ったことをそれほど悔いていない悠里、
二人の物語はどのように発展するのでしょうか・・。

ああ・・、それから前々章で紹介した、突然失踪した1613号室の住人佐原靖男の妻、幸恵(
45歳)の行方はいまだに判りません。佐原家を訪ねた鶴岡由美子は偶然、1613号室の隣室
から出てきた謎の男と遭遇しました。並みの主婦とは違い経験豊富な由美子は、その男の並々で
ない精気を感じ取り、彼はプロの竿師だとほぼ断定していました。そして、彼はその隣家の主婦と
只ならない関係のようなのです。佐原家の隣家から出てきた男は、悠里を娼婦に落としこんだ一匹
狼の竿師、佐王子と奇妙にも酷似しているのです。

裕福で、幸せな家族が集っているように見えるフォレストサイドハウスでも、一皮むけば人々の
いろんな生活模様が隠されていることが良く判ります。のんびりと彼等の生活を追ってみたいと
思います。相変わらず、市民の平凡な生活を語り続けます。ご支援ください。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです
                                        ジロー       
                           


[31] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(93)  鶴岡次郎 :2013/11/07 (木) 15:13 ID:a/6MC0Is No.2428

いよいよ話が佳境に入り、大マラをアソコに咥え込んだ春美の感想をタップリ聞けると思ってい
た千春はかなりうろたえています。大変なことになったと気をもんでいるのです。慰めも、そし
て質問の言葉さえだせない状態です。

「実を言うと、性交時痛みを感じたのはその時が初めてではないの、あまりの痛みに堪えかねて、
交わりを拒否したことも二、三度あった・・・。
正直に言うとね・・・、恥ずかしいけれど、白状するネ・・・」

そこで言葉を止めて媚びるような瞳で千春を見ています。春美がそんな表情をする時、彼女の中
で千春への愛が高まっていることを千春はよく承知しているのです。特殊な関係にある二人です
から、相手が愛情溢れる視線を投げかけると、それに敏感に反応するのです。その感情表現は愛
し合う男女の仲よりより細やかです。この時も、春美の媚びた視線を受け、優しさあふれた濡れ
た視線を千春は反しているのです。千春の熱い視線を受けて、少し頬を染めて春美がゆっくり口
を開きました。

「男性と交わるより、千春と仲良くする方が、ずーと気持ち良いの・・。
だから、正太郎さんの大きなモノを見た時は、正直言って恐ろしかった、
でも正太郎さんと一緒になりたかったから、必死で堪えることにしたの・・・」

春美がしんみりと語っています。千春は黙って聞いています。

「どんなに痛くても、最後まで堪えるつもりでいたけれど、痛みに堪えかねて失神した私を見て、
正太郎さんが行為を中止してくれた。その瞬間、ほっとしたけれど、これで正太郎さんとはお別
れだと思った。悔しくて、悲しくて、私はベッドに顔を伏せて泣くことしか出来なかった・・」

その時の春美の気持ちが判るのでしょう、千春の瞳に涙が溢れています。

ベッドに顔を伏せて肩を震わせている春美を男はじっと見つめていました。白い背中が彼女の悲
しみを表すように小刻みに震えているのです。ふっくらとした臀部の陰に、正太郎のデカマラを
受けいれることが出来なかった春美の女性器が恥ずかしそうに少し顔を出していました。

正太郎は黙って女の背中を優しく撫ぜています。女が納得いくまで泣かせるつもりのようです。
10分・・、もっと短い時間かもしれません、それでも、ベッドに顔を伏せている春美には一時
間以上に思えたはずです。

春美がゆっくり顔を上げ、ベッドの上に正坐して、正太郎に向かって深々と頭を下げました。頭
を下げた姿勢を保ったまま、春美は顔を上げようとしませんでした。

「春美さん・・、いや・・春美・・!、
そんなに恥じることではないよ、俺は何とも思っていないから・・」

女の肩に手を置いて正太郎が優しく声をかけました。女がゆっくりと顔を上げました。そして、
涙で濡れた顔を真っ直ぐ男に向けて、意外にはっきりした口調で話しかけました。

「別れてください!・・・・
正太郎さんを受けいれることが出来ない私は、女として不十分です。
こんな私は正太郎さんの妻にはなれません・・・・」

「ハハ・・・・・、何を言い出すかと思えば・・・
新婚初夜のベッドの上で離婚話をするとは・・、笑い話にもならないよ・・。
それにしても、アナが小さいことを恥じて・・、離婚したいとは・・、
春美の生真面目さにはあきれるね・・・・、
ハハ・・・・・・」

面白いことを聞いたかのように、心から楽しそうに正太郎が笑っています。そんな男を恨めしそ
うに春美が見つめています。男はいつまでも笑っていました。つられて春美も笑い出しています。
そして、二人は抱きあって、一緒に笑い始めました。


[32] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(94)  鶴岡次郎 :2013/11/08 (金) 10:27 ID:Qfp8Ts12 No.2429
「二人で抱きあって笑っていたのですか・・、
ここは笑う話ではないでしょう・・、
お二人には、特に・・、先輩には大事件でしょう・・」

話を聞いている千春が憮然として口を挟んでいます。

「ゴメン、ゴメン・・、
これで結婚できなくなったと覚悟せざるを得ない状況だったから、
大事件には違いないよネ・・」

『笑っている場合じゃないでしょう』と非難する千春に、ゆったりした笑みを浮かべて春美が答
えています。何だか余裕のある態度です。

「実を言うと、とても笑う気分ではなかった・・・。
でも、あの場合、どんな慰めの言葉より、彼の笑が私には有難かった・・。
私の辛い立場を無視して、意識して彼が笑っているのが良く判った・・。
だから・・、私も一緒に笑うことにした。

笑っていると、どうしたことか、今起きたことがそれほど大きな事件ではないと思えてきた・・。
深刻に考えることはない、ただ彼のオオマラが私のアソコに入らなかっただけのことだと考える
ことが出来るようになっていた・・・。

彼と一緒なら、この試練を乗り越えることが出来ると思えて来たの・・・・、
とても不思議な気分だった・・・」

黙って千春が聞いています。その瞳が少し濡れているのです。

「『医者に相談してみよう・・、人類が昔からやってきた営みだ・・・、
男と女が交わることが出来ないはずがない、何か方法を教えてくれるよ・・』
彼のこの提案を受けて病院へ行くことにした。

二日前、千春も知っている、お店の近くにある千種クリニックへ二人で行って来た・・・」

春美は淡々と語っていますが、聞けば聞くほど深刻な事態になったと、千春は神妙な表情を浮か
べて、黙って聞いています。

「私達のような症例は、そう多くないけれど、珍しいことではないと先生が言っていた。ただ、
私達のように年齢が高く、それなりにその道の経験を積んでいる夫婦が来院したのは初めてだと
先生が笑いながら言っていた。通常は、初めてセックスをした若い新婚夫妻が多いのよ・・・」

「・・・で、どうなったのですか・・・
まさか・・、お二人はセックスできない相性の悪い身体だと・・、
そう・・、診断されたわけではないでしょうネ・・・?」

千種クリニックは春美たちが勤める靴店の近くにあり、千春もそこで避妊薬を処方してもらって
いるのです。ただ、今起きている問題に関しほとんど知識がない千春はおろおろして、この先ど
うなるのか、自分の事のように心配しているのです。いつまでも結論を話さない春美に焦れて、
千春が畳み込むよう問いかけています。


[33] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(95)  鶴岡次郎 :2013/11/09 (土) 11:37 ID:00gzZEjE No.2430

「私も、正太郎さんも局部を隅々まで診断してもらった。その結果、当然のことだけど、正太郎
さんは標準よりかなりサイズが大きいことが判った。そして、私は、サイズは標準だけど、内部
の筋肉に一部異常な配列が在り、それによって膨張収縮が阻害されていることが判った。

局部にメスをすこし入れた。傷が癒えたら、普通にセックスできるようになると保証してくれた。
一週間もすれば出来るようになるのよ・・・」

よくある症例だと診断され、手術も簡単で、直ぐに正常なセックスが出来ると判っているので、
春美は朗らかです。春美の説明を聞いて千春は一安心して、それまで手にする余裕のなかった
コップを口に付け、おいしそうに水割りを飲んでいます。
・・・と、何かを思いついたようで、ハッとした表情を浮かべ、慌ててコップをテーブルに置き、
千春が口を開きました。

「先輩・・、病院でアソコにメスを入れたんですよネ・・・
・・と言うことは・・、
先輩のアソコは、ご主人専用のサイズになったということでしょう・・、
これから先、他の男では・・、緩すぎるのでしょう・・」

「こら・・、千春・・、
そんなはしたない事、言うんじゃありません!・・・
フフ・・・、でも・・、そう思うのが普通だわね・・・・
誰だって、私のアソコがガバガバになったと思うよネ・・・」

「ゴメンナサイ・・、緩いだなんて・・・
でも・・、大きくなった先輩のアソコを軽蔑して言ったのではないの・・、
凄い話を聞いちゃったと、先輩の献身的な行動に感動して、
思わず口走ってしまったのです・・・」.

女性に向かって最高の侮辱用語である『アソコが緩い』を思わず口走ってしまって、千春が深々
と頭を下げています。春美は笑みを浮かべて千春を見ています。

「だって・・、先輩のしたことは凄いことですもの・・。
愛する男性のため、その人のサイズに合わせるため、
体にメスを入れたのでしょう・・・。
それって、究極の愛だと思う・・。
美談中の、美談だと思う・・、
私・・、先輩を尊敬しちゃう・・」

感動を表にあらわに出して、千春が情熱的に語っています。春美はただにこにこ笑っているだけ
です。千春が気がすむまで話させるつもりのようです。

「『生涯あなたの男根一本を頼りに生きてゆきます・・』
と宣言したようなものですよ・・・。

旦那様以外の男をあきらめるのでしょう・・・、
セックス出来るのは一人の男だけなのでしょう・・、
考えるだけでも、恐ろしいことです・・・。
私には、そんなこと、とても出来そうもない・・・」

本気でそう思っているようで、千春が情熱的に話しています。大げさに感動する千春を見て、春
美が余裕の笑みを浮かべています。


[34] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(96)  鶴岡次郎 :2013/11/10 (日) 11:56 ID:rpQbDCgc No.2431
興奮した千春が言いたいことを出し尽くした頃を見計らって、笑いをかみ締めながら春美が口を
開きました。

「千春の話を聞いていると、私のアソコはいつもポッカリ口を開いていて、
普通サイズの男根はガボガボって感じネ・・・。
いつも開き放しっで、お風呂に入った後、しばらくするとアソコから水が溢れ出て下着を汚すよ
うになっているはずと思っているのでしょう・・」

「そうじゃないんですか・・?」

「そう思うのは無理ないけれど、千春は少し誤解をしているよ、たしかに受け入れ易くするため
メスを入れたけれど、それで、私のカラダが彼の専用になったわけではない。だらしなく開き放
しになっているわけでもない。むしろ以前より締りが良くなったと私自身は思っている・・」

笑みを浮かべて説明する春美の言葉に千春はまだ十分納得していない様子です。

「先生が言っていた・・・、
私のアソコは生まれつき収縮拡大がスムーズに行かない筋肉配列になっていたからメスを入れた
だけで、手術をして並みの女と同じ機能を持つようになった。一般的に、女のアソコは、男が
思っているほど男根サイズにこだわらないもので、かなり懐が深い。腕ほどの大きなモノから指
二本ほどのモノでも十分受け入れ、セックスを楽しむことが出来るものだと・・。

だから主人以外の普通のモノでも十分楽しめると、保証してくださったのよ・・」

千春が少し納得し始めた様子です。

「先生がね・・、
『この状態で、いままで曲りなりにせよ、男性を迎え入れていたのが驚きだ、普通の女性であれ
ばとっくに男性を断っていてもおかしくない。あなたのココは並外れた弾力性を持っているから、
何とかセックスが出来たのだと思います。自信を持ってください、あなたのココはいわゆる名器
と言われる素質を持っています。一週間もすれば、ご主人を迎え入れることが出来ます。

多分・・、いえ・・確実に、以前より格段にあなたの性感は向上しています。以前とは比較でき
ないほどセックスが楽しくなります。同時にあなたと接する男性は、あなたの性器のすばらしさ
に感激すると思います・・・』
と言ってくれた・・・、その診断を聞いて、本当に救われた気持ちになった」

春美の言葉を聞いて何かに気がついた様子で、ハッとして、何度も、何度も千春が頷いています。
そこまで気が回せず、『・・アソコがゆるくなったでしょう・・』と、軽口を吐いたことを内心
で悔やみながら、千春はようやく春美の心情を察知していました。今回の事件で春美がどれほど
傷付き、自信を喪失したのかようやく理解できたのです。

さすがに担当医は患者の心情をよく理解していて、患部の治療と同じ程度に、いやそれ以上に、
患者の精神面での治療が重要であることに気がついていたのです。『名器だ・・』と患者の患部
を誉めそやすことで、セックスが不調に終わった患者の精神面に治癒を施そうと考えたのです。

「ただね・・、アソコにメスを入れると聞かされた正太郎さんは、千春と同じ様に誤解したよう
よ、当然だよネ・・。

凄く感動した彼は、先生と私に向かって最敬礼して、こう言ったの・・・。

『私のために・・、
私の出来損ないのアレを受け入れるため・・、
妻の体にメスを入れるのですね・・・・。

普通なら断固断るのが筋ですが、私を受け入れるにはそれしか方法がないと先生が診断され、けな
げにも妻がそれを受け入れると言っています。これほど男冥利に尽きることはありません。妻の申
し出を私はありがたく受け入れます。そして、これから先、妻以外の女性には見向きもしないこと
を先生の前で誓います』

私も、そして先生も、あえて、彼の誤解を正さなかった。
どう・・、良いお話でしょう・・・」

「悪い先輩・・!、
ご主人がかわいそう・・、
そうだ・・!
もし、先輩が浮気をしたら、なにもかもご主人に言いますから・・」

「判った、判った・・、
この話はこれで終わり・・、
誰にも言っちゃダメだよ・・いい・・?」

真面目な表情で春美がダメを出し、千春が苦笑を浮かべて頷いています。


[35] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(97)  鶴岡次郎 :2013/11/11 (月) 14:51 ID:c1q096I2 No.2432

「ところで・・、面白い話があるの・・・、
千春だけに話すから、他で話したらダメだよ・・」

悪戯っぽい表情を浮かべた春美が千春を覗き込むようにして話しかけています。話そうかどうか
迷っていた様子ですが、酔いも手伝って思い切って話すことにしたようです。

「正太郎さんの男根を見た先生が、ぜひ写真を撮らせて欲しいと言ったの、これから先の治療に
役立てる資料にしたいと言っていた。それほど主人のものは珍しい存在だと改めて認識させられ
た。先生の話では主人のデータを元にして主人そっくりのデルドーを作成して診療に役立てるこ
とになるらしいの・・」

笑みを浮かべた春美の説明に千春は好奇心をあらわに出して耳を傾けています。

「主人は気が進まない様子だったけれど、私が強く勧めて先生の申し出を受けることにした。
だって・・、これから先、何人もの患者が主人のアレを模したデルドーをアソコに入れて診断を
受けることになるのよ・・。

想像するに、それを受けいれることが出来るれば一人前の女性器だと診断されることになるの
よ・・、きっと・・。
私は本物を毎日いただいていますよ・・と、優越感に浸れるじゃないの・・」

「変なの・・、それって・・、少し変態でしょう・・・」

お腹を抱えるようにして千春が笑っています。春美もつられて笑い出しています。

「通常状態の写真、各部の寸法と、完全勃起した時の写真と各部の寸法を採取された。その写真
と各種データのコピーを私達もいただいた・・。

正太郎さんだけでなく、私の物も外観、内部まで写真を撮り、そのデーターをいただいた。正太
郎さんのモノと異なり、私の物は取り立てていうほどの物でないけれどネ・・・、ついでだから
と言って、データーを取られたのよ・・・」

「先輩・・、その写真、今、持っているでしょう・・」

千春が勘良く質問しています。普段持ち歩いていないA4サイズ用書類封筒を春美がこの店へ持
参していたのを思い出したのです。

「勘の良い子は、嫌われるよ・・!
ハイ・・、良く御覧なさい・・・」

笑いながら、春美が封筒からファイルを取り出し、千春に手渡しました。ひったくるようにそれ
を受けとり、中を開いています。


[36] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(98)  鶴岡次郎 :2013/11/12 (火) 17:51 ID:yf1Td5ac No.2433
千春の眼が大きく見開かれています。ファイルを持つ手が興奮で震えているのです。まさに信じ
られない光景がそこに展開されていたのです。

「凄い・・・、こんなの見たことが無い・・・
長さは・・、こんなにあるの・・・、子宮が貫かれてしまう・・・
太さも・・、直径がこんなに・・・、とても収めきれない・・・・
そして・・、この先端のエラ・・、凄い・・・・、内臓まで掻き出されそう・・・」

平常時と、勃起した状態それぞれに縦、横、上面の三方向から撮影された男根の勇姿がA4サイ
ズの印画紙に焼き付けられていました。その大きさを表すため、 メジャーとタバコのケースが
横に置かれているのですが、タバコのケースがライターほどの大きさにしか見えないのです。

寸法も凄い値を示していますが、千春をときめかせたのはその姿です。幹は全身が上質のなめし
皮で覆われているように見えます。静脈が毒々しく浮き立ち、油を全身に塗ったようにテラテラ
光っているのです。特にその亀頭は圧巻です。十分に太い幹から一気に張り出したエラが赤銅色
に輝いているのです。女性ならこれを見るだけで逝きそうな気になる一物です。

「まるで、化け物ネ・・・。
それにしても、先輩は偉い!
こんなものを飲み込んだのだから・・・

私だったら・・、こんなモノとても飲み込めない・・
でも・・、おいしそう・・、

これを見た女は皆、欲しがると思う・・、
女としてこの世に生まれた以上・・、
一度はこれを食べたいと誰だって思うはず・・・、

ああ・・、欲しい・・、これが食べたい・・
先輩・・、傷が癒えるのが待ち遠しいでしょう・・・」

欲情した表情を隠さないで、少し演技も加えて、千春が情熱的に語っています。静かな笑みを浮
かべて春美が口を開きました。心に何か引っかかっているものがある様子です。

「ウン・・、正直に言うとネ・・・
待ちどうしい気持ちが半分、恐い気持ちが半分ネ・・。
先生は保証してくださったけれど、本当に受けいれることが出来るかどうか不安なの・・・。
もし・・、万が一、ダメだったら・・、どうしょうと悩んでいる」

「先輩・・、大丈夫ですよ・・、
もし、ダメだったら、その時はその時で、ダメと判ってから対策を考えるといいと思います。
テニスの試合だって、最初から勝てないと思ってコートに出ると必ず負けます。
どんなに強い選手が相手でも、ベストを尽くして勝負をあきらめない気持ちでいると、
不思議といいゲームが出来るものです。

自信を持ちましょう・・、先輩のアソコは『名器』だと先生が保証してくれたのですから、
絶対・・、大丈夫です・・」

高校生時代、硬式テニスで全国大会へ出場した経験を持つアスリートである千春が励ましてい
ます。

「そうだね・・、今からくよくよ考えてもどうにもならないよネ・・、
判った・・、自信を持って頑張る・・・」

力のない笑みを浮かべて春美が答えています。不安は拭いきれない様子です。無理の無いことで、
あれだけ決定的な失敗をした後ですから、誰が励ましても、どのように力づけられても、あの新
婚の夜起きた悪夢は春美の脳裏から消えないのです。たぶん、悪夢を追いやるには正太郎のデカ
マラを深々と春美のアソコが飲み込んだ時だと思います。

それが判っているようで千春は話題を変えるつもりで、今日店で出会った客とのことを話題に上
げました。

「今日のお客は嫌な人だった・・何度も寝た人だけど嫌いな人なの・・。
今日はどうしてもする気になれなかった・・、だのにそんな時に限って相手が張り切るの・・。
個室へ入るなり、びんびんになったアレを見せるの、お金があることと、立派なアソコだけが彼
の取り柄で、それを見て、私、不覚にもグラッと来てしまった。

すかさず彼にパンテイを奪われ、無理やりアソコに指を挿入された。
本当にあっと言う間だった。そうなると女は弱いもの・・。
もう・・、彼の言いなり、結局そのまま外へ誘い出されて、
ホテルで嫌というほど逝かされた・・・」

「あら、あら・・、
岸本さん、貿易会社の社長さんネ・・・、
あの人、見るからにギラついているわね・・、
でも、いつも気前良く靴を買ってくれているのでしょう・・・」

「今日も、二足買ってくれた・・、
それはそれでありがたいけれど・・
でも・・、どうしても好きになれない・・、
嫌悪感が先立つのよ、でも、抱かれると言いなりになっている・・・

彼・・、どうやら私を自分のものにしたいらしい・・
奥さんが居るから、勿論、愛人の一人にするつもりだけれど・・」

「そう・・、愛人ネ・・・
・・・で、千春はどうするつもり・・・・」

「まだ・・、そんな気にはなれない・・・」

「そう・・、それがいいと思う・・、
千春は私と違って、女性として理想的な感性を備えているから、出会う全ての殿方から好かれる
と思うけれど、未だ若いから、安売りはしないことだネ・・・」

「ハイ・・、そのつもりです・・」

その日、かなり夜遅くまで二人の女は、淫乱な話に身体を熱くし、時には、女の深刻な業に話が
及び、互いに慰めあい、傷を舐めあって、その居酒屋で楽しい時間を過ごしました。


[37] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(99)  鶴岡次郎 :2013/11/20 (水) 14:38 ID:FWYZRykc No.2434

主治医の許可が下りて春美はいよいよ正太郎を受け入れることになりました。その日、正太郎は
春美を抱くためわざわざ上京してきました。そして、その翌日、春美は正式に正太郎の籍に入り
ました。正太郎は直ぐにも入籍したいと言っていたのですが、いままで春美が入籍を頑なに拒否
していたのです。どうやら春美は無事正太郎を迎え入れるまで、入籍を拒否するつもりだったよ
うです。そして彼女が入籍を受け入れたということは、無事彼を迎え入れることが出来たのだと
思いますが、果たしてその結果はどうだったのでしょう・・・。


春美の入籍が終わり、正太郎と春美は晴れて正式の夫婦となりました。そして、かねての計画通
り春美の寿退社が決まり、退社する日が一週間と迫ったある日の夜、今日は千春と春美の最後の
女子会です。

手術の傷が癒え、春美と正太郎が改めて初夜を迎えたはずだと千春は承知しているのですが、店
で言葉を交わすことがあっても春美はそのことに関して何も語らないのです。春美が言い出さな
い以上、千春からその話題を出すことが出来ないので、じりじりしながら千春は今日の女子会を
待っていたのです。

二人がいつもの決まった席につき、飲み物と料理をオーダすると、その場から店員が去るのが待
ちきれない様子で、春美がおしゃべりの口火を切りました。満面に笑みを浮かべて嬉しそうに千
春に告げたのです・・。

「彼のモノが迫ってきた時、失敗の記憶が蘇り、私は一瞬両脚を締め付けていた。彼はやさしく
私の両脚を開き、ゆっくり、慎重に入って来た。これ以上は無理と眼を閉じた時、いちばん太い
ところがすっぽりはまり込み、その瞬間、そこから全ての痛みが消えた・・。

『春美・・、おめでとう・・、入ったよ・・』

正太郎さんが私の耳に口を寄せて、そのことを教えてくれた・・・
私・・、嬉しくて泣出していた・・・・」

その時を思い出したのでしょう、春美が涙ぐんでいます。

「先輩・・・、おめでとうございます・・・」

「ありがとう・・、千春・・・」

二人は手と手と握り合って、額をつき合わせて、微笑みあっています。互いの瞳にうっすらと涙
が滲んでいました。

「彼のデカマラは凄いわよ・・・、
アソコが極限まで押し広げられ、襞という襞が全て伸びきって、
男根に膣壁が張り付いたようになるのよ・・・。

そこで男根が動き出すと、膣壁が剥がされる様な刺激を受けるの、

慣れない最初は痛いけれど、ある時を過ぎると、突然、圧倒的な悦楽が訪れる。そうなると、我
を忘れてしまう・・。

数え切れないないほど頂上に上り詰め、
最後には激しく痙攣して、気を失うことになる・・」

普段の冷静な春美はどこかに行ってしまったように、春美は熱病にかかったようにおしゃべりを
しています。にこにこ笑いながら千春は聞いています。

「私ネ・・・、初めて失神しちゃった・・・。
セックスがあんなに良いものだったなんて・・、
この歳になるまで、本当に知らなかった・・。

彼にも、先生にも・・、千春にも・・・
そして、私を産み育ててくれた両親を始めお世話になった方、皆にお礼を言いたい。
春美は・・・、今とっても幸せです・・・・」

メロメロの表情を隠さないで春美は話しています。


[38] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(100)  鶴岡次郎 :2013/11/21 (木) 11:16 ID:3L0fH68s No.2435
実は、誰にも言っていないことですが、それまで春美は〈女の喜び〉を知らないで過ごしてきた
のです。快感よりも痛みが先行して交わりを楽しむことが出来なかったのです。正太郎の男根を
受けいれることが出来なかったことで思い切って専門医の診察を受けたところ、局部の筋肉配列
に一部異常が有ることが判ったのです。局部にメスを入れ、アソコが十分に男根を味わう構造に
戻ったことで、春美は遅まきながら〈女の喜び〉を初めて味わうことが出来たのです。

「彼、二日間滞在の予定を変更して一週間も居続けた・・・
今、野菜の取り入れ時期だから、とっても忙しいはずなのよ・・・
でも・・、『稼業よりも、今は春美を抱くことが大切だ・・』と彼が言った・・、
私・・、嬉しくて・・・

翌日、区役所へ婚姻届を出し、会社へも退社願いを出し、一週間の休暇をいただいた・・・。
『旅行ですか?』と聞かれて『ハイ』と答えたけれど、本当はただ彼とやることが目的の休暇な
んだけれどネ・・・、それは言えないよネ・・・、フフ・・・・」

今の幸せを全身で表すような素振りを見せて春美が話しています。千春は微笑を浮かべて聞いて
います。

「彼・・、昼も夜も、ほとんど休み無く抱いてくれた・・・
一週間の間、朝から夜遅くまで、何時間も・・、
コンビニの弁当を食べる以外、ほとんどの時間、彼をアソコに受け入れていた・・・。

この調子で抱かれていたら、死ぬかもしれないと思った・・・、
最後には助けて欲しい・・と叫びたくなった・・、
それでも、彼に優しくされると、身体を一杯開いて、彼を受け入れていた・・・。

それにネ・・・、彼・・、とっても変態なの・・・、
よく言うでしょう・・、男ポイ立派な人にはMが多いって・・・
まさにそれよ・・、彼はネ・・、

ああ・・、とても言えない・・、恥ずかしい・・・
ああ・・・、言ってしまおうかな・・、言ってもいい・・・
彼ネ・・、私のおしっこが大好きなの・・、

浴室に入って、マットの上に横たわって、
おしっこを全身にかけて欲しいと駄々をこねるの・・、
そこまで言われたらしかたないでしょう・・、
彼の身体の上で私が大股を開いて、
彼の体に満遍なくおしっこをかけてやるのよ・・・。

そしたらね・・・・、彼、凄く喜んで・・・、
チ○ポをびんびんにするの・・・、
そして、突然・・、私のアソコに口を付けてきて・・、直接・・・、

ああ・・・・、思い出してしまった・・・
欲しい・・、正太郎さんが欲しい・・、
ああ・・・、がまんできない・・・・、アソコがベトベト・・・」

「先輩・・・、声がデカい・・・、
そんなに興奮しないで下さい・・
もう・・、本当にスケベなんだから・・・・・・・」

聞いている千春があきれるほど饒舌に春美は語っています。

一週間ほどの間に、春美の様子に目に見えるほどの変化が現われています。目の下には黒いくま
が発生し、傍目でもはっきりわかるほど痩せています。それでいて、全身から女の妖気というか、
色気と言うか、男には勿論、女の千春にもそれと判るほど、春美はいい女の雰囲気を醸し出して
いるのです。

「私・・、変わったでしょう・・・、
彼に抱かれて、変わってしまった・・・、自分でも判るの・・。
私・・、彼のためなら何だって・・、
どんな恥ずかしいことだって出来る・・、

彼からここで裸になれといわれたら、喜んで脱ぐわ・・
彼のものだったら、おしっこだって飲めるのよ・・・」

「ハイハイ・・、ご馳走様・・、
おしっこでも、ウンチでも何でも食べてください・・・。
でも・・、ここで裸になるのは勘弁してください・・、ふふ・・・・。
先輩・・、よだれが垂れていますよ・・、本当にスケベーなんだから、

それにしても、先輩・・・、顔色悪いですよ・・、
そんなに根を詰めてやると、身体を壊しますよ・・、
ああ・、そうでしたね・・、余計なお世話でしたね・・、
死んだって、やることはやる主義でしたね・・、

でも・・、そんな美味しいモノだったら、私もぜひ食べたい・・・
一度でいいから、ご馳走になりたいけど・・、ダメでしょうネ!」

「そうね・・、今はとてもその気になれないけれど、
時期が来れば、千春は特別だから・・・、
千春がそれを望むなら、味わってもらうつもりよ・・
でも・・・、今はその決心がつかない、もう少し、待って欲しい・・・」

「ああ・・・冗談ですよ・・、
そんなに真面目に答えられたら、次の言葉が出ません・・」

春美は本気でそのことを考えているようで、真面目な表情を作って答えているのです。冗談でそ
のことに触れた千春は少し怯んでいます。


[39] フォレストサイドハウスの住人たち(その4)(101)  鶴岡次郎 :2013/11/25 (月) 10:55 ID:uE8Axr5c No.2436

突然、姿勢を正し、それまでの猥談でゆるんでいた表情を変えて、春美がゆっくりと頭を下げま
した。千春がビックリして彼女を見ています。

「千春が望むことなら、
私はなんでもするつもりなの・・、
これ・・、本気だから・・」

ようやく春美の本意が判った様子で千春の表情が変わっています。

「千春にはなんとお礼を言っていいか・・・、
その言葉が見つからないほど、感謝している。
千春が望むのであれば、私は何でも差し出すつもりよ・・・」

「先輩・・、ありがとうございます。先輩が私のことを大切に思っていただいているのは良く
判っています。でも・・、判っていると思うけれど、旦那様を貸してくださいといったのは、ほ
んの戯言です。興味がないといえば嘘になりますけれど、写真を見せていただいただけで十分で
す。スケベーな私でもそれくらいの常識は持ち合わせています・・・」

「そうだね・・、私が悪かった・・、とんでもないことを言ってしまった・・。
千春にそんな気が無いことは十分判っている、千春への感謝が気持ちがそれほど強いことだけは
判って欲しい・・」

黙って千春が頷いています。

「千春・・、本当に長い間ありがとう・・・、
千春が居なかったら・・・、
私・・、多分・・、ダメになっていたと思う・・・」

「先輩・・・、そんなこと言わないで下さい・・
寂しくて、泣き出したくなります・・・」

「そうね・・、別れの挨拶はしないことにするネ・・、
悲しくなるからね・・。
でも・・、これだけ言っておきたい・・・。
もし、千春と出会っていなかったら、私はとっくにお店を辞めて、今頃はどこか場末の飲み屋か、
いかがわしい店でホステスをやっていたと思う・・・。

千春と仲良く出来たことで、お店で頑張ることが出来たし、こうしていいお相手も見つけること
が出来た。本当に感謝している・・・」

「・・・・・・・・」

改まって千春との交友関係に感謝する春美を見て、千春はなんと答えていいか判らない様子です。
確かにレズの関係は特別の関係ですし、売春行為に近いことをしていて、その背徳感と罪悪感に
苛まれている時、春美との交遊は千春にとっても大きな慰めになっていたの確かです。それでも
春美の態度は少し大げさだと、千春は少しひいているのです。

春美にはもっと奥深い理由があったのです。彼女自身でも気がついていなかった女性器に存在す
る障害のため、春美は男性との性交渉で常に痛みを感じ、いわゆる〈女の喜び〉を知らずにに過
ごしてきたのです。それが普通だと春美自身は思っていたのです。

初めの頃は男性との性交渉が珍しくて、それなりの興味を持っていたのですが、次第に痛みを伴
う性交渉が苦痛になって来ていて、売春行為を止めたいと思うようになっていたのです。しかし、
なじみのお客から要求されると、それを拒否することは難しく、ズルズルと行為を続けてきたの
です。何度も店を止めようと考えたのですが、その踏ん切りがつかないまま行為を続けていたの
です。
そんな春美を救ったのが、千春との交渉でした。男性から得られない悦楽を千春から得るようにな
っていたのです。千春と過ごした日々が春美の乾いた生活に潤いをもたらしていたのです。千春が
居なければ、今日の春美は存在しなかったと、千春に心から感謝しているのです。

春美がこうした経緯を明らかにすることは無いでしょうから、生涯千春は春美の本音を知らずに過
ごすことになると思います。それはそれで、二人にとっていいことだと思えるのです。


[40] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2013/11/25 (月) 11:15 ID:uE8Axr5c No.2437
新しい章を立てるので、スレを新設します。ジロー


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フォレストサイドハウスの住人(その3) - 現在のレスは22個、人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2013/05/28 (火) 17:23 ID:FJRbB8A6 No.2372
この本では、泉の森公園の側に建つこの街一番の豪華マンションFSハウスに住まう住人のエピ
ソードをゆっくりと紹介することにしています。これまでに1613号室の住人、佐原靖男の妻、
幸恵が突然失踪して、偶然この事件にあの鶴岡由美子が関与することになった経緯を紹介しまし
た。そして由美子は佐原の隣家1614号室から出てきた怪しい男と遭遇します。どうやらプロ
の竿師で、この男が幸恵の失踪になんらかの関与をしていると由美子は考えています。そして、
その男は1614号室の人妻と深い関係がある様子なのです。そして、カラオケセックスに夢中
になっている浮気好きで共にFSハウスの住人である二人の主婦、峰岸加奈と門倉悠里にもこの
怪しい男の影が忍び寄っているのです。

この章では、加奈と悠里についてもう少し話を進めます。相変わらず大きな変化のない市民の話題
です。ご支援ください。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字
余脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるよう
にします。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸
いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです。                                      
                                      ジロー


[13] フォレストサイドハウスの住人(その3)(57)  鶴岡次郎 :2013/08/09 (金) 17:13 ID:DzKKKsQc No.2387

「彼が出て行く後ろ姿を私はベッドの上から見送っていた・・。
疲労感と、それをはるかに越える快感で身体が動かなかった・・・。

彼が吐き出した精液を顔や胸に残したまま、私はベッドに裸身を投げ出していた。
彼の強い香りは、その時には感じなくなっていたけれど、初めて他の男を入れた寝室の中には、
部屋中に彼の香りが満ちていたはず・・」

加奈はそう言って笑みを浮かべて悠里を見ました。むっとした表情で悠里が加奈を睨んでいます。
男を盗られた・・、そんな表情なのです。

「30分以上私は恥ずかしい姿をベッド投げ出していた・・。
夕暮れ近くなり、さすがにこれではまずいと思い、起き出し、シャワーを浴びた。
バスタオル一枚を体に巻きつけてソファーに座り、冷たいお茶で喉を潤した。

その時、突然・・、猛烈に・・、彼が・・、いえ、男が・・、
ううん・・、アレが猛烈に、欲しくなった・・・・。
この疼き、悠里も覚えがあるでしょう・・、こんな時、悠里ならどうするの・・・?」

卑猥な笑みを浮かべて、悠里を覗き込むようにして、声を潜めて加奈が言いました。悠里は黙って
加奈を睨みつけています。口には出しませんが、悠里には加奈の疼きが良く判っているようです。

「身体は隅々まで綺麗にしたけれど、彼を受け入れた股間には、鮮明に彼の感触が残っていた。
そこが疼きだし、一気に泡を噴出していた・・・。
男の人だったら、こんな時ソープなどへ行くんでしょうけど、自分で慰める以外、女一人では何
も出来ないのよ・・。

私は股を一杯開いて指を使った。
キッチンから人参を持ってきて入れてみた・・。
とても他人には見せられない、情けない姿を曝して、私は必死で指を使った。
渇きは少し治まったけれど、もやもやした気分はどうにも治まらなかった・・」

その時を思い出したのでしょう、加奈は眼を細めて、明らかに欲情した表情を隠そうとしないの
で話しています。モワーッと女の精気が彼女の身体から立ち上がっていました。悠里が厳しい表
情で加奈を見つめています。それでも、悠里もかなり性的な刺激を受けているようで、両膝を強
くあわせて小刻みに脚を動かしているのです。どうやら、悠里自身も自身の体験を思い出し、股
間を濡らしているようです。

「いつまで経ってもアソコが疼くのよ、悠里も経験済みでしょう・・、あの感触。
こみ上げる情欲を必死で抑えながら、ようやく私はその異常な刺激に疑問を感じるようになって
いた・・。

『彼は・・、何か薬を使っている・・』

私が出した結論はこれだった・・・」

加奈の言葉に悠里は驚かないのです。加奈から視線を外し、床に視線を向けています。彼女の反
応を見て、加奈は自身の推理の正しさを確信していました。

「もう一度洗面所に戻り、膣を丁寧に洗浄した・・。
それでかなり興奮は治まった・・」

真正面から悠里を見詰める加奈の視線を眩しそうに悠里が受け止めています。

「薬を流しだし、興奮が治まると、彼への疑惑が湧いてきた。
それで、冷静に彼とのセックスを振り返ってみることにした。
その時は気がつかなかったいろんなことが見えてきた・・」

自信たっぷりに語る加奈です。悠里はただ黙って聞いています。


[14] フォレストサイドハウスの住人(その3)(58)  鶴岡次郎 :2013/08/13 (火) 14:18 ID:5Wt5RJlw No.2388
「確かに情熱的に彼は私を抱いてくれた。失神するほど私が感じたことも確かだった。でも・・、
ものすごく乱れた私に比べて、彼は凄く冷静だった。普通の男であれば、狙った女があんなに狂
い出したら、もっと興奮し、喜びを露にするはずだけれど、彼は違った・・。

その証拠に、彼は最後の最後まで余裕を残していた。私が失神して、ギブアップ宣言をした時、
初めて彼は精子を私の体の上に吐き出していた。後になって考えると、その行為さえ落ち着いた
もので、興奮の頂点で夢中で吐き出す一般の男達の行為とは根本的に異なると感じた。身体の上
に精子を吐き出したのは、手に入れた私という女に彼の刻印を押すマーキングだと思った。彼は
勃起や放精でさえ、自由にコントロール出来るのかもしれない。

別の言い方をすると、私が欲しくなって、抱いているのではなく、情欲とは無縁の何か別の目的
があって・・、プロとして、仕事の一環で私を抱いているように思えた。

最終的な彼の狙いは、今でも良く判らないけれど・・。
明らかに、彼は私を・・・、そして多分悠里も・・、
抱くことが最終目的でないはずだと思う。
その先に本当の狙いが隠されていると思う・・・・」

加奈はかなり思い切ったことを言っているのですが、悠里は何も言葉を発しません。驚きで言葉
が出ないわけではなく、どうやら悠里には加奈の指摘に思い当たることがあるようです。

「そこまで考えると、私は完全に目が覚めた・・・。
こんな男のために、大切な友を裏切ることは出来ないと思った・・。

その場で彼に電話して、今後一切の付き合いはしないと言った。
彼は驚きながらも、私の返事をある程度予想していたようで、
何も聞かないで、あっさり私の申し出を受け入れてくれた・・・・。

その後一切のアプローチはない・・」

「加奈・・・」

悠里がポロポロと涙を流しています。加奈がハンカチを取り出し、手を伸ばして悠里の涙を拭って
います。子供のように加奈に涙を拭わせながら、悠里が泣き笑いの奇妙な表情で加奈を見ていま
す。二人の心は一つに戻ったようです。

「加奈がそんなに私のことを思ってくれているのに・・、
私は彼の体に溺れて、加奈のことは忘れていた・・。

ううん、そうじゃない、加奈のことを忘れることなど出来なかった・・・。
出来るだけ考えないようにしていた。
加奈を忘れるために、彼の体におぼれていたのかも知れない・・」

傍目を忘れて、悠里が大粒の涙を落としながら、泣いています。今日まで心に貯めていた苦しみを
吐き出し、悠里は晴れ晴れとした気分で泣いていたのです。

「加奈・・・、
本当のことを言うと、加奈を出し抜いて、勝ったと思っていた・・・。
彼は私を選び、私を愛してくれていると思っていた。
その愛に応えるため、私は彼の望むことなら何でもする気になった。

でも・・、加奈が感じ取っているように・・、
彼は最初から、私を陥れるつもりだった・・。
そうとも知らないで、バカな私は、彼に愛されていると思っていた。
バカでしょう・・・、本当にバカな私・・・」

悠里が顔を上げ、涙に濡れた顔に、何かしら決意を秘めた表情を浮かべて、ゆっくりと語り始め
ました。


[15] フォレストサイドハウスの住人(その3)(59)  鶴岡次郎 :2013/08/19 (月) 13:41 ID:CfmtSf0A No.2390

「私・・、これだけは加奈にも言えないと隠していることがある・・」

加奈を真正面から見て、悠里が話しています。素人離れした整った顔が引き締まり、気高ささえ
感じられるほどの美貌です。加奈はその場の雰囲気を忘れ、うっとりした心地で悠里の表情に見
惚れていました。この瞬間の悠里を抱きしめたい、そんな思いで加奈は悠里をじっと見つめてい
ました。加奈の気持ちが判るのでしょうか、悠里はそっと加奈から視線を外しました。顎から首
にかけて、ほんのりと肌がピンク色に染まっています。

「本当は・・、加奈にはこのことは一生言わないつもりだった。
彼に抱かれた経緯を・・、今日、告白し終わったら・・、
もう・・、絶対会わないつもりだった。

私と加奈は別世界に住む人間になってしまったの・・、
例え、近所に住んでいても、以前のように親しくしてはいけないと思っている・・。

それは全部私が犯した罪のせいなの・・・」

ここで言葉を切り、悠里は最後の言葉を考えているようです。その言葉を出せば二人の仲は永久
に終わることが悠里には判っているのです。両肩を前後に少し振り、悠里は気力を振り絞り言葉
を出しました。

「私・・、売春婦になってしまった・・・」

『 私・・、身体を売っている・・』と言うべきところですが、小説の中から言葉を選んだので
しょうか、普段なら絶対使わない古典的な言葉、「売春婦」と言う言葉を悠里は吐き出しました。
その言葉が今の悠里の気持ちを的確にあらわしていると悠里は感じ取っていたのです。

「・・・・・・・・」

加奈は驚きで言葉を失っています。二人は互いの瞳を覗き込んで、にらみあったまま、その場に
凍りついていました。



「彼・・、佐王寺さんは一匹狼の竿師なの・・」

エリートサラリーマンの妻である悠里の口から『一匹狼の竿師』などという言葉が出ること事態
奇妙で、以前の加奈なら腹を抱えて笑い出すところですが、今の加奈にはそのいまわしい言葉が
悠里の苦悩を具体的にあらわしていると判るだけに、悲痛な思いでその言葉を噛み締めていたの
です。勿論、その言葉の意味はかろうじて加奈も承知していました。

「どんな手段でその情報を掴んだのか判らないけれど、私達がカラオケ通いで男漁りをしている
ことを事前に掴んでいて、彼は計画的にアプローチしてきた・・・。
私と加奈を色仕掛けで落とし込もうと考えたのよ・・・。

そして、色仕掛けに弱い私に・・、
スケベな私に・・、彼は狙いを定め、
徹底的に私を弄んだ・・。
元々、色事が好きだから、私は直ぐに彼のチ○ポの虜になった・・。
私は彼のチ○ポ奴隷に成り下がってしまった・・・」

綺麗な顔に小悪魔的な、それでいてなにやら神秘的な笑みを浮かべ、少し唇を歪めながら、悠里
は話しています。そうすることで、汚れてしまった彼女自身を加奈に見せ付けているのです。

「悠里・・、
ちゃんとした言葉を使いなさい・・!
そんなの悠里らしくない・・」

「ハイ・・・」

悠里が素直に頭を下げています。

「彼・・、カラオケ店で私と加奈に薬を使ったと白状した。
それほど強いものでないけれど、中国から取り寄せた媚薬だと言っていた。
クリーム状の媚薬で、チ○ポ・・、いえ、男根にそれを塗って交わると、素人女ならイチコロだと言っていた」

加奈の推測は当っていたのです。


[16] フォレストサイドハウスの住人(その3)(60)  鶴岡次郎 :2013/08/21 (水) 17:15 ID:tTqIMMjQ No.2391

「彼に抱かれた後、体が疼いてたまらなくなり、
自分で慰めても返って余計たまらなくなり、加奈に相談したら・・、
加奈もそうだと判り、私達はそれまで守っていた禁を破って、
二日連続で彼に抱かれたでしょう・・。

あのカラオケ店の二日間で私は完全に彼の虜になってしまった・・・」

悠里の話に加奈が悲しそうな表情を浮かべ頷いています。加奈も悠里と同じ道を辿っていたので
す。途中で媚薬の存在を疑い始め、初めて佐王子の計略に気がつき、かろうじて佐王子の罠から
逃げ出すことが出来たのです。それでも、加奈は今でも心底から佐王子を拒否できないでいるの
です。言い換えれば、意識では佐王子を拒否しながら、彼に弄ばれた身体はその悦楽を良く憶え
ていて、どこかで会って、優しい言葉でもかけられれば、黙って彼に抱かれるであろう自身の弱
さを加奈は自覚しているのです。それだけに、悠里を責めることが加奈には出来ないのです。た
だ、話を聞くことしか出来ないのです。

「家事をしていても、買い物に出かけても、身体の芯が疼き、恥ずかしいほどアソコを濡らして
いた。元々、スケベな体質だと自分でも判っていたけれど、こんなにスケベだったのかと、自分
でもあきれていた。

正直に言います。どうしょうもなく、彼が欲しかった・・。
主人のことも、加奈のことも、全て忘れて彼に抱かれることだけを考えるようになっていた。

我慢できなくて、彼に連絡したら、彼は直ぐに応じてくれた。
どこかのホテルでと私は考えたのだけれど、彼は私の自宅へ来ると言った。
遊びで男に抱かれることがあっても、自宅へ男を引き入れることなど出来ない、そんなことをす
れば、いずれ取り返しのつかないことになることは判っていた。

それでも、私は・・、彼を部屋へ迎え入れることにした・・。

最初から女の部屋へ上がりこむのは、女を落とすための彼の戦略だと、後で気付いたのだけれど、
その時は、自由に外出できない主婦である私を思いやる彼の優しさから出た申し入れだと思って
いた・・」

悠里は静かに話しています。佐王子の計略に嵌り、そこからからうじて逃げ出した加奈は、悠里
の気持ちが誰よりも良く判るようで、時々頷きながら聞いています。

「ドアー・ベルが鳴り、彼を確認した後、私は着ているワンピースを脱ぎ捨てた。下着は最初か
ら着けていなかった。全裸の私を見て、彼は微笑み、抱きしめてくれた・・・。

その後のことは、今でも良く思い出せない・・・、

玄関で彼に抱きしめられ、息が止まるほど唇を吸われ、
彼の指で全身をくまなく・・、優しく撫ぜられ・・、
それだけで・・、私は・・、恥ずかしいほど濡れて、そして気を失ってしまった・・。

ソファーへ抱いて連れて行かれたところまでは覚えているけれど・・、
それから後、4時間、彼に翻弄されたのだけれど、何も覚えていない。
そして、ベッドの上で目覚めた時、彼の姿は寝室から消えていた・・」


[17] フォレストサイドハウスの住人(その3)(61)  鶴岡次郎 :2013/08/22 (木) 17:02 ID:XypULhpI No.2392

男がベッドにいないことを知り、悠里は反射的にベッドサイドの時計を見ました。夕暮れまでに
まだ1時間ほど残しています。それほど慌てることはないと悠里は一度起こしかけた半身をもう
一度ベッドに倒しています。それでも、喉に激しい渇きを感じ取り、悠里はゆっくり上体を起こ
しました。

改めて自身の裸身を眺めて、そのあまりに淫らな姿を見て悠里は苦笑しています。蹂躙された股
間は原形を止めないほどに白い粘液で覆われ、顔から胸にかけて男のものらしい粘液が大量に撒
き散らされていて、その大部分は既に乾き始め、その匂いに対して嗅覚が麻痺した悠里は感じ取
ることが出来ませんが、そこから凄い淫臭が吐き出されているのです。

「ああ・・、痛い・・・」

身体を起こそうとすると、大腿部と陰部に鈍い痛みを悠里は感じとりました。激しい性交の後遺
症である筋肉痛です。その痛みに何とか堪えて、悠里はゆっくりと床に立ちました。

「ああ・・・」

今度はとても耐え切れない痛みが悠里を襲いました。堪らず、その場にうずくまりました。彼女
の両手は子宮のあたりを押えています。佐王子と交わり始めてこの痛みを悠里は知りました。最
初は慌てましたが、何度か経験する内に悠里はこの痛みと上手く付き合う術を会得した様子です。

屈みこんだまま悠里はじっと耐えています。こうすることが一番の対策だと彼女は知っているの
です。60秒ほど経過しました。悠里がゆっくり立ち上がりました。鈍痛は残っている様子です
が、射すような痛みは消えているのです。長い男根で突き上げられた子宮がようやく正規の位置
に戻ったのです。

居間にも、洗面所にも彼の姿はありませんでした。どうやら、目覚めない悠里を残してこの部屋
を出て行った様子です。そのことを確かめた悠里はどっかりとソファーに腰を下しました。明ら
かに落胆した様子です。

そのタイミングを計っていたように悠里のケイタイが鳴りました。

「ああ・・、佐王子さん・・・、
ハイ・・、起きています。大丈夫です・・」

夕暮れになり、旦那が帰宅するまでベッドに倒れているとまずいと思って、心配した佐王子が電
話をしてきたのです。

「エッ・・、明日も来てくれるのですか・・・、
うれしい・・・、予定があったのですが、そちらは断ります・・・
ハイ・・、12時過ぎに待っています・・。
ああ・・、昼食はこちらで食べてください・・・
ああ・・、私、うれしい・・・・」

こうして悠里は落されたのです。


「毎日、昼間、彼を部屋に招き入れ、抱かれた。
コンビニの弁当を食べる以外はずっと裸で過ごし、彼の愛撫を受けた。
彼は想像以上の強さだった。
新婚当初だって、夫はあんなに長時間、激しく抱いてくれたことがなかった・・」

二週間ほどの間に、それまではいかがわしい雑誌でしか見たことがないセックスの数々を悠里は
教え込まれました。


[18] フォレストサイドハウスの住人(その3)(62)  鶴岡次郎 :2013/08/24 (土) 16:08 ID:LR95YLJo No.2393

カラオケ店で男漁りをすることだって普通の主婦から見れば大変な経験ですが、そんな経験が子
供の遊びに思えるほど、悠里にとって佐王子とのセックスは刺激的でした。人生観から、着る物
の好み、そして食生活まで影響を受けるほど佐王子とのセックスは悠里に大きな影響を与えました。

元々セックスが好きでしたが、佐王子と知り合ってからは悠里の生活はすべてセックスを中心に
動き始めていたのです。

「その全てをここではとても言えないけれど・・、
これを言えば、多分加奈も私がどんな経験をしたか想像がつくと思う・・。

お尻を使うことはそれまでも何度か経験があったけれど、
本当のことを言って、その行為はそれほど好きでなかった・・。

ところが、私・・・、お尻でも逝くことを憶えてしまった・・。
いまでは、どちらかのホールに彼を受け入れて・・・、
片方のホールを指かデルドーで愛撫されることが普通になった・・

彼と過ごした一週間足らずの間に、私はスッカリ変ったと思う・・
着る物も、より露出度の高いものを好むようになった・・」

悲しい経験を話しているはずですが、悠里はうっとりと瞳を濡らし、むしろ誇らしげに話してい
るのです。以前の悠里ならとてもいえない禁句をすらすらと言っています。加奈は一ヶ月ぶりに
会った悠里に何かしら違和感を覚えていたのですが、それが何か判らなかったのです。今、悠里
の話を聞いて、悠里の変化の本質を正確に理解していました。多分男なら一目で判ったはずです
が、悠里の全身から発散される得体の知れない女の精気に加奈は違和感を抱いていたのです。

胸は少し多めに拡げられ、悠里が少し上体を動かすと、豊かな乳房の頂点近くまで垣間見えるよ
うになっているのです。白い脚を悠里が見事な仕草で組み直すと、スカートの陰から時折黄色の
ショーツが見えるのです。

「マンションのベランダで全裸を曝して抱かれたり、夜主人が出張で居ない時、公園で浮浪者に
見られながら抱かれたり、媚薬のせいもあって、私は彼に抱かれるためなら何でも厭わない気持
ちを持つようになっていた。

彼は決して無理強いはしなかった。全ての行為を私は喜んで受け入れていたの、勿論、いかがわ
しい行為に最初の内は慣れなくて、恐がっていたけれど、
直ぐに慣れて、積極的に彼の命令に従うようになっていた。

そうなの・・・、私は自分から進んで、彼の命令を受け入れる女になったのよ。
私は・・、とんでもなく淫乱な女なの・・・」

悠里の話は加奈の想像をはるかに超えていました。どうやら、悠里は佐王子の罠だと悟った後も、
彼から逃げられない様子なのです。理性や倫理観を超えたところにある至上の悦楽に身を任せる
道を悠里が選んだことを加奈はようやくに理解していたのです。

そこまで悠里を追い込んだ佐王子の力を知り、加奈は背筋に悪寒を感じる気分になっていました。
そして、一時は佐王子の体に溺れながら、その罠から逃げ出したわが身を、加奈は誇らしく思い
ながら、どこか寂しい思いを抱いていました。あのまま、佐王子の誘いに応じていれば、悠里同
様この世に存在する悦楽の頂点を経験できたはずだと、加奈は思っているのです。女と生まれて、
その悦楽の頂点を知らずに終わることへの複雑な感情が加奈の心の奥で蠢いていたのです。

悠里の告白はここで終わりませんでした。

「ある日、自宅へ佐王子さんが50歳過ぎに見える、見知らぬ紳士を一人連れてきた。どこかの
中小企業の社長で、身元がしっかりした男だと紹介された。

その日から、毎日のように、毎回違う男性を佐王子さんは連れてきた。

『一流マンションに住まう若い人妻・・・、
熟れた身体を持て余している人妻・・・、
そんな人妻を彼女の自宅で抱く・・・・、

旦那のいない寝室で、熟れきった人妻を抱く一時をあなたに・・・』、

それが、娼婦に成り下がった私のセールス用キャッチ・フレーズなの・・・」

むしろ楽しそうに悠里は話しています。

「数えてみると、これまで一ヶ月足らずの間に、30人近い男に買われたことになる。一日に三
人と交わったこともある。悲しいことに、私の身体は彼等の愛撫に反応して、いつでも、しとど
に濡れている・・。

加奈には正直に言う・・、
私は・・、身体を売る行為をそれほど嫌と思っていない。
このまま、私はズルズルと落ちるところまで、堕落していくと思う・・」

冷静に、加奈の表情を見ながら、笑みさえ浮かべて悠里は語っています。一方、あまりの話に加
奈は言葉が出ない状態です。


[19] フォレストサイドハウスの住人(その3)(63)  鶴岡次郎 :2013/08/25 (日) 16:56 ID:XnYM6vfM No.2394
「これが、私の秘密の全て・・」

加奈の反応を楽しむかのように、悪戯っぽい表情を浮かべて、加奈の顔を覗きこみながら悠里が
告白を終えました。抱えている大きな重荷を下ろしたように悠里はむしろすがすがしい表情をし
ています。一方、加奈は先ほどから言葉を発していないのです。いろんな感情と思惑が加奈の中
で凄いスピードで駆け巡っているのです。今の加奈には、何が正で、何が悪なのか、そのことさ
え判断がつかない状態のようです。

「今日・・、加奈に会うつもりでエレベータに乗った・・。
以前いつもこの時間加奈が出かけることを知っていたから、二、三度往復すると簡単に加奈に出
会えた。

加奈に会って、佐王子さんのことは告白するつもりでいたけれど、
売春のことを話すかどうか、最期まで迷っていた。
でも・・、加奈が佐王子さんの誘惑を振り切ったことを知って、加奈には全部話すべきだと
思った。もっと早く加奈に話していれば、ここまで身を落とすことにはならなかったと、少し後
悔している・・。」

「彼から逃げられないの・・・?」

「逃げ出したいと思うことは何度もあった・・。このことがバレたら、離婚は当然、主人や両親
を酷く傷つけることになると判っている。彼と別れようと何度も思ったし、そのことを彼に告げ
たこともある・・。彼は無理に引き止めなかった・・、でも、私が別れられなかった・・・」

「なぜ・・、どうして、悠里・・」

その訳が、判っていながら、加奈は質問しないではいられませんでした。

「主人に抱かれた時など、申し訳ない気持ちで一杯になって、その時は、今度こそきっぱり別れ
ようと決心していた。そして、彼が部屋に来ると、今回を最後にすると、彼にもそのことを告げ
、彼もそれを了承してくれた。

しかし、彼に抱かれると、身体が別れを受け入れてくれなかった。もう一度だけ、次に抱かれた
ら別れよう・・と、安易な逃げ道を選んでいた。そんな先送りを何度も繰り返し、今では、どう
にも抜け出せない地獄の入口へ入り込んでしまった・・。

加奈・・、私はダメな女なの、このまま奈落の底へ落ちる運命なの・・・」

「・・・・・・・・」

女の性に振り回されている悠里の悩みが良く判るだけに、彼女を責めることは勿論、慰めさえも
加奈は言えないのです。同じ立場に立てば悠里と同じことをする可能性が高いと、悠里の話を聞
きながら、加奈は自身の中に潜む、女の業を見つめる気分になっていたのです。

「悠里が別れたいと思えば、佐王子さんは手を引いてくれるのね・・?
それとも、写真とかで脅かされているの・・?」

別れられない理由は悠里の中にあると判っていながら、加奈は気休めの質問をしています。意外
なことに悠里がその質問に食いついてきました。彼女もまた彼女自身の中に潜んでいる女の性を
直視することが出来ないで、別の理由を探そうとしていたのです。

「写真・・・?
そういえば、彼・・、写真を撮っていて・・、
私が本気で逃げ出したら、近所にその写真をばら撒く心配がある・・」

「そのことで彼から脅かされたことはあるの・・・?」

「ううん・・、彼は何も言わない・・。
もし、本気で別れ話をするとその写真の存在が気になると・・、
私が一人で心配しているだけかもしれない・・・・

多分、彼はそんな非道なことはしないと思う・・・」

佐王子と離れられない言い訳に写真を持ち出したと悠里はあっさり認めています。佐王子と別れ
るつもりがないのです。勿論、そんな悠里の女心を加奈は見通していました。


[20] フォレストサイドハウスの住人(その3)(64)  鶴岡次郎 :2013/08/27 (火) 15:19 ID:jJLlCC9Y No.2395

カラオケ店で男漁りをしている時、加奈も悠里も遊びを盗撮されることに事のほか神経を使いま
した。浮気の証拠は一切残さないよう、男達のケイタイを受付に預けさせ、カメラや録音機を隠
し持っていないことを念入りに確かめていたのです。そんな悠里が佐王子に撮影を許しているこ
とが判ったのです。その事実だけでも悠里の佐王子への気持ちの強さが理解できます。聞けば聞
くほど、深みに入り込んで動けない悠里の立場が鮮明になるのです。やや気落ちした気分で加奈
は口を開きました。

「写真は危険だとあれほど申し合わせていたでしょう・・・、
どうして写真なんか撮らせたの・・・
彼が無理やり撮影したの・・・?」

「ゴメン・・・、
私が撮ってほしいと言ったの・・。

だって・・・、
二人でふざけている時、鏡に写った恥ずかしい姿を見て、凄く興奮したから・・、
二人が絡まっているところを撮影して、後で見ることが出来れば、
楽しいだろうって思ったの・・・」

「あきれた・・・、
・・・で、二人で見て楽しんでいるの・・・?」

「うん・・、
自分の乱れた姿を後で見ると凄く興奮するのよ・・、
一人でいる時でさえ、それを見て楽しんでいる。

それだけではない、私の恥ずかしい映像をテレビ画面に映し出して、
お客と一緒にそれを見ることもある・・」

加奈には隠さず、何もかも話すと決めている様子で、悠里は、むしろ楽しそうに話しているので
す。聞いている加奈が悠里の身を心配して不安そうな表情をしているのです。

「お客と一緒にいる時間は限られているから、出来るだけ早くことを済ませたいのだけれど、私
のお客は比較的年齢の高い人が多いから、若い人と違って、私のハダカを見るだけでは十分にな
らないのよ。それで、私の恥ずかしい映像を見せることにした。すると、それだけで興奮して、
私に飛び掛かってくるの、私もそんな遊びが嫌いでないから、乱れた映像を見ながら、お客の男
根を受け入れるのよ、60過ぎのおじさんが2時間の間に三度も逝くことがある・・」

「・・・・・・」

加奈はいささかあきれています。加奈の表情を見た悠里が慌てて、言葉を継でいます。

「ああ・・、心配しなくても良いのよ・・・。
お客の住所も、名前も、職業も正確に掴んでいるから、
お客の口から、秘密が洩れる心配はないのよ・・。

そして、その気になれば、いつでもその映像を処分することが出来るのよ、
加奈が心配するように、本当に危険なら、今度彼に会った時、
全部処分するように頼んでみる・・」

〈そんな簡単なことではないでしょう・・・〉

そう言いたい気持ちを抑えて加奈は悠里を睨んでいました。売春にしても、淫らな写真のこと
でも、悠里の受け取り方は楽観的過ぎます。悪く言えばあまりに幼すぎるのです。のん気そうに
話している悠里を見て、加奈は密かに決意を固めていたのです。


[21] フォレストサイドハウスの住人(その3)(65)  鶴岡次郎 :2013/08/28 (水) 13:43 ID:FJRbB8A6 No.2396

加奈の表情が段々に厳しくなったのを見て、悠里が心配そうにしています。そして、加奈のご機
嫌を取るようにして口を開きました。

「売春と言っても、自宅でする仕事だし、先ほども言ったように、お客は身元がしっかりした紳士
だし、それに、変なことをさせる客が居ても、佐王子さんが私を必ず守ってくれるのよ・・。

ある時、私が嫌がっているのに、アソコの毛を無理やり剃ったお客が居た。そのことを佐王子さん
に言いつけたら、佐王子さんその場で私に頭を下げて謝ってくれた。そして、二、三日後、かなり
の金額を差し出して、そのお客からこの金を代償として出させたこと、今後出入りさせないし、し
っかり口止めもした、と教えてくれた。たぶん、そのお客はかなりのお金を出した上、恐い脅かし
も受けたと思う・・。

彼も言っていることだけれど、お金を得ていることを除けば、
私のしていることは、カラオケ店で知らない男に抱かれるのと、
それほど違わないと思う・・・、加奈もそう思うでしょう・・・?」

罪を犯して落ち込んでいるのは、どちらか判らなくなるほどです。渋い表情を隠さない加奈を、
笑みを浮かべた悠里がしきりに慰めているのです。

「私は加奈が心配してくれるほど惨めな気分ではない。
このままの生活を少し間なら・・、そうね・・、一年ほどなら・・、
続けてもいいとさえおもっている・・。

それにね・・、これは言いたくないことだけれど、
不景気で主人のお給料が上がらないでしょう、
いただくお金が家計に、とっても助かるのよ・・・。

いずれ、私の商品価値が下がって、彼もお客達も、私から離れて行くと思う、
それまで、せいぜい楽しむことにする。
だから、もしこんなに汚れた私でも加奈が嫌でなかったら、
これまでどおり、加奈とは仲良く付き会いたい・・・」

「嫌になるなんて・・、
どんな時でも悠里は私の大切な友達だよ・・」

「うれしい・・、加奈に嫌われたらどうしょうと思っていた・・。
いろいろ言ったけれど、私は平気だから、あまり心配しないで・・」

ことさら陽気な表情で、半分は本心を込めて、悠里が加奈を逆に慰めています。どう返事をして
良いか加奈は困り果てているのです。

いずれ佐王子が女を手放す時が来ると悠里は言っていますが、苦労して手に入れた女を竿師がそ
う簡単に手放すはずがないことは、素人の加奈にも良く判るのです。骨の髄までしゃぶられて、
ボロボロになって捨てられた時は、全てを失っていることになるのです。今の内に何とか救い出
す手を考える必用があると、加奈は焦っているのですが、そんないい案はすぐには沸いて来ない
のです。


「中国製の媚薬を使っていると言ったわね・・・、
その薬の銘柄判るかしら、出来ればサンプルがあれば良いけれど」

何かを思いついたようで加奈が質問しました。

「ウン、判るよ・・、今も持っているけれど・・、何に使うの・・・?
佐王子さんが自由に使っていいと言って、寝室に何本かチューブを置いて行った。
お客との時は勿論、旦那とやる時も使っているの・・、
もう・・、手離せない、コレを使うと天国へすぐに行けるの・・・。

それにね・・、男も元気になるのよ・・・、
信じられないほど、固くなるから・・、ふふ・・・・。

私って、本当にスケベだと思う。いつでもこうして持ち歩いている。
いざという時には使うつもりなの・・、
何処で男から声をかけられるか判らないでしょう・・・フフ・・」

本気なのか、冗談なのか判らない様子を見せて悠里が話しています。天性の淫乱というのでしょう
か、清楚な顔に似合わない淫らな言葉をちゅうちょなく使っています。加奈は少しあきれて、悠里
を責めることさえしなくなっています。

「男性のアレに塗ることもあるけれど、あらかじめ膣内に塗っておくともっと効果的よ・・、
加奈も試してみるといい、きっと病み付きになるから・・、フフ・・・」

うっとりと好色そうな瞳を輝かせて悠里が言っています。弱い薬ですから、禁断症状が出るほど
の麻薬ではなさそうですが、悠里はその魅力にスッカリ嵌っているようです。

悠里がバックから取り出した薬を受け取り、その日、二人は別れました。すべてを告白した悠里
は爽やかな笑みを浮かべて意気揚々と帰りました。一方、悠里から告白を聞かされて、重荷を背
負わされた形の加奈は大きな悩みを抱えたことになります、悠里のさわやかな表情とは違って苦
悩する女の表情を浮かべていました。


[22] Re: フォレストサイドハウスの住人(その3)  鶴岡次郎 :2013/08/28 (水) 13:50 ID:FJRbB8A6 No.2397
新しい章を立てます。新スレへ移ります。 じろー


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二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人 - 現在のレスは19個、人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2013/02/01 (金) 11:23 ID:xGlGEJOs No.2310
しばらくお休みをいただいておりました。あまり長く筆を置くと書き出すのに時間がかかること
も判りました。投稿ペースが以前の調子に戻るまで少し時間がかかりそうです。ゆっくりと始動
することにいたしました。よろしくご支援ください。

今回は二丁目にある高級マンション、『フォレスト・サイド・ハウス』に住む女性を中心にした
物語を書いてみます。相変わらず、市民のチョッとした日常がテーマです。ご共感いただける部
分が有りましたら、コメントいただければ幸いです。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字
余脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるよう
にします。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸
いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 1779(1)、文頭にこの記号があれば、記事番号1779に一回修正を加えたことを示します。
                                      
                                      ジロー

公園の男

三月のある土曜日、桜には少し早い時期ですが、日向に居れば暖かい日差しが心地よく感じられ
ます。日差しの暖かさに連れ出されて二丁目ににある『泉の森公園』に由美子がやってきました。
ここへは彼女の自宅から徒歩で10分程度で来ることができます。目下のところ由美子の周辺で
はこれといって事件は起きていないのです。それはそれでおせっかいな由美子には寂しいのです。

この公園の中央にはその名の由来になった地下水の噴出で出来た上がった周囲が500メートル
ほどの池が有ります。池を取り囲むように深い森が広がっています。午前10時を過ぎた頃で近
所の家族連れが集まってきて、池の周りはかなりの賑わいです。小さな子供たちが走り回り、休
日着姿のパパがその後を追っています。彼等の後から笑顔のママがゆっくりと歩いています。そ
んな光景を微笑を浮かべて見送っていた由美子の視線があるところで止まりました。

由美子の視線は池を取り囲んでいる森の一角に止まり、その一点を見つめています。大きく枝を拡
げた白樫の大木の陰に由美子の視線は向けられていました。そこには3台ほどのベンチが設置さ
れていて、日差しが強くなる季節には真っ先に占拠される人気スポットなのです。しかし、日陰
では少しは肌寒く感じる今の時期は敬遠され、そこには深閑とした影が広がっているのです。

由美子が眼を凝らすとベンチに一人の男性が・・、中年過ぎの普段着姿の男性が座っていました。

「彼・・・、今日も来ている・・・・」

密かに期待していたとおりの結果に由美子は満足しています。その男性を見るのは由美子にとって
初めてではありませんでした。

由美子はゆっくりと歩を進めました。5メートルほどに近づいた時、その男性は由美子に気がつ
きました。チラッと由美子を見て、それでも直ぐに視線を外し、池の周りで賑やかに騒いでいる
家族連れに視線を転じました。

迷いを見せずに由美子は真っ直ぐに歩きました。ほのかな女性の香りを嗅ぎつけ、男性が由美子
に再び視線を戻しました。由美子は一メートルの距離に近づいて居ました。

「スミマセン・・・、
側に座らせていただいてかまいませんか・・・?」

男性は驚きを隠しきれない表情で由美子を見上げました。

「ああ・・・・、
勿論・・、かまいません・・・・、どうぞ・・・」

男性は立ち上がり、由美子の手を取る仕草を見せています。由美子はニッコリ微笑み男性の体に、
彼女の身体を少し触れさせてベンチに座りました。立ち上がっていた男性は由美子の体に触れな
い程度に身体を寄せて、少し由美子に身体を向けるようにして、彼女に続いて腰を下しました。


[10] (10)二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人たち  鶴岡次郎 :2013/02/25 (月) 18:06 ID:7P76OOzI No.2324
2323(1)
「幸恵が居なくなって、私は初めて彼女の存在の大きさが判りました。
彼女無しではこれか先の人生は考えられません・・。
どんなことをしても、彼女を探し出したいのです。

不幸にして・・、
いや、不吉なことは考えないようにします・・・。
これからは、自分を信じて、真正面から攻めます・・・」

一時間ほど前、肩を落として管理人室へやってきた佐原はもう・・、そこには居ません。別人に
ように佐原は変貌しました。戦う男の迫力を二人の女に見せ付けているのです。これが本来の佐
原なのだと、二人の女は佐原を頼もしそうに見ていました。

落ち込んで、悲しい素振りを見せる色男の佐原もそれはそれで二人の女心を揺さぶったのですが、
戦う男の表情を取り戻したイケ面佐原はまた別の魅力があると二人の女はじっと佐原を見つめて
いました。由美子の女心がまた動きました。

「知り合いに腕のいい探偵さんがいます。私が知っている限りでも、これまで難しい男と女の問
題を数件解決してきました。苦労人ですからどんなことでも親切に聞いてくれます。よろしかった
ら、紹介しましょうか・・」

勤めをこれ以上休むことが難しい佐原は由美子の話を聞いて大喜びでした。さっそく由美子が寺崎
探偵事務所へ連絡する約束をしました。男の喜ぶ顔を見た由美子の口が、ここでまた滑りました。

「男と女の問題になると、Uさんも少しは力になれると思います・・」

「エッ・・、Uさんとは・・」

深く考えないでUのことを出してしまった由美子は頬を染めて慌てています。

「私から説明してあげようか・・・?」

困り果てている由美子を見て、笑いながら愛が助け舟を出しています。由美子がコックリ頷いて
います。愛人Uのことを佐原に話してもいいと由美子は咄嗟に判断したのです。 

「Uさんと言うのは由美子さんの愛人です。
勿論、肉体関係が伴った愛人で、その上ご主人公認なの・・・。
うらやましい話でしょう・・・」

少しイジワルそうな口ぶりで愛が説明してます。微妙な話なので、佐原はただ驚いた表情を浮べ
ているだけです。

「そのUさんは露天商組合の親分さんなの、
それで、ウラの問題で彼に頼ると、いままで、何度も上手く解決してくれた・・。
佐原さんの奥様の件はそんな心配はないけれど、万が一その必用があれば、Uさんの手を借りる
ことも出来ると、由美子さんは言いたいのです・・。要するに、佐原さんのためなら、由美子さ
んはなんでもする気になっているのよね・・」

最後の言葉を由美子に投げかけて、愛は笑みを浮べているのです。佐原は驚きながら、由美子の
申し出に感謝して、全面的に援助を求めました。

「いや・・、スッカリお世話になりました・・。
由美子さんと愛さんに話を聞いていただき、いいお話をうかがい、励ましを受けて、ココの重荷
がすっかり軽くなった感じです・・」

佐原が胸を摩りながら女二人に頭を下げました・・。

「これから先・・、時々はココへ来てもいいでしょうか・・?
そうですか・・、そうさせていただきます。ありがとうございます・・・。
なんだか楽しくなってきました。
今晩は久しぶりに美味しい酒が飲めそうです・・・」

何度も、何度も頭を下げ、佐原は管理人室から出て行きました。由美子と愛は公園口まで彼を見
送りました。そして、彼が森の中へ消えるまで、その後ろ姿を見送っていました。

「幸恵さん・・、
今頃、何処にいるのかしら・・・
やっぱり、男が原因かしらね・・」

「う・・・ん・・・、
その可能性が一番高いけれど・・・、
でも・・、幸恵さん、40歳を過ぎているのでしょう・・・、
色恋に狂って、イケ面の佐原さんと、今の充実した生活を捨てるとは思えない・・。
二人の間に何が起こったのか・・、判らないわね・・・」

由美子と愛にも、佐原幸恵失踪の謎は容易には解けないようです。


[11] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(11)  鶴岡次郎 :2013/02/27 (水) 16:40 ID:C6JtrfEI No.2326

怪しい男

由美子が自宅に戻ると事件の発生を予想していたかのように、寺崎が来ていました。都心で探偵
事務所を開いていて、鶴岡とは十数年来の友人である寺崎は相変わらず一人身で、月に二、三度
何の前触れもなくやってきて、時には一晩泊まっていくこともあるのです。

夕食の後、佐原のことを由美子は夫と寺崎に語りました。

「う・・ん、由美子さん・・、
近頃珍しくない話ですね・・・」

「奥さん」と呼ぶべきところですが、鶴岡の前でも寺崎は由美子を名前で呼びます。十数年前、
最初に出合った時からそうしているのです。そうすることで由美子の人格を鶴岡から切り離して
個別に評価していることを伝えたいと思っているようです。

勿論、露天商の親分である宇田川という恋人が由美子にいることも、彼女がたくさんの男達と奔
放に肉体関係を持っていることも寺崎はそのほとんどを知っているのですが、そのことで態度を
変えることなく、尊敬する友人、鶴岡次郎の妻として、そして、一人の尊敬する女性として由美
子に接しているのです。一方、由美子は寺崎のことを兄のように慕っています。

「私のところへ来る調査依頼でも、最近は旦那が捨てられるケースが多くなっているのです
よ・・・。そうした場合、決まって、奥さんの失踪は旦那にとって寝耳に水の場合が多いのです。
今回も、その佐原さんはまさか奥さんが黙って出て行くとは夢にも思っていなかったようです
ね・・。

多分、旦那は自覚していないけれど、奥さんが出て行った理由は旦那の方にあると思いますよ。

まあ・・、今に失踪した奥さんから旦那宛に離婚届が送られてきますよ、
旦那がそれにサインして、それですべて終わりです」

寺崎にとって佐原の事件はそれほど関心を引く出来事ではなかったのです。

「寺崎さん・・、何とか力になっていただけないかしら・・・、
スッカリ気を落として、落ち込んでいる様子を見て、
私・・、思わず声をかけてしまったの・・。
友達の愛さんだって、スッカリ同情して、今にも泣き出しそうだった・・・。

私、凄く仕事の出来る探偵さんを知っていると寺崎さんのこと紹介して、
佐原さんもその気になったから、
私・・、寺崎さんに連絡すると約束してしまったの・・、
話が通れば、寺崎さんの事務所を訪ねると佐原さん言っていた・・」

食後のブランデイを舐めながら、寺崎がことさら苦い表情を作っています。由美子が困った表情
を見せるのを楽しんでいるのです。

「そりゃ・・、商売ですから、頼まれれば、話を聞く程度のことは出来ますが、正直言って、あ
まり気が進まない仕事ですね・・・。

話の様子では佐原さんはなかなかイケ面のようですネ・・、
いや、間違いなく渋い中年紳士だと思います。
由美子さんや、お友達の管理人夫人がそこまで親身になっておられるのを聞いてそのことを確信
しました。
それでも人は見かけだけでは判断できませんからね・・・、
案外、DVや浮気で奥さんへ酷い仕打ちをしているかもしれませんよ、
それが判ったら、由美子さんも管理人夫人もガッカリすると思いますよ・・」

「そんなことはありません・・、佐原さんはそんな人ではないと思います。
私達はかわいそうな佐原さんに、同情して、何とか力になりたいと思っただけで、
寺崎さんの言うように、嫌らしいことは少しも考えていません・・。

そんなこと言うのだったら、もう頼みません。
もっと良い探偵さんを、Uさんに探してもらいます・・」

最初から佐原に好意を持っていることは事実で、痛いところを突かれて由美子は本気で怒り出し
ています。

「アハハ・・・、冗談ですよ・・。
由美子さんが余り熱心だから、佐原のことが少し妬けて来たのですよ・・。
それにしても、どんな時でも、イイ男は得をしますよネ・・・、アハ・・・・・・。

いいでしょう・・、いつでもいいから事務所へ連絡を入れるようにその色男に連絡してください。
寺崎探偵事務所が全力で対応します」

笑いながら寺崎が仕事を引き受けることを約束しました。

「それにしても、この仕事の結果は見えていますよ、女性にとって40過ぎの浮気は、ラスト
チャレンジですからね、その幸恵さんという奥さんの腹は固まっていて、誰も彼女の決断を動か
せないと思います。

男と暮らしている奥さんの居所を私が探し出して、チョトした修羅場があって、場合によっては
双方が弁護士を立てることになるかもしれませんが、いずれにしても、何らかの金銭のやり取り
があって、離婚成立となると思います・・・」

悔しい気持ちを持ちながらも由美子は寺崎に反論できないでただ彼を睨んでいました。それでも、
由美子は寺崎が言うほど幸恵の行動を単純に考えていなかったのです。助けを求める幸恵の声な
き声が由美子に聞こえていたのかもしれません。


[12] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人たち(12)  鶴岡次郎 :2013/02/28 (木) 16:41 ID:Gscbb7RA No.2327
その場で由美子は佐原に連絡を入れ、寺崎が調査を引き受けたことを話しました。佐原は非常に
喜んでいて、寺崎がその場に居るなれば電話口に呼んで欲しいと言いました。そしてかなり長い
時間二人の男は話し合っていました。翌日寺崎が佐原宅を訪問することが決まりました。これで
佐原幸恵の調査を寺崎探偵事務所が正式に請け負うことになったのです。

佐原の希望もあって、由美子が寺崎に同行しました。佐原のマンションは泉の森公園の側にあり、
由美子の自宅から徒歩でも行ける距離の所にあります。27階建ての比較的新しい建物で、この
近辺では一番豪華なマンションです。16階にある佐原の部屋、1613号室へ行くにはビルの
玄関とエレベータの二箇所に関門があり、関門はカードキーがないとゲイトが開かないシステム
になっています。このため住民以外の者がこのマンションに入るためには、入口ゲイトのインタ
ホーンで住人を呼び出し、住人が臨時出入のカードキーを発行することになります。この時、そ
の来訪記録が残るシステムになっています。勿論、要所に監視用のテレビカメラが設置されてい
て、不審者がチャクされています。

前夜、寺崎の指示を受けていた佐原はコンシェルジェから幸恵が失踪する前3ヶ月まで遡って、
自宅訪問者記録を入手していました。そのデータにはただの一件も不審者の訪問は残されていま
せんでした。これで少なくとも、自宅へ幸恵が男を連れ込んだ形跡が無いことが判ったのです。

一方、住民の出入はコンシェルジェではチェックしないことになっていて、何のデータも残って
いないのですが、佐原が知る限りでは幸恵の外出はかなり頻繁で、週に三回趣味でやっている
パッチワーク教室への出席、毎日の買い物、そして気楽な散策に時間を費やしていたようで、ほ
とんど毎日、5時間以上家を空けているのです。この行動を見る限り、幸恵が外で男と会ってい
た可能性は否定できないのです。

佐原夫妻は、寝室や居間の他にそれぞれに自室を持っていて、幸恵の部屋は趣味でやっている
パッチワークの作品で文字通り埋めつくされていました。
寺崎と由美子は丹念に幸恵の部屋を調べました。幸恵の部屋は彼女が失踪した直後の状態のまま
だと佐原は証言しました。

「この部屋の様子を見る限り、幸恵さんは何も持ち出していないわね・・・、
全てを日常のまま遺して、家を出て行った・・・」

洋服は勿論、下着類も持ち出された形跡は無いのです。

あの日、いつものように夜8時頃、帰宅した佐原は部屋の様子を見て、幸恵が買い忘れの食材を
買いに出たと、思ったのです。

居間ではテレビが点いていて、キッチンでは炊飯器がタイマー設定でご飯を炊き上げていたし、
オーブンにはローストチキンが入っていて、火を入れるばかりの状態であり、また、鍋には味噌
を入れて火をつければ味噌汁が出来るまで準備されていたのです。

「幸恵さんはよほど急な事情で家を出ることになったのネ・・・」

佐原から当日の様子を聞き、由美子が呟いています。寺崎が難しい表情で頷いていました。

寺崎が今まで経験した限りでは、主婦が家出をする時は周到に準備を重ね、衣類や化粧品、その
他日常生活に必要な必需品は事前に取りまとめて家出先に送り届けるのが一般的なのです。

幸恵の場合、夕食の支度途中でチョッと外へ出て、そのまま姿を消したとしか考えられない状況
なのです。口には出しませんが、今回の事案は単なる主婦の家出とは異なり、事件の匂いを寺崎
は嗅ぎつけていたのです。


一通り部屋の調査が終わり、二人は居間に戻りました。佐原がコーヒーを準備していました。そ
こで佐原がA5サイズの便箋を一枚二人の前に差し出しました。

「これが幸恵が残した書置きです。
居間のテーブルの上に置いて有りました」

何の変哲もない便箋にサインペンでその書置きは書かれていました。

『チョッと留守にします・・
             ゆきゑ

探さないで下さい・・・』

佐原でなくても、誰でも当惑するほど簡単な文面です。寺崎も由美子もただ黙ってその文章を見
ていました。


[13] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人(13)  鶴岡次郎 :2013/03/07 (木) 16:42 ID:DQN5mYFQ No.2328
「奥様の筆跡に間違いないですか・・?」

寺崎が訊ねています。

「ハイ・・・、間違いないと思います。
それに、このサインは私だけに判る幸恵のサインです・・」

『幸恵』と書くところを、佐原宛に手紙を書く時は結婚前から『ゆきゑ』と書いていて、佐原
宛か、よほど親しい友人宛てでないとこのサインは使用しないと佐原は証言しました。

「『探さないで下さい』のフレーズを、サインの後に付け足しているようですが・・・」

佐原に向かい、言葉を選びながら寺崎探偵が話しかけました。佐原もそのことに気がついていた
ようで、黙って頷いています。

「そうですか・・、ご主人も気がついていましたか・・」

「・・・・・・」

佐原が口を開くのを待っている寺崎ですが、佐原は黙ったままです。

「どうやら『探さないで下さい』のフレーズは、『留守にする』と書いた時には思いついていな
くて、その後何らかの事情で書き足したように見えます、場合によっては、この二つのフレーズ
の間には多少の時間差があるかもしれません。

このことに、何か心当たりがありますか・・?」

寺崎が佐原に質問しています。

「私も不審に思いました・・。
なぜ、サインの後で、思いついたように書いたのか想像も出来ません」

佐原も首を捻っています。

「佐原さん・・、
この書置きが存在する限り、奥さんが自発的に家を出て行かれたと判断せざるを得ませんが、一
方では、ご主人から聞いた当日の様子などから判断して、奥様が何者かに拉致された懸念も消え
ません。

私どもは引き続き調査を進めますが、警察に届けを出されることを勧めます。私が不審に思うほ
どですから、多分、警察でも不審感を持つはずで、そうすれば家出人捜査の枠を超えた捜査をし
てくれる可能性が出てきます」

佐原自身も幸恵の失踪に事件の匂いを感じていたことでもあり、寺崎の勧めを素直に受け入れ、
その日の内に地元の警察へ届けを出しました。

警察では家出人の捜査として受け付けました。そして佐原が不審に思っている内容も丁寧に聞い
てくれました。しかし、それだけでは事件と判断する材料として不足していたのでしょう、警察
は家出人捜査名簿に登録することは約束しましたが、それ以上の捜査、たとえば佐原の自宅を捜
査するまでには至りませんでした。この警察の対応は佐原にも最初から予想できたことであり、
それほど落胆しませんでした。この時、幸恵が家を出て一週間経っていました。


[14] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人(14)  鶴岡次郎 :2013/03/08 (金) 14:45 ID:ECZ7NWac No.2329
調査依頼を受けて寺崎探偵事務所は幸恵が出向きそうな知人や、学友達をしらみつぶしに調べま
した。勿論それまでに佐原が調べた部分も重ねて調べたのです。しかし、一週間経っても何も掴
むことはできませんでした。調査は完全に暗礁に乗り上げていました。寺崎はマンション周辺の
聞き込み調査を再度精度を上げて念入に行うことにしました。何の証拠も有りませんが、探偵の
勘で幸恵は自宅近辺に潜んでいると寺崎は考えたのです。


寺崎と最初に訪問して以来、自宅に近いこともあって由美子は3度ほど愛と一緒に佐原宅を訪問
しました。気を落としている佐原を二人で慰めるのが目的です。その都度、二人が準備した手料
理を持って佐原宅を訪問するのです。そして、少しの時間おしゃべりを楽しむのです。佐原も二
人の訪問を心待ちにするようになり、二人が帰る時は次の訪問日を約束させるのです。二人の女
も佐原を訪ねるのが楽しいようで、嫌な顔をしないで次回の訪問を約束するのです。

今日は前回訪問した時の約束で昼前に佐原家を訪問して、昼食を一緒にすることになっています。
ところが、訪問予定日の二日ほど前から愛が体調を崩し、当日になって一緒に行けないと連絡して
きたのです。

「軽い風邪だから、直ぐに治ると思ったのだけど、ダメだった・・・。
熱は下がったんだけれど、全身がだるいの・・・」

電話の向うから比較的元気な声ですが、明らかに喉を患っている声が聞えてきました。由美子一
人で佐原を訪問するのは憚れるので、中止しようと由美子が言い出しました。

「ダメよ・・、佐原さん楽しみにしていて、今日は会社を早退する予定でしょう・・、
由美子さん一人で行ってよ・・、

大丈夫よ・・、佐原さん紳士だから・・、
それに何か起きたとしても、誰にも判らないよ・・、フフ・・」

愛に背中を押され、最初からその気になっていた由美子は一人で行くことになりました。早起き
して調理した根菜の煮物と鳥のから揚げを中心にしたお弁当二人分をパック詰めにして、昼前に由
美子はいそいそとマンションへやってきました。

一階のゲイトで部屋の番号をキーインすると、インターホンから佐原の返事があり、ほどなく臨
時カードが発行されました。約束どおり佐原は会社の仕事を午前中で終え、自宅へ戻っていたの
です。カードキーを使用して玄関を通り抜け、一階のエレベータホールへ入り、ここでもカード
キーを使用してエレベータに乗り込み16階に着きました。佐原が16階のエレベータホールで
出迎えていました。ここで、由美子一人が来たことを知り、佐原は驚きながら嬉しそうにしてい
ました。

このマンションはエレベータがビルの西壁に沿って設置されていて、エレベータホールから各部
屋へは廊下が環状に伸びています。窓の無い薄暗い、幅一メートルほどの絨毯を敷き詰めた廊下
を通って二人は佐原の部屋へ向かいました。高級なムードを演出するためでしょう、廊下はかな
り照明を落としていて、むしろ薄暗いほどです。

佐原が先頭に立って、由美子がその後を歩いています。もう直ぐ、佐原の自宅、1613号室へ
着く、その時、隣家の1614号室の扉が開きました。男が一人出てきました。中肉中背の50
歳代の男です。雰囲気を出すため、あえて照度を落としている廊下照明ですから男の表情は良く
判りませんが、全身からどことなく遊び人風の雰囲気を発散させています。あえて言えばこのマ
ンションの住人に相応しくない男だと由美子は感じ取っていました。


[15] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人(15)  鶴岡次郎 :2013/03/11 (月) 14:07 ID:jNDZTrBQ No.2330
その男は1614号室の扉を閉めようとして、何かを思い出したらしく、扉を半開きにして、部
屋の入口に立って少し声を高めて奥に居る住人に語りかけ始めました。どうやら、男は近づいて
くる佐原と由美子の存在に気がついていない様子で、かなり気を抜いた様子で部屋の中にいる住
人に話し始めたのです。男から離れたところに居る由美子ははっきりとその言葉を聞き取ってい
ました。

「先ほど約束したように、遅くなるかもしれないが・・、今晩、必ず顔を出すから・・、
今晩は、寝かせないからな・・。
ああ・・・、夜遅く来ても、カードキーの発行は大丈夫だね・・」

「・・・・・・・・」

女性がその声に答えていますが、由美子にはその内容が聞き取れませんでした。男と部屋に居る
女性のやり取りから、その男が部屋の住人ではなく、訪問者だとわかり由美子は納得していまし
た。


男がドアーを閉め、エレベータホールへ向かうべく、身体を反転しました。そこで初めて佐原と
由美子を確認して、男は少し驚いた様子で、気まずそうな表情を浮べました。廊下の幅は1.5
メートルほどの狭さです。由美子の前を歩いている佐原がその男とすれちがいながら頭を下げて
います。男も軽く一礼をしています。由美子がその男に近づき、男と由美子が互いに視線を絡み
合わせました。

廊下の照明が由美子の顔を浮かび上がらせていました。男が一瞬驚きの表情を浮かべ、そして慌
てて視線を外し、急ぎ足で由美子の側を通り抜けました。由美子から見て、その男は照明を背に
していて、はっきりとその表情を見ることが出来ませんでした。そして、その男が由美子を見て
驚きの表情を浮べたのを由美子は見逃していたのです。


今まで何度も説明して来ましたが、由美子は少し離れたところに居ても、男根の状態をかなり正
確に判定できます。それと同時に、その男の性的能力もかなり正確に判定できます。いつものよ
うに、由美子は今通り過ぎたその男を無意識に評価していました。

男は並外れた性的能力を持っていました。前を歩く佐原は先ほどエレベータホールで由美子に
会ってから、かなり男の気力を高めていて、股間の物もそれなりの反応を示し始めているのです
が、その男の放つ精力は佐原とは次元の異なるものでした。勿論、その男の股間はごく平静な状
態です。それでも、そこから放たれる強い精気を由美子はキャッチしていたのです。

〈・・誰かしら・・、これほどの精力は珍しい・・
素人でこれだけの精力は作り出せない・・・、
多分・・、あの男はその道のプロ・・・・〉

遠ざかる男の気配を背中で追いながら、由美子はその男の素性を考えていました。先ほど垣間見
た素人離れした、少し崩れた服装、男の気配、それと由美子だけが感じ取ることが出来る男根の
放つ精気などから、その男がプロの色事師と言い当てていたのです。


プロの竿師と呼ばれる職業人を普通の主婦は会うことは勿論、その存在さえ知りません。露天商
仲間と付き合いの深い由美子は今まで何度となくそうした人種と接触していて、彼等特有の精気
には馴染みがあるのです。

凄い性的能力を持った男が失踪した幸恵の隣家から出てきたのです。そして今夜遅く再度訪問す
ると男は告げているのです。おそらく・・、いや確実に隣家の旦那は留守で、何らかの事情で今
晩も旦那は自宅へは戻って来ないのです。その部屋の夫人は午前中、男と熱い一時を過ごし、そ
れだけでは足りないで、夜、もう一度、男を自宅へ誘いこむつもりなのです。

今垣間見た状況から、由美子はこれだけのことを推察していました。そして、その男と隣家の夫
人の関係に強い関心を寄せていたのです。そして、その男が訪ねていた家が佐原家の隣家である
ことに、由美子は幸恵失踪とのつながりを漠然と感じ取っていました。勿論、このことは由美子
一人の胸の中に秘め、佐原には話さないと決めていました。


[16] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人(16)  鶴岡次郎 :2013/03/13 (水) 13:46 ID:Xm4dh.u6 No.2331
由美子が準備してきたランチを佐原は嬉しそうに食べました。女の手料理に男は弱いとよく言わ
れますが、女にとっても同様に、手間ひま掛けて調理した料理を男が美味しそうに食べてくれる
のを見ると、女心が疼くものです。二人はすっかり打ち解けて、由美子の家族のことや、最近の
ニュースを話し合いました。しかし、日ごろは付き合い薄い二人です、直ぐに話題はつきました。

甘い、そして、何故か息詰まるような沈黙が突然訪れました。佐原は黙って食後のコーヒーを飲
んでいます。由美子は必死で話題を探そうとするのですが、あせれば焦るほど良い話題が思いつ
かないのです。

このまま沈黙が続けば、どちらかが痺れを切らして相手に抱きつきそうは雰囲気になっていまし
た。若い二人であれば、呼吸が乱れ、身体が振るえて、何も出来ない状態になるのですが、さす
がに由美子はこの雰囲気を楽しむ余裕さえ持っていました。佐原も同様で、コップの中の琥珀色
の液体をゆっくり喉に流し込みながら、薄いブラウスを透して見える白いブラに包まれた由美子
の胸をこっそり覗き込んでいるのです。甘い緊張でその濃度を増した由美子の体臭が佐原の鼻腔
に届いているはずです。この香りをかげばどんな男も冷静さを失うのです。

「未だ少し時間が有りますから・・・、
私・・・、部屋の掃除をします・・・」

独り言のように言って、由美子が立ち上がりました。ほっとした表情を浮かべ佐原がお礼を言って
います。


佐原も手伝って居間に散らばった小物を片付け、由美子が掃除機をかけ、その後、由美子一人で
キッチン、洗面所の掃除をしました。最期に佐原の部屋を掃除をして、これで仕事が一段落しま
した。佐原のいる居間に戻ろうとして、深い考えもなく、由美子は幸恵の部屋の扉を開けました。
この時、仕事熱心な佐原は居間で会社から持ち帰った書類を読んでいました。

夫人の部屋の物には一切手をふれないでおこうと最初から由美子は思っていたのです、しかし、
この日は佐原との間に起きた甘い沈黙のせいで、幸恵がどんな生活をしていたのか強い関心を
持ったのです。それで、自らに課した禁を破って、由美子は彼女の部屋に入ってしまったのです。


この部屋の主が去ってから二週間近く経っています。人気は感じられないはずなのです。それ
が・・、由美子はなんとなく違和感を感じ取っていました。誰かが・・・、それも女性が・・、
この部屋に最近入ったと由美子は感じ取っていたのです。

ためらいながら、それでも違和感の正体を突き止めたくて、作り付けの箪笥やロッカーをそっと
開けました。中を見て、由美子の違和感は更に強くなりました。最近、誰かがその中の物に手を
触れた気がするのです。由美子にためらいはなくなっていました。積極的に箪笥、ロッカーを
チェックし始めました。下着類を入れた小物ダンスを開けた時、由美子の違和感は確信に変わって
いました。

〈・・幸恵さんは、ここへ戻って来ている・・〉

二週間ほど前、寺崎と一緒に、最初にこの部屋に入った時に比べて、下着類がかなり減っている
のです。おそらく洋服ダンスや、其の他の物入れからも無くなっている物があるはずだと由美子
は確信しました。

幸恵恋しさのあまり彼女の下着に佐原が手を出すことは勿論考えられるのですが、それであれば
これほど多量の下着が無くなることはないと由美子は考えたのです。幸恵がこの部屋に入って、
衣類其の他を持ち出したと、由美子は考えたのです。

勿論、幸恵の意を汲んだ誰かがこの部屋に忍び込むことも由美子は考えたのです。マンションへ
入るカードキーと部屋の鍵を幸恵から預かって、住人以外の者がこのマンションに入り込むこと
は可能です。しかし、それは違法行為でバレれば佐原家はマンションから追放されるのです。着
替えを手に入れるために、そんな重大な犯罪行為を幸恵が犯すはずがないと由美子は考えました。


そう考えると、昼間佐原が会社へ出かけている内に、自分のカードキーを使用して自宅へ入り、
必要な品を幸恵が持ち出したと考えるのが自然なのです。住人がカードキーを使用する限り、コ
ンシェルジェには何も記録が残らないことを幸恵も知っているはずですから、安心して幸恵は行
動できるのです。そして、おそらく、幸恵はこのマンションからそう遠くないところに隠れてい
ると由美子は考えたのです。

この様子なら幸恵は何者かに拘束されている心配はなく、自由に動き回り、自宅へ戻るタイミン
グを計っていると由美子は考えました。幸恵の意思がはっきりわかるまでは、由美子はこの発見
を佐原にはしばらく伏せることにしました。同時に、廊下で見た怪しい男のことも佐原には伏せ
ることにしたのです。今、中途半端な怪しい情報を佐原に告げても何も得られないどころか、彼
に余計な心配を与えることになると思ったのです。もう少し情報を集めてその上で確信の持てる
内容になれば佐原に告げることにしたのです。由美子がこのような判断をしたのは、幸恵にさし
迫った危険がないと判断したからでした。


[17] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人(17)  鶴岡次郎 :2013/03/14 (木) 17:36 ID:f6kldX2w No.2332
強引に拉致された様子でもなく、家を出た後も夫の留守を狙って何度か家に戻るほど自由に行動
している幸恵の真意は何処にあるのか、幸恵と連絡を取り、彼女の真意を探る必要があると由美
子は思いました。そのためある仕掛けを幸恵の部屋に残すことにしたのです。幸恵が自宅へ戻り
たいと真剣に思っているのなら、必ずこの誘いに乗るはずだと思ったのです。その仕掛けをする
ため、由美子は10分ほど幸恵の部屋にこもりました。佐原は居間で大きな声で電話をしている
ようで、由美子の行動に気がつきません。おそらく会社の部下と連絡を取っているのでしょう。

掃除を終えた由美子が居間にもどると、佐原が紅茶を準備しているところでした。二人でお茶を
いただきながら、由美子がそれとなく探りを入れました。

「佐原さん・・、
お一人での生活、慣れなくて大変でしょう・・、
夜、自宅へ戻られた時、朝食に使用した食器類や、脱ぎ捨てた衣類の散らばった居間などを見
ると、ガッカリするでしょう・・。
家事に慣れているはずの私でも、外出から帰ってきて汚い家の中を見ると、
片付けてから出かければよかったといつも後悔するのですよ・・・」

「そうですね・・、食器を片付けるのが嫌ですから、出来るだけ家では飲み食いしないようにし
ています。洗濯だけは何ともなりませんから、夜やっています。

自分で言うのも変ですが、妻が居なくても、何とかなるものですね・・、
気がついたのですが、思ったより私は几帳面だと判りました。はは・・・」

「几帳面て・・、何ですの・・?」

「いえね・・、妻が居る時は、それこそ縦の物を横にすることもしない、ぐうたら亭主でした。
お恥ずかしい話ですが、スーツやネクタイなどいつも居間に脱ぎ捨てていて、彼女からお小言を
言われていたのです。それが、彼女が居なくなってからは、ちゃんとロッカーに入れているので
す。酔っ払って帰って来た時でさえ、ちゃんと入れているのですよ。我ながら、たいしたものだ
と、自分を褒めてやりたい気分です。はは・・・・・」

良い気分になって佐原が話しています。

幸恵の来訪をこの時もはっきりと由美子は確信していました。失踪以来、何度か幸恵は自宅へ
戻っているのです。あまり目立つことは出来ませんが、佐原が脱ぎ捨てたスーツやネクタイを
こっそりロッカーに戻しているのです。佐原はそのことにさえ気付かずに、自分がロッカーにも
どしたと思い込んでいるのです。そして、その気になって家の中を見渡せば、男の一人暮らしと
は思えないほど小奇麗に保たれているのです。それとなく幸恵が掃除を済ませているのがそこ、
かしこから感じ取れるのです。

〈なんて鈍感なんだろう・・・、
でも・・、そんな佐原さんが可愛い・・・・〉

男の鈍感さにあきれるより先に、由美子はそんな佐原を愛しく思い始めていました。こうした男
の弱さ、幼さを見ると、由美子の中に存在する男好きの虫が騒ぎ始めるのです。潤んだ瞳で由美
子は佐原をじっと見つめていました。女の全身から、妖しい気が漂い出ています。とっくに由美
子は佐原を受け入れるつもりになっているのです。


[18] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人(18)  鶴岡次郎 :2013/03/20 (水) 14:20 ID:B0HgoBk6 No.2333
男の幼さをあからさまに曝し、それでもけなげに微笑むイケ面の佐原を目の前にして、由美子の
気持は高ぶっていました。濡れてキラキラ光り、燃えるような光を放つ瞳を男に向けています、
抑え切れない女心が身体を燃やしているのです。おそらく欲情した時発散される由美子の強い香
気が佐原の鼻腔を刺激しているはずです。

歩いて数分の距離ですから、今日の由美子は自宅でくつろぐ普段着に買物バックを手にしてこの
マンションへ来ています。ミニのスカートに、白のブラウスをつけて、若草色のスプリングコート
を羽織ってやってきているのです。ソファーで意識的に高く脚を組んだ生足がほとんどパンテイ
まで見えそうになり、白のブラウスから、同色のブラが透けて見えます。

「幸恵が居なくなった当初はとても生活できないと絶望的な気持ちになっていたのですが、あれ
から三週間も経つと、それなりに生活できることが判りました。
勿論不自由なことを上げればキリが有りませんが、そんなものだとあきらめれば、何とか成るこ
とも判りました・・・」

ティー・カップを手に、佐原が眼を細めて清楚な中に、怪しい色気を醸し出している由美子の全
身を舐めるように見ています。由美子は勿論男の視線を意識していました。愛が急の発病で同行
できないと判った時、佐原と二人きりになる危険を予知できたはずです。それでも由美子は一人
でやってきたのです。そして、それなりの準備をしてきているのです。男に抱かれることを意識
して、出かけにシャワーを浴び、身体の隅々まできれいにして、派手な色彩を避けながらも大胆
なカットの下着や衣類を身に着けてきたのです。

由美子の真正面に座り、和やかに話していますが、次の瞬間、佐原が由美子の側に移動して、肩
に手を掛けてくることだって起こり得るのです。そうなれば、由美子は眼を閉じて、佐原の唇を
待つつもりなのです。

「・・何かが起きても、誰にも判らないよ、
余計な心配をしないで、予定通り佐原さん家(ち)へ行ってちょうだい・・」

愛は由美子にそう言ったのです。

「これが私一人で行くとなると、主人が心配して、とてもそんなことは出来ないけれど、由美子
さんなら大丈夫よ。ご主人は理解があるし、由美子さんが今まで積み上げてきた実績もあるし、
何かあっても誰も問題にしないよ。むしろ何かが起きた方が、由美子さんにとっても、佐原さん
にとってもハッピーよ・・・」

愛にここまで言われると、由美子はもう何も反論できませんでした。ただ、苦笑いして、佐原宅
を一人で訪ねることにしたのです。勿論、佐原が迫ってくれば、由美子は拒否しないつもりで、
密かに備えをしてきているのです。

しかし、ソファーに向かい合って座り、和やかにコーヒーを楽しみながら、由美子が全身の力を
抜いて潤んだ瞳を見せているにもかかわらず、佐原はそれらしい動きも気配も見せませんでした。
先ほどから、由美子は佐原の股間がごく平静であることに気がついていました。由美子がその気
になっているのに、反応を見せない男はごく稀です。佐原はその稀な例だと、悔しさよりも驚き
の気持ちをこめて由美子は佐原を見ていました。

幸恵のことが頭から離れなくて、由美子の魅力が幸恵の思い出を押しのけることが出来なくて、
佐原がその気にならないのだと由美子は思ったのです。しかし、ブラウスのボタンを三つほど意
識して外した胸や、白のTバック・ショーツが見えるまで脚を高く組んだ生脚に絡む男の舐める
ような視線を感じ取り、由美子は思い直していました。

〈・・・私の魅力が乏しいせいではない・・・、
彼は十分に私の体に興味を見せている・・、
それだのに・・・、彼の中に・・、彼の性衝動に火が点いていない・・・〉

目の前に座っている佐原の不可解の態度に驚きながら、それでも由美子は冷静に彼の様子を分析
していました。

〈幸恵さんのことで頭が一杯なのだ、彼女を本当に愛しているのネ・・・、
でも・・、それだけではない・・、何かが違う・・、

そうだ・・、あるいは佐原さんのこの燃え上がらない態度が・・、
女のあからさまな誘いを受けても、燃え上がらない佐原さんの身体の秘密、
これが事件の真相に近づくキーなのかも・・〉

由美子の中に突然ある発想が閃きました。男と女の愛の形をいろいろ経験し、異常な愛の形も沢
山見てきた由美子ならではの閃きでした・・。


家出をしていながらかなり頻繁に自宅を訪れている幸恵のこと、隣家の主婦と親密な関係を持つ
怪しい男、そして、佐原の不可解な性衝動あり方、この日由美子はたくさんの情報を掴むことが
できました。いずれの情報も相互に何の関係もないように見えるのですが、これらの情報を上手
く繋げば事件を解くキーにかなり近づくと由美子は漠然と考えていました。そして、その日、由
美子はそれ以上佐原を刺激することなくおとなしく佐原家を辞しました。こうして、由美子がそ
の気になったにもかかわらず、何も起きなかった稀な男の一人に佐原の名が加わったことになり
ます。


[19] 二丁目、フォレスト・サイド・ハウスの住人  鶴岡次郎 :2013/03/27 (水) 17:09 ID:bwYNTT/A No.2334
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一丁目一番地の管理人(その30) - 現在のレスは24個、人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2012/08/10 (金) 17:59 ID:CXwBGk8c No.2280
由美子が介入した効果もあって、警察庁参事官、伍台と元妻喜美枝の仲はどうやらもとの鞘に納
まる雰囲気です。この事件に関連した真黒興産の関係者、そして、竹内寅之助、敦子の動向を
追ってみます。最期までご支援ください。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字
余脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるよう
にします。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸
いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 1779(1)、文頭にこの記号があれば、記事番号1779に一回修正を加えたことを示します。
                                      
                                      ジロー


[15] 一丁目一番地の管理人(459)  鶴岡次郎 :2012/08/28 (火) 11:13 ID:st15p27c No.2297
「それにしても、奇妙な縁ですね・・・、
由美子さんと敦子の間にそんな繋がりがあったとは・・・・
宇田川親分はこのことをご存知なのですか・・・」

竹内と敦子の逃避行をUの組織が影で支援したことは竹内に伝える必用がないと、Uから口止め
されているのです。敦子の名前を出してしまったことは反省しながらも、まだUがこの件に関与
していたことはしゃべっていないと、由美子は救われた気持ちになっているところだったのです。
そこへ、突然、由美子の心を覗いていたかのように、竹内がUの名前を出したのです。

「エッ・・、Uさん?
Uさんは何も知りません・・・・」

咄嗟にそう言ったのですが、内心の動揺がとんでもない所に現れてしまいました。由美子の陰唇
が激しく締まったのです。勿論、由美子はそのことに気がついていません。

〈う・・・ん・・・、締まる・・・。
Uさんの名前に由美子さんのアソコが強く反応した・・・、
判り易い人だ!・・由美子さんは・・、
何か隠しているのだ・・・。
どうやら、宇田川親分は全てご存知の様子だ・・・〉

由美子の締まりを男根で感じ取った竹内は由美子が口止めされていることを察知していました。
そして、そこまで判ると、全体の筋を読み取るのは竹内ほどの男にとってはさほど難しくなかった
のです。

〈そうか!・・、そうだったのか・・・、
由美子さんが宇田川親分を動かしたのだ・・、
宇田川親分が全国の仲間に連絡をしてくれたのだ・・〉

由美子に泣き付かれたUが地方の親分衆に連絡をして、竹内と敦子の保護を求め、そしてたまた
ま、木の葉会が竹内と敦子に遭遇し、木の葉会の親分、河野は詳しい事情は伏せて、君江に竹内
と敦子の面倒を見るように指示した。

由美子の様子からこれだけのことを竹内は察知していました。この筋書きを知ると、街で君江に
偶然出会った時から、彼女がことのほか親切で、優し過ぎると思っていた理由が竹内には良く判
るのです。

〈宇田川親分、河野親分、この二人が居なかったら、
私はこの世から消えていただろう・・・
いくら感謝しても、感謝し足りない方々だ・・・、

それにしても・・、どうだろう・・・、二人の大きな器量は、
宇田川親分も、河野親分も、これだけのことをしていながら、
私には何も告げないつもりのようだ・・。

由美子さんから聞かなかったら、何も知らないで見過ごす所だった・・・
凄い方々だ・・、
私は、何時になったら、彼らのように大きな男に成れるだろうか・・・〉

ゆっくり腰を使いながら竹内はUと河野の大きな器量に感嘆していました。そして、それに比較
して、彼自身の小ささを改めて認識していたのです。

〈ヤミ金とはいえ、それを承知で借りたわけだし、罪は全て私にある。
借りた金を返せないなら、それなりの罰を受けるべきだった。
それがこともあろうに、夜逃げしてしまった。
そして一人で逃げるならまだしも・・、
何の罪もない敦子を道連れにしてしまった。
私は最低の男だ。

とても宇田川親分や、河野親分と比較できる身ではないが、
何時の日か、彼等のようになりたい・・・〉

由美子の膣に肉棒を入れ、あたかも由美子の膣に誓いを立てるかのように敬虔な気持を肉棒にこ
めて、腰を突き出し、竹内は密かに決意を固めていたのです。

この時の竹内のように、男は時として、女性の中にカラダを入れた時、突然新たな発想に捕らわ
れ、男の人生を決定付けるような決心を固める時があるのです。これから先、竹内は由美子の膣
に誓った人生をしっかり生きていくことでしょう。


それからさらに一時間、竹内は由美子への感謝の気持ちを込めて攻め続けました。風呂場で由美
子を抱いてからほぼ3時間は経過しているのです。この間、竹内の男根は由美子の膣にずっと入
り込んだままなのです。これだけ長時間頑張るのは竹内にとっても久しぶりのことです。

何度も由美子が逝って、最期に竹内が一声唸って、たっぷりと放出して長い二人のセックスが終
わりました。由美子は久しぶりに失神していました。

太くて長い男根による激しい攻撃には慣れているのですが、竹内のようにゆったりと、気が遠く
なるほど長々と攻め続けられると、さすがの由美子も攻め時を見失って、防戦一方になり、遂に
は撃沈してしまったのです。

夜明け前に自室へ戻るつもりでいたのですが、失神したまま竹内の腕の中で眠ってしまって、由
美子は竹内の部屋で朝を迎えたのです。(1)


[16] 一丁目一番地の管理人(460)  鶴岡次郎 :2012/08/30 (木) 14:22 ID:oZHE8BjQ No.2298
2297(1)

ここはUの部屋です。Uに翻弄され、最期には気を失ってしまった君江が甘えた声を出してい
ます。

「噂どおりだった・・、
いえ・・、噂以上だった・・・、
太くて、長くて、それに固い・・・、

私・・、こんなに深く逝ったのは生まれて初めて・・、
何も覚えていないけれど、失礼なことしませんでした・・・」

天井を見上げていたUが君江に視線を移し、微笑みながら、首を振っています。

「この香り、私・・・、大好き・・・」

野性的なUの横顔を見ながら、彼の肉棒をいとおしげに触り、時々男根を鼻先へ持ってきて、そ
の香を深々と吸い込んだり、その先端にこびり付いた男の液を舌で掬い取ったり、指に絡みつい
た精液を舐めたりしているのです。

「Uさん・・、私のココを見て!・・・
ビラビラがひきづり出されて、元へ戻らないの・・・、
Uさんのモノが規格外れだからだよ・・・

これでは、下着を穿いても、直ぐ汚れてしまう・・・、
でもうれしい・・・、こんなになったの初めて・・・・」

艶やかな表情を浮かべ、女が男の胸に顔を寄せ、男の乳首をかなり強く噛みながら、両脚を一杯
開いて、そこを男に見せています。

業物でかき回され、内壁が引きずり出され、喜美枝の陰部はいつもの淑やかな外観が一変して、
褐色の土手の隙間から、サーモンピンクの内壁が3センチ以上はみ出し、愛液に濡れたそれがテ
ラテラと光っているんです。

女はそのビラビラを指で抓んで、男に見せているのです。Uはチラッとそれに視線を走らせまし
たが、無感動な表情を保っています。

「向こうの部屋では上手く行っているかしら・・・
由美子さんのことだから間違いないと思うけれど・・・、
家の人、あれで案外人見知りするから・・・、
由美子さんの前でひるんでいたら、申し訳ないと思う・・」

竹内が由美子を上手く抱けたか、君江は本気で心配しているのです。

「それにしても、由美子姐さん、想像していたより数段可愛い・・・。
噂では、どんな男性でも、短時間に極楽へ送り込むことが出来る凄腕の女性だと、聞いていて、
凄い姐さんを想像していたけれど、聞くと見るとでは大違い・・。

外見は肩書きどおり上流婦人然として、セレブな雰囲気で一杯だけれど、話してみると、話題が
楽しくて、優しくて、それでいて少女のようなあどけなさを残している。あれで、ベッドではど
んな男でも30分は持たないと噂されているテクとカラダを持っているのだからね・・。

男達の噂ではアレの中が凄いんだってネ・・、
ミミズ千匹なんて生易しいもんじゃないと聞いた・・。
男はたまらないわね・・・。

Uさんほどの男がほれ込むのも無理ないわネ・・・」

喜美枝が肉棒を強く握り締めて、男の反応を見ています。Uは相変わらず無感動な表情を保って
います。

「姐さん、一流企業の重役夫人なのでしょう・・、姐さんがUさんに惚れて、・・と言うより、
二人は最初の出会いで互いに一目ぼれをした。

Uさんが姐さんと彼女の旦那様が通うゴルフ場へ毎週のように出かけた。
当然、姐さんもUさんを意識する。二人は互いに赤い糸で結ばれていたのネ・・・。

Uさんが『・・奥さんを下さい・・』と、ご主人に直談判した。その結果、姐さんを二人で共有
することが決まった・・。それ以来、姐さんは重役夫人と的屋親分の女房という全く相容れない
二役をこなしている」

男根を両手で弄びながら君江が話し、Uは眼を閉じて無感動な表情を保っています、・・が、由
美子と出会って以来の様々な光景がUの脳裏に浮かび上がっているはずです。


[17] 一丁目一番地の管理人(461)  鶴岡次郎 :2012/09/01 (土) 16:12 ID:shdCzF1c No.2299
「重役夫人のままであれば、そんなことは絶対なかったはずだけれど、私達の世界に入ったこと
で、姐さんは好むと好まざるに関わらず、人前でセックスをすることが普通になり、そればかり
か、他の男と寝ることが珍しいことではなくなり、今日会ったばかりの男と寝ることさえ、場合
によっては拒否できない生活を送るようになった。

この世界にどっぷり浸かっている私が言うのも変だけれど、そんなセックス環境に置かれると大
方の女は生活も化粧も、そして着る物の趣味も明らかに変化するものだけれど、姐さんはその影
響をほとんど受けていない。上流階級の奥様然とした雰囲気を変えていない。よほどしっかり
した考えが、私達にはとうてい理解できない思想が、あの人の中にあるのだと思う」

ひとしきり由美子の論評をして、君江はそこで何かを思いついたようで、Uの男根を弄っていた
手を止めて考え込んでいます。口に出して質問するかどうか、かなり迷った様子ですが、最期に
は思い切った様子で口を開いたのです。

「先代から竹内と敦子さんの面倒を見るように指示され、彼らをずっと匿(かくま)ってきまし
たが、先代は竹内さんを知っている様子ではなかった。誰かの依頼を受けて、先代が私に指示を
出した・・、私はそう推察していました。

竹内とUさんはお知り合いなのですか・・・?」

君江の顔を見ないで、Uがゆっくり首を振っています。

「そうですか・・・、Uさんでないとすると・・・、
由美子姐さんが竹内と・・・、
そうではないわネ・・・、

そうか・・・、敦子さんと由美子姐さんが知り合いなのネ・・・、
それで、姐さんが二人の保護をUさんに頼み込んだ・・・、
そうでしょう・・?」

黙ってUは天井を見上げています。否定をしないところを見ると、君江の推察は当っているよう
ですが、Uはこの話題を続けたくない意思表示をしているのです。

「判りました・・。
この話は今日限り一切忘れます・・、
主人にもこの話題は出しません。

ネッ・・、だから・・、もう一回・・・
いいでしょう・・・」

男根を握る指に力を込めています。それは半立ちのままですが、それでも並みの男が完全勃起し
た以上の威容を見せているのです。女がゆっくり上体を起こし、男の股間に頭を寄せ、男根を咥
え込んでいます。埋め込んだ真珠の玉が女の唇を歪め、男根にへばりついた粘液が君江の唇を濡
らしていました。まだまだ夜は長いのです。

男根が次第に力を取り戻した頃を狙って、君江がUの身体に跨りました。右手を器用に使って、
男根を女陰に誘導しています。

「ああ・・・、いい・・・

どうしょう・・、
Uさんの身体を独り占めしたくなっちゃた・・・
でも・・、姐さんには勝てそうもないし・・。

突いて・・、突いて・・、もっと・・・ゥ・・・」

Uが突き上げ、君江が身体を揺すり、肉体がぶつかり合う淫靡な音が部屋中に響いていました。


木の葉組の組長になった竹内は革新的な組の経営を展開し、地元は勿論、全国の仲間が注目する
ほどの成果を短期間に上げました。木の葉会の評判が広がるにつれ、その経営手法を組に取り入
れたいと願い出る組長が何人も現われました。この動きを見て、全国の組長を統括する宇田川は
竹内の協力を得て彼の経営手法を全国に展開することを考えました。

Uは頻繁に竹内を訪問し、木の葉会の経営手法をどのようにして全国展開するか話し合いました。
全国に散らばるそれぞれの組の経営内容を診断し、問題点を取り出し、その対策を考えることが
必用なのです。全国の組長を一堂に集め机上教育する程度のことではほとんど効果が出ないので
す。

Uと竹内が話し合った結果、ようやく方針が決まりました。すなわち、組長の後継者と目される
将来を託せる若手組員が決まっている場合は、その人物を木の葉会に招き、一年ほどみっちり実
地教育する。また、有望な後継者を決められない組には竹内がその組に頻繁に出かけて、組長と
組員の実地指導をすることになったのです。

組の経営診断と指導には、どうしても経理処理の専門家が必用で、君江と由美子がその候補に上
がりました。そして、竹内とUが話し合った結果、最終的に由美子に決まりました。君江でなく
由美子が選ばれたのは竹内が出張中、君江が木の葉会の組長代理を勤めるためです。

こうして、由美子と竹内は全国を旅することになるのです。いずれ二人の旅の様子は、詳細に
報告することになると思いますが、既にカラダの関係ができている二人が、性豪揃いの組長を歴
訪するのですから、鶴岡、Uそして君江にとって、気がもめる二人の同行旅となるはずです。(1)


[18] 一丁目一番地の管理人(462)  鶴岡次郎 :2012/09/03 (月) 14:30 ID:r4mPfkBI No.2300
2299(1)

土手の森公園、早朝6時、散歩道を外れた薄暗い森の中、一人の女が大木の根元でうずくまって
います。女は両手を合わせ、祈りの姿勢をとっています。女の前には自然石を刻んだ小さな石碑
が立っていて、女がお供えしたのでしょう、白い花束が置かれていました。

そう・・、ここは一年前、圧村和夫が殺害された現場なのです。女はこの森の近くに住む金倉ゆ
り子です。ゆり子は週に一度はここへ顔を出します。いつもは、家事が片付いた10時過ぎにこ
こへやってくるのですが、今日は恋人圧村和夫の一周忌ということで、彼女が圧村の死体を発見
した時間に合わせてここへやってきたのです。

死体の発見を警察に通報しなかったこと、犯人の手がかりになるハンカチを隠匿したことで、警
察からお咎めは受けましたが、金倉夫妻はそれ以上の追及を受けませんでした。たぶん、一ヶ月
遅れながら、ゆり子が出頭して事実を告白したことが犯人逮捕に繋がったことが評価されて、ゆ
り子と彼女の夫金倉武雄は罪に問われなかったのだと思われます。


ゆり子の側には少し大きくなった柴犬の健太が神妙な表情で控えています。ゆり子は長い間両手
を合わせて祈っていました。圧村とすごした数ヶ月の思い出が、まるで昨日の事のようにゆり子
のカラダに蘇っているのです。

深夜、人影が絶えた森の中で、全裸になった二人は、愛液を迸らせながら、狂ったようにこの森
で抱きあったのです。むせ返るような男の香りに包まれ、男の厚い胸に抱かれ、剛棒を深々と股
間に受け入れた感触が、その快感が、昨日のことのようにゆり子の脳裏に蘇っているのです。

「ああ・・・・、
和夫さん・・・・」

祈りの姿勢を保ったまま、ゆり子ははっきりと肉棒の圧力を肉襞に感じとっていました。そこは
溢れるほど濡れているのです。ゆっくりと右手を伸ばし、指を下着の脇から差し込み、濡れた狭
間に二本の指を挿入しました。祈りの後、石碑の前で女陰を慰めるのがゆり子の習慣になってい
るのです。


主人であるゆり子が低いうめき声を上げ、身体を揺らしているのを見守るのが、健太の役目です。
その時・・、健太が突然顔を上げました。そして唸り声で異変をゆり子に告げたのです。

慌てて股間から右手を抜き取り、ゆり子はスカートの裾を整えながら立ち上がりました。ゆり子
にもはっきりと足音が聞こえてくるのです。

あの日と同じように、土手の方向から足音は軽やかに近づいてきました。白いTシャツに、肌に
張り付いたデニムの白いパンツ姿の女性が、朝日を背後から受けながら、近づいてきます。

健太に引っ張られるようにしてゆり子は散歩道に上ってゆきました。ジョギングをしてきた女性
が突然路上に現れたゆり子を見て、びっくりして立ち止まっています。

二人は5メートルほど離れて、睨みあう形で立っていました。最初に声を出したのはゆり子でし
た。

「もしかすると・・・、
一年前、ここで死体を発見された方ではありませんか・・・」

「・・・・・」

ジョギングして来た女性がびっくりして、ゆり子を見つめています。そして、彼女はゆり子の側
に居る柴犬の健太に気がつきました。

「ああ・・・、
あの時のワンちゃんですね・・・」

一年前、森の中から出てきて、目の前を駆け抜けた柴犬をその女性、敦子は覚えていたのです。
柴犬が現われた森の中に、死体が横たわっていたのです。

「やっぱり、あの時の方・・・
私・・、この犬の飼い主です・・・。
あの時、森の中にいて、貴方を見ていたのです・・」

「エッ・・・、あの時、森の中に居たのですか・・・
では・・、あの死体を私より先に見つけていたのですか・・、
スミマセン、スミマセン・・、そんなことはありませんよネ・・・」

あの死体が竹内を恐喝した組員で、犯人は竹内が圧村に手渡した100万円を強奪した地元の大
工であることを知っている敦子は、目の前に居る上品な夫人が死体とも、犯人とも、無縁の人物
であることに気が付いて、自身の勘違いを慌てて修正しているのです。


[19] 一丁目一番地の管理人(463)  鶴岡次郎 :2012/09/06 (木) 14:49 ID:HJY5IIu6 No.2301

二人は肩を並べて河原の土手に向かって歩み始めました。ゆり子が誘ったのです。

「私、この森の近くに住んでいるのですが、
あの日、事情があって、あの時間、この森に入っていました。
そして、あなたより先に、あの死体を発見していたのです・・」

「そうでしたか・・・、
やはり、私より先に死体を発見していたのですね・・。

でも・・、どうして・・・・・」

敦子が不審そうな表情でゆり子を見つめています。ゆり子を疑っている様子ではありません。

二人は散歩道の側にあった木製のベンチに腰を下ろしました。健太はゆり子の足元に身体を伸ば
して両脚の間に頭を埋めて、眼を閉じています。

「圧村和夫さん・・、あの方の名前です。
和夫さんは私の恋人・・、不倫相手だったのです・・」

敦子を一目見て、この人なら圧村のことを話してもいいと、ゆり子は思ったようです。敦子は驚
く様子もなく、黙って耳を傾けていました。一緒にここまで歩きながら、もしかすると、森の死
体とゆり子の間に何らかの関係があるかもしれないと敦子は思い始めていたのです。そして、圧
村が暴力組織の人間であることを知っている敦子は、ゆり子と圧村の関係は秘められた関係だと
推測していたのです。それ故にこそ、死体の第一発見者でありながら、ゆり子は何も行動しな
かったのだと思っていたのです。


「彼はご存知のように普通の人でなく、組の構成員でした。
でも・・、私には優しい、頼りがいのあるすばらしい人でした・・」

「愛していらしたのですね・・・」

「ええ・・、
最初は彼の体に惹かれましたが、
半年もお付き合いを重ねていると、身も心も彼の虜になりました。

今でも、彼との思い出の中で私は生きているのです・・」

ここではじめて、ゆり子は涙を見せました。


「あの日の前夜、あの森の中でデートする約束だったのに、
彼はいくら待っても来なかった・・
私が車の中で待っている頃、彼は襲われて命を絶たれていた・・」

ゆり子はここで言葉を切り、こみ上げてくるものをじっと抑える様子を見せているのです。敦子
は黙って耳を傾けていました。

「それでも気になって、翌朝、森に入った。
そこで、彼の死体を見つけることになった・・。

彼を愛していると言いながら、不倫がバレるのが恐ろしくて、警察へ通報することが出来な
かった。そして、一ヶ月後、全てを主人に話して、警察へ出頭したのです・・・。

私はダメな女です・・・・・・」

そこに圧村が居るようにゆり子は頭を下げているのです。


「後で判ったことですが、圧村さんはあの日、街の居酒屋で取引相手に出会い、100万円を受
け取っていたのです。その光景を犯人である地元の大工をしている男に目撃されていた。そんな
ことに気がつかなかった彼は私との約束を果たすため森に入り、その油断を突かれ、後から襲わ
れ、命を落した・・・」

ゆり子の話を聞きながら、敦子は必死で平静を装っていました。

〈圧村さんと会っていた取引相手は、竹内寅之助と言って、私の情夫なの・・、
私が売春婦である秘密を竹内が握り、
夫を脅して無理やり私を手に入れ、おもちゃにしていた。

私が組織に事情を話し、竹内に秘密を握られたことを知った組織が動き、
圧村が派遣され、竹内はその脅かしに屈して100万円を支払ったのよ・・・。
そして、その100万円が原因で、圧村さんは死ぬことになった・・。

売春で散々汚れているのに、竹内に弄ばれることに耐え切れなくて、
組織に訴えた、そんなことをしなければ、圧村さんは死ぬことはなかった・・、
あなたの恋人を殺したのは、ある意味で私のせい・・・〉

敦子は心中でゆり子に真実を伝え、頭を下げていたのです。売春稼業に関係していたことは生涯
口を閉ざす覚悟を固めている敦子です。ここでもゆり子にそのことを話すつもりはないのです。
必死で平常心を保ち、ゆり子を見つめていました。


[20] 一丁目一番地の管理人(464)  鶴岡次郎 :2012/09/07 (金) 14:57 ID:BkWGozz6 No.2302
「あの人を殺したのは私だと思っています。

私と付き合うことがなかったら、この町へ来ることはなかった。
あの日、この森で私を抱く約束をしていなければ、
彼はこの森へ来る必要がなかった・・。

あの人をここへ引寄せたのは私なんです・・・。
うう・・・・・・・」

遂にゆり子はヒザの上に頭を伏せて、泣き出してしまいました。今まで、誰にも言うことが出来
なかった、心の内を、敦子に話して、ゆり子の中に封じ込められていた悲しみが迸(ほとばし)
っているのです。

「ゆり子さん・・・、
それは違う・・!
絶対、ゆり子さんのせいではない・・・」

ゆり子がびっくりして敦子を見るほど、強い口調でした。

「もし・・、無理に彼を死に誘導した真犯人を探すのなら・・・、
それは・・、その取引相手が圧村さんに差し出したお金に罪があると思います。
お金に絡んだ、人々の卑しい欲望のせいだと私は思います。
決して、ゆり子さんがデートを約束したためではない・・。

ゆり子さんと圧村さんの間で育まれた清らかな愛情は・・、
この森で展開されたお二人の愛の姿は・・、
この殺人事件とは無関係なものです・・・。

これからは、決して圧村さんを殺したなど思わないで下さい。
亡くなられた圧村さんだって、二人の愛が死の原因だとは思っていないはずです。
ゆり子さんが何時までもそんな気持でいるのを望んでいないと思います。
圧村さんと過ごした楽しい時間だけを思い出してあげてください・・」

「敦子さん・・・、
ありがとう・・、あなたに会えてよかった・・・」

敦子に心の内を告白し、圧村の死を呼び込んだのは、ゆり子のせいではないと説得され、ゆり子
は久しぶりに心の重荷を下ろした気分になっていました。

「主人が待っていますので・・、
これで・・・」

敦子はゆっくりと立ち上がりました。未だ話し足りなさそうな表情をゆり子は隠していません。

「また会えますか・・・
私はこの森の外れにある、農家に住んでいます・・」

「エエ・・、縁があればきっと、また会えますよ・・」

竹内のマンションを引き継ぎ、敦子は夫、朝森と暮らしているのです。ゆり子の自宅とは徒歩で
行き来出来る近さです。しかし、そのことをゆり子に告げるつもりはないようです。もう・・、
会うことはない・・、会うべきでないと・・、敦子は考えているのです。


[21] 一丁目一番地の管理人(465)  鶴岡次郎 :2012/09/10 (月) 15:53 ID:JZvAvPsg No.2303

敦子の態度から、これが最後の別れになるとゆり子は悟ったようで、悲しげな、縋るような視線を
敦子に投げかけているのです。

「困ったわね・・・、
そんな悲しい顔を見ると、
ゆり子さんを残して、ここを去ることが出来ない・・」

踏み出した歩を止め、ゆり子を見て、敦子をニッコリ微笑みました。そして、ゆり子の側に腰を
下したのです。今にも敦子に抱きつきかねない素振りを見せてゆり子が喜んでいます。

「主人は勿論、私も働いていますので、そんなに時間は取れないの、
10分間・・、10分だけ・・、お話しましょう・・・
それでいいですね・・・」

ゆり子がコックリ頷いています。ゆり子の方が年上なはずですが、敦子が年長者のように振舞って
います。

「ゆり子さん・・・、
私は何度か浮気をしました・・。
多分、ゆり子さんより男性経験は豊富だと思います。

私の経験から申し上げると、女は浮気と本気の区別が出来ないのです。
身体が溺れると、心までその男に捧げてしまうのです。

でも、どんなに燃えても、所詮、浮気は浮気で、結局、棄てられたり、
逆に、ひと時の熱気から冷めた女が、男の素顔に気がついて、逃げ出したりするのです」

敦子の言葉の一言も聞き逃さない気持ちを込めて、ゆり子は敦子をじっと見つめています。


「お恥ずかしい話ですが、つい先日、浮気相手と別れて、
半年振りに主人のところへ戻ってきました・・・」

ゆり子が驚いています。

「私は夫を裏切り、ある中年男と深い関係になり、その男の体に溺れ、それほど愛情を感じてい
ないその中年男と夜逃げ同然のようにして、駆け落ちしました。

不景気な今の世です、手に何の職も持たない中年男とそう若くない女の落ち着く先は限られてい
ます。この半年、私は一般社会とはかなり違う環境に身を置いてきました。

そこでは女も男も本能のまま生き、決まった相手がいても、よりいい相手をいつも求める生活を
しているのです。
女は男を側に繋ぎとめるため、考える限りの工夫をし、メスの魅力を磨くのです。男は男で、い
い女を自分のものにするため、無理を重ねるのです。

私と一緒に来た冴えない中年男でさえ、私は他の女に取られる心配をしなければいけませんでし
た。彼は彼で、私が他の男に靡かないように、毎夜、激しく愛してくれました。彼が勃起促進薬
を常用しているのを私は知っていました。

世間では一旦夫婦になれば、そこで恋愛は終わりますが、そこでは世間で言う夫婦約束は通用し
ないのです。ただ、強いメスとオスだけが生き残れる世界なのです・・・」

あまり詳しく的屋仲間のことを話すと、圧村と竹内の関係を悟られる心配もあるため、敦子は当
たり障りのない話をしたのです。


[22] 一丁目一番地の管理人(466)  鶴岡次郎 :2012/09/13 (木) 14:21 ID:39A0eYL6 No.2304

案の定、敦子の説明だけでは良く判らないようで、ゆり子はぼんやりとした表情をしていました。
もっと直接的な説明がいいと判断した敦子は話題を変えました。

「ラビアピアスってご存知ですか・・・」

「・・・・・・・」

「ご存知のようですね・・・。
女が思っている以上に男達はラビアピアスを見て喜びます。
それで、私もそれを着けることにして、
少しづつ増やして行き、いまでは6個も身に付けています。

どう・・、これだけ言えば、
私がどんな生活してきたか容易に想像していただけますね・・」


さすがに今度は良く判った様子で、ゆり子は目の前に立っている敦子の全身を舐めるように見て
います。

「嫌だ・・、ゆりこさん・・・、
そんな目つきで私を見ないで・・、
私、インラン女に見えます・・?」

「いえ・・、そうじゃないの・・、
敦子さんに最初会った時から・・、何か違うな・・と思っていた。
綺麗な人ではあるけれど、それだけではない魅力があると思っていた。
それが、何だか、いま判ったの・・・」

「・・・・・・」

今度は敦子が口を閉じる番のようで、ゆり子の次の言葉をじっと待っています。

「感じたとおり言います。
失礼なことを言うかもしれません。
その時は許してください・・。

敦子さんの魅力は女が一人で作り出したものではないと思う。
おそらくたくさんの男達が敦子さんの女を磨いたのだと思う。
元々の素地がいいところへ、たくさんの男達が彼等の精をたっぷり注ぎ込んだ、
男達の精を吸って敦子さんの女は輝きを増し、捉えどころのない魅力を発揮している・・」

ゆり子の論評に敦子は反論しません。

「女の私にさえ判る敦子さんの魅力が、男達に判らないはずがない、
ご主人は、そんな敦子さんに無条件陥落したのよ・・」

眩しそうに敦子を見つめながら、ゆり子が呟いています。

「判りません・・・、主人の本当の気持は判りません。
散々にいけないことをして、数え切れないほどの男と交わってきた私を、
主人は黙って受け入れてくれたのです。
もし、逆の立場だったら、私は決して主人を許せないと思います・・」

敦子がしんみりと話しています。

「主人が本気で私を受け入れてくれたのか、
それとも、何処へ行くことも出来ないな私を哀れんでくれたのか・・、
最初、私は自問して、その答が掴めないまま、悩みました・・。

それで、私・・・、決心したのです・・・。
こんな私でも黙って受け入れてくれる主人の気持をあれこれ詮索しないで、
彼の大きな気持に、ただ甘えることにしようと思ったのです

私の素顔のままを、主人に曝して、彼に尽くすことにしたのです。
そう決心すると、随分と、気が楽になりました・・・」

敦子の言葉にゆり子が何度も頷き、そして、遠くを見る様子を見せ、うな垂れているのです。敦
子の言葉に刺激されて、ゆり子は彼女自身の問題を考えている様子です。


[23] 一丁目一番地の管理人(467)  鶴岡次郎 :2012/09/14 (金) 16:12 ID:1.DCJ6Vc No.2305

「失礼を承知で申し上げますが・・。
ゆり子さんは圧村さんと過ごした時間が忘れられないのでしょう・・、
もっと言えば、彼のカラダが忘れられないのでしょう・・、
彼と過ごした、夢のような一時が今も、ゆり子さんのカラダを燃やすのでしょう」

ゆり子がコックリと頷き、もう・・、涙ぐんでいるのです。

「この半年、女としてこれ以上は経験できないほど、たくさんの男と接し、
私は男の素晴らしさ、セックスの素晴らしさを堪能してきました・・。

そんなだらしがない経験を積んできた私ですが、
一言、ゆり子さんに申し上げたいことがあります・・・」

ゆり子がコックリと頷いています。

「本気で溺れた男の身体を、その感触を、女は何時までも覚えているものです。
こうしていても、男たちが与えてくれた喜びが、カラダの底から湧き上がってきます。
しかし、どんなに恋焦がれても、再び、手に入れることができない男のことは出来るだけ忘れる
ことだと、私は割り切ることにしています。

圧村さんのことは忘れるのです。
貴方の体に染みこんだ彼のカラダの思い出を早く消してください。
そのためには、別の男に溺れることです。

女の体に染みた男の思い出は、男の身体でしか消せません・・
圧村さんのことは忘れて、ご主人を大切にしてあげてください。
ゆり子さんがその気になれば、ご主人が圧村さんの記憶を消してくれるはずです」

不安そうな表情でゆり子が敦子を見ています。敦子がニッコリ微笑み、次の言葉を続けました。

「彼はその道のプロだから、きっと素晴らしいセックスだったと思います。
それに比べて、ご主人とのセックスはなんとなく物足りない・・。
とても、ご主人のモノでは圧村さんの穴埋めは出来ない・・。

これがゆり子さんの本音でしょう・・・?」

敦子を見て、ゆり子が何度も、何度も頷いています。

「これから先、ゆり子さんが先生になって、圧村さんのセックスをご主人に教え込むのです。
決して、ためらってはいけません、奔放に、誰憚ることなく、思い切って淫らになって、ご主人
と絡み合うのです。

多分、最初はご主人は途惑われると思いますが、直ぐにゆり子さんの新しい魅力に降参するはず
です。

実は、私もこのやり方で、主人を降伏させたのです。
今では、主人は新しいピアスを買ってきて、
綺麗に剃り上げたアソコに、主人が着けてくれるのです。

ああ・・、大変・・、スッカリ話し込んでしまった・・。

お互い、これから永い女の一生です・・、
頑張りましょう・・・・」

最後の言葉を背中で言って、敦子は勢い良く駆け出して行きました。その背中に、ゆり子が深々
と頭を下げていました。

後日談になりますが、それ以降、ゆり子が圧村の墓を訪れる回数は激減しました。そして、圧村
の墓標の前で行っていた自慰行為は完全に影を潜めました。

気候のよい夜半過ぎ、時々、ゆり子と中年過ぎの男が、人気(ひとけ)の絶えた土手の森の公園
で全裸で絡み合うのを見ることが出来ます。勿論、ゆり子と彼女の夫です。


[24] 新スレへ移ります  鶴岡次郎 :2012/09/17 (月) 12:05 ID:5DxLFZFU No.2306
朝森敦子はおとなしく普通の主婦に戻りそうもない雰囲気ですが、彼女のエピソードはここで一
旦終わりにします。また、目覚しい展開があれば報告したいと思います。

「一丁目一番地の管理人」のエピソードを続けるか、新たな仕立てを紹介するか考え中で、勝手
ながら少し時間を下さい。                         ジロー



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一丁目一番地の管理人(その29) - 現在のレスは28個、人気のスレッドです! -

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2012/06/16 (土) 14:20 ID:jmbiKYhs No.2250
朝森の所へ戻ってきた敦子はむしろ積極的に、朝森にとって空白の半年あまりのことを語りつく
しました。露天商の仲間に竹内ともども拾われて、彼らと家族同様の、いやそれを越えた関係を
築き、敦子は明らかな変貌を遂げていました。敦子自身その変化を自覚していて、新しい彼女自
身に誇りさえ持ち始めていたのです。

敦子にとって、朝森と一緒に暮らすことが最大の願望でした。そして心身ともに変貌し、成長し
た彼女を、彼が受け入れてくれるなら、この上の幸せはないと思っていたのです。しかし、一方で
は、いかに朝森でも、男に抱かれると心と身体が分離して、その瞬間、夫を忘れ、相手の男に惚
れて、堕ちてしまう敦子の体質を、易々と受け入れることは難しいだろうと、敦子は観念してい
たのです。

自身の特異体質を抑え朝森についてゆくか、自分に忠実に生きるため、朝森の下を去るか、敦子
は大きな賭けをするべく、敦子を大きく変貌させた半年の経験とその特異体質の片鱗を夫、朝森
に曝しだしたのです。

結局敦子の賭けは、見事に成功しました。異常な経験を積んで変貌し、成長した敦子を、朝森は
むしろ喜んで受け入れたのです。物語はいよいよ最終章に入ります。最期までご支援下さい。


毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字
余脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるよう
にします。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸
いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 1779(1)、文頭にこの記号があれば、記事番号1779に一回修正を加えたことを示します。
                                      
                                      ジロー


[19] 一丁目一番地の管理人(437)  鶴岡次郎 :2012/07/15 (日) 15:58 ID:kfA5WQT2 No.2268

「翌朝・・・、主人が優しく私を抱き締め、
『・・・乱れる由美子が好き・・』だと、言ってくれた。
『こんなに由美子をインランに育ててくれた人にお礼を言いたい・・・』
冗談だと思うけれど、真顔でそんなことまで言ってくれたの・・。

私・・、最初、からかわれているのだと思った。
でも、次の夜も、その次の夜も、汚いはずの私の身体を主人は抱いてくれた。
私は狂いに狂った・・・。
そして、結局、以前にも増して、私達の仲は上手く行くようになった。

インランな本性を全てあらわに出した私を、主人は優しく受け入れてくれて、
それを可愛いと言ってくれたの・・、
私は主人を信じて、私のありのままをさらけ出し、彼に尽くすことを決めた・・」

そこで由美子は口を止め、喜美枝の反応を確かめていました。電話の向うで、喜美枝が泣いてい
るようでした。由美子は電話を持ったまま、待ちました。由美子の話から喜美枝が何かを感じ取
り、伍台とのデートに賭ける決意を言い出すのをじっと待っているのです。


「由美子さん・・・、
一つ聞いても良い・・・?」

喜美枝が思いつめた調子で口を開きました。

「一ヶ月もその男と付き会っていて、
赤ちゃんは出来なかったの・・?
避妊はどうしていたの・・・?」

喜美枝の質問は唐突な内容でした。由美子の描いたシナリオからは外れる質問内容でした。それ
でも、由美子は落ち着いてありのままを答えました。

「当時、私は心も身体も幼かったけれど、避妊には気を配る知恵だけは、結婚前から、ある人に
教えられていて、専門医に調合してもらった避妊薬を常用していました。

私達は昼夜なく狂ったように絡みあっていましたから、コンドームなどを使っていれば、手違い
が必ず起きていて、私は間違いなく妊娠していたと思います。そうすれば、私の人生はそこで大
きく狂ったはずです・・」

喜美枝の質問に答えながら、由美子は喜美枝の離婚の原因を遂につきとめたと・・、思っていま
した。そして、思い切って、そのことを口に出しました。

「喜美枝さん・・・、
間違っていたらゴメンナサイ・・・、
もしかして・・、
お腹に赤ちゃんが出来たので離婚を決めたのですか・・?」

「・・・・・」

電話の向うで喜美枝がびっくりして言葉を飲んでいる雰囲気が伝わって来ました。

「今まで、誰にも話したことがない事実だけれど、
由美子さんのご推察の通りよ・・・、

十分注意していたつもりだったけれど・・・、
後で考えると、彼が意図的に仕込んだらしく・・・、
気がついた時は3ヶ月に入っていた・・・・

浮気をしただけでも伍台の人格を踏みにじっているのに、
その上その男の子を身篭ったと判れば、
伍台は勿論、両親の社会的生命を断つことになります。
罪深い私には、伍台にお願いして離婚してもらう以外、選択肢がなかった・・」

イタリア男、アダモの甘い言葉と愛の技に引きずりこまれて、喜美枝は不注意で妊娠してしまった
のです。それに気がついた時、喜美枝は奈落の底に叩き込まれました。そして、どうやら妊娠は
アダモが計画的に仕込んだものだと判った時、アダモへの思いが急速に冷め、その反動で伍台へ
の強い愛情をいまさらのように感じていたのです。しかし、事態は取り返しのつかない状態まで
進展していたのです。誰に相談することも出来ない喜美枝は悲壮な決意を固めたのです。


[20] 一丁目一番地の管理人(438)  鶴岡次郎 :2012/07/16 (月) 13:16 ID:jmbiKYhs No.2269
お腹が目立たない内に全てを処理しなければいけないのです。喜美枝に許された時間は僅かしか
有りませんでした。伍台には、浮気が本気になったことを告げ、離婚話を切り出したのです。勿
論、伍台も喜美枝の両親も反対を通り越して、ただ当惑するだけでした。それでも、喜美枝は頑
なに離婚を望みました。

男が出来たことが離婚を決意した原因だと理解しながらも、喜美枝の態度に浮ついた様子が微塵
もなく、むしろ思いつめた悲壮感が漂っているのを不審に思いながら、伍台は喜美枝の希望を受
け入れることにしました。二人の子供の親権も喜美枝に譲ったのです。

一方喜美枝は伍台と離婚話を進めながら、アダモとも別れる準備を始めていました。そんな矢先、
アダモの店が倒産したのです。傷心を抱えてイタリアに帰るアダモを喜美枝は冷静に見送ったの
です。もちろん、この時、喜美枝のお腹の中に彼の子が宿っていることをアダモは知りませんで
した。

身篭った子は一人で育てる決意を喜美枝は固めていました。しかし、不幸は続くもので、アダモ
が国へ帰った一ヶ月後流産してしまったのです。この時点で初めて喜美枝は母親だけに妊娠の事
実を告げ、助けを求めたのです。

こうして、アダモとの恋は喜美枝の心と体に大きな傷を残して終わりました。そして、喜美枝は
生涯を費やして、伍台への罪を償う決意を固めていたのです。

「由美子さんのようにしっかり避妊を心がけていれば、
伍台との決定的な破局だけは避けられた可能性が高いと思います。
誰を恨むことも出来ません。全て、私自身の責任です・・・」

由美子が対処したように、喜美枝も避妊を心がけてさえいれば、自ら別れ話を切り出し、強引に
離婚劇を仕立て上げる必要がなかったのです。アダモとの浮気だけに止めておけば、伍台との仲
が決定的な破局に追い込まれることは防げたかも知れないのです。

「未だ若かった由美子さんが、良くそこまで配慮出来たのね・・、
誰かに教えられたと言っていたけれど・・」

「ハイ・・・、
小学5年の時、叔母から教えられました・・」

20年以上前のその日の出来事を由美子は昨日のように覚えているのです。お祝いの赤飯と鯛の
姿焼きが準備され、叔母ゆり子と父、そして由美子の三人でお祝いをしたのです。笑みを浮かべ
た父の瞳が濡れていたのも由美子はよく覚えています。そして、夜、由美子の部屋を訪ねてきた
叔母が、珍しく改まった口調で教えてくれたのです。

「おめでとう・・、これで由実子も一人前の女だよ・・。

女はネ・・・、
子供を産むことが出来るの・・、
これは神様が女性に与え下さった最大の能力だと思う。

それだけに、この能力の使い方を間違えると、
女性は立ち上がれないほどのダメージを受けることになる。

妊娠、出産は女の意志で決めること。
このことだけは、女として絶対忘れないように・・・
亡くなったお姉ちゃんに成り代わって、このことだけは伝えておきます・・・」

鶴岡と結婚して、二人の娘を授かり、その後複雑な男性関係を展開することになったのですが、
由美子はいつでも叔母、ゆり子の言葉を忠実に守り続けているのです。

「そう・・・、
幼い由美子さんにそのことを教えた叔母さんも、
その言葉を忠実に守っている由美子さんも、立派ね・・

私は高価な代償を払って、そのことの大切さを教えられたけれど、
由美子さんは、小学生の頃からその心構えを作っていたのネ・・」

何度もうなづきながら喜美枝がつぶやくように言いました。そしてしばらく頭を垂れて、何事か
を考えていました。電話の向うで由美子は喜美枝の次の言葉をじっと待っていました。

やがて、意を決した表情で頭を上げた喜美枝が、ゆっくり口を開きました。

「私・・、必死で子育てをしてきました。
伍台から託された子供達はそれなりに立派に成長してくれました。
これで許されたとは思いませんが、
このままで、女を終えたくない気持も強いのです・・」

それまで、打ちのめされたようにうな垂れていた喜美枝がようやく立ち直ったようです。由美子
のアドバイスに何かをつかんだ様子もうかがえます。また、長い間隠し通した妊娠のことを由美
子に告白したことも彼女の肩の荷を降ろす効果があったようです。彼女の声に張りが出ているの
です。(1)


[21] 一丁目一番地の管理人(439)  鶴岡次郎 :2012/07/17 (火) 12:51 ID:jkqM7e5A No.2270
2269(1)

由美子の浮気話を聴いて喜美枝は癒されていました。実は、由美子の話を聞くまでは、伍台に会
えば、どんなに燃えても、何とか繕って、イタリア男の手で開発された喜美枝の素顔は絶対表に
出さないと決心していたんです。それでも、本当にそれでいいのか、女の感性を殺して伍台との
新しい生活を獲得することがいいのか、喜美枝は悩み続けていたのです。

悩んでいる喜美枝に、由美子の告白は一筋の光明を与えました。由美子のように誠実に自身をあ
りのままをさらけ出せば・・、頑張って伍台に誠意を見せれば・・、喜美枝にも道が開けるかも
しれないと思い始めていたのです。もしかして、由美子の夫である鶴岡のように、伍台がみだら
な喜美枝を好んでくれる可能性がゼロではないと思い始めていたのです。

「もし、伍台がもう一度私を受け入れてくれるのなら・・、
そのチャンスに賭けたい・・、
伍台の気持をもう一度、引寄せたい・・・

そして・・、出来ることなら・・・、
由美子さんのように、自由に、私の女自身を彼にさらけ出したい・・、
でも、その一方で、そんなことをすればあきれ果てた彼に見放されるかもしれないと、
心配になるのです。

こんな気持でいるのですが、自信がもてなくて、何も決められないのです。
由美子さん助けてください・・・。
私・・、由美子さんの言うとおり行動します・・・」

今、新たに訪れたこのチャンスをぜひ実らせたい、そのためには、由美子に頼り切ろうと喜美枝
は咄嗟に心に決めたようです。

電話の向こうで深々と頭を下げる喜美枝の熱意を由美子は十分に感じ取っていました。そして、
喜美枝も伍台と同じように、相手の気持ちに合わせようとして、彼女自身の気持ちを封じ込めよ
うとしているのに気付いていたのです。

本質は生真面目な伍台と喜美枝が、互いに相手を思うあまり、互いの思いとは違う方向に歩みは
じめて数年過ぎたのです。そして、ここで立ち止まり、もう一度寄りを戻すことを考え始めたの
です。『同じ過ちを犯させてはいけない』、由美子はそう考えました。

そのためには、二人が自身の殻を破り、自らの欠点も、恥部も、相手に曝すことから始めるべき
だと由美子は考えたのです。

〈喜美枝さんは考えすぎです。
・・・何も考えないで、自分自身をさらけ出すことです。
そうすれば、伍台さんもきっと理解してくれると思います・・〉

・・と、このように、喜美枝の求める答を理屈っぽく説明しようとしたのですが、賢明な喜美枝
はそんな言葉は既に自身でも考え付いていて、共感しないだろうと、由美子は別の説明方法を考
えたのです。


「主人と伍台さんが電話で話しているのを、隣の部屋で聞いていたら、
断片的で、確かなことは判らないけれど・・・、
『・・見せしめのため、毛を全部剃ってしまえ・・』と、
主人が言っていた・・」

「エッ・・、嫌だ・・、そんなこと・・・」

「フフ・・・、
喜美枝さん・・、本当に嫌なの・・?」

「由美子さんまで・・・、嫌ネ・・。
でも、由美子さんには隠せないわね・・、
全部・・、話してしまおうかな・・・、フフ・・・・・」

少し興奮した面持ちで喜美枝が話しています。女同士であっても、こうした浮いた会話は喜美枝
にとっては実に数年ぶりのことなのです。その効果もあって、喜美枝の閉ざされていた女の扉が
ゆっくり、軋みながら開いているのです。このことを由美子は計算しているのです。


[22] 一丁目一番地の管理人(440)  鶴岡次郎 :2012/07/18 (水) 12:06 ID:ED/uktXY No.2271

「恥ずかしいけれど全部告白します・・。
それが出来ないようでは、由美子さんの足元にも近づけませんから・・、
思い切って、淫らな私の全てを話します。
でも・・・、聞けば、きっと、私を軽蔑すると思います・・」

何度か躊躇しながら、それでもようやくその決心がついたようで喜美枝は話し始めました。相手
の顔が見えない電話での会話であったことも、この際、喜美枝に幸いでした。

「アソコを剃られることには、
私・・・、慣れています・・・。

三日に一度、アダモに剃られていた・・・
ああ・・、言ってしまった・・・・、
恥ずかしい・・・・」

少し上ずった、かすれ声で喜美枝が告白しています。

「彼・・・、アソコを舐めるのが何よりも好きで・・・、
それで・・、毛がない方が味が良いと言うのよ・・・

最初は恥ずかしかったけれど、すっかりそうすることに慣れて、
剃られるのは、本当は、大歓迎なの・・・、
私って・・、インラン・・・?」

「インラン、とってもインランよ、
つるつるのアソコを舐めてもらうのが大好きなのでしょう・・・、
私など、かなわないほど変態よ・・・。

きっと、素顔の、そんな喜美枝さんに接することが出来れば、
伍台さん、泣いて喜ぶわよ・・・、
きっと、アソコを剃るのだって、大好きだと思う・・」

「そうだと、良いんだけど・・・」

「伍台さんの気持を心配しているようだけれど、
そんなに彼の気持を気遣う必要はないと思う。

だってそうでしょう・・、
やり手のイタリア男の手でもてあそばれて・・、
ゴメンナサイ・・、下品な言葉を使って・・・」

「いいのよ・・、由美子さん・・、
本当のことだから・・・、
あの頃・・、私・・、本当に狂っていた・・・」

「他の男を知って、喜美枝さんが女として、驚くほど成長して、
インランになったことを伍台さんは十分承知をしていると思う。
そのことを知った上で、元妻を食事に誘ったのよ・・。

何故、あなたを誘ったか・・、判る・・・?」

「・・・・・・・・・」

電話の向うで喜美枝は息を詰めて、由美子の次の言葉を待っていました。勿論、この質問の答を
喜美枝は持っているのです。その答が正解であることを願いながら、喜美枝は受話器を握り締め
ているのです。

「この疑問に答える唯一の説明はこうだと思う。

伍台さんも、主人と同じ種類の男なのよ。
本音をなかなか明かさないけれど、
ああ見えて、他の男に抱かれた、浮気好きで、インランな女房が大好きで、
そんな妻を喜んで抱くことが出来る貴重な男なのよ・・・」

「・・・・・・・・」

喜美枝の期待したとおりの答を由美子が言うのを聞いて、喜美枝は大粒の涙を流していました。

「だから、インランな喜美枝さんを歓迎してくれるはず・・・。
浮気相手がいたことを恥じないで、むしろ、その事実を女の勲章だと思って、
何も考えないで、彼の腕の中で、おもいきり乱れなさい・・」

「私・・、多分、伍台に抱かれると、自分を抑えることが出来ないと思います
彼・・、アダモに教えられたカラダの喜びが抑えられないと思います。

それで、伍台に会うのがとっても恐かったのです・・・。
淫らな私を見れば、伍台はきっとその場で私を突き放すだろうと、不安だった。

由美子さんの話を聞いて、決心がつきました・・。

私、伍台のためなら、死ぬ気で頑張れます・・・

彼の前で、私の全てをさらけ出します。
嫌われることになっても、インランな私の全てを曝します・・。

あの事件以来、すっかり忘れていた女を飾る習慣を取り戻します。
大好きなイタリアン・ファッションを着ることにします。

デイナーには胸が半分見えるようなワンピースを着て行きます。
下着も赤いTバックにします。
抱かれたら・・、思い切り乱れます・・・」

泣きながら喜美枝が話していました。由美子は黙って聞いていました。


[23] 一丁目一番地の管理人(441)  鶴岡次郎 :2012/07/21 (土) 16:10 ID:tRH2oZVE No.2272

それから、ひとしきり話が弾み、女同士の気安さからか、由美子は過去に経験した男の話をかな
り露骨に披露しました。それが由美子が仕掛けた呼び水だと判っていながら、喜美枝も負けずに
恥ずかしい話を告白し始めました。こうして、二人の女は競い合って淫らな体験を話すことに
成ったのです。

「そう・・、そうなのよ・・・
男って、不思議な生き物ネ・・・、
あの気持は女には判らない・・・。
大切な自分の女を他の男に曝したがるのよネ・・・、

それで由美子さん・・・、
大勢の男の前で、指で開いて、アソコの中まで見せたの・・・、
凄い・・、由美子さん・・、興奮したでしょう・・・。

実は・・、由美子さんほどでないけれど、
私もその経験が少しあるの・・・。
私・・、言っちゃおうかな・・・
ハダカを見られた話なら、取って置きの話が私にもあるのよ・・」

ストリップ劇場に出演した由美子の話を遮るように喜美枝が話し始めました。

「在日のイタリアの仲間が時々マンションに来ていた。
ある日、私がキッチンでお酒の支度をしていると、居間にいる男達が騒がしいの、
何事かと顔を出すと・・・、男達がニヤニヤして私を見るの・・、

何と・・、アダモがネ・・
私たちの絡んでいる恥ずかしい写真を、仲間の男達に見せているのよ・・、
誰にも見せない約束で撮った写真だから・・、
後で自分で見ても、恥ずかしさで身体が震えるような写真ばかり・・、

一杯両脚を開いて、指でアソコを開いている写真とか、
彼のモノを咥えて微笑んでいるのもあった。
極め付きは、喘ぎ声がばっちり入ったビデオまで披露してしまった。

逃げ出すわけにも行かないから、アダモの側に座っていたけれど、
男達が私の身体をじろじろ見て・・、とっても恥ずかしかった・・・

ビデオの途中で・・、アダモがいきなりキッスをしてきて・・・
彼が酷く興奮しているのが判った・・・
夢中で彼にしがみ付いていた・・」

喜美枝の声は弾んでいて、嬉しそうなのです。


[24] 一丁目一番地の管理人(442)  鶴岡次郎 :2012/07/25 (水) 13:34 ID:WEEqpOjs No.2273

「フフ・・・、
男は皆おんなじネ・・・、
どういうわけか、女房の乱れた姿を他人に見せたがるのよ・・、

私はそんな男の癖が嫌ではないけれど、
喜美枝さん・・、その時、どんなだった・・・、

もしかして・・、ビショ、ビショだった・・?」

淫蕩な口調で由美子が質問しています。喜美枝は完全に興奮状態です。

「ああ・・・、由美子さん・・・、イジワル・・・ゥ・・。
ああ・・・、あの時のことを・・・、思い出します・・。

いけないことだと判っていながら、
アダモの手が私の衣服を脱がせ始めた時、
私は抵抗しなかった・・・。

ブラウスを取られ、ブラを押し上げられて、乳首を吸われた・・。
そうなると、もう・・・ダメ・・・」

話しながら、当時を思い出して、喜美枝はスッカリ濡らしていました。そして、電話での会話で
ある利点を生かして、彼女の指が股間に伸びているのです。

「彼の手がスカートの裾にかかり、お腹のところまで巻き上げられた。
ひも付きTバックの前がびっしょり濡れているのが自分でも判った。

男達にそこを見られていると思うと
カッとなって・・、愛液が音を発して噴出していた。

もう・・、行きつくところまで行くつもりになっていた・・・。
ショーツの隙間からアダモの指が入ってきた・・、
私・・、自分で両脚を広げていた・・・、
スケベーでしょう・・・・。

指で一杯にそこを開かれて、男達が覗きこんでいた・・・。
新たに噴出した愛液を見て男達が何事か叫んでいた・・。

そして、男達の前で、アダモのアレを深々と受け入れていた・・・
教えられていたイタリア語で怪しい言葉をいっぱい吐いていた・・

ああ・・・、たまらない・・・」

由美子の受話器に喘ぎ声が聞こえるほど、喜美枝は興奮しているのです。

「気がついた時は、男達はその場から居なくなっていたけれど、
彼らには、私の全てを見られてしまったのです・・。

それからしばらくは、彼らに会うのが、とっても恥ずかしくて・・・、
でも・・、彼等はそれ以降ずっと紳士的につきあってくれました。

後で判ったことですが、男達は真面目なイタリア人で、
東洋系素人女のアソコが見たかったらしくて、
アダモに頼み込んだらしいの・・。

これから先、あんな経験は出来ないかもしれません・・、
そう思うと・・、女として・・、チョッと寂しい気分になります・・・

そうだ・・、こんなことも有りました・・。
アダモと車の中でキッスをしている時、お互いに興奮して・・、
彼が求めてきて、私も拒否しなかった・・・

夜の8時を過ぎた頃で、
住宅街の路上に止めた車の側を帰りを急ぐサラリーマンが何人も通っていた。
そんなところで抱かれるのは初めてだったけれど、
私・・、彼の指をアソコに感じながら、彼のモノをしっかり咥えていた・・」

喜美枝を縛り付けていたタガが外れたようで、堰を切ったように喜美枝はアダモとの体験談を
しゃべり始めました。彼女の話を聞いていて、アダモが決して喜美枝を粗略に扱っていなかった
ことに由美子は気が付いていました。


[25] 一丁目一番地の管理人(443)  鶴岡次郎 :2012/07/31 (火) 11:37 ID:GT63kYYI No.2275

暇を持て余した有閑マダムと独身のオーナーシェフ、このシツエイションで想像されるのは男と
女のただれた愛欲情景で、いずれ女の体に飽きが来たイタリア男が女を捨てることになると誰し
もが想像するのです。ところが、喜美枝の話を聞く限りではアダモは真剣に喜美枝を愛し、早い
時期に将来を共にする覚悟を決めていたとようだと由美子は理解したのです。それほど、アダモ
は純粋で、ひた向きな愛情を喜美枝に捧げていたのです。

アダモは喜美枝を彼好みの女に仕立て上げようと懸命に努力しました。ファションは勿論、化粧
から歩き方までアダモは喜美枝に細かく要求しました。彼と一緒にいる時は、スカートの下には、
下着と呼べないような小さな布を着けさせ、それが男の仕事だと思っているように、絶えず彼の
指が喜美枝の下半身に触れていたのです。

日本の男と決定的に違うのが唇の使い方でした。キッスは勿論ですが、手の指先から、足の指先
まで、女の全身に唇を這わせ、根気強く女を嘗め回したのです。女はそれだけで何度も天国へ上
り、身体中の水分をほとんど吐き出していたのです。

アダモのイタリア流トレーニングが行き届いてくると、喜美枝はすっかり変貌していました。そ
れでなくても目立つ豊かな肢体が、セクシイなイタリアファッションで包まれると、街中の男が
彼女に視線を集めました。初めは恥ずかしがっていた喜美枝は直ぐに見られる楽しみを憶え、下
着や、豊かな乳房を、見知らぬ男達に巧みにちらつかせる技と工夫を直ぐにマスターしていたの
です。

一時間も街を歩くと、男達の視線を全身に感じ取り、喜美枝はいつもしとどにカラダを濡らして
アダモのアパートに戻っていました。そして、部屋に入りアダモを見ると自ら男にしがみ付き、
全身を男に預けて狂ったのです。伍台と暮らしていた貞淑で、物静かな主婦の面影はどこかに吹
き飛んでいたのです。


喜美枝は楽しそうに、止め処なく、アダモとの生活を由美子に語り続けました。由美子は時々冷
やかしの言葉を挟みながら喜美枝の話を聞いていましたが、頃合を見て、ある思いを込めて質問
しました。

「彼・・、真剣に喜美枝さんを愛していたのね・・、
最初から結婚を真剣に考えていたと思う・・・
喜美枝さんは彼のことをどう思っていたの・・・?」

「エッ・・、彼のこと・・・?
どう・・・て・・」

興奮した体に冷水を浴びせられたように、電話口の向うで喜美枝が口ごもりながら返事をしてい
ます。それまでの淫らな口調とちがって、由美子の真面目な質問に困り果てている様子です。そ
の話題には触れて欲しくない様子なのです。


「伍台が単身赴任して、寂しさと同時に開放感を感じて、
味に惹かれて通い詰めていた彼のレストランで何度目かの誘いがあって、
なんとなくその気になって・・、ある夜、抱かれた・・、
一回きりだと自分自身に言い訳を言っていた・・・」

覚悟を決めたようで、触れられたくない過去の恥部を由美子に話す気持になったようです。喜美
枝は真面目な口調で話し始めました。


「それまで経験しなかったほど、丁寧に愛撫されて、
この時、初めて私はセックスの良さを知った・・・。

アダモに惹かれたことは確かだけど、
恋に落ちたのかと問われると、そうでなかったと答えることになる。
でも、彼とのセックスに強く惹かれたことは間違いない・・・」

初めて知ったカラダの喜びと、華麗なセックステクニックに喜美枝は心も身体も奪われていたの
です。

「でも・・、妊娠したことを知り、私は目が覚めた・・。
彼の子を身篭ることなど、考えてもいなかった。
妊娠したことで、彼への愛情が完全に消えた。

残るのは自己嫌悪と・・、
私をこんな立場へ追い込んだ彼への恨みだけだった・・・」

喜美枝は一言一言考えながら、当時を思い出しながら話しています。由美子はただ黙っていま
した。

「アダモが国に帰る時も、彼の後を追う気持ちはなかった・・。
これから先、どう生きて行くか、何も考えることが出来なかった。
ただ、お腹の子供のことを考えると不安で、
死んでしまいたいと、何度も思った・・・・」

電話の向うで当時を思い出し、涙声になっている喜美枝の声を由美子はただ黙って聞いていま
した。この無言が由美子が出来る唯一の抗議の姿勢だったのです。


[26] 一丁目一番地の管理人(444)  鶴岡次郎 :2012/08/03 (金) 11:40 ID:rkE8knOs No.2276

「由美子さん・・、
酷い女だと思っているでしょう・・、
私は女の風上に置けない、ダメな女なのです・・」

「・・・・・・」

どうやら喜美枝は由美子の沈黙の意味を理解している様子です。

「流産と判った時、私は初めて一連の事件に真剣に向き合うことが出来ました。
そして、この時初めて、大きな間違いを犯したことに気が付いた・・。

由美子さんが今感じておられるように、
当時の私は思い上がったバカな女でした。
ただ体の快楽だけを求めて、その結果大切な夫の愛情を裏切ってしまった。
それだけでなく、当時の私には男の真心が見えていなかった・・。

子供を失い、その時初めて、その子を授けてくれた男の愛情を改めて知らされたのです。
そのことに気がついた時は、既にその男は手の届かない遠くへ行っていた。

なに不自由ない生活を保証してくれた夫、伍台を裏切り、
ただ肉の快楽を求めた女・・・、
そんな女を真剣に愛し、一緒に暮らそうと、子供まで授けてくれたアダモ、
私はそんな優しい男達の愛情に何一つ応えていなかったのです・・。

何の取り得もない、少し見映えが良いだけ女なのに、
男達にチヤホヤされるのは当然だと思い上がっていました

人の心を理解することが出来ない、
性欲に狂ったバカな女なのです・・・・。
私のせいで、伍台にも、アダモにも・・、
取り返しのつかない大きな迷惑をかけました。

男達から見向きもされなくなった今・・、
初めてそのことに気がついているのです。
遅すぎますよネ・・、バカな女です・・・・」

「・・・・・・・」

喜美枝が特別性質(たち)の悪い女だと由美子は思っていません。それどころか性格も、頭脳も
人並み優れた女性だと思っているのです。そんな喜美枝でさえ、性欲に翻弄されると、後になって
当の本人が眼を背けるような身勝手な行動をすることになるのです。
女なら誰しも彼女と同じ過ちを犯す可能性が高いと由美子は思っているのです。それが、持って
生まれた女の性、女の業だと由美子は考えているのです。

「由美子さん・・、
こんな私でも、伍台に会う資格があると思いますか・・・?」

「男と女のことは、ある境界を越えると、他人は入り込めなくなります。
喜美枝さんのケースも、私がアドバイスできる範ちゅうを超えています。

ただ・・、一つ言えることは、
伍台さんは全て承知の上で、喜美枝さんをデイナーに招待したのです。
私なら、彼の気持を信じて、在りのままの自分を彼に曝します。
男の大きな気持にこの際甘えるのも女の特権だと思います。

後は喜美枝さん自身が、勇気を持って決めるべきです」

「判りました・・・。
それだけ聞けば、十分です。
彼に裸でぶつかってみます・・。

それで・・、一つ、由美子さんにお願いがあります。
もし・・、彼が受け入れてくれたら・・・、
いいえ、彼との仲が決裂しても、
これから先、由美子さんのお友達でいたいのです。
よろしいでしょうか・・・?」

「勿論、喜んで・・、
伍台さんを交えて、私の家でお食事会がもてたらいいですね・・」

二人の長い電話会議は終わりました。喜美枝は久しぶりに戦う女に戻っていました。


[27] 一丁目一番地の管理人(45)  鶴岡次郎 :2012/08/06 (月) 14:02 ID:gRjosl/k No.2277

一方、由美子への電話依頼を終えた伍台の気分は高揚していました。これで喜美枝とのデートの
準備は全て完了したのです。

僅か一時間前、柏木管理官に会うまでは、生涯の敵、真黒興産を追い詰めながら、今一歩で取り
逃がしたことを悔やんで、〈あの時、・・・しておけば良かった・・、ダメだな・・、後のなって
こんなことに気付くようでは・・、僕はまだまだ、未熟だ・・〉と、くよくよと悩んでいたので
す。そして、新たな仕事への意欲が目に見えて落ちていたのです。

それが、今は違うのです。喜美枝と食事の約束をした、ただそのことだけで、彼自身でも驚くほ
どの覇気が湧き上がり、仕事への意欲が増していたのです。伍台は山のように積まれた書類に向
かいました。先ほどまでは、この書類の山には気付かないふりをしていたのです。

そして、あれほど思いつめていた真黒興産へのこだわりが、嘘のように彼の中で消えていたので
す。手痛い敗北を味わった事件をより冷静に見ることが出来るようになり、真黒興産も数ある容
疑者の一人・・、被疑対象の一つ、として見ることが出来るようになっていたのです。

これから先、〈・・取り逃がした売春組織の捜査に取り付かれた参事官・・〉と、陰口を叩かれ
ることはなくなると思います。どうやら、伍台はまた、一歩大きな成長を遂げたようです。


その翌朝、喜美枝から由美子に電話がありました。

「由美子さん・・・、
今ホテルから連絡しています。
彼はもう・・、役所へ出勤して・・・、
私・・、一人きり・・・」

由美子は正直ほっとしていました。

「あのネ・・・、
私・・・、剃られちゃった・・・、
フフ・・・、今、とっても幸せ・・・」

それだけ言って喜美枝はそこで言葉を飲みました。言おうか止めようか、少し迷っている様子
です。

「私・・・、言えなかった・・・・、
妊娠したことは言えなかった・・・。

これから先、この大きな罪を私一人でお墓まで持って行きます。
そして、どんなことがあっても、こんな間違いは二度と犯さないようにします」

「・・・・・・・」

由美子はただ黙って喜美枝の話を聞いていました。多分、その立場に立てば由美子だって、喜美
枝と同じことをするだろうと思っていたのです。

「また連絡します・・・。
今度は、もっと良い連絡が出来ると思います・・」

明るい声で喜美枝は一方的に宣言し電話を切りました。由美子の瞳に涙が溢れていました。


[28] 新しいスレを立てます  鶴岡次郎 :2012/08/06 (月) 14:24 ID:gRjosl/k No.2279
新しい章へ移ります。   ジロー


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